週刊READING LIFE vol.11

新宿歌舞伎町黒服からの転身《週刊READING LIFE vol.11「今、この人が面白い!」》


記事:北村 涼子(READING LIFE編集部 ライターズ倶楽部)

 

 

龍が体に入っているひとがいる。
一度だけ見せてもらった。龍好きの私にとったら面白さ満開の対象だけど、そのひとの生き方に何よりもうま味を感じる。
私の身近には体に何かしらの「絵」が入っているひとがちらほらいる。
いろんな見解があるかもしれないけれど、そんなもん個人の自由なので私はなんとも思わない。そのうちのひとりの話である。
 
そのひとの生き方がおもしろい。
 
生まれは日本の北。田んぼばっかりの土地。ザ・田舎。
お母さんは小さな頃に失踪、お父さんとおじいちゃん、おばあちゃんに育てられた。
中学時代から車に乗ったり、単車に乗ったり、たばこを吸ったり、という俗にいうヤンキーだった。
ケンカばかりして、高校中退して、やはりヤンキーでしかない。
 
まぁ、とにかく私が知らない世界を見てきたひとである。
 
その元ヤンキーは高校中退してから土方仕事につき、さらに日本の北から憧れていた東京へすっ飛び、夜の東京で働くことになった。
新宿歌舞伎町。夜の街。黒服。
夜の世界に約5年どっぷり浸かる。そこで働いている女の子との関係、扱い方、お客さんとの関係、扱い方、黒服同士のやり取り、かなりの深層心理を用いた営業、夜の世界での頭の使い方、いろんなことをその元ヤンキーは私に教えてくれた。
そんな世界とは無縁で生きてきた私にとっては何もかもがおもしろくて新鮮で「で? で? 続きは? 続きは?」と食い入る話ばかり。
なんでもキャバクラで働いている女の子は担当の黒服さんと「付き合っている」ことになるそう。その女の子の担当になった黒服さんは、その子にいろんな甘い言葉を吹きかけて自分の「女」にしてしまう。なんでって、客に持っていかれないように。
その女の子は自分の彼氏(黒服さん)の為に一生懸命に働いて、お金を稼ぐ。彼氏のためにたくさんの良いお客さんをお店に呼んできて売上を上げる。でもね、その彼氏は他の担当の女の子の彼氏でもあったりする。ただ、その女の子は何も知らない。
その話を聞いた時、私は本気で驚いた。「うまいことできてんなー」て。
それもすごいけど、黒服って相当な奴やな! と妙に感心した。て、お前もかー!! とその話を聞き終わってその元ヤンキーを見る目が変わった。
 
そんな世界にハマっていた元ヤンキーはあることがきっかけで体に衝撃を感じた。
「ここじゃない」と。
「自分のいるべき場所じゃない」と。
そして向かう。心が呼ばれた場所へ。
東日本大震災の被災地。
ここに自分の居場所が間違いなくある、と一瞬で動いた。
そこで出会った橋梁の建設工事。出会って、コレと決めたら元ヤンキーの行動力と吸収力は半端なく発揮される。
 
そこから本気の性根が試される日々。そこから元ヤンキーは持ち前の「凝り性」を活かしてがんがん勉強を積み上げていく。
土木系の国家資格、気になるもの全てを勉強して資格を手にしていく。
この元ヤンキーはとにかく凝り性で、一度気になったものはとことん調べ上げないと気がすまない。
興味がただの興味では収まらない人種らしい。特にアーミー系を話さすと終わりがない。戦闘機やら、イージス艦やら、銃の話やら、ほわーっと上辺を話すようなところでは終わらず、聞いているこっちが「あなた今まで何してきはったんですか?」と聞きたくなるような詳しさである。
まぁ、その情報知らんでも生きていけるし、てレベルのとんでもない詳しさである。
 
そんな「凝り性」の元ヤンキーが「コレ」と心に決めたことに対しての熱はものすごい。
黒服を脱いでニッカポッカに履き替え、がんがん橋梁建築について吸収していった。
そして元ヤンキーは、また次のものに出会う。
目の前に現れた、ぜんぜん知らなかった仕事をする人間に。
その仕事、手に入れたい。そう思った元ヤンキーは今の仕事も手放さない方法を考えた。今の橋梁建設で学んだこと、そして今目の前にした次の新しい仕事、融合させたらどんなに良いものができるのか、と。
そこで、その新しいことを手に入れるために元ヤンキーがしたこと。
「自分の会社を設立する」
会社を興してその新たな仕事を手にするためにそこへ出向に出る。欲しいものを手にする。自分の欲求のまま、全てを手にする。
結果、今元ヤンキーはその技術を手にして、また新たな技術を手にするためにアンテナを張り巡らしてさらに上に向かって歩んでいる。
 
言葉よりも先に手が出た、足が出た、腕力に効かせて物事を進めたきた元ヤンキーは、今では誰よりも論理的に話をするし、勉強熱心で何でも成し遂げる勢いであふれている。
 
体に入っている龍は近い将来消し去る、と。
理由は「もう必要ないから」。
体に墨を入れる理由なんて私にはわからないけれど、よっぽどの決心があって、よっぽどの何かの理由があるんだろう。
でも、それを「もう必要ないから」と言う理由も本人にしかわからないし、それこそよっぽどの決心があるんだろう。ただそれは入れた後悔とかじゃなくて、大きく前に進む意味で消し去る、と。
墨を消す、本気で死ぬほど痛いらしいよ……。
 
今はまだ3人だけの元ヤンキーの会社。若い若い社長だけれど、黒服脱いでニッカポッカに履き替えた時点でもう彼は社長のツラ構えになっていたのであろう。
 
私が大金持ちであればきっとこの元ヤンキーの会社に投資をするだろう。そう、大金持ちであれば。
そんなお金の投資はできない現実だけど、私は元ヤンキーと元ヤンキーの会社から目が離せないのは隠せない事実。
こんな元ヤンキーと話をしていると、自分に対して「おいおい、私。ぬるいこと言うてる場合ちゃうで」と自分自身に一喝入れ倒しの日々である。
 
黒服から作業着ニッカポッカに着替えた元ヤンキーは有り余るパワーをさんざんまき散らす魅力あふれる青年に成り代わり、今や自分の会社を盛り上げるために試行錯誤していく若手社長と成り得た。

 

 

❏ライタープロフィール
北村涼子 
1976年京都生まれ。京都育ち、京都市在住。
大阪の老舗三流女子大を卒業後、普通にOL、普通に結婚、普通に子育て、普通に兼業主婦、普通に生活してきたつもりでいた。
ある時、生きにくさを感じて自分が普通じゃないことに気付く。
そんな自分を表現する術を知るために天狼院ライティングゼミを受講。
現在は時間を捻出して書きたいことをひたすら書き綴る日々。
京都人全員が腹黒いってわけやないで! と言いつつ誰よりも腹黒さを感じる自分。
趣味は楽しいお酒を飲むことと無になれる写仏。

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2018-12-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.11

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