祭り(READING LIFE)

僕の成長物語~毎日、祭りのような賑わいがある大都会で~《週刊READING LIFE「祭り」》

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2021/04/19/公開
記事:後藤 修(READINGLIFE編集部ライターズクラブ)
 
 
「この人の多さは何だ?今日は祭りなの?」
 
27年前の4月、自分が下宿する最寄りの新宿駅で降りた時、こんなことを僕は呟いた。
 
僕は、東京にある大学に合格できたことから、4年間の大学生活を送る権利を得た。
 
しかし、新宿駅でたくさんの人が行き交っている。僕は人の多さに正直たまげてしまった。
 
この時、僕の心中は暗かった。それは、意中の人に振られてしまい、ショックを引きずって
 
いたところだった。そんな気持ちが重なり、この祭りのような賑やかだけどごみごみした
 
様子を目にした時、
 
今まで経験しないような嫌悪感を持ってしまったのだ。そして、東京への第一印象がさら
 
に悪くなってしまった。こんな乱れた心理状態で僕の大学生活が始まってしまった。

 

 

 

大学生活が始まって、僕は授業に出席しながら、大学生であることを徐々に実感していた。
 
大学生活と言えば、授業よりも課外活動であるサークル。僕は高校生の時にソフトテニスに
 
所属していて活動していた。だから、ソフトテニスから硬式テニスへ転向してテニスを続
 
けていくことを決めていた。僕は毎日、楽しい大学生活を送るべく、そして、東京に来て持
 
ってしまった嫌悪感を払拭できるようにテニス同好会に参加したのだ。
 
しかし、ここで予想外な展開が待っていた。

 

 

 

ある日、僕は下宿先で胸の違和感があり、近くの病院に行った。
 
診断後に、医師の先生からこう言われた。
 
「あなたは心肥大症です。激しい運動をし続けると、命にかかわります。」
 
「は? どういうこと?こんなことある?」僕の頭は疑問符だらけだった。
 
僕が所属していたサークルは大学内でも練習が厳しい同好会だったので、このまま
 
活動を続けていると体に支障がでる恐れがあった。
 
僕は悩みに悩んだ末、サークルを辞めてしまった。
 
結局、僕は心を明るくしてくれると期待したサークル活動を断念しなければならなくなっ
 
た…… 。僕はこれからどうなるのかと沈んでしまった。
 
そして、重ねて悪いことが起こった。
 
居酒屋でバイトとして働いていたが、勤め先のパートさんが厳しく僕に当たって
 
くることがあった。そのことが嫌になりバイトを辞めてしまったのだ。そして、しばらくバ
 
イトをしない日々が続き、大学と家を往復する味気ない生活を送ることになってしまった。
 
当然ながら、気持ちが上向きになることはほとんどなかった。こんな調子で、大学1年が過
 
ぎていった。

 

 

 

大学生2年になった時、僕はこのままでは心が枯れると感じて、あるテニスサークルに
 
所属した。そこは僕が最初に所属したテニス同好会で知り合ったメンバーが所属していて、
 
様子を少し聞いていたからだ。その情報からすると、激しい練習はあまりしないが、まじめ
 
にテニスに取り組んで練習していると聞いていた。僕はそこに所属すれば、毎日、楽しい
 
大学生活を送ることができ、心も満たされると思っていた。
 
しかし、そんなに考えた通りには行かなかった。

 

 

 

サークルのメンバーはそれぞれ独特の考えを持っていた。だから、サークルの運営をどのよ
 
うに進めるかに意見が食い違いが多く、まとまりがなかった。だから、内部でギクシャクし
 
たりすることもたくさんあり、頻繁にミーティングが開かれている状態だった。
 
僕はまた思い描いていた時間を送ることはほとんどなく、大学の授業が終わった後や、昼休
 
憩に開かれたミーティングに参加して、意見をまとめていっていた。
 
僕は(またか)とため息しながら、いつも浮かない顔で参加していた。この時も当然、心は
 
曇っていた。
 
大学2年も自分の心がワクワクするような時は送ることがほとんど出来なかった。

 

 

 

大学3年生になった。この時、あることが僕に変化をもたらした。
 
それは新入生に入部を勧める活動だった。僕は誰かに声を掛けて、勧誘活動をする経験が
 
全くない人だった。だから、この活動をやることにとても心を重くしていた。
 
しかし、サークルは創設して、間もなかったことや、部員を増やさないと存続できない恐れ
 
もあり、勧誘は至上命題だった。
 
さらに、僕はサークルをまとめる執行学年としての立場もあった。だから、(よし、やるし
 
かない!)と気持ちを振り切って定められた春の期間、活動し続けた。
 
僕は新入生の女子や男子に声をかけまくり、サークルの良さを必死に説明した。
 
また、練習の見学に来た新入生に、サークル活動をするコートまで自転車で送迎したり
 
サークル活動後の食事では、新入生に食事を御馳走した。
 
そして、参加した新入生に、ラケットの振り方やボールの打ち方を教える日々を送り始めた。

 

 

 

