週刊READING LIFE vol.18

自称ネガティブ、アラフィフ独身女性の救い主とは?《週刊READING LIFE vol.18「習慣と思考法」》


記事:津田智子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

私はクリスマスとお正月がとっても苦手です。
 
街が美しい照明や飾りつけで華やぎ、多くの人が忘年会で飲み騒いでいるにもかかわらず、私は毎年、彼らと同じようにお祭り気分に浸ることができません。楽しそうな若者、幸せそうなカップルを見ると、つい孤独を感じてしまうのです。
 
私は間もなく50歳を迎えますが、未婚です。恥ずかしながら、これまでパートナーがいた期間が非常に短くて、クリスマスを彼と過ごした経験もありません。恋愛経験が限りなく少ないことにコンプレックスがあります。もはや仕方ないこととはいえ、ずっと独りでいたこと、女性として生まれながら結婚も出産も経験していないことに強い後悔の念があります。そして、恋人同士が一番盛り上がるクリスマスの時期が来ると、毎年必ず、普段はどこかに押し込められているネガティブな感情が顕在意識まで浮かび上がってくるのです。
 
付き合っている人がいるからって誰もが幸せなわけではないし、付き合いが長くなれば毎日ワクワクドキドキばかりもしているわけにもいかないでしょう。相手の言動にイライラしたり、相手の存在を鬱陶しく感じたりすることもあるでしょう。それは頭ではわかります。「50歳間近にもなって、わびしいとか、淋しいとか、女子大生じゃあるまいし……」と自分で自分に突っ込みを入れたくなることもあります。
 
でも、ここ30年近く、私にとってクリスマスはやはり楽しいというよりは、淋しさが増す時期です。「クリスマス=淋しい」は私にとって随分前から反射的な思考となっています。
 
お正月も同様です。「お正月はどうするの?」「家族でゆっくり」「家族で実家に」……。こうした会話を耳に挟むたび、自分には自分で築いた家族がいないことをあらためて認識させられ、心がぐらぐらしてきます。
 
思い返せば、私は淋しさや虚しさといった感情に長く悩まされてきました。一人でいること自体は全く苦になりません。一人旅にはしょっちゅう出かけますし、孤食だとすぐに食べ終わるので、その後にほかのことがいろいろできるので助かっています。普段は自由な時間を思い切り謳歌しています。
 
でも、何かの拍子にコンプレックスが刺激されると、大変です。20代後半から30代前半にかけては、淋しさや虚しさの処理方法がわからず、本当に苦しんでいました。仕事は単純作業ばかりでつまらないし、好きな人もいません。映画や読書、旅行は好きですが、それらをどう仕事につなげればいいのかは全く見えてきません。
 
「あ~、この世の中で、自分のことを必要としてくれている人なんて、一人もいないじゃないか。私なんていなくてもいいんじゃないか」毎日のように、こうしたネガティブ思考が発動していました。この思考がいったん始まると、マイナスの感情がむくむくと湧き上がってきます。「私は一人ぼっち。誰も相手にしてくれない。淋しい、悲しい」とどんどん卑屈になっていきます。
 
あるとき、転職の面接を受けに行ったとき、自分のやってみたい内容ではないのに、厳しいことばかり言われたことがありました。「世の中厳しいなあ。やはり社会に私の居場所はないのかなあ」そう考え始めると、自分が社会不適応の無価値な人間のような気がして無性に淋しくなってきます。電車の席に座りながら、滂沱の涙を流しました。思考と感情がグルグルと悪い方向に駆け巡り、制御することができませんでした。
 
またあるときは、パートナー紹介サイトを通じてある男性とメールでつながり、銀座で待ち合わせしたのに、すっぽかされました。「僕はグレーのアルマーニのスーツを着ていきます。智子さんは?」と訊かれたので、「私もアルマーニの紫色のワンピースで行きます」と返信し、その日はウキウキしながら銀座に向かいました。待ち合わせの2分前に「あと1分で行きます」とメールが来たのに、その後一向に現れません。
 
メールは来ないし、電話も通じません。1時間待った後、「交通事故にでも遭ったのかしら」と、心配しながら帰途に就きました。すぐに会社の寮の後輩に電話をして報告すると「そんなの、すっぽかされたに決まっているじゃない? さっさと帰ってくればよかったのに」と一刀両断に言われました。どうやら相手は私の姿を発見し、「違う」と思ったのでしょう。すぐに引き返したようです。ショックでした。
 
容姿を確認したくて事前に当日のファッションを訊くなんて、なんと卑怯な……。でも、この時も私は「やっぱり私は可愛くないんだ。今後も私を好きになってくれる男性なんているわけない」とネガティブ思考を自動発動させて大いに落ち込みました。
 
私の場合、ひどいときは会社でも電車の中でも関係なく、涙が出てきます。心のざわざわ感が止まらず、淋しくて空しくてじっとしていられず、近所に住むいとこをいきなり呼び出して泣きついたこともあれば、ドラッグストアに駆け込み、「すみません。淋しすぎて死にそうなんですけど、どうすればいいですか」と訴えたこともありました。
 
