週刊READING LIFE vol,102

勉強しようと思ったら、アンパンマンを目指して、まずパンチしてみよう《週刊READING LIFE vol,102 大人の「勉強論」》


記事:長尾創真(Reading life編集部ライターズ倶楽部)
 
 
机に付いて、僕は頭を抱えていた。
 
あぁ、なんだ、やってみようと思ったのに、勉強し始めたら全然面白くないじゃんか。なんだよ。「猿でも分かる」って書いてあるのに、おれは猿以下ってか。くそぅ。なんなんだ。もう嫌だ。なんかもう、作者のこともキライになってきたし、自分のこともキライになりそうだ。
くそぅ。勉強できねぇ。
 
高校を卒業してから、僕は勉強ができなくなっていた。
何かを勉強しようと思って、本を買っても、数ページ読むだけで眠たくなる。でも、勉強しようと思ったんだからと頑張って次の日も開こうとするけど、ちょっとだけ読んで嫌になってくる。そもそも、専門用語が多すぎる。「STU」「CJM」「KPI」知らない単語ばかりが並んでいる。自分の仕事の領域だから、マーケティングを勉強しようと思ったけど、頭に入ってこない。なんでカタカナばっかり使うんだよ!ひらがなで話せよ。日本人なんだから!とか思って、放棄したくなる。
 
でも、会社に行くと、どうしてもマーケティング用語が出てくる。社内の会議だとまだ質問ができるから良い。商談に行った時、先輩とクライアントが喋っているときなんて、もうわけわからない。話すスピードは速いし、専門用語ばんばん出てくるし、議事録は取らなきゃいけないし。でも、話してる単語がわからないから、書く手は止まっちゃう。だから、勉強しなきゃいけないことはわかってる。
でも、家に帰ってマーケティングの本を開くと、もうどうしようもなく眠たくなってしまう。仕事の疲れもあるだろうけど、それだけじゃない。つまらない。本を読んでも、文字は追えるけど、内容が入ってこない。ジェットコースターのように猛スピードで文字が目から入って、そのまま一瞬頭を通って、どこかに飛び出していく。僕の頭にかつてあった知識のダムはもう決壊したのだろうか。
あぁ、かつての自分、戻ってきてよ。
 
そう、かつての自分は少し賢かったのだ。
少なくとも、山口の片田舎の中では。
 
高校生の時、国立大学を目指して受験をした。勉強を始めた最初の理由は、高校1年生のときに付き合い始めた彼女に格好悪い姿を見せられないからだったと思う。あと付けで、「サッカー部の先輩が大学合格と全国大会出場をどちらも成し遂げたことに憧れたから、目指し始めた」と言っていたけど、そんなのは、フィクションだ。ただ、モテたかったんだ。それで、勉強を始めた。サッカー部の練習は16時から19時まであった。その後に課外授業という特別授業があった。1年生のときからその授業にも出て、家に帰ってからも数学の復習は欠かさずしていた。数学の先生の、通称「はっしー」が怖かったのが勉強した理由かもしれない。授業で寝てたら、鬼の形相で、チョークを投げてくる。これ、まじ。いつの時代だよ。と思いながら、成績は良くなるから、僕はそれを受け入れていた。その調子で勉強をすると、どんどん成績が上がっていった。僕の成績はうなぎのぼりだった。最初は、320人中150番くらいの順位だったのが、3年には学年で3位の成績になった。ものすごく点数が取れた。もうテストが楽しかった。勉強すれば、確実に結果が出て、みんなから認めてもらえる感覚。とても嬉しかった。サッカーも3年の最後11月まで続けて、引退したあとは勉強詰めの毎日だった。休日でも学校に行き、一日12時間勉強して、家に帰る。その繰り返しをしていた。おかげで、九州大学にも合格することができた。ひたすらに、勉強をしていた。僕の知識のダムはものすごく高い強固なものになっていた。と、思っていた。
 
大学に入り、授業を受けた。どうしようもなく、ハリがなかった。前期を終えて、ある程度どのくらい頑張れば単位がもらえるか分かる。だから、そこからはある程度勉強して、単位を取ることが目標になった。「今度、ノート見せて!」と友達に言って、授業はサボる。部活三昧の日々になった。それでもいくつかの単位を落としながらでも、進級できるだけの単位は取れて、勉強に関してはものすごくぼんやりとした大学生活を送っていた。そのころから、僕のダムが至るところで窓が開きだし、水がじょぼじょぼと溢れ出した。もう、大学2年生の時には連立方程式の解の公式は思い出せなくなっていたし、あれほど暗記していた古文の活用形は一つも言えなくなった。
他の要因もあるけど、僕は卒業できずに留年した。大学3年のころからボロボロと単位を落とすようになり、単位を取ったとしても、次の授業は知識がないからついていけない。周りの友達は単位を取っているのに、僕は取れなくなった。もう、そうなってくるとどんどん楽しくなくなってくる。
 
もー、嫌!
 
