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週刊READING LIFE vol.60

先生からのアノネ《週刊READING LIFE Vol.60 2020年からの「子育て」論》


記事:黒崎良英(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「子育て」とくれば避けて通れないのが「教育」の問題です。
とても近い関係にありますが、同義ではありません。
イメージとしては、「教育」は学校で行うもの、「子育て」は家庭で行うもの、といったところでしょうか。
 
私は10年ほど、教育現場で働いてきました。
様々な種別の学校へも行きましたし、そこで様々な生徒とその家庭を見てきました。
同義ではないものの分野から語るのはおこがましいものがありますが、それでも「教育」の側から、「子育て」に対して話せることがあるかと思います。
今回は、そういった視点の提供をしたいと考えています。
 
さて、「教育」というと、皆さん気になるのが「受験」ではないでしょうか? 特に大学受験を取り巻く環境は、ここ数年大きく変わってきています。大学側もそれぞれの特徴を打ち出し、日本社会はもとより、世界で通用する人材を育てようと、必死になって考えを巡らせています。
教育機関のある意味トップである大学が変わろうとすれば、そこまでの高校・中学・小学校にも、自然と変化が起きてきます。もちろん、大学が変化したから、という単純な理由だけではなく、教育を取り巻く様々な環境、ひいては社会の変化によるものでもあります。
とにかく、受験はもとより学校や教育というものは、保護者である皆さんが経験した時のそれとは、大きく異なっているわけです。
 
ですから、こんな話から切り出しておいて何なのですが、お子さんの教育を考える皆さんには、「受験が最終的かつ唯一の目標ではない」ということを、ぜひ覚えていただきたいと思います。
 
これは受験戦争の弊害を指摘されていた1990年代からある程度は言われていたことです。ですから「そんなことは分かっている」とお叱りを受けそうですが、やはり、今一度心に留めておいていただきたいのです。
 
先ほど話した通り、私は様々な性格の学校へ行きました。中には特別支援学校だったり、いわゆる職業高校だったりもしました。
そこでの授業や活動、そして進路指導を体験しますと、やはり「道は一つではない」ということが身にしみて感じられました。
 
これはいわゆる普通校でも同じです。
大学へ行く生徒、専門学校へ行く生徒、そして就職する生徒など、その進路は様々なでありました。
高校生で就職というと、皆さんが抱くイメージはどのようなものでしょうか? 特に受験戦争時代を生き抜いてきた方々には、あまり良いイメージがないかもしれません。
加えて高校生の就職活動は、確かに厳しいものがあります。何せ、“枠”が圧倒的に少ないですから。
もっとも、その分学校側、すなわち先生方も一丸となって生徒を支えて行きます。入社試験の特訓をしたり、面接練習をしたりと、一生懸命に生徒を見ていきます。そのため、私が見ていた限りですが、就職率はかなり高いものがありました。
 
生徒の進路に上下はありません。子どもたちが頑張って目指すものがあるのならば、それはどんな道でも尊い決断だと思います。
どんな学校を、進路を選択するのか、というのもそうですが、選択肢が多数ある日々の中で、そのどれか一つを選んだことは、尊重していただきたいと思うのです。
 
ただ、そう言いながら一方では、全ての選択を自由にする、ということも問題があると思うのです。
選択肢が複数あることは実は大変幸福なことでもあります。
進路で言うならば、資金の問題から進学を断念しなければならない人もいるかもしれません。また、家業というものも影響してくるかもしれません。
 
時代や地域によっては、そういうことが顕著であり、また、当たり前だったこともありました。その状況に置かれてきた方の中には、自分の子どもにはなるべく本人の望む道を選ばせたい、と思う方も多いかと思います。
それは子ども本人にとっても、また我々教員にとっても望ましいことであることは確かなのですが、一つだけ、もはやわがままレベルかもしれませんが、お気に留めていただきたいことがあります。
 
それは、「親がどんな望みを持っているか、子どもに“伝えて”ほしい」ということです。
子どもには子どもの道があります。しかし、それは裏を返せば、子どもの道が親である皆さんの道ではないということです。
子どもの望む道を許す皆さんは、子どもへの愛をよく注いでいただける方であると思いますし、それは学校側としてもとても安心できる家庭環境だと思うのです。ですが、穿った言い方で大変恐縮なのですが、親は子どもの奴隷ではありません。
 
三者懇談などで、進路について尋ねるとき、教員は、保護者の方にもご自身の希望を聞くことがあります。
そうしますと、「子どもが望む進路へ」と答える方が多くいらっしゃいます。
再三申し上げている通り、それは大変ありがたいことです。ですが、ぜひ、そこではご自身のお考えを述べていただきたいと思います。
つまり、日頃から、子どもの成長や選択について、何かしらの希望や考えを持っておいていただくと良いかと思うのです。
 
