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ママ起業のリアル

第15章 起業人生での最大の難関〜お金よりも失いたくなかったもの《ママ起業のリアル》


記事:ギール 里映(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
「髪の毛がないぐらいで、自分の夢を諦めてたまるか」
 
起業した年、私は頭髪を全部失いました。全頭性円形脱毛症というもので、文字通り頭髪が全部抜け落ちたのです。その時の私の決意が、これでした。
 
何かを始めようとか、成し遂げようとかすると、必ずなにか逆境があるものです。困難があるものです。一般的に起業で多い困難は資金繰りの課題でしょうか。それはもちろんありましたが、私の場合、これまでに訪れた最大の難関は、髪の毛が全部抜け落ちたことでした。
 
いまでこそこうやって笑って書くことができますが、当時は本当に深刻な悩みで、誰にも相談できず、毎日少しずつ抜け落ちていく髪の毛を横目に、正気を保つので精一杯でした。当時ロングヘアだった髪の毛は、毎日シャンプーするたび、ブラッシングするたび、また手で触るたびにごっそりと抜けていき、最初10円玉ぐらいのサイズだった脱毛部分はあっというまに500円玉大になりました。
 
そんなときに見つけたのがタレント、ガクトさんの言葉でした。彼も過去に円形脱毛症になったことがあり、インターネット上ではその時の写真も見つけることができます。あのガクトさんでさえハゲたのかと思うと、ちょっとほっとしたのを覚えています。ガクトさんの名言は、「隠せているうちはハゲていないのと同じ」というもの。つまり、髪型の工夫で隠しておけるなら、それはハゲではないので気にする必要はないということでした。
 
その時の私は、なんとか髪型の工夫で覆っておけるサイズだったので、この言葉にはとても励まされました。あのガクトさんでさえ同じことで悩んでいたんだと思というのも、かなり心の支えになっていました。日々インターネットを検索しては、同じ状況で悩む人のブログを読んだり、また治療法や改善法を探して、なんとか早くこの、抜けゆく髪の毛の恐怖から逃れたいと思っていました。
 
しかしその思いとは裏腹に、抜け毛は一向に治る様子を見せません。
 
髪型で隠せていたものがだんだん無理になり、そのうち大きめのターバンを巻いて隠すようになりました。しかしそのうちターバンでも間に合わなくなり、帽子をかぶるようになりました。真夏の暑い時期だったにもかかわらず、帽子を被り続ける生活はものすごくストレスでした。しかもそもそも、おしゃれでも帽子などかぶるタイプではなかったので、全てが違和感でいっぱいでした。
 
帽子をかぶると今度は、持っている洋服がまったく似合わなくなってきます。そのためファッションを楽しんだり、メイクを楽しんだりという女性らしい楽しみを一切放棄せざるを得ませんでした。なぜなら、鏡を見るたびに憂鬱になるからです。
 
少しでもかっこいい帽子を探そうと、毎日検索してはアマゾンや楽天でポチりました。また真夏でも通気性がよく、涼しげに見せる帽子はないかと、さまざまな帽子を試しました。普通の帽子ではあきたらなくなり、今度は医療用の帽子を探し始めました。つまり、帽子に人工の髪の毛がついているタイプで、通常は抗癌剤治療などで頭髪を失った方々のために作られた、医療用帽子というものでした。しかしそれらも、デザインや色のチョイスには限界があります。思うようなイメージになるものを見つけることはできず、また着心地を優先させることも大事だったので、大量の”使えない”帽子で家が溢れていきました。
 
帽子ではどうしようもなくなってきたので、いよいよウィッグの利用を考え始めました。昨今おしゃれでも気軽にウィッグをかぶったり、髪の毛のエクステをする人が増えてきているのか、インターネット上ではたくさんのウィッグが、かなり安い金額で販売されていました。
 
これまでの人生で、帽子はおろか、ウィッグなどつけたこともありません。しかし試してみる価値はあるだろうと、いくつか良さげなものを購入して付けてみました。
 
すると、あまりのつけ心地の悪さに心底がっかりしました。
私はおしゃれ目的でつけるわけではなく、生活水準の向上のためにつけたかったので、どうしても装着時間が長時間になります。すると、つけ心地の悪いウィッグでは耐えられなくなってくるのです。締め付け感がきついとかゆるいとか、ウィッグそのものの形が頭の形に合わないとか、ウィッグの毛の長さが微妙に心地悪いとか、なかなかぴったりとあうウィッグには出会うことができませんでした。
 
刻一刻と、髪の毛は薄くなっていきます。
ならば一度、本格的な治療とウィッグを手に入れようと、一念発起して病院を探し始めて治療を開始し、また本格的なウィッグのお店で、しっかりしたウィッグを作ることを決めました。
 