すると、サークルで活動をするごとに、僕の心も充実感で満たされてきた。
 
1年前にはまとまりがなかった僕らの学年は新入生が加入したおかげで、うまくコミュニケーショ
 
ンが機能し始めて、1つのまとまったチームとなったのだ。
 
このようになるなんて、僕は予想していなかった。しかし、僕の心は毎日、‘明日が来るの
 
が楽しみだな’と思える大学生活を間違いなく送り始めていた。
 
さらに、バイトに関してもいい話が来た。

 

 

 

僕は、大学1年の時に、居酒屋のアルバイトを辞めてから、短期のバイトを繰り返していた。理由は居酒屋で働き方を注意されることがきっかけで長期間、バイトすることを苦にし
 
ていたからだ。
 
だが、クラスの友達が、百貨店でバイトをしていた時に、たまたまバイト人員に空きが出来
 
たから、バイトをしないかと僕を誘ってくれたのだ。内容はお菓子の販売員だった。
 
僕は、当初働き続けられるかが不安だった。しかし、バイトとして、働き始めた初日から職
 
場のメンバーに歓迎され、スムーズに働くことが出来たのだ。
 
さらに、隣のお菓子屋さんで働いていたパートさんからこんなことを頼まれた。
 
それは子供が高校受験を控えていて英語が分からなくて困っている。だから、家庭教師をし
 
てもらえないかという相談事だった。僕は未経験ではあったが、やってみたい気持ちが
 
上がり、それを引き受けた。そして、英語を教えるという家庭教師という経験値を得られた。
 
大学3年生の時は、僕が楽しいエネルギーをたくさん感じるのに比例して、現実で面白い
 
ことが起こり、家庭教師の経験という僕とは異なる価値観を持つ方々とたくさんの
 
関わり合いが出来たのだ。本当に、僕の心は火がともり続けていた。僕は輝くことが出来て
 
いたのだ。

 

 

 

大学4年になっても、大学3年の時に感じた心の充実感は続いた。
 
就職活動をしながら知り合ったメンバーやサークルの仲間、クラスの仲間、バイト先で一緒
 
に働いている先輩たち。みなさんと触れ合いながら、時にはたくさん話をしたり、たくさん
 
語り合ったり、たくさん笑ったりと本当に大学の最終学年として有終の美を感じるように
 
時を過ごした。
 
そのように過ごしながら、地元になる会社に内定をもらうことが出来た。

 

 

 

そして、大学の卒業式が終わった日。その日は夜遅い新幹線に乗って、帰らなければいけな
 
かった。しかし、離れるのが惜しく、最終の新幹線が出る直前まで、クラスの仲間と新宿の
 
居酒屋でお酒を飲んでいた。そして、帰る時間になって、僕は仲間に言った。
 
「本当にこれまでありがとう!楽しかったよ!!」自然に目から熱いものが流れていた。
 
仲間ももらい泣きしていた。それを見ながら、居酒屋を立ち去った。

 

 

 

僕は帰りがけに新宿駅を見た。僕が東京に来て初めて見た時と同じように、人がたくさんい
 
て雑然としていた。でもその時、僕はとても心地よかった。そして淋しかった。
 
(ここでたくさんの人に会わせてくれてありがとう。勉強させてもらいました)
 
感傷的になりながら、‘祭り’のような場所を離れ、東京駅へ向かい、最終の新幹線に乗った。
 
僕は東京という大都会で、いろいろな考えを持つ様々な方々を会って、自分の視野を広げる
 
事が出来て人間的に成長できたのだ。

 

 

 

今、僕は23年間、接客業が主である会社員として働いている。23年という長い期間、働く
 
ことが出来ているのは
 
東京で過ごしてたからだ。その4年間で学び得た‘人と関わることは面倒くさいこともある
 
が、それ以上に【楽しい】と感じられると思える心‘があるからだ。
 
僕は、今後、価値観が違うたくさんの人と関わりあいが出来る手段として存在する
 
コーチングを使い、様々な価値観から生じて悩まれている人を中心とした方々にサポート
 
する活動を本格的に行なうことにしている。

 

 

 

大学生活を始めた方々へ。みなさん、希望に満ちている方、不安に思っている方、
 
今は、感染症を恐れながら通っている方、今後をどのように描いているだろう?
 
みなさんの将来はご自身の心が創っていくものだ。
 
だから、僕のように、初めから心をよどませてはいけない。間違いなく、大学時代の僕なん
 
かより、様々なことがみなさんには出来る。だから、大学生活に必ず明るい希望を持ち、過
 
ごし続けてほしい。そうすれば、いろいろな方々に出会える、その方々からいろいろなこと
 
が学べる、想像しないことが起こる。だから、大いに澄んだ心を持って、素敵な出来事を
 
たくさん引き寄せて最高に心を充実させた大学生活を送ってください。
 
 
 

□ライターズプロフィール
後藤 修(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

愛知県出身。会社員として23年間勤務。2年前に今までの人生を振り返って
自分らしさを持ちながら生きることを決意し、コーチングを取得。
来たるべき時期に会社を退社して、コーチングを使い本来の自分を取り戻し、‘ありたい自分’で生きていきたい人を支援する活動する計画を着々と進めている。

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