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宇宙一わかりやすい科学の教科書

ニュートンとアインシュタインの「重力をめぐる世紀のミステリー」《宇宙一わかりやすい科学の教科書》


 

記事:増田 明(READING LIFE公認ライター)

私達の住む、この地球。
地球は、太陽の周りを一年かけて一周回っています。地球以外にも、いくつか同じように太陽の周りを回っている星たちがいます。それらは「惑星」と呼ばれています。太陽から近い順に、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、と呼ばれています。

さて、惑星たちは、なぜ太陽の周りを回っているのでしょうか? それは、太陽が重力によって、惑星たちを引っ張っているからです。もし太陽の重力がある日突然なくなったら、惑星たちはバラバラに宇宙の彼方に飛んでいってしまうでしょう。
太陽が惑星を引っ張るこの力は、地球が地上の物を下に引っ張る力と同じものなのです。地球や太陽などの巨大な物体は、強い重力を発生させ、周りにあるものを引っ張ります。この力を「万有引力」と呼びます。

 

❏無敵の法則「万有引力の法則」


「万有引力」は、17世紀の天才科学者、アイザック・ニュートンが発見しました。「発見」というとちょっとおかしいですかね。もちろん、ニュートンが発見する以前から、人々は、地上の物全てが下に引っ張られている、ということはわかっていました。惑星が太陽の周りを回っている、ということもわかっていました。
しかし、どちらも同じ種類の力によっておきている、ということはわかっていなかったのです。「物が地面に落ちる」という、とても身近なことと、「惑星が太陽の周りを回る」というまったく別のスケールのできごとが、同じ力によるものだなんて、夢にも思っていなかったのです。

ニュートンは、「質量が大きな物体ほど強い重力をもつ、物体から距離が近いほど重力は強く、遠いほど弱い」ということを発見しました。それを「万有引力の法則」と呼ばれる数式で表現しました。この数式を使えば、あらゆる物体に働く重力を完璧に計算できるのです。

「万有引力の法則」はまさに無敵の法則でした。様々な自然現象が「万有引力の法則」の計算結果から、完璧に説明できました。地上の物が下に落ちる現象、月が地球を回る現象、地球が太陽を回る現象。他にも、重力とは一見関係なさそうに見える、海の潮の満ち引きが、実は月の重力によって引き起こされていることなど、多くの自然現象を完璧に説明することができたのです!

 

❏惑星の軌道計算


一方、天文学の世界では長い間、望遠鏡などを使って惑星の観測が行われてきました。それによって、惑星がどのような軌道で太陽の周りを回っているか、ほぼわかっていました。そこに「万有引力の法則」が登場したのです! 科学者達は、「万有引力の法則」を使えば、惑星の軌道が数学的に計算できるはずだ、と考えました。
惑星は、太陽の重力によって太陽の周りを回っています。そのため、惑星が受ける太陽の重力を正確に計算できれば、それを元に軌道が計算で導き出せるはずなのです。
多くの優秀な科学者達がそのテーマに取り組みました。そのテーマは「天体力学」と呼ばれる天文学の一分野となりました。

数学的に惑星軌道を計算することは、かなり骨の折れる仕事でした。しかし科学者達は根気よく取り組み、多くの惑星の軌道を、計算で導き出しました。そして、計算で求めた軌道と、実際の観測でわかっていた惑星の軌道を比べてみました。それらはことごとく、ピッタリと一致したのです!
科学者達はこの結果に熱狂しました。自分で望遠鏡を覗くことなく、机上で紙とペンで計算するだけで、天空に浮かぶ惑星の動きが正確にわかってしまうのです! まるで魔法のような、奇跡のような結果でした。「万有引力の法則」は、絶対的な真理として世の中に認められました。

 