この虚しさ、淋しさが長時間続くと、心が疲弊します。生きるのが楽しくなくなり、病んでしまいます。「こんなに思い悩んでばかりいたら、これから先、生きていけない。何とかしなくては」私は真剣に考えました。そして、何もなくて空っぽで悩んでいるなら、何か始めればいい、仕事につながりそうなことで、自分で夢中になれることを見つけてはまり込めばいい、と気づきました。単純すぎることですが、それまでの私は、他人に嫉妬したり自分の境遇を嘆いたりばかりしていて、自分のエネルギーや力を良い方向に全然使えていませんでした。
 
そこで、私は好きな英語を再び学ぼうと通訳学校に通い始めました。久しぶりの英語でしたが、皆の前でプレゼンしたり意見を述べたりすることが楽しくてたまらず、夢中になって勉強に没入しました。「いずれは翻訳か通訳の仕事をしよう」と決め、11年勤めた会社を辞めました。それからは髪の毛振り乱して必死に勉強しました。
 
何かの拍子にネガティブ思考が発動したら、「近いうちに英語の仕事に就く」という目標に立ち返ります。果てしなく思考が発展するのを途中で止めて勉強に戻る、それを習慣づけました。それはわたしにとって容易なことでした。好きなことをしていれば、自然と余計なことを考えなくなるのです。そんな単純なことに30代半ばになってようやく気付きました。
 
2年半にわたる勉強の末にニュース翻訳の仕事を得ました。ネガティブ思考のループにはまらないためには夢に向かって突き進むのみ、と悟った私は、仕事に慣れてくると、次なる夢を探し始めました。じきに心身の健康、食や人間心理、精神世界や民俗学、文化人類学などの分野に引き込まれるようになり、本を読み漁りました。テキストからの学びだけでなく、セミナーやワークショップ、講演会にも積極的に通い始めました。
 
こうして貪欲に自己成長の道を歩み始めると、人とのつながりもたくさん生まれ、心が温まってきます。夢を追っていると仲間もついてきます。夢と仲間の相乗効果で、パートナーが
いなくても、虚しさや孤独感を感じる場面がどんどん減ってきます。
 
翻訳の仕事を始めて10年たち、最近は書面だけでなく、人と直接かかわりたいなあという思いが強くなってきました。変化の時期が再び来ている予感がします。また、天狼院書店でのライティングゼミをきっかけに書くことを習慣化するうち、自分自身を表現することの喜びにも目覚めました。人とのかかわりと書くことの2つを追求するべく、昨年後半に産業カウンセリング講座を受講し始め、天狼院のライターズ俱楽部にも入部しました。今はライティングとカウンセリングの勉強に心を傾けているので、ネガティブ思考が私の心に居座ることはできません。
 
多くの大人が若者に、夢を持てとか、目標を掲げろとか言いますが、これだけでは言葉足らずです。どうして持たなくちゃいけないのかというと、夢はワクワクさせてくれるし、人生をカラフルに彩ってくれるからです。夢は、義務感から持つものではないような気がします。
 
他の人の頭の中に入ったことがないから比べることはできませんが、私はずっと、自分は落ち込みやすく、自己肯定感が薄く、生きにくさを抱えるネガティブ思考の人間で、これは生まれつきだから仕方ない、と長らく思い込んでいました。
 
でも、今では確信しています。思考回路は意志で修正できます。もし、今、現状に不満を抱えて悩んでいる方がいらしたら、是非勇気を出して心からワクワクできる夢を追ってみてください。もし夢が見つからない場合は、あちこち出かけていろんな経験をして、自分がどんなことに惹かれるか、どんなときに心から楽しんでいるかを探ってみてください。そして夢を見つけたら、それをとことん追求することを習慣づけてみてください。年齢と共に内容は変わるかもしれませんが、夢は一生、あなたを支えてくれるはずです。
 
昨年の11月下旬、私が勤務する会社のビル内にクリスマスツリーが設置された日の帰り、私はゆっくり眺めることもなく、横目にツリーを見ながらさっと通り過ぎてしまいました。反射的な行動でした。これからもクリスマスやお正月が来るたびに、胸がチクリと痛むことでしょう。私の未婚・未出産コンプレックスは相当根強いから、これからもたびたび顔を出すに違いありません。でも、私はもう大丈夫です。夢のおかげで以前よりはずっと容易に虚無感や寂寥感を断ち切ることができるようになりましたから。そして夢のおかげで後ろではなく、前を見る習慣が身につきましたから!

 
 
 

❏ライタープロフィール
津田智子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
京都府で生まれ、神奈川県で育つ。慶應義塾大学卒業。現在は金融機関で運用レポートの日英翻訳を担当。米メディアで7年間、企業ニュースを英日翻訳していた経験も持つ。英検1級。好奇心旺盛で旅をこよなく愛し、20~30代は長期休暇のたびに海外へ。これまで訪れた国の数は50以上。40歳を超えてからは、山登りや農村巡りなど国内の旅を楽しんでいる。奥多摩の御岳山で毎年滝行に励み、出羽三山の山伏修行にも3度参加。山伏名は「聖華」。2017年、天狼院ライティングゼミを通じて、文章による自己表現に目覚める。また、コミュニケーション力を磨くため、産業カウンセリング講座も受講中。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2019-02-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol.18

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