fbpx
週刊READING LIFE vol.8

23歳・社会人2年目だったわたしが痩身エステに50万円かけて挫折した話《週刊READING LIFE vol.8「○○な私が(僕が)、○○してみた!」》


記事:たけしま まりは(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部/公認ライター)

 

 

524,952円。
 
この金額は、今から5年前、わたしが23歳のときに1年通った痩身エステに費やした金額の合計です。
 
当時、わたしは入社2年目、ぺーぺーの社会人でした。
あらかじめ断りますが、わたしは決してお金に余裕のある人間ではありません。
入社間もない社会人にとって50万円はすんなり出せるものではなく、まさか自分がエステに50万円も費やしてしまうなんて、今振り返っても驚くばかりです。
 
結果はタイトルで言ってしまっておりますが、ダイエットはものの見事に失敗しました。
なんとも情けない話です。
これから、どうしてこうなったのか? ということについてお話したいと思います。
 
失敗した恥ずかしさもあり、これまで誰にも言わずに自分の心の内にそっとしまっていた思い出ですが、あの経験のおかげでわたしは「美しいってどういうことだ?」と真剣に考えるようになりました。
そしてたくさんの回り道を経て、自分なりに答えに近いものを見つけ出すことができました。
 
この話は「美しい」ということに振り回された過去のわたしの失敗談なので、むろんダイエットを勧めるものではなく、エステサロンを否定するものでもありません。
今この記事を読まれている方、特に女性の方にはぜひわたしの失敗談を教訓にしていただき、自分なりの「美しさ」を追求してほしいと強く願ってやみません。
 

 

 

わたしのちいさい頃のあだ名は「芋子」でした。
生まれ育ったところはじゃがいも生産量日本一の北海道。肉じゃが、じゃがバター、フライドポテトなどのじゃがいも料理が毎日のように食卓に並び、わたしはじゃがいも料理をおかずにごはんを食べてすくすくと育ちました。
この罪深い食生活は18歳まで続きました。
中学でバスケットボール部に入り毎日運動をしていたので体型はそこまで気になりませんでしたが、その当時から「大きく育つ」ための素質は十分にあったのでした。
 
わたしが「わたしって、太ってる?」と思うようになったのは大学4年生のときでした。
厳しい就職戦線をなんとか切り抜け、あとは卒業を待つのみ! という人生で一番浮かれた時期に、わたしは飽食の限りを尽くしました。
成人してお酒の味を覚えてしまったため食欲はさらに増し、気づけば自己最高体重を更新し、卒業するまで自己新記録をマークし続ける状況でした。
 
わたしの自己最高体重は157cm・56kgです。
この数字は、日本肥満学会で決めた判定基準によると「普通体重」にあたります。
ぜんぜん太ってないじゃん! と思う方もいらっしゃると思います。わたし自身、上半身が華奢で下半身がガッシリしている「洋ナシ体型」で“着やせ”するタイプだったため、見た目的に大丈夫でしょ! と思ってそこまで気にしていませんでした。
 
じゃあ、なぜ「太ってる?」と思ったか。
それは、とある友人からの一言が矢のように刺さったからです。
 
「やばいよ、そのお腹。ちょっと痩せたほうがいいんじゃない?」
これは、卒業旅行中に友人から放たれた一言でした。
東北地方のとある温泉宿で、友人らと露天風呂でだらだら話していたときのことです。
一緒に旅行に行くぐらい仲良しな友人です。オブラートに包んだ生易しい表現なんてせず、友人はどストレートにわたしの身体の太さを指摘したのでした。
 
数字的には「普通体重」でしたが、体脂肪率は30%を超え、全身にやわらかいお肉がまんべんなくついていました。欧米的な「巨大」感はないけれど、どちらかというと太めでむちむちしている、という感じの見た目でした。
 
そう言われたとき、わたしはとりあえず笑いました。
笑う以外の方法がわからなかったからです。
笑ってなんとかその場をごまかした後、わたしの中に「わたしって“やばい”んだ……!!」という焦りと、他人から指摘されるまで気にしなかった自分のだらしなさに対する恥ずかしさが残りました。
浮かれた気分は一瞬で吹き飛び、お風呂に入って身体が熱いのに、手足は緊張で早くも冷え始めていました。
 
