週刊READING LIFE vol,111

自分のことが大嫌いだった私が自分を大好きになれた理由《週刊READING LIFE vol.111「世界で一番嫌いな人」》


2021/01/19/公開
記事:松本さおり(READIBGLIFE編集部ライターズ俱楽部)
 
 
「自分のことが大嫌い」
 
こんなふうに思っている人が、この世の中にはたくさんいる。
 
自分の姿を鏡で見るのがイヤ。
ショーウィンドウに映る自分を見て、目を逸らしてしまう。
 
こんなふうに感じている人も、実はすごく多い。
 
「自分の姿が嫌い。だから見ないようにする」
 
見ないようにすれば、自分を好きになれるのなら、そうしていてもいいのかもしれない。
でも、どんなに見ないようにしていても、その姿は他の人には丸見えだ。
自分だけが「知っているのに知らないふりをして、ごまかし続けている」だけだ。
 
知らないふりをしてごまかし続けるというのは、自己信頼をボトボト落としながら歩いているようなものだ。気づいたら、自分という存在がどんどん薄くなっていくことになる。
 
そんなことをしていたら、ますます自分が大嫌いになってしまうではないか!
 
 
数年前、私は自分の姿が大嫌いだった。
 
その時の私は、私の人生の中で最大の体重を記録していた。
 
太っていることを気にしている人たちは、揃いも揃って体重計に乗らない。
自分の体重を数字で直視させられるのが怖いのだ。
 
そうなると、呪いの言葉「ま、いっか!」が発動する。
この呪いが発動すると「制限なく食べる」も発動する。
 
飲み会に行って「痩せたいけど……。ま、いっか!」
ケーキを目の前にして「今日は自分にご褒美!だから食べてもいっか!」
そうやって「ま、いっか!」の呪いは、自分に深く浸透していくのだ。
 
自分に「ま、いっか」の呪いをかけていたのも私自身だ。
 
この呪いにかかっているときの私は、お腹周りは、浮き輪を付けているかのような脂肪に
覆われ、太ももの内側は、歩くたびに擦れて、夏場には汗で皮膚が赤くただれるほどだった。
 
体重計に乗って、その数字を見たときには「これはやばい!!」と思い、その瞬間だけは
「痩せよう」と決意する。
 
しかし、友達とカフェに行き、ケーキセットを目にしたとたん、その決意を忘れる。
目の前にお菓子があれば「一つくらいは大丈夫だよね」といちいち言い訳をして食べる。
 
痩せたい。でも食べたい。そんなことを繰り返していた。
 
ダイエットの決意は、冬場の池に張る薄い氷のようなものだ。
一見硬そうに見えるが、少しさわるだけパキっと割れる。日の当たるところでは、あっという間に溶けてなくなる。
 
そう。そんな表面だけの決意なんて、机上の空論だ。
「絶対、絶対、今回は本当に!」なんて口にしているときほど、その言葉は、ただ言っているだけの上滑りな浅い決意だ。
 
そして、目の前の誘惑にあっという間に乗る。
「ま、いっか!」の言葉に「明日からダイエットしよう~」と、うっすい氷をかぶせる。
 
そして、これが数回続くと、体重計が怖くなるのだ。
体重計で示される数字は、裁判所で悪事を大公開されるようなものだ。そして、その裁きを受けることから逃れるために「見ないことにする」を実行し始める。
 
こうして、自分を見ないことを良しとし、鏡に映る自分の姿を、白目を多めにしてはじっこで眺め、街のショーウィンドウに映る自分を、他人のように扱い始める。
 
大嫌いな自分の完成だ。
 
大嫌いな自分を認めたくなくて、目を逸らしていたのだが、あるときそんな自分を直視させられる出来事が起きた。
 
自分の後ろ姿の写真だ。
 
後ろから撮られた写真には、私のありのままの姿が映し出されていた。
お腹周りの浮き輪も目立ってはいたが、それよりも目を引いたのは、Tシャツにくっきり表れていた背中の段々畑だ。
 
数十年かけて育て上げた言い訳の数だけの厚みが、もう目を逸らせないレベルでそこに
存在感を露わにしていた。
 
「私の後ろ姿ってこんなことになっていたんだ!!」
 
ヤバい。ヤバすぎる……。
こんな姿を、私は人にさらしていたなんて!!
 
