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これからのオタクの話をしよう

第9回 アジアの国からコンニチハ〜躍進するアジアのオタクコンテンツ〜《これからのオタクの話をしよう》


記事:黒崎良英(READING LIFE公認ライター)
 
 
株式会社ドワンゴが主催する一大イベント、「ニコニコ超会議」。
これは同社が運営する動画投稿サイト「ニコニコ動画」の、いわゆる「オフラインミーティング」である。「ニコニコの全て(だいたい)を地上に再現する」をコンセプトに、動画で人気だったものの再現や展示を行うイベントである。それぞれのブースには「超○○ブース」という名前がつけられ、魅力的なコンテンツを展開していた。
 
2019年の超会議では、多くの魅力的なブースがある中で、とあるブースが異彩を放っていた。
 
いかにも中国や中華街にありそうな建物を模したデザイン。赤と金色で彩られるステージ。そしてそこから現れた京劇風の面をかぶる役者。
まさに異国の風合いを出したそのブースに、見目麗しい美女が現れた。衣装はもちろん、中華風の舞台衣装だ。
 
その方こそ、今人気の台湾コスプレイヤー“Ely”さん。
そしてそのきらびやかなブースこそ、「超台湾ブース」である。
 
超台湾ブースでは、台湾を代表する陣頭集団「九天民俗技芸団」が登場。Elyさんとともに、伝統舞踊と最新技術を融合させたパフォーマンス「電音三太子」と「官将首」が披露された。Elyさんの衣装もそれに合わせた衣装で、中国の霊獣“朱雀”を模した衣装らしい。鮮烈な赤色に、ご本人の美しさがさらに映える。
 
この舞台の他にも、「超機車〜乗って感じて! 台湾バイクの滝!〜」という昨今流行のV Rを使った、あの通勤ラッシュアワー体験や、台湾発VTuberたちによる、日本と台湾の違いトークなど、魅力あふれるコンテンツが実施され、ブースは人気を博した。
 
というわけで、今回は近年その存在を大きくしている、アジア発信のオタクコンテンツについてである。
 
超台湾ブースで登場したelyさんをはじめ、中国、韓国、そして台湾といったアジアの美女たちが、コスプレ界を席巻しはじめている。
 
確かに、一目見ればその美貌に驚愕、そしてすぐさま虜になってしまうであろう。さすがは傾国の本場である。
 
いや、失礼、取り乱した。
確かに、中国・韓国・台湾あたりは、整形が日本のそれよりカジュアルに行われている、ということもある。
だが、それを踏まえたとしてもあの美貌は一線を画しているように思う。おそらく民族の血が云々、といった説明もできるのだろう。
 
だが、やはりそこには、ご本人の美しさだけでなく、そのコンテンツをこよなく愛する愛情があり、アジアコスプレ界をここまで盛況にさせたのではないだろうか。
本人だけではない。それを取り巻くカメラマン(通称カメコ)や、それらの人々を積極的に宣伝塔として起用しようとする公式の企業、雑誌社などの様々なメディア。そして何より、ただの写真やグラビアではない、コスプレを愛するファンたちの愛情が、日本とアジア諸国をつなぎ、ここまでの一大ジャンルにしたのであろう。
 
今ではコスプレは世界規模で楽しまれており、2003年からは、世界コスプレサミットなるイベントも開催され、世界各国からコスプレイヤーが会場に集結した。
他にもシンガポールや上海など、アジアの所々でも、いわゆるコミックマーケットのようなイベントが開催されており、そこでもコスプレイヤーたちが自慢の美貌と、服装・小道具などを披露している。
 
そう、コスプレのすごいところは、その再現性にもある。
アニメやゲームに出てくる、あの構造が分からない服装や武器などを、彼ら彼女らは再現してしまうのである。
その熱意には、もはや脱帽せざるをえない。
 
アジアを股にかけて活躍しているコスプレイヤーも多い。
ぜひご自身の目で精巧かつ美麗な姿を見ていただきたい。
 
さて、マンガ・アニメ・ゲームといえば「クール・ジャパン」の代名詞とも言えるようなコンテンツ群である。
 
だが、近年はアジア発のゲームが、日本でも人気を博すようになってきた。
 
というより、実はゲーム市場では、世界の市場の約半分をアジアが占めている。
さすがは世界一の人口を要するエリアなだけはある。
 
特に韓国は早くからインターネットが普及しており、その普及率は世界でもトップクラスだ。ネット喫茶の存在も大きく、日本とは違い、「ネット喫茶はゲームをするところ」という認識が根付いており、ゲーム業界共々盛り上がりを見せているようだ。
 