もちろん、生徒によっては、親の希望と異なる道に行くことに呵責を覚える子もいるかもしれません。また、それを見越してご自身の希望を押し付けるのはやめようと考えていらっしゃる方もいることでしょう。
もちろん、押し付けるのはなるべくやめていただきたい所です。ですが、それとご自身の考えを述べることは全くの別物です。
 
ぜひ、お子さんにご自身の意見を伝えてください。それが子どもの考えとピッタリ合っているならば、これほど幸せなことはないでしょう。
もし、それが異なっていて、優しい子どもがそれに葛藤しているようでしたら、そこは我々教員の出番です。それぞれの長所と短所を伝え、そして生徒の適性などを考え、アドバイスを行うことでしょう。
その結果、残念ながら皆さんの意に添わない決断を生徒がしたとしても、それはあくまで子ども本人がした決断ですので、親である皆さんには尊重していただきたいと思うのです。
 
ただ、子どものことを一番分かっているのは、保護者の皆さん、家族の皆さんであると思っていますし、そうであってほしいと思います。
その皆さんが、「この子はこういうことには向いてないのではないか」と思うことがあったならば、その通りなのかもしれません。
しかし先ほども申しました通り、生徒がした選択は、我々教員も尊重します。尊重しますが、もしかしたら皆さんと同じ考えを持っているかもしれません。生徒には悪いですが、本人が高望みをしている可能性もあります。努力して何とかなればいいのですが、それに足る努力ができない子どももいます。
そんな時、お互い悩みは多いかと思いますが、案外子どもは道を自ら見つけるものです。
何かに失敗してもいいと思います。そこから立ち上がることができるよう、先生たちは応援しているのですから。
 
ですので、臆することなく、ご自身の希望や考えや意見をお持ちになり、子どもに伝えていただきたいと思います。無責任な話ですが、そこで口論の一つでもできるのが、もしかしたらいい家庭なのかもしれません。お互いそれが許される関係だということなのですから。
 
さて、これらはあくまで私個人の考えによるもので、地域や学校、そして先生方個人個人で、考えは異なるかと思います。ですので、あくまでこういう考え方、見方もある、そしてこういう考え方をいる先生がいるんだな、という捉え方にでもしていただければ、と思っております。
 
そう、教育という概念や信念、そして方法には差があります。同じ時代であれば地域差の問題がよく取り上げられるかと思います。
そして、教育の機会が充実した都会とそうでない地方では、特に受験に差が出てしまうなどの問題、というか不安があるかと思います。
 
ただ、最近は受験に関してはインターネットを駆使した遠隔の教材、いわゆるeラーニンと呼ばれるものも普及しており、ある程度は解消しているかと思います。
私も比較的田舎の地域で教育を受け、また同じ地域で教壇に立っていますが、あまりそういった不公平感は感じられませんでした。
それより、「差」という観点については、地域差だけでなく、学校間の差というものが大きいのかと思います。
 
学校にはそれぞれ「学校目標」というものがあり、言うなればその学校の理念というものになっています。どのような生徒に育てたいか、あるいは学校がどのような教育をしていくかが、定められています。学校案内などのパンフレットやホームページには結構掲載されているかと思いますので、学校を選ぶ時には一つの参考にしてもいいかと思います。
 
ただ、中学校まではあまり「学校を選択する」という機会がないかもしれません。もちろん、受験は幼稚園の段階からありますが、特別そういったことを考えなければ、学区内の小中学校に行くのが自然、ということが多いかと思います。
ですから、あまり勉強の環境にこだわるのではなく、どんな教育を受けさせたいか、それを思い描き、学校側へ伝えていくのが良いかもしれません。
 
子どもは子ども達の世界で生きていきます。
その世界を素晴らしいものにできる環境と巡り会えることを、一教員として、私は皆さんに願ってやみません。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
黒崎良英(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

山梨県在住。大学にて国文学を専攻する傍ら、情報科の教員免許を取得。現在は故郷山梨の高校で、国語科と情報科を教えている。また、大学在学中、夏目漱石の孫である夏目房之介教授の、現代マンガ学講義を受け、オタクコンテンツの教育的利用を考えるようになる。ただし未だに効果的な授業になった試しが無い。デジタルとアナログの融合を図るデジタル好きなアナログ人間。趣味は広く浅くで多岐にわたる。


2019-12-02 | Posted in 週刊READING LIFE vol.60

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