❏異常事態発生


ところが19世紀になってから、その「万有引力の法則」が疑われるような、異常事態が発生したのです! それは「天王星」という惑星の軌道を数学的に計算した時でした。天王星は、ニュートンが「万有引力の法則」を発見してから、約100年後に新しく発見された惑星でした。天王星の軌道を計算した科学者は、もちろん実際の観測でわかっている軌道と、計算上の軌道が一致すると思っていました。天王星以外の惑星の軌道は、計算と観測結果が一致していましたし、「万有引力の法則」は絶対的な真理だと考えられていたからです。

しかしその結果は予想外のものでした。実際に観測した天王星の軌道と、計算結果は大きくずれていたのです! これは驚くべき事態でした。「万有引力の法則」が発見されてから100年以上、法則が間違っていたことは一度もなかったのです。科学者達は悩みました。ただの計算間違いだろうか? それとも、まさか「万有引力の法則」に誤りがあったのだろうか?
この異常事態に、当時、天体力学で数々の業績を上げ、天才と言われていた、天文学者ユルバン・ルヴェリエが立ち上がりました。ルヴェリエは数々の可能性を吟味し、考察に考察を重ねた末に、一つの結論に達しました。それは次のような驚くべき内容でした。

「ニュートンの万有引力の法則に間違いはない。そして計算にも間違いはない。残された可能性はただ一つ。天王星の近くに、まだ発見されていない未知の天体があるのだ。天王星は、その未知の天体の重力の影響を受けている。そのため、天王星の軌道が計算結果とずれているのだ」

ルヴェリエはその結論を発表しただけではありませんでした。
その天才的な頭脳で、どのくらいの大きさの天体が、どの位置にあるのかを、天王星の軌道のズレ具合から計算ではじき出したのです。そして計算結果から、夜空のどの位置をどの時間に観測すれば、その未知の天体が発見できるかを、正確に予言したのです。
その予言をもとに、熟練の天文学者が夜空を観測したところ、本当にルヴェリエの予想通りの位置に、予想通りの大きさの未知の天体が見つかったのです! その天体は今では「海王星」と呼ばれています。
こうして天王星軌道のズレという大きな謎が解かれたのでした。このあまりに鮮やかな謎解きに、科学者だけでなく一般の人々も驚き、熱狂し、ルヴェリエをたたえました。ルヴェリエは天才として世に名をとどろかせ、天文学者としての地位と名声を確固たるものにしたのです。

 

❏未知の惑星「バルカン」


「万有引力の法則」は間違っていなかった。これで全ての惑星の運動が計算結果と一致した。そう人々は思ったのですが、実はまだ一つ、小さな問題が残っていました。それは、太陽に一番近い惑星「水星」の軌道でした。この水星の軌道が、「万有引力の法則」の計算結果と、ごくわずかにズレていたのです。
ルヴェリエはこの問題に取り組みました。そして研究の末に、天王星の時と同じ結論に達します。

「水星と太陽の間に、まだ発見されていない未知の惑星がある。その惑星の重力の影響で、水星の軌道がわずかにズレているのだ」

絶対的な存在になっていた天才ルヴェリエの言葉に、世界中の天文学者が、未知の惑星を発見しようと観測をはじめました。発見される前から、その惑星は「バルカン」と名付けられました。
しかし観測は難航しました。水星と太陽の間にあるということは、とても太陽に近いということです。太陽に近いと、太陽の明るさのせいで、惑星があったとしてもほとんど見えないのです。それでも天文学者達は、未知の惑星バルカンの存在を信じ観測を続けました。

まれに「バルカンを発見した!」という連絡がルヴェリエに届くことがありました。しかしそのほとんどは、アマチュアの天文愛好家による報告でした。プロの天文学者が、その情報を元に観測すると、結局見つからないのでした。
「発見した!」「やっぱりなかった!」という同じやりとりが、その後何度も繰り返されました。
天文学者達は、「万有引力の法則」は絶対に正しい、天才ルヴェリエの計算も間違っているはずがない、そう信じて観測を続けましたが、バルカンは見つかりませんでした。そのうち数十年が経ち、ルヴェリエはバルカンの発見を待たずに、この世を去りました。

