週刊READING LIFE vol.20

どうせなら、3倍「おいしく」食べる!!《週刊 READING LIFE vol.20「食のマイルール」》


みずさわともみ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「ねぇおかあさん! なに作ってるの? おしえて?」
「なんだと思う? 当ててごらん? ヒントはね、ともちゃんの好きなもの!」
「えーっ!! なんだろ、なんだろ!?」

 

というのは、私の「だったらよかったなぁ~」という妄想。
母と私の会話の現実は、こんな甘~い感じではなかった。
わが家は下宿をやっていた。そのため、朝晩のごはんの時間は戦場のようで。
「ちょっと! 邪魔だからあっち行ってて!!」
鬼の形相で、母は料理を作っていた。
一緒に住んでいる学生さんは10~20人くらいだっただろうか。その人数分に、私の家族の8人分、プラスで料理を作る。
今思えば、毎日母は大変だったにちがいない。
だから、そんな仕事中に
「おかあさんモード」
になんてなれなかったはずだ。
私はちょっと、ごはんを待っている時間が苦手だった。
さらに言うと、食べ終わるまでも苦手だった。
「母さんの作ったごはんを残さない」
というルールを作っていたからだ。

 

みなさんは、「食べものを残す」ということができるだろうか?
「おいしく食べることが大切なのでは?」
「腹八分目って言うし」
など、食べものを残していい理由はいくらでもあるはずだ。
けれど、私はあの時、知ってしまったのだ。

 
 
 

「ごちそうさまでした!」
「はい、お粗末さまでした。ちゃんと水につけてきてね」
いつものように母さんに言われ、居間から台所へと行く。
水の入った洗い桶に食器をゆっくりひたす。
あわてて入れて、「ガチャン」と割ったら大変だ。
そっと食器を入れたそのあとに何気なく見た、ごみ箱。
そこに、母さんの作った料理がごっそり、捨ててあった。学生さんが捨てたのだろう。
「母さん、悲しい……」
背後に、見てほしくない人が立っていた。
「せっかく作ってもこんな風に捨てられる。母さんのやってることって、何なんだろう」

 

あぁ、母さんが泣いている。
いや、母さんは実際には、泣いてはいなかった。
けれど、私には母さんの涙が見えるようだったし、悲しい気持ちが痛いほど、伝わってきた。
母さん、こんなに悲しんじゃうんだ……。
この日から私は、「ごはんを残す」ということをしなくなった。

 
 
 

「まぁ、無理に食べなくても」
そう言ってくれる友人に私は、
「でも、食べなきゃ。食べなきゃなの」
と言っている。
いつの間にか「残さない」は「残せない」に変わり、私は母から「呪い」をかけられたかのようになっていた。
「母さんの作ったごはんは残さない」
というルールは、いつからか食べもの全般に適用されるようになっていた。
だって、キッチンで働くスタッフさんの顔が目に浮かぶ。
こうなると、外食までもがちょっとしたストレスになってしまう。
楽しいはずのことを、心底は楽しめなくなってしまう。

 

そんな私が最近出合ったのが、鎌田實さんの
「脱・呪縛」
という本。
その中に、答えがあった。私は自分への「呪い」を解くための答えを、本の中に見つけたのだ。

 

「おいしい」と口にする。
「ありがとう」と感謝する。
この2つは、なるべくやるようにしている。
以前キッチンスタッフをやっていて、言われてほんとうにうれしかったからだ。
もう、意識して、その料理を作ってくれた人、提供してくれている人には伝えるようにしている。
「相手がよろこんでくれるはず」というのが最初だったと思う。でも私にとって、効果があった。
これは、もしごはんをすべて食べきれなくても相手のことも自分のことも否定しないための「魔法のことば」なのだ。
実際伝えると、こころが軽くなる。食べたあとでも、からだも軽くなる気がする。まぁ、あくまで気がするだけなのだが。
けれど、「脱・呪縛」という本を読んでわかった。
「おいしい」と口にすると幸せホルモン「セロトニン」が出る。
そして、「ありがとう」でも幸せになれる。
「ありがとう」を口にして、人を幸せにしたときには別の「オキシトシン」って幸せホルモンが出るというのだ。
感謝することや相手のことを考えて行動することは、結局は自分を幸せにしてくれるというのだ。

 

そうだったのか!!
私にとっては「目から鱗」だった!!
私は、「ごはんを食べること」はある種のストレスだと考えてしまっていた。
けれど、ごはんは、
食べて幸せ!
「おいしい」を口にして幸せ!
「ありがとう」と伝えて幸せ!
の、私を3倍幸せにしてくれるものだったのだ!!
それを知って私は、一気に生きやすくなった。
いつでも「ごはんを残さず食べる」をできるとは限らない。
それを母さんがほんとうに望んでいるとも限らない。
私は手にしていたのだ。
簡単にできて、簡単に幸せになる方法を。
「おいしい」と「ありがとう」
相手のために伝える、が先でも、自分のために伝える、が先でもかまわない。
けれど、こんなシンプルなことばで私たちは、ごはんを3倍幸せに、「おいしく」いただくことができるのだ!!
そう思うと、不思議と私の中の「呪い」は小さくなっていった。

 

むかしの母さんは、言っている。
「もう、無理して食べなくてもいいよ」
そう私の中で、言っている。
だから、私はこれからは2つの「魔法のことば」を手に。
楽しく、おいしくごはんを食べていく。

 
 
 

❏ライタープロフィール
みずさわともみ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
新潟県生まれ、東京都在住。
大学卒業後、自分探しのため上京し、現在は音楽スクールで学びつつシンガーソングライターを目指す。
2018年1月よりセルフコーチングのため原田メソッドを学び、同年6月より歌詞を書くヒントを得ようと天狼院書店ライティング・ゼミを受講。同年9月よりライターズ倶楽部に参加。
趣味は邦画・洋楽の観賞と人間観察。おもしろそうなもの・人が好きなため、散財してしまうことが欠点。
好きな言葉は「明日やろうはバカヤロウ」。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

http://tenro-in.com/zemi/69163


2019-02-18 | Posted in 週刊READING LIFE vol.20

関連記事