最近は、eスポーツの存在がそれに拍車をかけている。
そう、韓国はeスポーツ強豪国であり、プロチームも多数在籍している。
そのプロゲーマーはほぼ合宿状態で、1日16時間もの練習量をこなしているとか。
 
そもそも、日本とはゲームに対する考え方が異なり、それこそ「スポーツ」としての認識を示しているようだ。
1ゲーマーとしては、日本にもぜひこの認識がもたらされることを願いたい。
 
それはさておき、ここまでゲームが人気なアジアであるから、当然、ゲーム開発会社は日本以外にもある。
 
有名どころは、韓国のNHN PlayArtが運営する「ハンゲーム」だろうか。
トランプや将棋、囲碁や麻雀などの定番ゲームから、アクションゲームや本格RPGまであり、自分の分身である「アバター」によるコミュニティサービスも好評であった。しかもほとんどが無料である。
日本でもインターネット回線がブロードバンド化されるようになってきた2000年に国内サービスを開始。インフラにあわせた新たなゲーム提供を成し遂げた。
2019年には、日本版は、創業者である千良鉉氏が現取締役会長を務める、株式会社ココネによって買収。名を愛称であった「ハンゲ」に変え、新たなスタートを切った。
 
近年注目を集めているゲーム『アズールレーン』は、中国の上海蛮啾網絡科技有限公司(マンジュウ、Manjuu Co.ltd)と厦門勇仕網絡技術有限公司(ヨンシー、Yongshi Co.ltd)が共同で開発したゲームで、軍船を擬人化した、いわゆる「戦艦×美少女もの」だ。
 
先駆けとなった日本のゲーム『艦隊これくしょん〜艦これ〜』(以下『艦これ』)に続く艦船擬人化ゲームは、中華圏にて多く開発された。通称「艦これフォロワー」たちだ。
 
その先頭を走っていたのは『戦艦少女R』という作品で、これらと張り合うため、開発陣は「シューティングゲーム」の要素を取り入れることを画策(『艦これ』はカードゲームのようなターン制)。
さらに『艦これ』が日本中心かつ、第2次大戦当時現役だった船を起用したことを鑑み、世界各国の船や記念艦、開発段階だけの船なども登場させた。
 
結果としてこれが当たり、近年、人気急上昇のゲームとなっている。
 
そしてこれが国境の垣根を越えたゲームであることが面白い。
 
制作には様々な国の人々が参画している。
キャラクターデザインは、日本、香港、台湾、韓国、マレーシアからイラストレーターを起用。
音楽でも日本人が提供している曲もある。
 
国ごとの規制によるデザインの相違も興味深い。
特にキャラクターの肌が露出するデザイン(水着など)では、日本と他国では違う場合もあって面白い。
日本は比較的規制が緩和されているようだ。
 
ゲーム内の公開チャットには、日本語・中国語・英語が混じり、中の人は台湾だったり中国だったり……もはや国の垣根を感じることなく、皆一つのゲームに夢中になっている。
 
私たちは、ここに新たな国際交流のあり方を見る。
 
確かに、この『アズールレーン』をはじめとる戦艦擬人化コンテンツには、一つの懸念がある。
それは、かの凄惨な世界大戦を彷彿させてしまうのではないか、ということである。
かの大戦は国と国とのいがみ合いである。
それを、ゲームの世界、オタクの世界に持ち込んではしまいか。
これによって双方の関係がより悪化しはしまいか。
そんな懸念があった。
 
だが、オタクの中にそのような考えがあるだろうか。
このコーナーで何度も言っているように、オタクの前ではコンテンツは平等である。それ以上でもそれ以下でもない。
 
面白いか、そうでないか。それが問題だ。
 
そしてそのコンテンツは大いに面白い。
ならばそれで良い。ともに遊べる仲間がいるなら、ともに楽しめる仲間がいるなら、それが誰であろうと、オタクやオタクコンテンツ自身は、彼らを受容する大きな器がある。
そこに政治的な意図を挟む余地はない。(むしろ嫌う風潮がある)。
ただ純粋にオタクコンテンツを楽しみたい。
その気持ちだけで、その一つのコンテンツと気持ちだけで、現実に私たちは友好的な関係になれるのだ。
 