 

❏現れた若き天才


20世紀になり、観測技術はどんどん進歩していきました。宇宙の研究もどんどん進んでいきました。しかし、バルカンは発見されず、水星軌道の問題は、いっこうに解決されませんでした。この問題は、近代科学に突き刺さったトゲとして、いつまでも抜けることなく残り続けていました。

ルヴェリエがバルカンの存在を予言してから約50年、ある若き天才が科学界に現れました。その名は、アルバート・アインシュタイン。後に20世紀最高の天才と言われる物理学者です。アインシュタインは1905年に、「特殊相対性理論」という、それまでの科学の常識をくつがえす理論を発表し、一躍世界に名をとどろかせました。

そのアインシュタインが次に取り組んだのは、重力に関する理論でした。あのニュートンの「万有引力の法則」に変わる、新しい重力理論を作ろうとしたのです。
17世紀に発表されてから200年以上、絶対的な真理だった「万有引力の法則」。あらゆる現象を完璧に説明してきた理論。地上の物から宇宙の天体の運動まで、全てを解き明かしてきた究極の理論。水星軌道のわずかなズレという、小さな例外だけを除いて……。
「万有引力の法則」の発表から200年以上。20世紀に現れた天才アインシュタインによって、ついにその理論がくつがえされるのでしょうか?

 

❏真の重力理論「一般相対性理論」


アインシュタインが、重力理論に取り組み始めてから約10年。1915年に、ついに新しい重力理論が完成しました。その理論の名は「一般相対性理論」。

「万有引力の法則」では、質量を持つ物体は重力で周りの物を引っ張る、とされていました。
一方、「一般相対性理論」ではこう考えます。質量を持つ物体は、重力で周りの時空を歪める。歪んだ時空にある物体は、その歪みの影響を受けて、引っ張られたように動く。

ちょっと何をいっているのかよくわからない、と思うかもしれません。それは無理もありません。「一般相対性理論」はとても難解な理論で、理解するには高度な数学が必要になります。なのでここで全てを説明することはできませんが、イメージだけでもつかめるように、概要を説明していきます。

まず、「時空」ってなんでしょうか? 「時空」とは「時間」と「空間」のことです。「時空が歪む」ということは、時間と空間が歪んでいるということです。

まずは「時間」の方から説明していきます。
とても奇妙に聞こえるかもしれませんが、重力が強い場所では、時間の進み方が遅くなるのです。これは実際に実験で確かめられています。例えば、地上と、人工衛星の中では、重力の大きさが違います。地上は重力が強く、逆に人工衛星の中はほとんど重力がありません。正確に合わせた時計を使って、地上と人工衛星の中の時間の進み方を比べると、重力の強い地上のほうが、ごくわずかに時間がゆっくりと進み、時計が遅れるのです。

次は「空間」です。こちらも奇妙なことですが、重力が強い場所では、どんな物も全て、長さが縮むのです。その空間にある全ての物が縮むということは、空間そのものが縮んでいると言えます。ごくわずかな縮みなので、日常生活でそれを感じることはありません。

このように、重力によって時間の進み方と空間の長さが変化します。これは「時空」が重力によって変化している、と言えます。この時空の変化が「時空の歪み」を生みだすのです。

歪みのない平らな時空では、飛んでいる物体はまっすぐに進みます。歪んだ時空にその物体が入ると、歪みに合わせて軌道が曲がるのです。時空そのものが歪んでいるため、まっすぐ進んでいるつもりでも、曲がってしまうのです。
例えるなら、方眼用紙のマス目に合わせて、まっすぐ線を引いたつもりが、方眼用紙が不良品で、マス目が曲がっていたため、それに合わせて引いた線も曲がってしまった、というようなイメージです。
太陽の周りは、強い重力で時空が歪んでいるため、惑星の軌道はその歪みに合わせて曲がり、円を描いて太陽の周りを回るのです。

いかがでしょうか? イメージだけでもつかむことができたでしょうか?

