週刊READING LIFE vol,103

「大好きも大嫌いも推進力に変えて」《週刊READING LIFE vol,103 大好きと大嫌いの間》

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記事:雨辻ハル(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
日付が変わる5分くらい前、パソコンの画面を眺めていた私の目には涙が溢れてきていた。
 
その日はゼミの課題提出日だった。課題はテーマが決められており、それに沿った文章を執筆して提出しなければならない。テーマはどれも一筋縄ではいかない、ひねりを加えられたものばかりで、毎週歯を食いしばりながら執筆している。課題提出は強制されるわけではない、実際に出していない人も中にはいる、が私はどうしても毎回提出しなければならない理由があった。
 
私は天狼院書店のライティングゼミに通っている。
 
そのゼミに出会ったのは今年の3月くらいだった。京都へ旅行に行ったときのことだ。私は恋人と東山区にある「あじき路地」から歩いて京都の市街へと戻ろうとしていた。
 
「あ、こんなところに書店があるよ」
 
恋人が書店を見つけたようで、知らせてくれた。
 
「天狼院書店」
 
聞いたことがない書店だ。個人経営なのか、チェーン店なのか、京都にしかないご当地の書店なのか。この書店になぜか心が惹かれる。怖いもの見たさという言葉があるが、あれに似ているような感覚があった。得体の知れない書店だった。
 
敷居をまたいだらどこか違う世界が広がっているのではないか。そんなことを思いながら、私たちはその書店の敷居をまたいだ。
 
「ここは本当に書店なのだろうか?」
 
私の中の「書店」という概念が音を建てて崩れ去っていった。
 
書店は沢山の本が陳列されているというイメージしかなかった。この書店も、例えば蔦屋書店のように、本が一面に陳列されているものだと思っていた。
 
しかし、はじめに目に飛び込んできたのは、まるでカフェのような雰囲気だった。特にレジカウンターがカフェのそれだ。(店内を徘徊してようやくドリンク等も販売していることを知った。)そして店内の奥に広がる、こたつのようなスペース。若い男性たちが、足を入れて暖を取りながら談笑していた。こんな寒い日、実際その日はコートを着ていても寒かった、にはぴったりなスペースがあるなと羨ましそうに彼らの姿を見ていた。
 
すると頭上から大勢の人たちの声がすることに気がついた。声のする方を見てみると、カメラを手に携えた若者や大人が写真を撮っているではないか。モデルさんらしき綺麗な女性がカメラの先におり、みな各々のアングルからカメラを向けている。
 
今の書店ではこんなことをするのか、と感心していたとき、「ねぇ、こんなものがあるみたいだよ。今のあなたにぴったりじゃない?」と恋人が何かを発見したようで話しかけてきた。
 
恋人が指差す方に目を向けてみると「人生を変えるライティング教室 ライティング・ゼミ」と書かれている。私は将来、書く仕事がしたいと思っていた。そのために必要となる文章力をあげたいと強く思っていたのだ。これは私にとってぴったりではないかと思った。
 
「ライティング・ゼミに興味がございますか?」
 
若いショートカットの女性の店員さんが話しかけてくれた。どうやらこの書店では「ゼミ」というものを行っているようで、2階でやっている写真撮影会も、このゼミの1つのようだった。私が興味を持ったライティング・ゼミもそのうちの1つで、人気のあるゼミらしい。
 
このゼミと出会って私の人生は、ゼミの文句通り、変わっていくこととなる。
 
その日はゼミの説明を簡単にしていただき、詳細は後日メールで送ってもらうように頼んで、店を後にした。その後、家に変えるまでゼミのことで頭がいっぱいだった。翌日になってメールを確認すると、店員さんからメールが届いていた。参加の意思は固まっていたので、ざっと目を通し、ゼミへ参加する旨を伝えた。
 
ライティングゼミには課題提出というものがあり、毎週決められた文字数の記事を執筆して提出しなければならないというものだ。それがこのゼミのセールスポイントでもあった。
 
自分の記事を添削してもらいたいと思っていたので、「記事の掲載は0回でもいいから、毎回提出してやろう」という誓いを立てて、私はライティングゼミの門を叩いたのであった。
 
実際に毎週課題を提出することは大変で、仕事やプライベートの合間を縫って提出するようにしていた。締め切りギリギリになったことも何度もあったが、決めた誓いに従って毎回出していた。掲載になることはあまりなかったが、実際に読んでフィードバックをいただけたことのありがたさを実感した。自分ではこれくらいでいいだろうと思っていたことも、違う人からしたら意味が通じていなかったりする。違う人の目線で文章を添削していただけることがは、まだ書き始めたばかりの私にとっては願ってもないことだった。添削でいただいたコメントが私の血となり肉となっていく。
 
しかし、今回はじめて締切に間に合わなかった。その事実が私の中の負の感情を吐露させた。不甲斐なさ、自身への怒り、才能がないことへの絶望など、様々な感情がぐちゃぐちゃになって、涙となって表に現れた。どうして上手く書けないのだろう。どうやったら面白くかけるのだろう。周りの人たちは、自分が伝えたいことを読者に伝えることができているのに、どうして私は伝えることができないんだ。涙とともに悔しさ溢れてくる。ライティングが大嫌いになりそうなほど悔しかった。
 
