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週刊READING LIFE vol.91

野良猫のシンフォニー《週刊READING LIFE Vol,91 愛想笑い》


記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「あれ?」
 
ある朝、バルコニーで洗濯物を干していた時のこと。
専用庭の向こうを横切ったものがあった。
わが家は、マンションの一階にあり、広めのバルコニーの先には小さいが専用庭がある。
芝生敷きの庭の向こう側には、マンション共用部の植え込みがある。
そこを何かが走り抜けたのだ。
その駆けて行くスピードは結構速かったが、庭木の濃い緑の中に、白地に黒や茶色のぶちの模様は、鮮やかに浮かび上がっていた。
 
野良猫だ。
 
正確には、野良なのか飼い猫なのかは私にはわからない。
近所に住むママ友の話では、最近は猫を家で飼いながらも、時々外に出てゆくことを許している飼い主もいるらしい。
 
野良猫には以前、痛い思いをしたことがある。
ある年のお正月。
確か、晩ご飯に蟹すきをした後の生ごみなど、年末年始に出た大量のゴミをバルコニーに置いていたのだ。
年始のゴミの収集日までには、自宅で保管しなくてはいけない規約だったからだ。
一時保管のゴミ袋は日に日に増えていった。
私はマンションの規約を正確に守ったのだが、ある朝起きてみると無残にもそのゴミ袋は荒らされていたのだ。
きっと、蟹の匂いは猫たちにとっても魅力的だったのだろう。
そのことがきっかけで、管理人さんからゴミ収集日以外にもゴミを出してもいいとの許可をもらった、
 
そんなこともあって、時々、野良猫の被害には遭ってきていた。
最近見かけるのは、二種類の猫だ。
その猫は、時々、専用庭の外側、マンションの植え込み部分を闊歩したいる。
茶色の模様がある三毛、そこに黒い色も混ざったぶち、確かそんな種類の丸々太った身体だ。
時には、わが家の庭に侵入し、トイレをしてゆくことだけには困っている
何か対策を立てないといけないかもしれないと思いながらも、その都度対処しているのが現状だ。
 
ある朝のこと、壮絶な鳴き声が聞こえてきた。
夜明け前、早朝に飛び起きるような突飛な声だった。
何事かと思い、バルコニー側の窓を開けると、マンションの植え込み部分に2匹の猫がいた。
同時に、隣の戸建ての2階の窓を開ける音が聞こえてきた。
きっと、同じように奇声にびっくりしたのだろう。
 
「ああ、これが盛りの頃ってことね」
 
猫の姿を見てやっとわかった。
私が窓を開けた瞬間、ぶちの方の猫と目が合った。
相手は、なかなかの度胸で、今日は逃げようともしない。
 
「ああ、そうか。今日は強気の日なんだね」
 
どれくらい見つめ合っただろうか。
私の方があきらめて、窓を閉めたのだ。
わが家の専用庭に居座っているわけでもなく、まあいいか、ということで。
 
私は、実家にいたときから犬を飼っていて、今もトイプードルの親子が家にいる。
いわゆる犬派だ。
犬はかわいい。
人間にかわいがってもらわないと、自分たちは生きてゆけないことを十分知っているのだ。
飼い主の顔色を見たり、時には寄り添って、愛くるしい表情を惜しげもなく注いでくる。
人間の側も、その存在にとても癒されるのだ。
 
よく、子どもたちが成長し、ごはんを食べると部屋にこもってしまうようになると嘆く友だちがいる。
ところが、犬を飼うようになってから、また家族がリビングに集い、会話も増えたという話をよく聞く。
そんな大きな存在感や役割を示してくれるのが犬だと思う。
 
私にとって、猫の印象はマンションの植え込みを走り、庭をトイレ替わりに使う困った存在だった。
それに、早朝から住人を起こすほどの奇声を発する困りものだった。
 
ところが、盛りのその日、私がしびれを切らして窓を閉めたのだが、その後、カーテンを開けてもう一度同じ場所を見てみたのだ。
すると、まだ同じ場所にその猫たちはいたのだ。
 
野良猫に関して、昨今様々な問題もあると聞いている。
むやみにえさをやり異常に増え続け、その被害は尋常でなくなったケースもよく耳にする。
そうなると殺処分なども実行せざるを得なくなるようだが、それに対する反対運動があることも知っている。
なんとも難しい問題だと思う。
その立場にたたなくては、本質も答えもわからないと思う。
 
私は、絶対的に犬派だ。
犬の可愛さはとてもよくわかっている。
猫の、どちらかというとツンデレな性格は正直苦手でもある。
飼ったこともないので、あまりうまく表現はできないが。
 
それでも、野良猫といえども命ある存在。
この地球上で一生懸命生きている、自分と同じ存在だと思う。
ただ、人間に生まれたのか、猫に生まれたのか、そんな違いがあるだけだと思っている。
もちろん、そのことによって、その人生、猫生(という言葉はないだろうけれど)が違うだけなのだ。
 
なので、庭のトイレ問題は困ったものだが、今くらいの頻度ならば、自分ができる方法で対処すればいいとも思っている。
何が何でも野良猫退治、とまでも思っていないのだ。
そんな思いを持っていると、夜明け前の奇声も、なんだか一生懸命生きている猫の姿に感動すら覚える。
 
「君もちゃんと生きている存在なんだよね」
 
そんな言葉をかけてやりたくなる。
そんな思いを持っている私のことを、庭先の野良猫たちは知っているのだろうか?
二度目にバルコニーの窓のカーテンを開いたとき、目を合わせたぶちの猫がうっすらと笑っているように見えたのだ。
いつも走り去るときのあの攻撃的な表情とは明らかにちがっていた。
いや、それとも盛りの頃の、独特の表情だったのか?
真相はいつまでたってもわからないが、でも確かにあの時の目は、私に対して愛想笑いをしているような、そんな柔らかい表情に見えた。
 
「いつも、ごめんね」
 
そんなことを言いたかったのだろうか。
この答えは一生わからないけれど。
 
「いいよ、ときどきならばどうぞいらっしゃいな」
 
同じ時間、この地球上で頑張って生きている者どうしだもんね。
 
お互いに上手く折り合いのつく生き方は、シンフォニーのようにお互いの人生に共鳴すると思うよ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

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2020-08-10 | Posted in 週刊READING LIFE vol.91

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