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週刊READING LIFE Vol.42

友達でもなく家族でもないけれど、それと同じような存在《 週刊READING LIFE Vol.42「大人のための仕事図鑑」》


記事:吉田健介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「今までありがとうございました」
 
「お世話になりました」
 
この日だけは色々な人から感謝の言葉をかけられます。
感無量というか、こっちこそみんなから学ぶことが多かっただけに恐縮な気持ちになります。
 
現在、中学校で教師をしています。採用7年目になります。
担任をしたクラスのうち、卒業式を3回経験しました。
教師って結構いいものだな、と最近になって感じています。
 
成り行きで教師になりました。
大学を卒業して、すぐに教師になった人を見ると、すごいなと思います。眩しく見えます。
20代はフラフラと生活をしていたので、申し訳ない気持ちにもなります。
それなりに食べていければいいかな、という感覚で仕事を始めたことを覚えています。
 
仕事はきちんとする方だと思います。
しかし、真面目な方でもないので、適度に力を入れ、適度に力を抜き、マイペースに無理のないように仕事をしています。
 
「大変そう……」
中学校で教師をしています、と話すとそう言われます。
確かに大変です。ですが中学校に限らず、どの仕事をするにしても、それなりに大変だと思います。なぜか学校、とりわけ中学校については、大変そうというイメージがあるみたいです。
 
卒業式は特別な日です。
教室に入ると、いつものようにみんなは楽しそうに話をしています。ただ、お互いどこか名残惜しそうです。
黒板は「卒業おめでとう」という言葉と、赤や黄色のチョークで描かれたイラストでいっぱいです。
 
本当に卒業するんだ……
 
という空気が立ち込めます。
 
最後の学活、僕は泣かないようにグッと堪えます。必死に我慢します。
涙もろい方ではないのですが、気を抜くと「ウッ……」となります。
恥ずかしいというか照れくさいというか、遠慮なく涙を流す先生もいますが、僕はその境地に達していません。できることなら、明るく円満に送り出してあげたいな、と思っています。
 
1つ印象に残っている出来事があります。
ある男子生徒に、最後だからというので、前に立って話をしてもらいました。
斜に構えたような生徒でしたが、いきなり泣き出したのです。男泣きです。
それまで明るく円満だった教室が一気にすすり泣きの音で一杯になりました。
僕もつられました。
 
「あ、やばい泣きそう」
 
担任は司会を務めなければなりません。保護者も見ています。足をつねりながら必死に我慢をしたことを覚えています。今思えば泣いてもよかったのかな、と感じています。何はともあれ、印象深い瞬間でした。
 
中学校での1日を紹介します。
あくまで僕の1日ですが、1つの基準にはなると思います。
現在、田舎の小規模校に勤めていますが、この業界に規模の大小はあまり関係がありません。
つまり、人数が多かろうが、少なかろうが、こなすべき授業数や業務量は同じです。学校や自治体によって、多少の違いもありますが、1日の流れという点で言うと概ね同じです。
 
8時15分。朝の職員打ち合わせ。
その日の予定や連絡事項を確認、共有します。
 
8時20分。
教室へ上がります。
個人的な意見ですが、僕が担任をする1年生は教室が1番上(3階)にあります。朝から3階に登るのは少し憂鬱です。個人的な意見です。
 
「おはようございまーす」
教室に入ると、元気よくあいさつをしてくれます。
中学校生活にもすっかり慣れたのもあってか、1年生らしい元気の良いあいさつが僕を迎えてくれます。
すでに読書をしている生徒がいます。10分間の読書タイムがあるからです。朝読書。
 
僕が思うに、最近の中学生は本をよく読んでいます。
よく読むというか、読むことにあまり抵抗がないというのか。僕が中学校の頃とは大違いです。
小説がドラマや映画になったり、ライトノベルがアニメとして放送されたり、そうした世の中の流れもあると思います。とにかく、思っている以上に中学生は本を読んでいます。
 
朝読書の時間は僕も読みます。
今は司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を読んでいます。1度読みだすと止まらなくなるので、10分間では物足りません。
 
8時35分。朝学活です。
その日の予定を確認したり、提出物を回収したり。みんなの表情を見ながら、体調も測ります。
 
個人的な統計があります。
 
「月曜日は女子の前髪が変化している」
 
週末に母親なり、自分なり、とにかく誰かに前髪を切ってもらったのでしょう。
クラスに1人か2人は前髪をカットしている女子がいます。かなりの確率で。
中学校という所は、服装や髪型などルールの多い所です。女の子にとっては限られたオシャレポイントなのかもしれません。
 
「前髪切った?」
 
と聞くと、少し照れながら「はい」と答えます。
よく気づきましたね、という好感触を得ることもしばしばあります。
 
まあ毎日教卓からクラス全員の顔を見ているのです。自然とそうした変化に気がついてしまうみたいです。言葉にすると女の子は喜ぶみたいなので、意識して声をかけるようにしています。合理的判断も含まれています。
 
「え? 切ったの?」
 
前髪の変化に気がつく男子は1人もいません。
 
「だからダメなんだよ男は」
 
と言いながら、和やかな時間が過ぎて行きます。
 
8時50分。
1時間目がスタートします。午前中4コマ、午後2コマの計6コマです。
僕の受け持つ教科は1日に3コマ程度。
担任をしているので、「道徳」や「総合的な学習の時間」など、専門教科以外にも授業は入ってきます。なので最大でも1日5コマといった所です。
授業のない時間は、教材研究や授業準備、テストの作成などを行います。
とは言え、自分の教科以外にも様々な担当が回ってきます。校務分掌です。
今年は「生徒会」と「道徳主任」を任されています。なので、それに関わる準備や資料作成など、予定から逆算して隙間で仕事をこなしていきます。
 