後ろ姿って自分では見えないのだ。
見えないからって、私の背中がないわけではない。ある。あるのだ。この背中の段々畑は!!
 
自分を客観的に見る機会を与えられたことは、
ショックでもあったが、今思えば、最高のターニングポイントだったと思う。
 
「絶対に、痩せよう」
 
そこから私は、本気モードになった。
 
最初に取り組んだのは五日間断食だ。ファスティングの指導をしてくれる人をお願いしてサポートしてもらった。
 
最初は五日間も固形物を食べないということができる気がしなかった。
家族は普通に食事をするのだ。主婦はこんなとき本当に困る。家族には食事を作りながら
自分だけ食べないということが本当にできるのか。
 
結論から言うと、全く問題なかった。
食べないと決めてしまえば、家族のために食事を作っても食べようとは思わない。
 
ここで「私は食べられないのに、何で家族の食事を作らなくちゃいけないの?」と思って
イライラする人もいるのだが、それは普段から「何で私が家族のためにやらなくてはいけないのか」と思っているからに過ぎない。
 
そう思う方は、家族のために自分が何かをするということが本当は嫌なのだと思う。
それを、何かを食べることでごまかし続けていたということになる。
「食べない」を実行すると、日常の中でごまかしてきた感情が浮き彫りになる。
それを知ることができたのも、断食で得ることが出来た効果だ。
 
 
五日間の断食の期間、お腹が空いたと思ったことは全くなかった。
もちろん、固形物を食べないというだけで、必要な最低限の栄養や水分は摂っている。
 
5日間、水分だけの生活をしてみて、私が得た一番の収穫は
「人間って、食べなくても死なないのだ」ということだった。
 
「食べないと死ぬ」多くの方はこう思っていると思う。
 
この思い込みがあるから「お腹が空いたら何か食べくちゃいけない」と思うのだ。
お腹がグーッとなると、もう自動的に、何かを口に入れなくてはいけない気持ちになる。
 
根本にあるのは、「食べないと死ぬ」という思い込みであって、その思い込みに合わせた
行動を無意識で行ってしまうのが人の常だ。
 
でも、よく考えてみたら、この現代社会は飽食の時代。
食べ過ぎてしまうことのほうが、実は命を縮めているともいえるのではないか。
 
私たちは、食べ過ぎている。
 
肥満も生活習慣病も、飽食の時代が生み出した病なのだ。
生きるために必要な食べ物の量は、実は少量でいいのだ。
 
このように、私の思い込みは「食べないと死ぬ」から「食べなくても死なない」に変化した。
 
これは、私にとっては最大の成果だった。
 
 
さて、こんなふうに、思ったよりもキツもなく体重は落ちていった。
 
体重が落ちていくと、あんなに恐怖だった体重計に乗ることが、楽しみになってくる。
脳の報酬プランが「食べること」から「食べないほうがメリットが多い」に書き変わっていく。こうなると、食べることに執着心がなくなっていく。
食べたいと思うものが、ケーキやドーナツのような甘いものではなく、野菜や果物になっていった。
 
身体は、どんどん見た目が変わっていった。
お風呂に入る前に、服を脱いだ自分の裸をマジマジと眺めるようにもなった。
 
お腹周りの浮き輪はみるみる縮んでいき、ウエストが形を見せ始めた。
子どもの頃から太かった足も、太ももと太ももの間に隙間ができていた。
靴のサイズも変わった。ベルトは、2つくらい内側の穴をおススメしてきた。
背中についた脂肪がブラジャーの上に乗らなくなり、段々畑はみるみる平地になってきた。
 
 
7キロくらい痩せると、見た目にも変化が出てくる。
人から「痩せたね」と声をかけられるようになってきた。
 
ここから、さらに9キロのダイエットをした。(それでも痩せすぎではなく、標準だ)
 
自分が行なった行動に対して、自分の身体が答えてくれる。
自分との信頼を取り戻した感覚だ。
 
このころになると、何を食べるのか、どれくらいの量を食べるのかを自分の身体と
話しながら決めるようになっていた。
 
 
自分のことを大嫌いだと思っているときは、自分と会話をしていないときなのだと思う。
 
自分と会話をしながら「食べる、食べない」を決めているときは、自分に寄り添い、
自分を励まし、自分を褒めている。
 
着る服も、ウエストを隠すような服は捨て、身体のラインが出る服を選ぶようになった。
自分を隠すような服を選ぶのか、自分を出すような服を選ぶのか、この選択の違いは自分の考え方を変化させていく。
 
