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週刊READING LIFE vol.53

通勤電車で読書ライフ《 週刊READING LIFE Vol.53「MY MORNING ROUTINE」》


記事:なつき(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

読める、読めるよ。あんなに苦労していたのが嘘の様に読める。
 
読むことはマラソンと同じだ。1冊の本を読むのにどれだけの時間を要するだろうか。その本を読むのにどれだけの休憩地点を経由するだろうか。どれだけの休憩を必要とするだろうか。そして持久力はどうやってつけるだろうか。体を鍛える筋力トレーニングをするだろうか。体はそれで鍛えられる。では頭は? 頭はどうやって鍛えるのがいいのだろう。物事を考える、問題をたくさん解く、本をたくさん読む。そんなところだろうか。ではそれをするための気力が奪われてしまったら?
 
数年前に、がんで手術をし、その後も薬で治療を続けた。二つ、知ったことがある。一つ目は、体にリハビリが必要なように頭にもリハビリって必要なんだなあ、ということ。手術後は何をしていても疲れる。手術の前日までは飛んだり跳ねたり速足歩行が当たり前だったのに、一か所体を切るとこんなにも体力は落ちるものなのか、と驚く。練習をしないと、歩くのもすぐに疲れるしふらつく。それと同じように頭も使う練習をしないと思考力が落ちる。病室のベッドでiPhoneを開きニュースなどを読んでみる。疲れる。SNSの友人の投稿などを読んでみる。疲れる。5分見て読んだだけでぐったりする。これではいけない、と少しずつ読む練習をする。入院期間は2週間ほど。退院して仕事復帰に影響が出ない様にするために練習をする。
 
もう一つは、それが一カ月や二カ月のことではない、ということ。手術後も、転移を防ぐために抗がん剤が必要だった。1年半程の投与。よく言われる体に出る副作用は仕事をしながらでも乗り越えた。でも同時に、手術をした後からしても比べ物にならない程、思考力、記憶力が落ちた。抗がん剤は終わったけど、薬が抜けるには1年はかかり、体に様々な症状は出続けるとの話が担当医からあった。体の影響は自分で何とかできそうだ。でも思考力は? 記憶力は? どうやって補えばいいのだろう。がんになる前は、人の話を聞きながらほぼ同時にメモをすることができた。早口にも対応できた。それができなくなった。聞きながら書こうにも文字が思い出せない。書いていても手が止まる、一つの言葉に引っかかる。手と頭が連動してくれない。
 
とてつもないジレンマに襲われた。本を読んでいても何度も同じ部分ばかり繰り返し先に進めない。仕事にも差支えが出てくる。困った、何かいい方法がないものか。そんな時に見ていたSNSにある書店の広告が流れてきた。
 
文章力をつけるライティング・ゼミの宣伝だった。天狼院書店と書かれていた。以前、夫に本が読めるカフェとして教えてもらい、池袋にある天狼院書店に数回行ったことがあった。夫の許可を得てそのゼミに通い始めた。全8講に渡る4か月のゼミ、文章を書くための極意をたくさん教えてもらった。課題として毎週2,000字の文章を自由テーマで書くものがあった。ゼミを受けるまでは途方もない文字量と思っていた。それが、課題12回を全て提出し、ゼミが終了する頃には2,000字を書くのが楽しくなっていた。このゼミはSNSに専用の課題提出用のグループが作られる。このグループに提出した文章は好きに読むことができる。他の受講生が書いた文章をいくつも読んだ。読むことを鍛えたかったし、皆がどんなテーマで文章を書くのか知りたかった。そうこうするうちにゼミの期間が終了。もっと書きたいし、文章を読みたかった。このゼミには上のクラスがあり、ここでは5,000字射程の文章を書くことが課題だった。そのクラスのゼミに進んだがかなりきつかった。2,000字から一気に5,000字射程、それでも頑張って欠かさず提出した。そしてここでもSNSに専用の課題提出用のグループがあり、その文章を読み続けた。5,000字を読むのはかなり大変だった。大変だったけど面白かった。だから続けられた。この文章を読むことを日課にできないものか。仕事をして疲れて帰ってきて家事をしての後は読む気力がない。頭も働いてくれない。
 
朝に読むことにした。SNSに投稿されている文章なのでiPhoneがあればどこでも読める。朝の通勤電車内で読んでみた。他の受講生の文章は、心癒されるもの、励まされるもの、元気が出るもの、などがあり、1日のスタートである朝を気持ちよく、清々しくさせてくれる。この文章を読んだ日は仕事も楽しく行えた。皆も頑張っている、私も頑張ろうと気合が入った。朝の通勤電車は混むことも多々ある。そんな時は無理はしないが、読めた時の方が力をもらえる。何本も読めなくていい。1本読めれば十分気力を充電できる。
 
