週刊READING LIFE vol.20

娘VS.私 圧倒的娘の勝利《週刊 READING LIFE vol.20「食のマイルール」》


北村涼子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「白ご飯がいい!!」
これは小学6年生である娘のお決まりの返事である。
「鮭おにぎりあるけど、白ご飯かどっちがいい?」や、
「パンかご飯かどっちがいい?」や、
「昨日のお鍋の雑炊もあるけど、雑炊いらん?」
などの私の問いかけに対して、ほぼ
「白ご飯がいい!!」の返事が返ってくる。
「ご飯」だけでは不十分らしく「白ご飯」だ。
そしてその返事の前に「おかずは何?」という私への質問がついてくる。
その「おかず」が何かを聞いて、少し考えてから
「白ご飯!」と返ってくる。

 

なぜ「白ご飯」なのか。なぜ「おかずは何?」の質問がいるのか。

 

娘の食事のマイルール。
「こうちゅうちょうみ」。
なにそれ? と思わず娘に聞いてしまったぐらい、私自身その言葉に聞き慣れていなかった。
「口中調味」である。
読んで字のごとく「口の中で調理をしてそれを味わう」ということ。

 

私が小学生の頃は確か「三角食べ」というものを習った覚えがある。
ご飯を食べたら次はおかず。おかずを食べたら次はお汁。そしてまたご飯に戻ってくる。
おかず、ご飯、お汁、ご飯、おかず、ご飯、とジグザグに食べてそれを「稲妻食べ」ともいうらしい。
順番に食べて、栄養が偏らないように、そして上手にまんべんなく食べ終わるようにうまいことできてるなぁ、という感想である。

 

この食べ方は唯一日本だけだそうだ。
白米という味の薄い淡泊なものだけを口にふくむ習慣があるのは日本人だけであり、外国人にとったらどんなに美味しそうな炊き立てのほかほかご飯であっても「それだけ」を食べることは厳しい。「うちの旦那は白米にふりかけをかけないと食べられない」と外国人と結婚した友人に聞いたことがある。そのご主人だけかな、と思っていたらそうではないようだ。
日本人以外はあの淡泊な味のみを口の中で咀嚼することにものすごく抵抗があるらしい。

 

娘はあるとき小学校の栄養士さんからこの「口中調味」を学んできた。
それから娘は白ご飯を口にふくんだのちにおかずをふくむ。
そして、「私(娘)だけの味」にして口の中で調理して楽しむようになった。
「むむ、おかずの味が濃いぞ」と思った時は追加で白ご飯をふくむ。そしてよくかむ。
咀嚼しているうちに「自分だけの絶妙な調整」が出来上がっていくそうだ。
なるほど、そうなると「白ご飯」以外におかずを「口中調味」するのにうってつけのものはそうそう無いな。
具が入っているおにぎりや、米に味がついてしまった雑炊では娘が楽しみにしている「調理」に影響が出てしまう。

 

私自身はそんなことを一切気にせずに食生活を送ってきた。
でも、ちょっと待てよ。これ、めっちゃいいやん! となる。
チャーハンやすでに具がぶっかかってしまった丼物などは、出されたものを出された味でいただくしかない。でもこの「口中調味」を習慣化すれば、小さな子から育ちざかりの若者や淡泊なものを好まれるお年寄り、全員に適応できる。
同じおかずでも片手に「白ご飯」のお茶碗を持っていれば、それぞれの体に合った塩分調整や味付けが口の中で可能になり、濃い味が好きなひと、薄い味が好きなひと、みんなに対応できるやん! となった。
おいおい、今さらそんなことを知ったんかい、と突っ込みが入るかもしれないが、小さなころから当たり前に白米を食べてきた私にとったら新たな発見であったわけである。娘に教わった「口中調味」だが、知らず知らずにやってきたからこそ、その素晴らしさに気付かなかったのだろう。
そういえばお弁当で白ご飯にふりかけがかかっていた時、イラッとした覚えが多々ある。「ふりかけじゃま。白ご飯はおかずと食べたいねん」とよく思ったな……。
無意識に私好みの「口中調味」をしていたのだろう。

 

ただ、ただだ。ひとつ問題がある。
ビール好きの私は、白米よりビールを選んでしまうここ数年、という事実がある。
体重増加が激しい中、ビールをたらふく飲んで白米も変わらず食べていると天井無く体重が増えていく。そのことに気付いた頃から茶碗に白ご飯を盛って食べることがとんと無くなってしまった。
俗にいう糖質オフダイエットに傾倒している。
さらに「ばっかり食べ」を好んで進めている。ダイエットするには食べ方を工夫すればいい! という流行りに乗って、まずは野菜を食べて、それが終わればタンパク質を多く含むものを食べて……一番最後にお腹があいていたら白ご飯。と決めている。ただ、そこでもほぼビールを飲んでいるわけなので白ご飯は控える。
そう、私の食のマイルールは「ばっかり食べ」となり、白ご飯を極力控える、ということになってしまった。

 

娘の一番のお気に入りは「さんまの塩焼き」と「白ご飯」のコラボレーションだ。
お茶碗一膳に対して、さんまの半身ほどをきれいに平均化して食べていく。
そして、第二のお気に入りは焼肉のタン塩。これも本当に幸せそうな顔をしながら白ご飯と肉を口にほおばっていく。
美味しくないはずがない。
私の食のルールを撤回し、娘の食のルール「口中調味」に乗り換えようか本気で悩み中。
だってどう考えても本当に美味しい食べ方は、娘に教わって知った「口中調味」に間違いないから。
 
 
 

❏ライタープロフィール
北村涼子
1976年京都生まれ。京都育ち、京都市在住。
大阪の老舗三流女子大を卒業後、普通にOL、普通に結婚、普通に子育て、普通に兼業主婦、普通に生活してきたつもりでいた。
ある時、生きにくさを感じて自分が普通じゃないことに気付く。
そんな自分を表現する術を知るために天狼院ライティングゼミを受講。
京都人全員が腹黒いってわけやないで! と言いつつ誰よりも腹黒さを感じる自分。
趣味は楽しいお酒を飲むことと無になれる描きモノ。

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2019-02-18 | Posted in 週刊READING LIFE vol.20

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