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週刊READING LIFE Vol.38

「自分に何が出来るのか?」と不安に思ったら《週刊READING LIFE Vol.38「社会と個人」》


記事:中川文香(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

私、本当に会社辞めるのか。
 
“退職願” と自筆で書かれた紙を、どこか不思議な気持ちで眺めたのは今から約二年半前のことだった。
 
「お前はずっとこの会社にいるのだ」と別に誰から言われたわけでもない。
でもなんとなく、
「ずっとここにいるんだろうな。新卒で入ってここまでやってきたし。仕事しんどいこともたくさんあるけど、なんだかんだ楽しいしな」
そう思っていた。
先輩は結婚して辞めていった。
同期も転職する、と言って去っていった。
その度に見送ってきたけれど “自分が会社を辞める” ということは全く想像したこともなかった。
 
どうしてだろう。
 
私にとって働くことはたぶん当たり前のことだったからだ。
そして何より「ここを辞めて自分に他に何が出来るのか?」という問いに向き合うのがきっと怖かったのだ。
 
取り立てて得意なことがあったわけでもない、専門知識を豊富に持ち合わせていたわけでもない私がシステムエンジニアとしてやってこれたのは、たぶん持ち前の負けず嫌い精神と、周囲の人に恵まれたおかげだろうと思う。
分からないことがあれば悔しかったし、新しいことを知れば嬉しかったし、顧客とだんだん話が出来るようになってくると楽しかった。
一緒にしんどいプロジェクトを乗り越えたメンバーと飲むビールは格別だった。
そんなことを繰り返して七年半。
ふと、ある思いが頭をもたげてきた。
 
私、ずっとここでやっていけるのかな?
 
色々なことを覚えてきて、ようやく一人前に仕事が出来るようになってきた。
だけど、だんだんと歳を重ねてきて長時間働くのが体力的にきつくなってきた。
当時、顧客先に出向いてシステム導入をする仕事をしていたので、必然的に出張が多く、一ヶ月のうちほぼ自分の家に帰らずホテル住まいということもザラにあった。
この生活、ずっと出来るのだろうか?
この先、あと何十年も?
いつの間にか30歳目前になっていることに気がついて、ふと立ち止まってしまったのだ。
立ち止まって振り返って、そして再び前を見て、自分のこの先の未来に何があるのか分からなくなった。
 
30歳前で自分のキャリアについて迷う人は多いという。
上京した人は地元に帰るべきかどうか迷う年代だとも聞く。
そんな多くの迷い人と同じように、私も自分のこの先について考えて、怖くなったのだ。
これから先、私はひとつずつ確実に年をとっていく。
きっと今までみたいに体力のままに仕事をしていくことはどこかで出来なくなっていく。
今は独身だけれど、いずれは家庭を持ってみたい。
そんなもろもろを考えた時に、今の仕事は自分の状況に果たして合っているのだろうか?
 
そして、決めた。
 
会社を辞めよう。
そのために、準備をしよう。
 
売りに出来るなにかが自分の中に見つけられなかった私は、ひとまず資格をとろうと勉強をした。
資格試験には合格したけれど、いざ転職活動を始めようかと思ったときに “ひとまず” で飛び込んだ悪影響が出てきた。
 
「本当に、これでいいんだっけ?」
 
また、分からなくなった。
 
とりあえず、資格の勉強をしているときには “合格” という目標に向かって走れば良かった。
けれど、いざ合格して次の段階に進もうとすると、ゴールが分からなくなってしまったのだ。
私の向かっている “転職” というゴールは本当に正解なのか。
本当に、辞めていいんだっけ?
どこまでいっても、迷ってばかりで小さい子どもが初めての道を歩くみたいに心細かった。
 
そんな時に、ふとしたご縁から転職話が舞い込んできた。
全くの未知の分野。
せっかく資格の勉強をしたけれど、たぶんその知識は活かせない。
けれど、どうにもその話が気になって仕方なくなってしまった。
自分に出来るか分からない。
でも、やってみなければ出来るかどうかも分からないじゃないか。
そして、えいや、っと思い切って最初の会社を辞めることにしたのだった。
辞めるのはやっぱり、怖かった。
でも、辞めると決めたらもうやるしか無い、と自ら背水の陣で臨んだ。

 

 

 

それから二年半。
あっという間に月日は流れ、今、私は地元に戻ってきている。
二番目に入った会社もとても忙しくて体力が持たず、結局辞めてしまった。
だけど、あの時に思い切って最初の会社を飛び出てみて、本当に良かったと今でも思っている。
あのまま残っていたら、きっと今の自分はないから。
 
“自分に何が出来るのか” という問いには、今でもやっぱり明確な答えは出せない。
けれど、自分の未来に対する怖さみたいなものは、あの悩んでいた頃よりも少し、薄くなった気がする。
最初の会社を出てみて次の会社に入って、自分の出来ること・出来ないこと、得意なこと・苦手なことがちょっとだけ見えるようになった。
それはたぶん実際にぶつかって体験してみたから分かったことで、上手く行ったことも上手く行かなかったことも含め、どちらも私の財産になっている。
あの時よりも不安を感じなくなったのは、きっと “大切なのは自分の体験を糧にして、求められていることを一つずつやっていくことだ” と分かったからだ。
何が出来るのかとぐずぐず考えてばかりいないで、とにかく求められることをやってみよう、「やってみたい」と思うことをやってみよう。
そうすれば、結果は後からちゃんと分かるようになっている。
無駄に悩んでしまうのは私の悪い癖だ。
 
そんな風に考えられるようになって、少しだけ肩の力が抜けた。
 
そしてまた、私は新しい環境に飛び込もうとしている。
ちょっと不安もあるけれど、でも楽しみな気持ちも大きい。
私という個人は、これまで自分が切り抜けてきたピンチや、褒められた経験や、「こうすれば良かった」という後悔を全部抱えて、次のステージへと進む。
スライムみたいに柔軟に形を変えてその場に適応することだけ忘れないようにすれば、きっとどこでも上手くやっていけると思うのだ。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
中川 文香(READING LIFE編集部公認ライター)

鹿児島県生まれ。大学進学で宮崎県、就職にて福岡県に住む。
システムエンジニアとして働く間に九州各県を仕事でまわる。
2017年Uターン。

Uターン後、地元コミュニティFM局でのパーソナリティー、地域情報発信の記事執筆などの活動を経て、まちづくりに興味を持つようになる。
現在は事務職として働きながら文章を書いている。
NLP(神経言語プログラミング)勉強中。
NLPマスタープラクティショナー、LABプロファイルプラクティショナー。

興味のある分野は まちづくり・心理学。

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2019-06-24 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.38

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