と思って、勉強することを放棄した。おかげで、留年してしまった。
 
社会人になってからも、僕の知識は高まらない。ダムは決壊してる。工事されることはない。大量の情報を入れようとすると、どんどん漏れ出す。ああー、もう嫌だ。面白くない。なんでこんなことやってんだよー。となる。
 
でも、冒頭に言ったとおり、わからないままだと、仕事がなにもできない。言葉がわからないと先輩と話すことができない。先輩が言ってる言葉を認識することはできても、理解することができない。もはや、耳に入ってもこない。
 
なんとか勉強しなくちゃいけない。でも、どうしようもなく勉強できない。
 
じゃあ、どうしようと思っていたときに、僕はYoutubeを見た。「見た」とか、まるで意識的に見たように言ってるけど、そんなことはない。仕事から帰って疲れたなーと思って、もうスーツのままで布団に横になって、youtube見ていた時。中田敦彦のyoutube大学の、サブチャンネル。そこで、あっちゃんが話していた。
 
毎日更新をして、ものすごくハイペースで質の高い動画を配信してる、あっちゃん。そのあっちゃんが、「勉強の仕方」を話してくれると言っていた。「お」と思って、そのままゴロゴロしながら、動画を見た。そこで言っていたことが僕の勉強の仕方を変えてくれた。それを知ってからは、勉強できるようになっていった。ものすごくぐんぐん知識が入ってくるかというとそうじゃないけど、確実に知識が自分の血になっていく感覚があった。
 
あっちゃんありがとう。いつも、見てます。
 
そんで、そのときに言ってたことを、自分なりに解釈すると、こういうことだと思う。
 
「勉強しようと思ったら、アンパンマンを目指して、まずパンチしてみよう」
 
ごめんなさい、僕が解釈したらわかりにくくなりました。
説明すると。あっちゃんが大切だと言っていたことは、大きく2つ。
 
1つが、自分がしたいと思うことをすること(アンパンマンになりたい!)
2つが、簡単にできるものからすること。(まずパンチ打ってみる!)
 
自分がやりたいと思っていないものはどうしても気が乗らない。僕は、大学のときの勉強はどうしてもやりたいと思えなかった。どうしても面白くなくて目標もなかったから、なんとなくで勉強していた。高校の時は、不純な動機ではあるものの、目指すものがあった。モテたかった!
自分がしたいと思えてないものを勉強することはとても苦しいこと。まさに「勉めて強いる」勉強になってしまう。それは、なんだかつまらない。苦しい感じがする。いくら「がんばらんなきゃ!」と思っても、体は正直。眠たくなってしまう。だから、まずは自分がやりたいなーとなんとなく心の惹かれるものから初めてみる。マーケティングが興味が湧かないなら、他の似た分野からでいい。僕はコピーライティングが少し興味があったから、そこから入ってみた。自分の興味あることからだと、面白いと思うことが増えた。
子どものころ、アンパンマンを真似することを勉強とは思わなかった。アンパンマンのオープニング曲を覚えるのに勉強だとは思わなかった。なんとなく楽しかったからやってみた。そしたら、知らんけどなんかよく歌えるようになった。みたいな感じだったと思う。その頃にいきなり、人生の勉強だ!と「ドラッガーの本」を見せられても、もう嫌で嫌で仕方なかったと思う。ま、そんな感じで自分の好きなことに紐付けて勉強するといいらしい。
 
それに加えて、あっちゃんはこうも言っていた。「簡単にできるものからすること」。あっちゃんは、知らない分野に飛び込むとき、結構「漫画で分かる!」みたいなのから始めるらしい。これは、目からウロコだった。あっちゃんともなれば、難しい専門書とか、マーケティングの本とかを読んでそう。勝手なイメージがあった。だって、パーフェクトヒューマンだもん。でも、彼も、「漫画で分かる!」から始めるらしい。これは、かなり僕に安心感を与えてくれた。それまで僕は、文字ばかりのものを読んでいた。漫画だと内容が薄くなってしまうような気がして、「ちゃんとしなきゃ」という思いが出てきて、ちょっと格好つけて難しいものを呼んでいた。「初心者向け」ってやつを買うんだけどね。でも、「初心者向け」も意外とむずかしいやつは多くて。「猿でも分かる!」って書いてても、難しい言葉出てきて、猿のように本を投げ捨てることもあった。でも、漫画で良いって言われて、少し気が楽になった。
勉強が続かないことよりも、ちょっとずつでも続けられることのほうが大切。漫画は読みやすくて、感情移入しやすいから最初に読むにはとても良いらしい。だから、もう、まずは、パンチ打ってみろってことよね。アンパンチ出したいからって、最初から空飛んで腕ぐるぐるして、相手にクリーンヒットさせるなんてできないと思うんだ。まずは、一発地上でパンチを繰り出してみて、「あ、おれパンチできるんだ」から初めてもいい。そこから少しずつ強くなっていけばいい。それだけだと思う。
 
だから、もう、難しいことばかり考えて、何も進まないくらいなら
「勉強しようと思ったら、アンパンマンを目指して、まずパンチしてみよう」
 
それで、ちょっとでも前より、進めばいい。全く何もしないよりよっぽどいい。
やりたいことを見つけて、簡単にやってみる。
 
高校の時は、レールに乗れてた。先生が少し前ににんじんをぶら下げてくれて、僕はそれを一生懸命追って、時々食べさせてもらって、必死に必死に走ってた。とっても楽しかった。だけど、これからは、自分でやりたいことや好きなものを見つけていく必要がある。
自分の人生だから、どうせならやりたいことをやったほうがいい。
会社の中でも、外でも、自分がやりたいことを少しでも見つけ出して、やらなきゃいけないことに紐付ける。そうすれば、きっと、少しずつできることが増えていく。そうすれば、楽しくなって、専門的な言葉も入ってくるようになると思う。
 
無理せず、格好つけず。等身大の自分で、できることを少しずつ増やしていく。
そうすれば、きっと、知識が入る大きな大きなダムが出来上がっていくと思う。
 
そう信じて、今日も僕は、漫画で知識を増やす。
見ててね、アンパンマン。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
長尾創真(READING LIFE 編集部ライターズ倶楽部)

山口から上京し、ブランディングコンサル一年目。現在休職中。

高校までサッカー部。大学でヨット部。
ヨット部では4年時に主将として、全国5位入賞。
部活生ならではの熱い想いや、日常生活の葛藤を書くことが得意。

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2020-11-02 | Posted in 週刊READING LIFE vol,102

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