最初は好きになれなかったあの人が《週刊READING LIFE vol.11「今、この人が面白い!」》
記事:みずさわともみ(READING LIFE編集部 ライターズ倶楽部)
「誰? ちょっとこわいんだけど?」
何年前のことだろう。
いつのまにか私の地元に、彼が現れた。いや、正確には彼は、彼自身ではない。もう亡くなっている人なのだ。
でも、彼はその姿を変えて、私の目の前にやって来た。
「レルヒさんだよ」
妹は言った。
レ、レルヒさん? って、誰よ?
「うーん、なんか、新潟で最初にスキーを教えた人?」
彼は、レルヒ少佐と呼ばれた人。
まずは新潟、それから長野や北海道へと行き、日本に最初にスキーを広めていった人なのだという。
そのレルヒ少佐を新潟のご当地ゆるキャラにしてしまったのが、
「レルヒさん」
なのだ。
だがこのレルヒさん、見た目がイカツイ。そして、スキーを広めたというよりは、カレーが好きそう。黄色い服を着てるし。
なんだろう、好きになれない気がする。
私は漠然とそんなことを思いつつ、ほかのゆるキャラに想いを馳せた。
日本のゆるキャラは、かわいいものが多い。
ご当地ゆるキャラで人気なのは、今やドラえもん並みの存在感の「くまモン(熊本県)」や、そのシルエットのかわいさに抱きつきたくなる「いまばりバリィさん(愛媛)」などだろう。
かわいいのが好き!!
という人がほとんどなのではないだろうか。
私は、ご当地ゆるキャラもいいが、実はとても好きなキャラクターがいる。
NHKテキストのキャラクター、「ニョコ」ちゃんだ。ニョコちゃんは、体は白くて、頭部は緑色で葉っぱが生えている。たまに、これは貴重だが、その葉っぱの間から花が咲いていることもある。ゆるゆると旅をしていて、その姿に私は、なんとも言えず癒されるのだ。
FacebookでNHKテキスト/語学カフェに「いいね!」済みだと、ふとしたときにニョコちゃんが現れ、私をほっこりさせてくれる。グッズがあればうれしいのだが、売ってはおらず、
「ニョコちゃんが……」
なんて言っても、わかってくれる人はほとんどいない。
けれど、仕事やプライベートに疲れたとき、そっと私を癒してくれる、ゆるキャラ。
あぁ、私最近なんか、すさんでたな。もう一度初心にかえって素直な気持ちでがんばろう。
そう思わせてくれる、ゆるキャラ。
彼らはもはや、キャラクターを超えた、人なのだ。そう、ともだちのような存在なのだ。
そう考えると、「ゆるキャラグランプリ」などと言って世の中の人たちが一生懸命になるのも、わかる気がする。まぁ、もちろん地元の活性化という意味合いもあるかもしれない。誰だって、自分の地元が何らかの注目を浴びて、人の流れができるのはうれしいはずだ。
私自身も、気を抜くと新潟アピールをしてしまう。
新潟を離れて長いというのに。東京で暮らしていると、やたらと新潟のことを考えてしまう。
決して新潟をないがしろにしているわけではないよ!
と、心の中では叫びつつも、実際には東京を離れることはできないのだ。そういうもどかしさもあり、せめてもの恩返しと思って新潟アピールをしてしまうのかもしれない。
あぁ、冬が来る。
新潟の、寒い冬が来る。
雪の中へと向かうような気分の年末の帰省は、家族と会ううれしさはありつつも、どこか辛さのようなものがある。この厳しい寒さと、ずっと付き合っていかねばならない土地なのだ。
こんな想いの中、長岡駅に着くとそこには「レルヒさん」がいる。看板とか、そういうものとしてだけれど、なんだか毎年レルヒさんがいる。
「新潟の冬、楽しいよ? スキー、楽しいよ?」
と言っているかのようだ。
スキーなんて!!
新潟出身だというだけでみんなが得意でみんなが好きだと思われる。けれど、実際は、ビビりの私には向いてないスポーツだし、寒いし、転ぶと痛い。そりゃぁ、学校までスキーで通ってた人なんかは得意になってるかもしれないけど。
そんなことを考えつつ、気づいた。
レルヒさんがスキーを伝える前は?
どうやって雪道を歩いていたんだろう?
今よりずっと、冬は過酷だったんじゃないだろうか?
雪を、冬を、早く通りすぎてくれ、と過ごしていたんじゃないだろうか?
以前、東京での写真展で、新潟の冬の雪景色の写真が飾られていたのを見たことがあった。
それは、厳しい、辛い冬とともに、美しい、白の世界の中にある暖かさを感じられる風景も切り取っていた。そして、その美しさを称賛していたのは海外から来た方だった、と写真に言葉が添えてあった。
その土地に住んでいる人にとっては生活の一部。けれど、ほかの土地から来た人には芸術だったり、貴重なものだったりするのだ。
そうか。レルヒさんも、そういうことを伝えてくれた人なんじゃないだろうか?
レルヒさんがスキーを新潟に伝えることによって、きっと生活は、人々の移動は楽になっただろう。そして、雪で遊ぶ機会の増えたこどもたちは、外に出るのが楽しくなっただろう。私のともだちや弟も、受験や試験が近いとわかっていながら我慢できず、休日はスキーをしに出かけて行ったものだ。
そんな、新潟の楽しみ方を教えてくれた人が、レルヒさんなのではないだろうか。
うーん、そう考えると、なんだかとっても親しみがわいてくる。
レルヒさん。レルヒさん!
名前を口にしたくなる。
また、実家に帰ったときは駅の改札あたりにいて、私を迎えてくれるのだろう。
あぁ、会いたい。
そんなレルヒさんを含む新潟県のご当地キャラクターに、年賀状を送ろうというキャンペーンが、12月15日~25日の間、開催される。
レルヒさんから、返事をもらえるのだ!!
なんてうれしいことだろう。
もはや、私の憧れの人のようにすらなりつつある。
レルヒさんは、滑るのが得意なだけに返事もどんなスベりを見せてくれるか?
これは、楽しみでならない。
今年こそは早めに年賀状を出すぞ! と考えている私が、1枚多く年賀状を買うだろうことはきっと、言うまでもない。
❏ライタープロフィール
みずさわともみ
新潟県生まれ、東京都在住。
大学卒業後、自分探しのため上京し、現在は音楽スクールで学びつつシンガーソングライターを目指す。
2018年1月よりセルフコーチングのため原田メソッドを学び、同年6月より歌詞を書くヒントを得ようと天狼院書店ライティング・ゼミを受講。同年9月よりライターズ倶楽部に参加。
趣味は邦画・洋楽の観賞と人間観察。おもしろそうなもの・人が好きなため、散財してしまうことが欠点。
好きな言葉は「明日やろうはバカヤロウ」。
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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