さっきの発言に対して、友人にその場で「わたしはこれでいいの! ていうか失礼だし~!」とツッコむこともできました。今の自分の体型が気に入っていれば、そうやって場を和ませることもできたはずです。
 
けれど、わたしはわかっていたのです。
本当は引き締まった身体に憧れていることを。いつかはスリムな身体になりたい、と思い続けていたことを。
ですがわたしはああだこうだと言い訳を重ねてその努力を怠り、むしろ最高体重を更新し続けていたのでした。友人はわたしのその姿を見ていられなかったのかもしれません。友人は身体の太さではなく、わたしのだらしなさを指摘したかったのでしょう。
 
あのときはショックでしたが、友人には感謝しかありません。あのとき友人にハッキリ言ってもらえなかったら、わたしはずっと言い訳をし続け、見て見ぬふりをし続けていたと思います。
 
なにはともあれ、友人から放たれた矢はわたしの本音をグサリと貫き、ショックを受けたわたしは「痩せよう……!!」とようやく決意したのでした。
 
しかし、いくら「痩せよう……!!」と決意したところで、実際に行動を起こさないと意味がありません。
卒業旅行から帰ると送別会や引っ越しなどで慌ただしくなり、結局「痩せよう……!!」と決意しただけで実際に何もせずに社会人生活へと突入してしまいました。
そして、ようやく行動に起こせたのが社会人2年目、23歳の春でした。
そこでわたしは痩身エステの門を叩いたのでした。
 
え、いやいや、食事制限とか運動とかいろんな方法があるのに、なんでいきなりエステに行っちゃうの?
そんなツッコミがあると思います。今のわたしもそう思います。
食事制限や運動なんて絶対無理! と思っていたことも理由のひとつですが、それよりももっと大きな理由がありました。
 
ヒマだったからです。
当時わたしは転勤のため、東京から大阪に引っ越していました。
大阪には家族はもちろん、友人もいませんでした。平日は仕事を覚えるのに精いっぱいでしたが、休日は平日の疲れをとったらあとは何もすることがありませんでした。
 
いやいや、本を読むとか、お出かけするとかいろいろあるでしょう。
そんなツッコミがあると思います。今のわたしもそう思います。
けれどあのときはそう思えず、とにかく人恋しさでいっぱいで「定期的にお出かけができて、人とも関われて、癒される」何かをずっと探していたのでした。
そして「痩せよう……!!」という決意は、まだ消えていませんでした。
そこで出会ってしまったのが、痩身エステだったのです。
 
初めは1万円の「おためしコース」から入りました。
これまでエステなんて行ったことがありませんので、最初はどんなことをされるのか……とドキドキしました。
大阪・梅田にある某有名痩身エステサロンは、ピンクを基調とした店内で、あたたかくていい匂いがしました。
スタッフのおねえさんからひととおり説明を受け、ロッカールームで服を脱ぎ、紙パンツ姿一丁になります。
紙パンツだなんて、高校生のときに盲腸で手術したときに履いた以来です。紙パンツはゆるゆるゴワゴワで「守られている」感じがなくて不安をさらに煽りましたが、後には引き返せません。意を決して施術ルームへ向かいます。
 
まずは体重測定からはじまります。
タニタ製の立派な体組成計に乗せられ、体重の後に体脂肪率、内臓脂肪、筋肉量、基礎代謝量、体内年齢が次々に表示され、わたしは現実を突きつけられます。
その後おねえさんからメニューの説明をされ、わたしは「カッピングで老廃物を流した後、機械でインナーマッスルを鍛え、燃焼カプセルに入り脂肪を燃やす」90分のコースを受けることになりました。
 
カッピングとは、ガラス製のおわん型吸入器を背中につけて身体の老廃物の排出をうながすものです。
うつぶせになり、背中全体におわん型吸入器をとりつけられます。イメージはタコの吸盤が背中じゅうにくっついている感じです。そのまま5分程じっとし、吸入器をはずして身体をほぐすのですが、これがめちゃくちゃ気持ち良い。吸入器をはずすと本当にタコみたいに真っ赤な跡が背中じゅうについてしまうのですが、疲れているときはそのまま寝入ってしまうほどリラックス効果があり、「うんうん、これぞエステって感じ~!」とうっとりできます。
 
