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週刊READING LIFE Vol.36

「奇跡の本屋」をつくろうとしていた本屋のまちで、わたしが今、できること。《週刊READING LIFE Vol.36「男の生き様、女の生き様」》


記事:井上かほる(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「昔はこの辺よく、おばあちゃんのお見舞いで来てたんだよ、自転車で」
たまたま母と車で通ったその道は、当時小学生だったわたしが自転車で来るにはなかなか大変な距離だった。
大人になった今のわたしでも、40分くらいはかかるんじゃないだろうか。
その道を、よく通っていたことを思い出す。
 
自転車を降り、走って店に入る。
そのまま走って目指すのは、児童書のコーナーだ。
低めの棚に手をのばす。
すると、そのとなりにある2冊目、3冊目、と気になる本が、わたしの両目を端へ端へと伸ばしていく。
けれど、買ってもらえるのは1冊だ。
今ではお金の余裕と持ち運べる体力さえあれば、大人買いで1万円近く一気に買うことはできるようになったが、それでも積ん読はできるだけしたくない。「大人買いするぞ!」という気持ち以外のときは、厳選に厳選を重ねて、1冊を選んで買うことにしているが、厳選する時間は1時間、いや、ひどいときだと2時間、本屋をウロウロすることになる。「子どものころから、変わってないんだなぁ」と当時小学生だった自分の姿を思い浮かべればそう思えるが、ふつうなら「2時間もいたなら、1冊読めたじゃん」とツッコむだろう。
 
「これにする!」
小学生のわたしは、なんとか1冊を選び抜き、卒業証書を手渡す校長先生のように母の前に差し出した。

 

 

 

「え……。亡くなってたの……」
 
昨年の8月末。
「バスの時間まで雑誌でも立ち読みしようかな」と思い、札幌駅からすぐの紀伊国屋書店にふらっと入った。
入口からまっすぐ奥にある雑誌コーナーを目がけて、まっすぐに歩いた。
レジの前を過ぎ、もうすぐで雑誌コーナー、というところで、
「?」
右目の端に、「2017年8月末、他界」という文字と「くすみ書房」という文字が3Dのようにわたしの目に飛び込んできた。
機械のように90度右に身体の向き変え、帯に書かれている文章を読む。
 
――「なぜだ!?︎  売れない文庫フェア」「中高生はこれを読め!」「ソクラテスのカフェ」……
ユニークな企画を次々と生み出し、地元はもちろん、遠方からも愛された札幌・くすみ書房の店主。
閉店後、病が発覚し、2017年8月末、他界。その著者の遺稿を完全収録。
 
「ほんとに、亡くなってたんだ……」
 
数秒だがぼう然とし、雑誌コーナーに立ち寄ることなど忘れ、手にとった本をレジに持っていく。
『奇跡の本屋をつくりたい   くすみ書房のオヤジが残したもの』
 
小学生のころ、母のうしろにくっついて自転車を漕ぎ、わたしが自ら本を読むきっかけになった本屋さん。
わたしの町にあった、本屋さんだった。
著者の久住さんが、お父様から跡を継いだのは1999年とのことなので、正確にいうと、著者の久住さんが経営をしていたころのくすみ書房を、わたしは知らない。それは、この著書の中で言われているとおり、当時高校生だったわたしは、まったく本を読んでいなかったからだ。けれど、車やバスで近くを通るたび、「あぁ、懐かしいな」とか、大谷地に移転したあとには、「あそこにくすみ書房あったのにな、どこに行ったのかな」と思っていた。
 
急いで家に帰り、ページをめくる。
わたしが知らなかった「くすみ書房」の歴史が、久住さんの身に起きたこと、久住さんのまわりで起きたことが、次々と明らかになる。
息子さんのこと、奥さんのこと、お店の経営のこと、そして自身の病のこと……。
「こんなに大変なことが、こんなにたくさん起こってたんだ」
次々と降りかかる困難に、ページを止めてしまいそうになる。けれど、そう思ったときに、必ず助けてくれる人が現れるのだ。
くすみ書房がピンチに陥ったとき、久住さんは必ずだれかに相談し、意見やアドバイスをもらっている。
全国に広がった「なぜだ!?  売れない文庫フェア」や「朗読会」はFMラジオ局と広告代理店を経営している木原さんに相談し、アイディアをたくさん出したから生まれたものだし、「中高生はこれを読め!」は奥さまからのアドバイスもたくさんあったと書いてある。
ほかにも次々と「お助けヒーロー」が現れる。
北海道新聞、北海道書店商業組合、道内だけでなく道外の書店、テレビ番組のインタビューを受けた中学生、中学生を子に持つ母、そして、北海道大学(当時)の准教授をされていた中島さん。
 
久住さんのまわりには、ひとりずつ手をつないでいくように、力になってくれる人が集まっていた。
 
「奇跡の本屋をつくりたい」
 
この本の最後に、久住さんは、
「一番好きでやりたいこと、すなわち本屋をもう一度作ること」
と書いている。
 
1度は諦めた本屋の経営を、たくさんの別れと苦労を何度も何度も踏ん張った、久住さん。
結局は閉店することになったけれど、それでも苦労した本屋を、「奇跡の本屋」を、またつくりたいと思っていた久住さん。
・まだやれることがあると思うこと
・すぐ実行すること
・勇気を出して行動すること
・夢を人に話すこと
かんたんそうに見えるけど、できる人ってそんなにいないんじゃないだろうか。
 
当たり前にあり続けるものなんてない。
わたしは、なんの根拠もなく、子どものころからずっと存在している「くすみ書房」は、これからもずっとあるもんだと漠然と思っていた。
けれど、当たり前は、ない。
それは、場所も人も同じだ。
当たり前に、あしたが来るなんてことはないのだ。
 
わたしは、久住さんのように、「まだやれる」と思い、勇気を出してすぐ実行し、夢を人に話すことができるだろうか。そして、共感してくれる人に出会えるだろうか。
札幌駅の大型書店でこの本の前で立ち止まらせ、小学生のころのわたしに読書という楽しみを教えてくれた「くすみ書房」。
久住さんのようにはいかないかもしれないけれど、まだなにも成し遂げていないわたしに、「小学生のころのように、走れ!」  と言ってくれているような気がした。
 
『奇跡の本屋をつくりたい   くすみ書房のオヤジが残したもの』
重版が続き、たくさんの人たちに読まれている。
久住さんの想いが、全国に広がっている。
「生き様」が、久住さんの笑顔が、全国に広がっている。
 
わたしは、どのように生きようか。
かつて「くすみ書房」があったまち、「琴似」に住むわたしは、どのように生きようか。
久住さんが遺した想い、言葉から勇気をもらって、前に進んでいきたい。
「生き様って、だれかに影響を与えるってことなんだ」と、今回のテーマではじめて知った気がする。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
井上かほる(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

札幌市在住。大学卒業後、求人広告媒体社にて13年勤務。一瞬だけ専門学校の広報。
2018年6月開講の「ライティング・ゼミ」を受講し、2018年12月より天狼院ライターズ倶楽部に所属。エネルギー源は妹と暮らすうさぎさん、バスケットボール、お笑い&落語、スタバのホワイトモカ。

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2019-06-10 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.36

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