そうやって5,000字の文章を読み続けた。始めは時間がかかった。でも次第に時間が短縮されていった。課題提出された文章を読むうちに他の文章も読みたくなった。天狼院書店には独自のWEBサイトもある。課題提出した文章のうち面白かったものはそこに掲載される仕組みが取られていた。私も何度か掲載されたサイトだ。ライティング・ゼミが始まってから、もう数年が経つ。数年分の掲載が決まった文章が掲載されている。検索ページで適当な日付を入力して検索した。過去の様々な文章が紹介されている。その中から気になるタイトルの文章を読んだ。その文章はライティング・ゼミの課題として提出された2,000字の文章だった。あっという間に読んだ。その翌日も適当な日付を入れて検索して読んでみた。またもあっという間に読んだ。文章疲れしなかった。2,000字の文章を読むのにかなり苦労していたのが嘘のようだった。5,000字を読むことが日課になったことでいつの間にか2,000字の文章を難なく読める様になっていた。
 
朝に読むことを続けた。検索ページで例えば10/5など、日付を入力してみる。またある時はふと思いついた言葉を検索ページで入力してみる。面白いことに様々な言葉で検索しても何かしら文章が紹介された。文章を開いて読む。私も過去に経験したことがあると思って共感する内容だったり、全く知らない初めて聞くことが書かれた内容だったり。過去に自分も経験しているものはその物語に共感するだけでなく、自分が経験した時のことを思い出して気持ちを重ね合わせたりする。読むまでは知らなかったライターだったのに、読み終わるととても親近感が湧くこともある。また、ライターの紹介した事柄が知らなかったことでも、これが面白いから伝えたかったという気持ちがとても伝わってきたり、ライター目線の気持ちや考え方がとても参考になる。
 
例えばちょっとした街歩き、5分歩いてみて何か記事を書いてみよう、というテーマが課されたとしよう。何を、どこの部分を切り取って記事にするだろうか。すれ違った人の気持ちになって書く人もいる、通りに並んでいるお店について書く人もいる。同じテーマを課されても目線は様々だ。自分だったらこういう見方をするだろうな、という一つの目線をこの文章たちを読むことで二重三重にも角度を変えて増やしてくれる。こういう考え方もあるのか、と見方の幅を広げてくれる。そういったことがこの文章を読むことで培われる。
 
それだけ多くの人がこのゼミに通い、文章を書き、課題の提出をし、それが掲載されてきたのだろう。だからとにかく文章量が豊富だ。活きた文章が豊富だ。数年前に書かれたものでも目の前の出来事の様に空想できる。その世界に入って一緒に体験できる。そして短編集の様な文章量で気軽に読むことができる。朝の読み物としてこれほど面白いものはない。この天狼院書店のWEBサイトは誰でも閲覧可能なので気になったらいつでも開いて読むことができる。
 
そうやって楽しんで文章を読み続けた。すると、驚きの効果が表れた。仕事で中々理解できなかった文章が、宇宙語の様に頭が混乱していた文章が読める様になってきたのだ。これは嬉しい効果だ。読めないということはかなり苦しいことだ。読めた過去があっただけに、読めないというのはとてつもなく苦しい。抗がん剤が終わって1年以上経過して薬が体から抜けたからかもしれない。でも、体はまだ万全じゃない。まだ爪の変色だって残っている。それでも文章を読む力ができた。読んでも疲れなくなった。これは書く力で言葉を思い出し、読む力である持久力を養うということをしていたからだろう。
 
もう一つ嬉しいことがあった。先日470ページほどの小説を読んだ。驚くスピードで読めた。なんと2日で読めてしまった。以前は1行の文章を理解するのにもかなり骨が折れていた。それがここまで、読書力がついてきた。読んでも疲れない持久力を身に付けることができた。2,000字だったり、5,000字だったりの文章を読み続けてきたうちに、自然と頭が鍛えられていた。文章を読むことができる、言葉を理解できる、こんな面白いことはない。もっともっと色々なものを読み続けよう。
 
朝の貴重なひと時通勤電車、明日の朝はどんな物語に出会えるだろうか。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
なつき(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

東京都在住。2018年2月から天狼院のライティング・ゼミに通い始める。更にプロフェッショナル・ゼミを経てライターズ倶楽部に参加。書いた記事への「元気になった」「興味を持った」という声が嬉しくて書き続けている。

 
 
 
 

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2019-10-15 | Posted in 週刊READING LIFE vol.53

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