カッピングの後は、あおむけになり下腹部に大きなジェルパッドをはりつけられます。これは通販番組などでよく見る「腹筋マシン」のイメージそのまま。ジェルパッドは大きな機械につながっていて、そこから電流がはしり、わたしのおなかはぶるぶると震え、運動をせずともトレーニングができるのです。
これはさきほどのカッピングとは違い、ちょっと苦しい。腹筋以外のまわりの筋肉や、ふだんの運動では鍛えにくいインナーマッスルを総合的かつ集中的に鍛えているため、無理やり休憩ナシで腹筋をさせられているような状況になるからです。
もちろん自分で腹筋をするよりも苦しくはないのですが、ノンストップなのはかなり苦しく、ここでかなりの汗をかきます。
 
機械的な筋トレの後は「燃焼カプセル」に入り、ひたすら脂肪を燃やします。これは日焼けサロンのサウナバージョンというイメージで、顔から下がカプセルに包まれ、身体全体を温めて脂肪を燃やします。身体はサウナスーツのようなものに覆われていて、開始5分ほどで大量の汗が出ます。
その姿はさながらチャーシュー、ローストビーフ、鮭のホイル焼きのようでした。唯一違うのはうまみ(脂肪)を逃がそうとしているところ。しばらく蒸し焼きにされ、カプセルから出た後はシャワーを浴びて、ふたたび体重測定をします。
 
ピピッ。
「おお~! 1kg痩せましたね~!」とおねえさんの華やかな声がサロン内に響きます。
わたしは、あまりの嬉しさに声が出ませんでした。
これまでうんともすんとも言わなかった体重が、100gとかの誤差じゃなく、1kgも減ったのです!
 
わたしはそのまま勢いで10万円の定期コースに申し込みました。「おためしコース」によくある「今日中に契約をしてくれたらオプション追加、サプリプレゼント!」の誘惑に惹かれたからです。社会人だし、10万円くらいの出費だったら大丈夫か……という気のゆるみも手伝い、わたしは嬉々として契約書にサインし、36回払いのローンを組んだのでした。
こうしてわたしは痩身エステに通うことになりました。
 
通い始めたころは、休日にやることができた喜びとエステサロンの贅沢な空間にうっとりし「人生最後のダイエットにしてやる!!」とやる気に満ちていました。
しかし好調だったのは最初のころだけで、その後は少しずつしか体重は減らず、むくみや疲れはとれるものの、劇的な変化はほとんどありませんでした。
 
その原因はエステサロンのせいではなく、わたし自身にありました。
「痩身エステに通っているんだから大丈夫!」と言って、気をつかわずにバクバク食べていたからです。
 
「は? 何言ってんの?」という感じですよね。わたしもそう思います。
この謎の言い訳が出てきたのは、エステに行っても寂しさが埋まらなかったからでした。
意を決して痩身エステに通い始めたものの、90分のコースが終わり、サロンを出ればまた何もない休日に逆戻り。
梅田でお買い物をしようにも、毎月のローンに加えての出費は痛く、他にすることも特に思いつかない……。
 
インターネットがあるのだから、SNSで面白そうなイベントに参加してみたり、友達づくりのために会社以外のコミュニティに入ってみたりすればいいのに……と今のわたしなら思うのですが、平日の疲れを取り、エステにも行き、その上何かをする余力が当時のわたしにはありませんでした。
 
10万円のコースは3ヵ月ほどで終わるものでした。
案の定、体重も体型もほとんど変わりませんでした。結果が出なかった悔しさと寂しさでいたたまれず、わたしはその後もコースを変えて契約し、結果として1年間・50万円かけて痩身エステに通い続けました。
 
エステ通いを辞めたのは、合計金額が50万円を超えたからでした。
その後、食事に気をつけたりジムに通ったりしてみましたが、仕事が忙しくなったためにすべて中途半端になり、結局スリムな体型からほど遠いまま社会人生活を過ごしました。
 
1年間・50万円をかけた痩身エステに挫折したとき、心の底から自分のことが嫌になりました。
自分のお金でやったことなので誰にも迷惑かけないとは言え、安くないお金と時間を無駄にした自分のだらしなさにほとほと呆れ、落ち込みました。
 
