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週刊READING LIFE Vol.30

淀川長治流を広めたい《週刊READING LIFE Vol.30「ライスワークとライフワークーーお金には代えられない私の人生テーマ」》


記事:山田THX将治(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

「淀川先生は、テレビショッピングみたいに映画を褒める」
北野武(ビートたけし)が、自らが主宰する映画賞が創設された際、その第一回受賞者として、映画解説者の淀川長治先生を選出した時のスピーチだ。
妙に的を射たスピーチに、淀川先生の直弟子を自認する私は、大笑いしてしまった。
 
お若い方は、『サヨナラおじさん』として一世を風靡した淀川長治先生のことを、あまり御存知ではないことだろう。淀川先生がお亡くなりになられて、既に20年余りの年月が過ぎているので当然のことだ。最近では、Net配信会社HuluのCMで、先生のアニメーションが使われたので、御記憶に残っている方も居ることだろう。
または、これも古い話になるかも知れないが、小松正夫さんが先生のトレードマークである黒縁メガネと濃くてよく動く眉毛を付けたモノマネでおなじみのことだろう。
 
淀川長治先生は、1909年神戸で映画好きの両親の間に生まれた。映画配給会社の宣伝や、映画雑誌の編集長を務めた後、1960年代からテレビやラジオで映画を解説する仕事を始められた。解説と言っても、映画製作のテクニックや演出の技法を、教えてくれるものではなかった。何故なら、一映画ファン出身の淀川先生は、映画製作の本職は無く、また、映画を専門に研究する学者でもなかったからだ。いわば、我々一般の映画ファンと同じ立場を、終生貫いたのだ。
それにより、従来の評論家や批評家の様に、映画の欠点をあげつらうことなく、あえて長所のみを探し褒め称えるスタンスを崩さなかっただけなのだ。マスメディアのしがらみや、スポンサーのことを気になさることも無かった。
こうして、淀川長治先生は、唯一無二の『映画の伝道師』となったのだ。
 
淀川長治先生最後の直弟子を自認する私も、知り合った頃の先生と同じ年代になってきた。当然、観てきた映画は数がかさみ、私より通算映画観賞本数が多い人を見付けるのは困難な状況となってきた。
そうなると、一般的に私の映画に関する感想が、周りの人に与える影響が強くなる傾向が出て来る。または、そんな気がして仕方がない。
正直なところ、本職の映画解説者ではない私は、そんな責任を背負ってまで、映画を観たり感想を述べたりはしたくない。しかし、年齢が行ってしまった現在は、仕方がないことなのかもしれないと考え、諦めることにした。これからはもう少しだけ、責任を感じながら映画を観ることにしよう。大人の責務だから。
そんな時に、参考になるのが師匠の行動だ。淀川先生は、特にマスメディアに出る時の言動を真似すればよいことが理解出来たのだ。
 
「Don’t think.FEEL!」
は、映画『スター・ウォーズ』シリーズの中で、マスター・ジェダイ(騎士)のヨーダが、パダワン(弟子)のルーク・スカイウォーカーを鍛える際に使う言葉だ。
淀川先生は、主宰する映画の会の会員の私達を、外部の方々に紹介する折、
「僕の生徒さん」
とご紹介して下さった。弟子である事の証明だ。そんな私達に向かって、
「映画は頭で観てはいけません。感覚で捕まえるのです」
と教え解いて下さった。
「頭で観ると、頭デッカチになっていけません」
と付け加えて下さった。
実際、物事を頭で考えるということは、意識が一旦脳を経由するので、瞬時だけれどその分遅くなる。一方、感覚で感じ取るということは、無意識反応なのでその人の本音に近付くということだそうだ。
またその姿勢こそが、映画を職業とはしない映画ファンの立ち位置での誇りの様に見えたりするから不思議だ。だから私は、この師匠の教えを40年以上貫いてきたつもりだ。
 
映画を頭で考えるなという淀川先生の教えは、振り返ってみると先生の語り口に近付く為の方策でもあった。
一度、淀川先生が原稿をお書きになっている姿を、真横から拝見させて頂いたことがある。正直、美しい字ではなかった。ところが、そのスピード(手書き)たるや、ほぼ、先生独特の早口な語りと同じぐらいと感じられたのだ。それくらい早かったし、著書を再読すると文体そのものが殆ど『話し言葉』で書かれていることに驚かされる。
他の映画評論家には見られないことだ。
『話し言葉』で、著書をお書きになるということは、それだけでハードルが低くなり、より一般のファンと立ち位置が等しくなる。
いつも小難しい言葉を使う評論家の言うことは、それだけで壁が立ちはだかった様な距離を感じてしまう。それに第一、その評論家が果たして映画を楽しんでいるのかが見えてこない。
こうなると、淀川先生の教えは、映画を考えてみると楽しめないとなる。また、楽しんでいないから、感想を言葉としてすぐに出すことが出来ないとなってくる。
 
淀川先生はよく、私等『生徒』達に映画の感想をお聞きになった。そんな時、
「この映画は、本当に素晴らしかったです」
等と言おうものなら、間髪を入れず
「もういい。座りなさい」
と先生にさえぎられたものだ。その一方、たとえどんなにおバカな映画のことでも、
「僕はこの映画が好きなんです」
と感想を述べると、
「へぇ、どのあたりが好きなの?」
と尋ねて下さった。生徒は褒められた思い、一所懸命に面白かったシーンや好きな点を語る。ニコニコしながら聞いて下さった淀川先生は、
「アンタもバカだねぇ」
と笑って混ぜ返すのが常だった。先生が直接面と向かって言う「バカ」は、特に「だねぇ」が付いた時は、けなされたのでは決してなく、むしろ、よく本音で映画を楽しんだねとの誉め言葉と言っていい。
これは自慢話になってしまうが、私な仲間の中で群を抜いて「バカだねぇ」を言われてきたものだ。
この様に、淀川長治先生は、頭で映画を考えるなと言うだけでなく、映画を『良い・悪い』で語るのではなく、『好き・嫌い』で感想を述べる様に指導して下さったのだ。物事の『良い・悪い』は、頭で考えねば答えが出ない。『好き・嫌い』を言うことは、子供にでも可能な感覚的なものだ。どちらが映画を楽しんでいるのかは、一目瞭然だと思う。
これこそ、先生の教えを端的に示している好例だ。
 
私はこれまで、禄を食む(ろくをはむ)仕事をしてきた。
その一方で、趣味の範疇を超えてライフワークとして映画を観てきた。何故ライフワークかというと、稼ぎのための仕事(ワーク)と違いいかなる労力も苦とは思えないからだ。
これからは、ライフワークとしてただ映画を観ていくのでは無く、師の教えに従い、映画を感覚で捉え楽しむこと、また、その方法を多くの人に伝えることとしたい。
それを、ライフワークに重ねて行動します。
 
そうすれば一度くらい、我が師・淀川長治先生に褒めて頂ける気がするからです。

 
 
 
 

❏ライタープロフィール
山田THX将治( 山田 将治 (Shoji Thx Yamada))

READING LIFE公認ライター
1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数15,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり

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2019-04-29 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.30

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