「万有引力の法則」では、太陽の重力で惑星が引っ張られ、太陽の周りを回る、と説明します。「一般相対性理論」では、太陽の重力で時空が歪み、その歪みに合わせて惑星の軌道が曲がるため、太陽の周りを回る、という二段階の説明になるのです。

 

❏ついに解かれた謎


アインシュタインは、完成した「一般相対性理論」を使って水星の軌道を計算しました。すると、計算結果と実際の水星軌道が、ピッタリと一致したのです! 「万有引力の法則」で計算した時のように、計算結果と実際の軌道がズレることはありませんでした。
ついに、長年科学者達を悩ませてきた、水星軌道のズレの謎がとけたのです。天才ルヴェリエが予言し、50年以上人々を惑わした惑星バルカンは、本当はなかったのです。

なぜ水星の軌道だけが、「万有引力の法則」とズレていたのでしょうか?
「一般相対性理論」の数式は、「万有引力の法則」に比べとても複雑なのですが、それを使って惑星軌道を計算すると、「万有引力の法則」とほぼ同じ結果になります。しかし水星だけは例外で、同じ結果にはなりません。その理由は、水星が太陽に一番近い惑星で、太陽の重力がとても強かったからなのです。重力が強い場所では、「一般相対性理論」と「万有引力の法則」の計算結果がズレるのです。「万有引力の法則」は、重力がとても強い場所では使えなくなってしまうのです。「一般相対性理論」は、重力が強い場所でも正しい結果を出せる、「万有引力の法則」に代わる真の重力理論となったのです。

その後、「一般相対性理論」を使って様々な研究が行われました。宇宙がどのように始まったか、宇宙はこれからどうなっていくのか、宇宙はどのような構造をしているのか、といった研究や、ブラックホールの研究など、ありとあらゆる所で使われています。「一般相対性理論」は、科学にとって無くてはならない理論になりました。

「万有引力の法則」は、その後使われなくなったかというと、そんなことはありません。「一般相対性理論」がとても複雑で計算が難しいのに比べ、「万有引力の法則」はシンプルで使い勝手が良いのです。重力が極めて強い場所以外では、充分に正確な結果を出すことができ、今でもとても価値があります。
「万有引力の法則」によって、科学は大きく発展してきました。その発展を土台として、「一般相対性理論」が作られたのです。「万有引力の法則」がなければ、「一般相対性理論」もなかったでしょう。

実は「一般相対性理論」も、ある特別な条件下では、理論が破綻してしまうケースがあることがわかっています。その問題を解決するため、また新たな研究が行われています。多くの研究の積み重ねで、少しづつその問題の答えが近づいてきています。
「一般相対性理論」が「万有引力の法則」を書き換えたように、これからも、常に科学は新しい研究で書き換えられ、進化し続けるでしょう。そんな日が来るかはわかりませんが、この世の全てが解明される日まで、その進化は止まることなく続いていくでしょう。

 

【参考文献】
「イメージできる相対性理論」飛車来人 ソフトバンククリエイティブ株式会社(2009)
「幻の惑星ヴァルカン」トマス・レヴェンソン 小林由香里=訳 亜紀書房(2017)

❏ライタープロフィール
増田 明
神奈川県横浜市出身。上智大学理工学部物理学科卒業。同大学院物理学専攻修士課程修了。同大学院電気電子工学専攻修士課程修了。
大手オフィス機器メーカでプリンタやプロジェクタの研究開発に従事。

父は数学者、母は理科教師という理系一家に生まれる。子供の頃から科学好きで、絵本代わりに図鑑を読んで育つ。
学生時代の塾講師アルバイトや、大学院時代の学生指導の経験から、難しい話をわかりやすく説明するスキルを身につける。そのスキルと豊富な科学知識を活かし、難しい科学ネタを誰にでもわかりやすく紹介する記事を得意とする。

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