どうしてこんなことになってしまったのかというと、理由は明確でした。
わたしが痩身エステに求めるものを勘違いしていたからです。
 
痩身エステに通って得られるのは、美しい体型を追求するためのテクニックや心構えです。
自分が「痩せたい!!」と本気で思えば十分な効果を発揮し、スリム体型への大きな手助けになったに違いありません。
 
しかしあのときのわたしが一番に求めていたのは「心の寂しさを埋める何か」です。
痩せたいという欲求は二の次で、結局わたしはダイエットにどうしても本気になれなかったのです。
 
こんな気持ちで劇的な変化などあらわれるはずがありません。
わたしは痩身エステに挫折した経験と50万円のローンという大きな痛みをもって、「自分が今、何を求めているのかをちゃんと考えないといけない」ということを実感したのでした。
 
そして時は過ぎ、わたしは社会人7年目・28歳になりました。
2年ほど前から糖質制限と運動を本格的に始めたことで、当時の最高体重から10kg痩せることができました。
運動を始めたことで筋肉がつき、疲れにくくなり、身体もだいぶ引き締まりました。
 
食事制限や運動なんてできっこない! と思っていましたが、やってみれば案外続きました。5年前に始めていれば……という悔しさはありますが、紆余曲折を経て「痩せよう……!!」という自分の決意をなんとか全うすることができました。
 
今、わたしは目標を達成できたことで自信がつき、他にもやりたいことに挑戦してみよう! というやる気がさらに湧いています。ダラダラ過ごしてしまうことは今でもよくありますが、エステに挫折したころのわたしよりは、自分のことを好きになれています。
 
過去の失敗を経て、わたしは自分の弱点を知りました。そしてその弱点はすぐに治そうと思っても難しく、むしろ受け入れてどうカバーすればいいか工夫して行動する、ということを学んだのでした。
 
最初にお話した「美しいってどういうことだ?」という問いに対してわたしが見つけた「答え」とは、「そのときの自分を好きでいられるか」が美しさの大きな指標になるのではないか、ということでした。
 
エステに挫折して何もすることがない休日に逆戻りしたとき、わたしは自分自身を見つめる時間が否応なくたくさんありました。
ずっと自分のことを嫌でいるということはすごく辛いので、じゃあどうすれば良いのか? ということを考え続け、「自分を好きでいられる自分であろう」と決意しました。
ダイエットが成功するのは先の話ですが、そのときは仕事を頑張り、まずはできることから頑張って自分を好きになる入り口を見つけよう、と思いました。時が経ち仕事に慣れてきたころに本格的にダイエットを始め、今に至っています。
 
今はマイナス10kgを達成した身体ですが、年を重ねたり妊娠したりすれば体型が変わってきます。けれど、美しいということは必ずしも「スリムである」ということではなく、そのときの自分の立場や状況に応じて変わるもので、その指標が「この自分を好きでいられるか」ということなのではないか、と思うのです。
 
わたしは今社会人7年目でスーツを着ることが多いため、軽やかに見える体型を追求しようと意識しています。そのために工夫や努力を重ねる自分を好きでいられています。
けれどこれは28歳時点でのわたしが思う「美しさ」であって、それは年を重ねるごとに更新されるべきものです。これからどう更新していくか、自分自身と向き合ってじっくり考えていきたいと思います。
 
「自分を好きでいられるかどうか」が美しさの指標であるならば、過去のわたしのように美しさに振り回されるようなことはきっともうないでしょう。
これからもわたしは自分なりの美しさを追求しながら生きていきたいと思います。
 

 

❏ライタープロフィール
たけしま まりは
1990年北海道生まれ。國學院大學文学部日本文学科卒業。高校時代に山田詠美に心酔し「知らない世界を知る」ことの楽しさを学ぶ。近現代文学を専攻し卒業論文で2万字の手書き論文を提出。在学中に住み込みで新聞配達をしながら学費を稼いだ経験から「自立して生きる」を信条とする。卒業後は文芸編集者を目指すも挫折し大手マスコミの営業職を経て秘書業務に従事。
現在、仕事のかたわら文学作品を読み直す「コンプレックス読書会」を主催し、ドストエフスキー、夏目漱石などを読み込む日々を送る。趣味は芥川賞・直木賞予想とランニング。READING LIFE公認ライター。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜《11/28までの早期特典あり!》


2018-11-26 | Posted in 週刊READING LIFE vol.8

関連記事