ライティングを続けていく中で、私はライティングは波みたいなものだと思うようになった。波が寄せて引くように、私の中で、今回のようにライティングが大嫌いになるときもあれば、大好きになるときもある。
 
以前、「.doto」という北海道にある道東地域、オホーツク・釧路・十勝の3つからなる地域、のアンオフィシャルブックの記事を書いた。
 
これがオンオフィシャルなの? どう考えてもオフィシャルのガイドブックでしょ、と思うような濃い内容のものでとても面白かった。この興奮をどうしてもブログで書きたかった。この私のワクワクとドキドキを他の人にも知ってもらいたかった。
 
無理を承知でその雑誌の製作者さんにブログ執筆の許可を頂くことにした。早速Twitterのダイレクトメッセージで、執筆させていただきたいと連絡をした。メッセージを送ってすぐ、「ぜひ書いてください!」との返信が返ってきた。その返事を受けて私はすぐ記事の執筆に取り掛かった。雑誌を読んだ感想、思ったこと、実際に道東地域に足を運びたくなったことなど、私がその雑誌を通して感じたものを全て文章へ載せた。
 
勢いに任せて書いた記事だったので、改めて読み返すととてもひどい内容だったが、それでもこの思いを伝えたい一心だった。記事ができたことをリンクとともに、製作者さんへ送った。記事の内容は人に見せられるものではなかったと思う。読んで下手くそだなと思われるかも知れない。書き切ったあとの充実感と、満足させられないかもしれないという不安が入り混じっていた。しかし、その不安は返ってきたメッセージの内容によって吹き飛んだ。
 
「ありがとうございます! 私たちの会議の内容を全部聞いていましたか? というくらいすごい考察なので、いただく感想が鳥肌ものでした。ぜひ、道東に遊びに来てくださいね!」
 
「素敵なブログを書いてくださり、ありがとうございました! 私たちも地元との付き合い方に日々悩みながら活動していますので、感じていただけたことがあったようで、とても嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします!」
 
メンバー方からこのような感想をいただけるとは思ってもいなかったので私はとても喜んだ。何も取り柄のない私が書いた文章でも、誰かの感情を動かすことができるのだ。ライティングを続けてきてよかったと思った瞬間だった。それから私はライティングの沼にハマっていった。自分が書いた文章で人の心を動かすことの楽しさに気づいてしまったのだ。講師の先生が「書くことは楽しい」と言っていた理由が少しだけ分かったような気がした。面白いに決まっているじゃないか。
 
しかし、少し立つと波が引いたようにライティングが牙をむいてくる。今まであれだけ楽しくて好きだったライティングが、突如大きな重荷として私の肩にのしかかってくる。思うように文章が書けなくなってしまうのだ。一文消しては、書いて消しての繰り返し。好きだったときは書いても書いても出てくるはずの言葉たちがどうしても生まれない。やっと生まれたと思っても、納得がいかない言葉だったりする。周りには文章化できるものがたくさんあるのに、いざ文章にしようと思うとそれができない。大好きから大嫌いになる瞬間は必ず訪れる。
 
私はライティングをずっと好きでいることは難しいと思っている。大好きな人でもずっと好きでいられるわけではないことと同じだ。でもそれでいいと思っている。好きなものに向かって突っ走っていくことは大切だ。しかし、嫌いになったときにどのように脱却するかを悩むことも大切だと思う。また、ライティングが嫌いなときに書いた文章が、読者に受け入れられたりすると、好きな時に感じる以上に嬉しかったりする。70だったものが100になるか、0だったものが100になるかくらいの違いがあると思う。人間常に上がり調子でやっていくことは不可能だ。どこかで下がり調子になるときがくる。下がっているときは悩みっぱなしだが、あるときに一気に上昇に転ずる。その瞬間が面白くてたまらない。
 
誰かに言われたからでもない、強制されているわけでもない。
 
落ち込んでいたときに救ってくれた、バンドマンのように、私も自分が発した言葉で誰かのことを救えるようになりたい。私の文章を読んだ人の人生を変えられるようになりたい。そう思ってライティングをはじめた。
私は文章が書くことが下手だ。毎回思うように書くことができず頭を抱えている。他の人が書いた文章と自分が書いた文章を見比べて落ち込むこともある。ライティングは好きというよりも、嫌いになっている時間のほうが多いと思う。しかし、たった1回の私が書いた文章が誰かの心を動かしたという事実が、私をライティングの沼に引き入れてしまった。この沼から出てくるつもりはもうない。私はこの道で生きていく。
 
天狼院書店のライティング・ゼミは「人生を変える」という枕詞だが、人生を変えるのは自分自身だけではない。あなたの文章を読んだ人の人生をも変えることができる。
 
これから誰の人生を変えることが出来るのだろうか。
 
そのことを考えただけでワクワクしてきませんか??
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
雨辻ハル(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

愛知県知多半島出身。
学生時代からローカルや移住に興味を持ち、地元のために何かやりたいと考えていた。天狼院書店のライティング・ゼミを受講したことがきっかけで、20年以上住んでいる知多半島の魅力を記事にして発信したいと思うようになり、現在は「知多半島の魅力を知多半島民に伝える」をテーマにしたブログを執筆している。信仰、宗教、民俗学の視点から知多半島を切り取った記事も書いていきたいと考えている。

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2020-11-10 | Posted in 週刊READING LIFE vol,103

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