性格的にも積極的になり、堂々と自分を表現するようになっていった。
こうして私は、自分自身を大好きになっていった。
 
ダイエットのやり方も「食べない」という断食ではなく、食べるものを変え、食べる量の
調整と、考え方の調整をしていく、という方法で、結果的には、15キロ~16キロのダイエットに成功した。(その日によって0.5~1キロくらいの幅があるので少し前後する)
 
そのまま二年、キープし続けている。
 
私自身がどんどん痩せていったので、たくさんの人に「どうやって痩せたの?」と聞かれるようになった。
 
その方法をやりたいと言ってくれる方も増えたので、プログラムを組んで教えるように
なっていった。
 
ダイエットを通じて、自分の姿を見たくないと言っていた方たちが、自分を鏡に映して見るようになっていく。体重計に乗るのを怖がっていた方たちが、毎日、体重計に乗るようになっていく。
 
自分の身体とお話ししながら食べるようになってくると、いろいろな気づきがやってきて、その気付きをシェアしてくださる方も増えてきた。
 
朝昼晩、三食食べなくちゃいけないということが「思い込み」だったのだ、と気づく方、
お腹が空いた~というのも、何となく言っていただけだったと気づく方、食べたいものに変化が出てきた方、野菜が大好きになった方。
 
心が穏やかになった、という方、健康診断で数値に変化が出た方、ウツの症状が改善した方、
たくさんのうれしい変化が表れ始めた。
 
米粉を使ったダイエットスイーツに目覚めて研究をしている方や、ヘルシースイーツを販売し始めた方もいる。自分の仕事にも変化が出たり、やりたいことに動き出したりする方が増えてきたのもうれしい成果だ。
 
食べ過ぎなくなると、ハラにスペースができ、そのスペースが「ひらめき」を呼び起こすようになる。仕事のアイデアが浮かんだり、やりたいこと、挑戦したいことに動き出したくなるのだ。
 
そして、体重が減ると共に、断捨離を始める方が本当に多くて、それも面白い変化だ。
 
部屋のものを捨てる、着なくなった洋服を捨てる、スマホの中の写真の整理、電話帳の整理、
そんなことを、なぜかしたくなる。
 
そして、実際の人間関係の整理をし始める方も多い。整理しようとしなくても、自然と不必要な人間関係から離れたり、今必要な人間関係に変化したり、ダイエットとは全く関係ないように思うかもしれないが、きっと潜在意識の中では、密接に関係しているのだと思わされることもたくさんあった。
 
 
ダイエットは、自分発見器だ。
 
ダイエットをすることで、自分の本当の想いに気づき、自分と仲良くなることができる。
自分のやりたくなかったことに気づき、やりたかったことに動き出す。
 
自分の人生を振り返り、これからの人生をどう生きていきたいのかを、本気で考える人たちが増えていく。
 
そんな軽やかな身体と、軽やかな思考を手に入れ、自由に自分を表現する人たちがどんどん増えていったら、自分のことを大嫌いだと思う人はいなくなり、自分を大好き! と心から言える人たちであふれていくだろう。
 
「自分のことが大嫌い」と思っている方。
大嫌いな自分と一生付き合っていくのはやっぱり自分なのだ。だったらこのあたりで
大嫌いを変えてみてもいいかもしれない。
 
ダイエット目的ではなくても、思考のデットクスをするという理由で、小食にしてみることをやってみるのもいい。
 
まずは自分と向き合い、自分と会話をし、自分の本当の気持ちを自分自身が分かってあげること。
 
自分を大好きになるために必要なことは、自分の気持ちを無視しないで聞くことから
始まる。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
松本さおり(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)

心理セラピスト ダイエットアドバイザー
心理学、ダイエットを通して自分を知り自分と仲良くなる方法を伝えている。言葉の使い方、言葉の持つ可能性を広げるためにライターズ俱楽部に入部。言葉の持つ力をもっと活用できる人を増やしていくのが目標。

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2021-01-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol,111

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