 

まずは皮膚科へ


円形脱毛症となって最初におとずれるべきは皮膚科です。
人によっては医者にいくのも恥ずかしいと感じることもあると思いますが、私は切羽詰まっていましたし、早くなんとかしたい気持ちが大きかったので、ひとまず近所の皮膚科に訪れて、なんらかの治療を開始しようと思いました。
 
皮膚科にいって診察をしてもらうと、先生は言いました。
 
「これは、うちみたいなクリニックでは手に負えないので、こちらの病院を紹介しますね」
 
といって、大学病院の脱毛症に詳しい皮膚科を紹介してくださいました。
 
紹介を受けてでかけていった大学病院ではまず、血液検査から始まりました。検査の結果貧血があることがわかり、その治療を開始することになりました。
 
もともと貧血体質だった私、食を変えたことで数値は正常に戻っていたものの、妊娠出産を経てまた数値が下がってきてしまっていたようでした。診断がついたのであればまずはそれに従おうと、鉄剤と注射による貧血治療と、ステロイドの塗り薬による治療が始まりました。
 
鉄剤を飲むと、数値は面白いように回復していきました。ヘモグロビンの値もフェリチンの値もあっという間に正常値に戻りました。しかし肝心の髪の毛は一向に生えてくる様子がありません。
 
「鉄分を補うと、かなりの方が生えてくるんですけどね」
と先生はつぶやきますが、生えてこないものは仕方ない。
数値の改善とはうらはらに、抜け毛は一向に治らず、治療法がそれ以上にはないことがわかると、西洋医学的な治療は行き詰まってしまいました。
 
 

問題には真っ向から突っ込んで解決


病院と同時に、専門家も探していました。いわゆる脱毛の治療に特化したクリニックを、かたっぱしから調べ始めました。めぼしいところに予約を入れてみて、5箇所のクリニックに初診を申し込んでみました。
 
藁にもすがる気持ちだったので、良さそうと少しでも思ったところへは行って初診をうけました。中にはかなり強引にクロージングしてくるところや、時には麻酔の注射が下手すぎて、帰り道に傷跡から血が吹き出て腕が血塗れになりながら帰ったところなどもありました。金額はどこも変わらないぐらい高額ですが、クリニックによってあまりにも意識やサービスの内容が違うので、選ぶのにかなり難航しました。
 
最終的には、スタッフさんが一番親身になってくれたところを選びました。
脱毛の治療は男性向けが圧倒的に多いのですが、その中でも女性に特化しているクリニックで、一番清潔感や納得感があったところで治療を受けることにしました。病院ではこれ以上できることがないと言われてしまったので、他でできることがあるのであれば、そこに賭けてみたい。私はまあまあの大金を払って、とある専門クリニックで治療を開始しました。
 
治療は順調に進みましたが、状況は全く改善されないどころか、ますます進行していきました。頭皮に細かい針をさして、ホルモン剤を注入するような治療法で、かなりの痛みを伴うため、毎回麻酔をすることになりました。この麻酔がむしろ髪の毛にはよくないんじゃないか、という心配をよそに、月に2回ほどの通院が必要でした。痛みと抜け毛と改善しない状況で、ますます気持ちは沈んでいきます。
 
たしか半年ぐらいの治療プランだったと思います。
前工程が終了するころには、髪の毛は全て抜け落ちてしまいました。
 
 

どうしようもないストレスを抱えて


男性にとって髪の毛がないのは、ある意味普通ですし、好き嫌いはあるかと思いますが、それで驚かれたりすることはありません。しかしこれが女性なら、驚かれるのはもちろん、可哀想がられたり、なんならありとあらゆる憶測をたてられて、自分の知らないところで陰口を叩かれることになりかねません。
 
私はそういう見えないプレッシャーというか、人の目のようなものの重圧で、なんとも言えない苦しさを抱えていました。「男性はハゲでもオッケーなんてずるい」と、変なやっかみを持つ自分もいました。
また同時に、がん患者さんなどで頭髪が抜けるケースがあります。その場合「がんだから」ということで周りも納得してくれます。それにすらずるい、と嫉妬を感じるほどでした。がん患者さんに嫉妬なんて言ったら大変失礼にあたることは百も承知ですが、当時の私はそれほど精神的に行き詰まっていたのです。
 
