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週刊READING LIFE vol,101

今でも続いている長事件《週刊READING LIFE vol,101 子ども時代の大事件》


記事:山田THX将治(天狼院ライターズ倶楽部 READING LIFE公認ライター)
 
 
私は、結婚して既に35年も経つが、一度たりとも‘血縁者’たる子供が居たことが無い。多分。
これは、結婚する時の約束の一つに“生涯、子供をも設けることは無い”と在ったので、間違いない。この約束に関しては、カミさんも快諾してくれ、後には、私にその考えが間違っていなかったと認めてくれたので、多分間違った選択では無かったことだろう。
 
結婚して何年も子供が生まれないと、周囲が不審がりその上うるさくなる。私には、
『大きなお世話』だし『放っておいてくれ』
な、御意見だった。心の奥底で私は、
『御意見無用』
と、叫んでいた。
 
私は逆に、結婚したら子供を育てることが当然との考え方に、簡単に同意することが出来なかった。
昨今、日本では少子化を憂いて様々な意見が飛び交っている。私から見ると、そのどれもが賛否を別にしても、独善的に感じられてならない。
何故なら、その意見のどれもが、男女が一つ屋根の下で暮らせば子供が生まれるものとする、高圧的で凝り固まった考え方には、反発が先に出てしまうからだ。
それは、人生観や死生観に直結する事柄だと、私には思えてならないからだ。他人(ひと)に強制されたくは無いし、強要される覚えもない。
 
そもそも、子育て云々(うんぬん)の前に、自分と同じ主権を有することとなる一個体を、“当然の流れ”とでも言いたげに何も考えずにこの社会に送り出す事は、私にはとても危険に思えてないのだ。
私の様に異端なDNAを後々の世に残すことが、世の中の役に立つとは思えないのだ。それに、DNAを受け取った側も、私に対し反発や恨みこそすれ、感謝する事など考えられないからだ。
 
これは多分、私自身が、実の親との関わりで、ずっと悩み続けているからだろう。
 
私は、物心ついた時から、親に対して殆ど本音を出したことが無い。
幼い頃から関係が拗(こじ)れてしまい、意見と利害が一致した事などないからだ。ただ私は決して、親を一方的に責めるつもりはない。
かといって、私に全責任があるとは思っていない。
単に、両親と私の折り合いが悪かっただけだ。こう、今では考えることにしている。
 
物心付いた時から、絶え間ない言い争いが続けば、標準的家庭を持とう等と考えなくなるのは私だけでは有るまい。
 
両親が思う様に、東京大学へ行く程学力優秀ではなく、同級生の原辰徳(現・読売巨人軍監督)の様にスポーツが出来る訳でもなく、勿論、映画俳優の様に男前な外見でもなく、旧陸軍士官学校を卒業し連帯旗手を務めた大叔父みたいに堂々たる長身(185cm)にまで背が伸びず、親だけでなく学校の先生を始め大人という大人に突っかかっていく面倒な性格の私は、両親にとってさぞかし厄介な存在だったろう。
ただ、少しだけでも大人として頭を使って頂きたかったと感じるのは、そんな、どうしようもない子供の頃の私に対し、頭ごなしに否定するのではなく、もう少し諭す様に指導して頂きたかったということだ。
否定ばかりでは、反発を招くことは有れ、同意し向上心を煽(あお)ることは出来無い。これは、私が大人になってから考えたのではない。子供の頃、両親と言い争っている最中に、頭をよぎった考察だ。
 
こう書くと、多くの方が、
「そんなバカな」
と、仰ることだろう。ところが、現実はバカな話では起こらない。
例えば、私には両親から叱られ文句言われた記憶は残っていても、褒められた記憶はただの一つも残っていない。もしかしたら、物心付く前なら、例えば、立ったとか言葉を発したとかで褒められていたのかも知れない。しかし、記憶が残っている範囲内では、本当にただの一度も何事でも褒められた覚えはないのだ。
 
子供の頃の私は、特に勉強しなくても学校の授業には苦も無く理解することが出来た。当然テストは、10分位で全て100点を叩き出せた。テストがある主要教科は、オール5だった。
それでも、両親は私を褒める様なことは無かった。
何故なら、テストの無い図工の授業では、通知表に5が付かなかったからだ。現在でもそうだが、私は全く絵を上手に書くことが出来ない。従って、図工で5が取れないといって、親からはひどくなじられた。
東京大学へ進学するのに有利といわれていた、国立中学の入試には、音楽や図工の試験も実施されていたからだ。
 
こうして子供だった私は、小学校入学早々には心を閉ざし、一切の本音を親に示すことは無くなった。当然、何か欲しいと思った物でも、全くねだることをしなかった。後々、親から恩着せがましく言われるのが精々だったし、そう言われるのが嫌だったからだ。
唯一の我儘と言えば、公立校より学費が掛かる私学に、中学の時から行かせてもらっただけだ。それだって、進学が決まった途端に、
「通学時間が無駄だ」
と、訳の分からないことを言われ、私は正直、死にたくなったものだった。
 
こうして、連日何かに付けて言い争い続けた結果、私は両親に対し心を閉ざすだけではなく、全く感情を動かさなくなった。
その方が楽だったし、面倒も無かった。
その頃から私は、自分には戸籍上の血縁者は居ても、情は繋がって居なのだと悟った。例えば、父親に対し感情を動かさなくなった私は、12年前の父の葬儀の際、悲しさも寂しさもわかなかった。無感情のまま行った喪主の挨拶は、冷静そのものの状態だったので、自分でも見事と思える出来だった。勿論、内容は無感情な作りものだ。
 
こんな、実の親との関係を築くことが出来なかった私は、子供を育てること等、無理な相談と思った。その結果として、結婚しても子供を持つことは無いと決めていた。
その反対に、親への反抗心からか、血縁は無くとも情を繋げている存在は居る。
その子等には、私が持っているもの全てを残していこうと思っている。勿論、見返りなどは要らない。情を繋いでもらっただけで十分だ。
 
その他、結婚した当初から、海外の新興国の児童、それも、戦乱等で貧困に窮している子供に対し、毎月一定額の寄付を行うプランに参加している。現在までに、マリ・バングラデシュ・中国(ウイグル族)・ボリビア・ルワンダ等の児童が、私が参加したプランで、就学することが出来た。
子育てをしなかった私の、社会へのせめてもの償いのつもりだ。
ただ、このことだって親には話したことが無い。もし知られたら、
「そんな、無駄なことを」
と、責められるのがオチだ。
自分だって十分に年を取ったので、これ以上の摩擦に何の効もが無いことは、十分過ぎる程理解しているのだから。
 
私が子供の頃起こした大事件。それは現在も続いている、親に対して心を閉ざしていることだ。多分、この先永遠に続くことだろう。
 
但し、この負の連鎖は、もう直ぐ必ず止まる。
何故なら、私には血縁の子供が居ないので、負の連鎖は起こっていないからだ。
 
私はこの結果を、後悔せずに生涯を全う出来るだろう。
残るは、親が建てた墓に入らず、散骨を誰かに頼むだけだ。
 
情が繋がった者なら、誰でも快く引き受けてくれることだろう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山田THX将治( 山田 将治 (Shoji Thx Yamada))

天狼院ライターズ倶楽部所属 READING LIFE公認ライター
1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数15,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子 『映画感想芸人』を名乗る
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
現在、Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックを伝えて好評を頂いている『2020に伝えたい1964』を連載中
加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する

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2020-10-26 | Posted in 週刊READING LIFE vol,101

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