週刊READING LIFE vol.47

ジャック・バウワーのやりきる力《 週刊READING LIFE Vol.47「映画・ドラマ・アニメFANATIC!」》


記事:ギール里映(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「どうせ、ハッピーエンドなんでしょ」
 
頭ではわかっている。
アメリカで作られている映画やドラマは、そのほとんどがヒーローズジャーニーに基づいているから、だいたい幸せに終わるってことは、よくわかっている。
だけど、ついつい見てしまうドラマがある。
 
それは、24(トゥエンティー・フォー)。
 
キーファー・サザーランドが演じる主役、ジャック・バウワーを中心に、CTU(カウンター・テロリスト・ユニット)という政府の機関が、さまざまな国家的危機を24時間で乗り切っていくというドラマで、1シーズンは24回、つまり1回につき1時間、リアルタイムでストーリーが展開していく。2001年から2014年までの間に9つのシリーズが展開された。
 
当初リアルタイムでストーリーが進んでいくスタイルが話題となり、夜も眠らずに見続けてしまう人たちが続出。ネットフリックスやアマゾンプライムがなかった時代、レンタルDVDを借りて「これだけ見たら寝よう」という決意を、なんど破らされてきたことか。全部観てしまうまで、とにかく寝かせてくれないテレビドラマなのだ。
 
24の魅力、それは大きくわけて3つある。
 
1つめは、頭の良さ。
ジャック・バウワー、とにかく頭がいい。
彼の問題解決能力や状況判断力はすばらしく、いつも面白いぐらいに敵の意図をつきとめ、裏をかいていく。さすが国の機関で働くトップエージェント、その身体能力と頭脳の高さは見ていてやたら、気持ちがいい。
 
「ジャック・バウワーだから、大丈夫でしょ」
と、どんな状況になっても思わせる無敵ぶりが痛快すぎるのだ。
 
頭のよさは、プロットや伏線にも見え隠れする。
黒人大統領だったり、女性大統領だったり、イスラム系のテロリストだったという人物描写がタイムリーにアメリカの社会情勢を反映していて、ところどころにチラ見えする“アメリカ人の本音”が面白い。ヒーロー好き、アメリカン・ドリーム好き、そして新しいことが好きなアメリカ人たちだが、実は保守的で差別的だったりする側面を、キャラクターの設定でやんわりと伝えてくる。そこに人が共感したから、24はアメリカの国民的ドラマになったに違いない。
 
そして2つめは、やめられないとまらないドラマの構成。
「え、ここで終わるの?!」というテレビシリーズの終わり方の常套手段で、どうしても次を見たくなってしまうのだ。1時間で1話が構成されているのだが、CMを除けば45分程度で1話を観ることができるのもずるい。寝る時間が45分遅くなっても「ま、いいか」と思わせてしまうのである。昔はレンタルDVDだったので、手元にあるDVDがなくなれば終わりだが、アマゾンプライムがある今、全部見てしまうまで、終われない。
 
特にするべきことがいっぱいある時ほど、見てしまうのだ。
翌日が試験という日の前の晩に、なぜかつい、部屋を片付け始めてしまう受験生みたいに、仕事が忙しいときに限って見るのをやめられない。現実逃避するには最高の道具なのだ。
 
最後3つめは、人の達成欲を満たすところだ。
山があるから登るのと同じように、シリーズがあるから最後まで見てしまう。
 
人には「最後まで見たい」欲望がある。
ロールプレイングゲームもそうだし、長編小説も早く最後まで読み切りたいと思っている。
知らないものや世界を知って、それを完結させたい欲望があるのだ。
そして24は、9つのシリーズをもって、その達成欲を見事に満たしてくれるのである。
 
スピード感のある話の展開と、あちこちに散りばめられた「やめられない仕掛け」
このおかげでアメリカ国民を始め、全世界の人たちが24に夢中になり、睡眠不足になった。
 
そんなこんなで当時、9つあるシリーズをすべて観てしまった。
そして最近、アマゾンプライムのおかげでもう一度見る機会があり、4つめの魅力に気づいたのだ。
 
4つめの魅力、それは、何度でも楽しめること。
 
一度、大満足にて全てのシリーズを見ているけれど、時を経てもう一度見てみると、なんと、すべてが新しい。見たはずのストーリーだが、まるで覚えていないのである。人の記憶なんて本当に当てにならないものだ。
 
そのため、2度めであるにもかかわらず、全く知らないストーリーをもう一度フレッシュに体験することができる。
人間は達成したい生き物で、かつ、すぐに忘れる生き物なのである。
 
そうか、だから映画やドラマは同じテーマで毎年作られていくのだ。
決して私達は飽きることがない。人の欲望を満たすのは、凝ったアクションシーンでも、最先端の衣装デザインでも、コンピュータグラフィックでもない。それらはあくまでも映画やドラマを盛り上げるための小道具にすぎない。
 
痛快な頭の良さ、やめられない仕掛け、達成欲を満たすもの。
これら3つの要素があるテレビドラマは、私の大好物だ。
セックス・アンド・ザ・シティに始まり、ヒーローズ、エイリアス、ER、プリズン・ブレイク…… 数多く生まれるアメリカンドラマは、どれも面白く、しかも何度でも楽しめるから、新しいドラマを見たいと思う欲望すらわかない。
 
翌日に差し迫った仕事があり、それから現実逃避したい人に、アメリカンドラマを強くおすすめする。睡眠不足になりアドレナリンがでて、翌日はきっと、いつも以上に力を発揮できるようになる。
 
なぜならそんなあなたには、私のように達成欲があるからだ。テレビドラマにハマる人は、必ず仕事もやりきり達成できる力がある。
 
ではそろそろ、おやすみなさい……。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
ギール里映(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、現職は食べるトレーニングキッズアカデミー協会の代表を勤める。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。

 
 
 
 
http://tenro-in.com/zemi/86808

 


2019-08-27 | Posted in 週刊READING LIFE vol.47

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