心に重圧をかけていたのは、髪の毛がないことだけではありません。
ただそれだけのことですが、生活やものの見方の全てが、変わらざるを得ない状況になりました。
 
生活ががらりと変わり、人の目を異常に気にする生活になりました。そのせいで旅行へは一切行きたくなくなりました。
飛行機や新幹線などの長時間移動で、不特定多数の方と同じ空間を共有することもストレスでしたし、また宿泊地では自分が一人部屋でないと、誰かと一緒の部屋ではくつろぐことなどできません。また温泉やプール、ほかスポーツ全般、髪の毛の露出が関係するものは一切できませんししたくありません。そんな状態で誰かと旅行になど行きたいと思うはずもなく、ただただ家でじっとしていたい、そんな気持ちで毎日を過ごしていました。
 
しかし、オープンしたばかりの店(自分で開業した自然食品店)があります。また子どももまだ小さく、手がかかります。毎日何かと出掛けては人に会わなければなりませんから、その度に人の目が大きなストレスでした。
 
よく、髪の毛が抜ける原因はストレスだよ、なんていいますが、むしろ抜けたことによるストレスのほうがはるかに大きく、卵が先なのか鶏が先なのかがわからなくなるぐらいでした。
 
家族にすらシェアできない悩み、家族ですら理解してもらえない痛み、どうしようもない不安、このまま一生髪の毛が生えてこなかったらどうしようという恐怖、人の目を気にして、したいこともできずに一生を終えるのかもしれないという絶望感、いろんなネガティブな感情に毎日押しつぶされそうになっていました。
 
ただその時、私を支えてくれたものがあります。
 
それが、
 
「髪の毛がないぐらいで、自分の夢を諦めてたまるか」
 
という想いです。
 
私は起業をすることによって、我が子に「かあちゃん、すごい」と言ってもらいたいという想いがありました。
42歳で起業するまで、どちらかというと世間に対して否定的で、将来の夢もなく、人とかかわらない方が楽に生きられると信じ、超自分勝手な生き方をしてきた私でしたが、子どもが生まれたことで人生が一変しました。不妊治療と厳しい食事制限、食養生の末に生まれてきた一人息子です。
 
やっと生まれてきてくれた我が子のために、親として何ができるだろう。
我が子が生きていくために、社会を今よりもなにか、1ミリでもよいものにするにはどうしたらいいのだろう。
我が子が幸せになるために、親として、大人として、どういう生き方を魅せ、どういうあり方を伝えていけばいいのだろう。
 
そういう想いが、私が起業をした根元にあります。
 
我が子が大きくなったときに、「うちのかあちゃん、すげーな」と思って欲しい。また世界は冷たくて暗くてしんどい場所ではなく、明るくて楽しくて成長させてくれる場所だと捉えられるようになってほしい。
 
また我が子が幸せになるためには、我が子だけが「よい」のではだめで、取り巻く環境、友達、将来の伴侶と、関わる人たち全てが社会に対して肯定的な関わり方を求め実践する人たちであってほしい。
 
そんな想いがあるからこそ、私は起業という大きな一歩を踏み出し、働き方だけではなく、生き方、あり方の全てを変えたのです。
 
たかが髪の毛がないぐらいで、自分の夢を諦めてたまるか。
 
その想いが、ますます私の決意を固めて、大きな飛躍への礎となったのでした。
 
 
 
 
《第16章に続く》


頑張るママのお助けレシピ

自分を支える底力を養う
わかめのしゃぶしゃぶ

<材料>3人分
生わかめ 300g
鍋用の野菜(あれば)白菜、春菊など
ポン酢、ごまだれなどのつけダレ
お好みでラー油やニョクマム
 
1 わかめは軽く洗って水気を切り、一口大に切っておく。
2 野菜も洗って、食べやすい大きさに切っておく。
3 土鍋にお湯をわかし、1のわかめをしゃぶしゃぶする。色がさっと緑に変わったら引き上げる。野菜は適宜お好みの食感になるまで土鍋で煮る。
4 ごまだれやポン酢など、お好みのつけだダレでいただく。ラー油やニョクマムを垂らしても美味しい。
 
*ミネラルたっぷりのわかめは、腎によい食材です。腎とは、人の生命力を司る重要な臓器。ここの力が弱ると「怖い、恐怖」という感情を感じやすくなり、そのために自分への自信を感じられなくなります。
 
*またわかめは、諸説ありますが、髪の毛によい食材とも言われています。髪の毛は腎という臓器に密接に関係する体の部位でもあります。体と心がつながっていることを、感じていただけるかと思います。
 
*わかめは、生わかめが出回る冬(1月〜3月ごろ)が旬です。季節のものはその時期のエネルギーをたくさんもっているので、旬のエネルギーをたくさんいただくことで、体の生命力を支えていきます。

❏ライタープロフィール
ギール 里映(READING LIFE 編集部公認ライター)

食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、2015年にゼロから起業。現職は食べるトレーニングキッズアカデミー協会の代表を勤める。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。

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2020-11-23 | Posted in ママ起業のリアル

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