12時40分。給食です。
当番と一緒に準備を行います。
僕は人参、茄子、椎茸が嫌いです。とりわけ人参に関しては、毎日どこかのメニューに混入されています。
 
以前、なぜ毎日人参が入っているのか、給食を作る栄養教諭に聞いたことがあります。
 
「彩りが良いでしょ、ホホホ」
 
と言われました。
 
違う学校の栄養教諭も同じことを言っていました。
具材に関して僕に選択権はありません。なので、嫌いな人参を我慢して食べています。毎日。
 
中学生にとって嫌いな具材は何だと思いますか?
絶対的王者というか、今も昔も変わらないようです。
それはグリンピース。
あの小さな丸緑から放たれる味のインパクトが、どうも中学生には合わないようです。
しかし、毎日嫌いな人参を食べている僕の前では、流石にみんなは黙ってグリンピースを食します。これも教育です。
 
16時05分。部活動です。
午後の5、6時間目を終え、掃除、終学活を終えると部活動の時間です。
中学生にとって部活動は唯一エネルギーを発散できる場所でもあります。
僕も担当の部活へ顔を出しに行きます。怪我のないよう、安全に配慮しながら指導に当たります。
 
17時00分。下校の時間です。
教室の整備をしたり施錠をしたりしながら生徒を見送ります。15分後には校舎に残っている生徒はいません。
 
以上が1日の大まかな流れです。
特に担任をしていると、ザーッと時間が流れて行きます。少し速めの川みたいなイメージ。
 
生徒が下校してからは、授業研究や授業準備で仕事をする人、そのまま帰宅する人と、それぞれです。ちなみに残業代は出ません。
 
僕は残業はしません。帰宅します。
生徒がいる間は、空き時間と言えど、あまり業務ははかどりません。なので、朝に少し早く出勤して、生徒がいない静かな時間を使って作業をします。
 
何か問題が発生した時は、夕方以降に来校してもらったり、家庭訪問に教師が行ったりします。「大変そう……」と周りから言われる理由は、こういった所からきているのかもしれません。
 
教師を目指している人や興味のある人、特に興味のない人も含めて、この業界は面白いと思います。「自分が何かを教えるなんて……」と思う人もいるかもしれません。しかし、お箸の使い方を教えたり、ライオンが狩の仕方を見せたりするように、何かを伝えるということは、僕たちにとってはごく自然な行為だと思います。
 
特に卒業式。送り出す方の気持ちは何とも言えないものです。
ほとんどの人は、送られる側ではないでしょうか。
普段生活をしていてなかなか味わえるものではありません。
生徒に対する思い入れが一層深まる瞬間です。
 
僕が初めて担任をした生徒は大学へ進学していれば、1回生になります。
僕の夢は、卒業生と飲みに行くこと。あと1年もすれば成人です。もう少しで叶いそうです。
 
友達というわけでもなく、家族というわけでもないのですが、僕にとって教え子たちは、それと近い存在、または同じような存在です。勝手にそう思っています。今の時代、SNSで繋がることもできるので、卒業してからも何かと近況を見合うことができます。縁が続いている生徒も少なくありません。
 
中学校時代って、独特な濃さを持っています。その中学校時代に、僕が教師として関われたことは非常に光栄なことで、ありがたいことだと感じています。なかなか味わえるものではありません。
 
最近は教師の採用に関して、年齢制限を緩和している自治体も出てきました。
その他、色々な制度もできているみたいです。色々な人材を確保しようとする動きが出ている気がします。そして、脱サラをして教師になった人も見かけます。
 
色々な生徒がいます。
1つの教室に一斉に集まって、1日の大半を共に過ごすのです。当然、問題も起こります。自分のエネルギーがどんどん消耗されていくこともあります。逆に楽しいこともあります。幸運なことに、僕は楽しい方が多いというか、みんなとそれなりに上手くやっています。保護者の方たちとも同様です。
 
「今までありがとうございました」
 
「お世話になりました」
 
と卒業式の日に生徒や保護者から感謝の言葉をかけられます。
 
教師って良いもんだな、と実感する瞬間です。
その一言でスッと気持ちが洗われたような気分になります。
学校以外にも、それぞれの仕事には、それぞれの醍醐味がたくさんあると思います。
教師の醍醐味もいくつかありますが、卒業式はその1つです。
僕としては、卒業式で教え子を見送る感覚を是非知ってほしいです。
もし教えることに興味のある方は、中学校教師を候補に入れてみてくださいね。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
吉田健介(週刊READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

1981年7月22日生まれ。
兵庫県西宮市育ち。現在は京都府亀岡市在住。

関西大学卒業
京都造形芸術大学(通信)卒業
佛教大学(通信)卒業。

美術と数学の免許を持つ二刀流中学教師。
本人は美術(油絵)が専門のつもりだが、数学の方が需要が高いため、生徒や教師全員が数学専門と勘違いしている。
カホンやダラブッカといった民族楽器の演奏をする傍ら、土曜の夜はカポエラで汗を流す。
油絵の制作を続けながら、最近は写真にも挑戦している。

 
 
 
 

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2019-07-22 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.42

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