もちろん、人によっては、こう単純な問題でもないだろう。
本場中国では、規制対象にもなっていると聞く。ゲームの亡命という姿も見られるかもしれない。
 
だとしたら、私たちオタクは、率先的にその理想的な姿を見せる必要がある。
簡単に、世界と友人になることができる、その姿を、だ。
オタクコンテンツが国を、世界を、全人類を一つにする、そんな強大な力を持つ、その姿を、だ。
 
私たちは、今一度、オタクコンテンツの力を認めていくべきだと、思うのである。

 

 

 

1体の美少女フィギュアがある。
白を基調とした衣装。スカート周りを覆う銀の装飾が特徴的で、愛らしい表情から可憐な鈴を彷彿させる。
 
フィギュアの名前は『葡萄花鳥紋銀香嚢』。
かの楊貴妃が愛用した、香料を入れて身に着けるアクセサリーの名を持つ。
実はこれ、中国の国宝美術品を扱う番組「国家宝蔵」にて紹介された国宝を新たな形で披露するシリーズから生まれたもの。
 
つまりは、中国の国宝の擬人化である。
かの国のオタクコンテンツは、ここまで進化している。
私はこのアイデアを素直に賞賛したい。
 
というか、ぶっちゃけよく考えたなこんなこと! と驚愕し、笑い、この可憐な少女のフィギュアの情報を、誰かと共有したいと切望する。
 
私は第1回目で、こう言った。
『「願望」とか「妄想」とか「綺麗事」を語らせたら、オタクより右に出るものはいない。ひょっとすると、世界平和という綺麗事を現実にするのも、オタクの力かもしれないと思えるほどに。』
 
なるほど。世界は1オタクが考えるほど狭くはなく、簡単ではなく、近くはない。
だが、現状、私たちは彼らと一緒に、同じゲームを、同じ目的で、同じ時間を共有しながら楽しんでいる。
 
同じコンテンツに夢中になり、称賛を送り、礼を述べ、礼を尽くす。
 
私たちが願ってやまなかったのは、これではないだろうか?
 
確かに距離は遠い。思想や文化は違う。人種という違いだってある。
だが、私たちは“オタク”というただ一つの言葉のもとに平等である。
一つである。
一緒にゲームをしようと言える。一緒にアニメを見ようと言える。
そして、くだらないことでともに笑い、ふと呟くのだ。
 
ああ、平和だなぁ、と。
 
一つのコンテンツで、国境を越えて遊べるオタクたち。
単純で、幼稚で、平和ボケな奴らと罵られることだろう。
だがきっと、その単純さが生み出すのは紛れもない「平和」である。
 
私はその単純な一人であることを誇りに思い、オタクが言う綺麗事が、いつか本当の意味で実現することを、願って止まない。
 
 
 
 

今回のコンテンツ一覧
・『ニコニコ超会議』(参加型複合イベント/主催:株式会社ドワンゴ)
・『hange』(オンラインゲームコミュニティサイト/運営:NHN PlayArt 日本版はcocone fukuoka株式会社)
・『アズールレーン』(ゲーム・アニメ・漫画/開発:Manjuu Yongshi 日本版配信:Yostar)
・『艦隊これくしょん〜艦これ〜』
(ゲーム・アニメ・漫画等/開発:C2プレパラート 配信:DMM GAMES)
・『戦艦少女R』(ゲーム/開発:上海幻萌網絡科技有限公司 日本版配信:Moe Fantasy)
・『葡萄花鳥紋銀香嚢』(フィギュア/メーカー:Myethos 販売:グッドスマイルカンパニー)

 

❏ライタープロフィール
黒崎良英(READING LIFE編集部公認ライター)

山梨県在住。大学にて国文学を専攻する傍ら、情報科の教員免許を取得。現在は故郷山梨の高校に勤務している。また、大学在学中、夏目漱石の孫である夏目房之介教授の、現代マンガ学講義を受け、オタクコンテンツの教育的利用を考えるようになる。ただし未だに効果的な授業になった試しが無い。デジタルとアナログの融合を図るデジタル好きなアナログ人間。趣味は広く浅くで多岐にわたる。

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