週刊READING LIFE vol.129

ビバ、宝塚!《週刊READING LIFE vol.129「人生で一番『生きててよかった』と思った瞬間」》


2021/05/24/公開
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
あれを、どのような言葉をもって表現したらいいだろうか。
まさに、生まれてはじめてのことだった。
身体の中に雷が落ちたような衝撃だった。
目から、耳から、そして身体全体にと、受けきれないほどのものを一度に受け取った、そんな体験だった。
 
あれは、高校に入ってからのこと。
小学生からずっと同じ学校で、中学、高校も同じ学校に通うようになった友だち。
中学、高校へは毎日一緒に登校していた友だちから、ある日、ふと言われたこと。
それは、彼女は家族でずっと昔から、宝塚歌劇を観に行っているというのだ。
 
あの有名な宝塚歌劇団は、実は私が生まれ育った街からほど近いところにあった。
そうなんだけれども、私にとってはご縁のない世界だった。
わが家ではそのような趣味を持つ者は誰もいなかったのだ。
子ども時代、やはり親から受ける影響でしか、得るものはないと思うのだ。
なので、友だちからその話を聞くと、とても新鮮で興味が湧いてきた。
 
「へえ~、あの宝塚歌劇、ずっと観てきてたんや」
 
そのきらびやかで、艶やかな舞台。
想像の世界に思い描くうちに、私も一度、観てみたいと思うようになったのだ。
ちょうど、高校生になった二人。
じゃあ、一緒に行こうか、ということになったのだ。
 
ああ、忘れもしない。
はじめての宝塚大劇場。
それは、まさに夢の世界へと誘ってくれるような場所だった。
ワクワク、ドキドキしながら、その初体験の日を迎えた私。
開演のベルが鳴り、緞帳が上がるとライトがパッと輝き、生演奏のオーケストラの迫力あるメロディーが突き刺さる。
そして、何とも、同じ人間とは思えないような、美しいタカラジェンヌたち。
一瞬にして、夢の世界、さっきまでいたところとは全く違う世界へと、吸い込まれていくようだった。
ジャーンと響く打楽器や繊細な弦楽器のメロディー。
それに乗せてタカラジェンヌが歌い、踊るその舞台は、本当にこの世のものとは思えないほどの美しさだった。
 
「なんだ、ここは」
 
「なんだ、これは」
 
もう、口が開いたまま、身動きも取れないくらいの衝撃の中、そのレヴューは繰り広げられていった。
2時間ほどの舞台を観終えた時、身体はガクガクとしてしまったようで、頭もボーっとしてしまい、なかなか現実の世界に戻ってゆけないほどだった。
 
16歳という年齢。
今思うと、一番、感受性の高い時期だったからかもしれないが、あの宝塚歌劇を初めて観た日のことは、何十年経った今でも忘れない。
いわゆる、エンターテインメントというものに、初めて触れた日だった。
いや、触れたどころではなかった。
グイグイと引き込まれた日だった。
良い意味で鳥肌が立ち、本当に元に戻るまでには時間がかかるほどだった。
 
「どうやった?」
 
観劇後、誘ってくれた友だちが私の様子を伺ってくれた。
 
「すごい、良かった!」
 
そう答えるのが精一杯だった。
 
「でしょ~、私もずっと好きやねん」
 
さあ、そこからだった。
私が宝塚歌劇に熱中してゆくのに、遮るものは何もなかった。
その友人と、お目当ての組の公演に何度も何度も通ったのだ。
 
当時、ちょうど有名な「ベルサイユのばら」という、少女漫画を題材にした舞台が大ヒットした後で、公演のチケットを取ることがだんだん難しくなってきていた頃だった。
それでも、母の知り合いのツテを頼ったり、始発電車に乗って当日券に並んだり。
立ち見の席でも喜んで観劇した。
もう、宝塚に夢中になっていった。
 
そして、夢の世界の人に、私もなりたい!
そんな思いが頭をよぎった。
宝塚歌劇団に入るには、まず、宝塚音楽学校に入学しなくてはいけない。
そこで、2年間バレエ、日舞、声楽、ピアノなどの勉強を重ねた上で、宝塚歌劇団に入団し、舞台人となってゆくのだ。
そして、当時はいわゆる「ベルばら」ブームの後だったため、その宝塚音楽学校に入るには、東大に入るよりも難しいと言われるような倍率に跳ね上がっていた。
そのうえ、ピアノや日舞、声楽やバレエなど、何のお稽古もしたこともない16歳の私には、到底無理だった。
 
それでも、私はそんな舞台人の真似事、宝塚の気分を味わいたくて、その友だちと一緒に家の近くにできたバレエ教室に通うようになったのだ。
それが、バレエとの出会い。
そこから、今に至るまで、私はバレエに触れることとなった。
短大生の頃、会社員の頃、そして結婚、出産の時期は遠のいていたものの、娘が初めてのお稽古としてバレエを選んでからは、ずっと続けている。
 
もちろん、16歳からのバレエのレッスンは、何者になれるものでもない。
ただ、優雅なバレエの踊りを体験し、その表現の美しさを身体に落とし込むこと、それから、意外にも「今」に集中できる心地よさが大好きだ。
集中しなければ、先生が次から次へと示してくれる振りを覚えることはできないのだ。
何か、悩み事があるときも、バレエのレッスンに行くと、集中してレッスンをすることで吹っ切れたものだ。
それまで、運動をこれと言ってしたことのない私が、身体を動かすことになり、姿勢が良くなり、筋力も多少はついてきた。
 
それから、さらに意外だったのは骨密度だ。
女性は、骨粗しょう症にかかりやすいのだが、私は毎回の健康診断で、看護士さんがびっくりするくらい、その数値が良いのだ。
そこで色々と話をしているとわかったのだが、バレエはバレエシューズをはいて、いわゆる背伸びのような姿勢で踊る。
トゥシューズをはいたときには、靴の中ではつま先立ちだ。
そのつま先立ちが、骨を刺激することで、それが骨粗しょう症の予防になると言われたのだ。
そうか、バレエのレッスンは私の骨も元気にしてくれていたようだ。
私の人生において、バレエはなくてはならないものとなっている。
別に、舞台人になれた訳でもないし、発表会でも大役をもらえたわけではない。
でも、バレエを続けることで、私の人生で起こる様々な悩みや苦しみを解消してくれるものとなっている。
さらには、私の健康維持のためにも助けてくれている。
 
16歳のあの日、エンターテインメントに触れることで、私の人生はこんなにも豊かなものになっていったわけだ。
感受性豊かな年代で、エンターテインメントに触れることで、大きなものを得ることとなったのだ。
 
そう、今でもあの日のことを思い出す。
広くて、大きな宝塚大劇場の舞台。
緞帳が上がって目に飛び込んできた艶やかな世界。
耳に響いたオーケストラの奏でる音。
心臓がバクバク打つような衝撃。
 
「ああ、生きていて本当に良かった」
 
そんなことを思った、16歳の一日だった。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

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2021-05-24 | Posted in 週刊READING LIFE vol.129

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