2020に伝えたい1964

湘南は東京オリンピックのレガシーと為った《2020に伝えたい1964~Epilogue③~》


2022/01/31/公開
記事:山田将治(READING LIFE公認ライター)
写真提供:森団平(天狼院ライターズ俱楽部、フォトグラファーズ倶楽部・READING LIFE公認ライター)
 

 
「団平さん。7/31(2021年)って、空いていますか? 土曜日なのですけど」
東京オリンピックが始まった直後、私はぶっきら棒なメッセージを投げた。
相手は、天狼院のライター仲間・森団平さんだ。
団平さんからの返信が、直ぐに帰って着た。
「空いていますけど、何か御用ですか?」
「用というか、御願いなのです。その日、湘南天狼院に行って、オリンピック・ヨット競技の写真を撮って来てもらいたいのですが……」
「丁度、湘南天狼院で公開放送が有るみたいなので、行こうと思っていたところです」
「それは好都合です。私の記事に使いたいので、何枚か御願い出来ますか? 写真だけじゃ無くて、ヨットにも暗いもので……」
「大丈夫です! 実は学生時代にヨットをやっていたので、観るのも楽しみです」
「では、宜しく御願いします。それと、天狼院(湘南)の屋上からの“画(え)”
が有ると尚嬉しいです」
「手持ちで撮れる望遠(レンズ)で、何とか撮ってみます。後は、天気と風が良い(ヨットなので)事を祈って下さい」
このやり取りで、私は一安心した。
何故なら、私の知り合いで写真を撮らせたら、団平さんは一二を争う腕前だ。しかも、唯一船乗りの知り合いだ。天気だって、この時期は好天が多い。
任せておけば、何とでも為る筈だ。
私は団平さんが操船する‘大船(おおぶね)’に乗った気に為った。
 

 
第32回近代オリンピック東京大会は、前回の18回大会で使われた競技施設の殆どが継承されることは無かった。新競技が加わったことや、競技規則の変更によって、57年前の施設が21世紀の現代に合わなく為っていたからだ。
それにしても、オーバル型が綺麗だった国立競技場や、丹下健三氏のオリジナル設計による代々木競技場が使われなかったことは、1964年を知る者にとって、残念でならなかった。
その中で二箇所だけ、前回と同じ競技が同じ場所で行われた。
一箇所は、世界遺産・法隆寺の夢殿を模した日本武道館だ。改修された武道館では、今回も柔道が行われた。前回、
「たった4日間の為に、こんな大きな建物を」
と、批判された日本武道館では、女子が加わり、しかも、階級が細分化されたことと混合団体戦も行われる様に為った事で、今回は8日間の開催となった。
 
もう一箇所、前回と同じ開催地で行われた競技があった。それは、ヨット競技が行われた“江の島ヨットハーバー”だ。
この東日本最大のヨットハーバーは、日本ではまだヨットが上流階級だけのものであった1961年に、東京オリンピックの為に建設されたものだ。ヨットだけでなく、観光船も着けられる様な仕様と為っている。
それによりこのハーバーは、前回の東京オリンピック以降、湘南・江の島の観光に大いに役立ったと言えよう。
 
普段からヨットに乗る趣味も、特段の興味も無い私だったが、今回の“江の島ヨットハーバー”には、特別な感情が生まれていた。
それは、江の島の目の前に2020年5月、湘南天狼院がオープンしたからだ。見慣れた風景の中で、オリンピックが開催されることは、私にとって感無量なことだ。
 

 
実は、東京オリンピックのヨット競技が江の島で行われることを、私が知るのに少々時間が掛かってしまった。何故なら、私の見識不足もさる事ながら、ヨット自体が日本ではマイナーな存在でしか無かったからだ。
そもそも、東京オリンピックの告知で、ヨット競技を探すことに苦労しなければならなかった。
オリンピックでは、ヨット競技の事を『セーリング』と称する。この事を私は、今回の記事を書くにあたり初めて知ったのだ。恥ずかしいことに。
しかも、1964年当時には無かった“ウインド・サーフィン”も、『セーリング』に分類されるのだそうだ。それはそうだろう。“帆”に風を受けるものなのだから。
 
加えて今回、ヨットの色々なクラス分けや、その名称が何故付いたのかも知ることが出来た。
ヨットがマイナーな日本でも、過去にオリンピックのメダリストが出ている。
1996年のアトランタ・オリンピックで銀メダルを獲得した重由美子・木下アリーシア組と、2004年のアテネ・オリンピックで銅メダルを獲得した関一人・轟賢二郎組が居る。
どちらも『470級』というクラスでのメダル獲得だったが、私には、クラスが何を意味するのか皆目見当が付かなかった。
そこで、今回調べたところ、『470級』の意味するところは、船体の長さが4.7mということだ。追加で『470級』では、マストが1本という規定が有るそうだ。
 

 
また、今回の調べで、私が長年疑問だったことが解決した。
それは、故・大瀧詠一氏が、代表作『君は天然色』の歌詞に在る“ディンギー”という固有名詞だ。
調べてみたところ“ディンギー”とは、小型ヨットの総称なのだそうだ。長年の不思議に、私は終止符を打つことが出来た。
 
 
数日後、団平さんから想像以上に素晴らしい写真が送られて来た。その上、ヨット経験が有る船乗りさんらしく、的確なコメントが付けられていた。
それより何より、最も暑い季節の中、江の島迄渡って写真を撮って下さったことに感謝の限りを伝えたく為った。
 
 
団平さんの素晴らしい写真を拝観して改めて、湘南・江の島という風景が『東京オリンピック』という大イベントにとって、大きなレガシー(遺産)と為ったと思った。
日本武道館と共に。
 
私は勝手に、願っている。
数十年後、東京が4回目のオリンピック招致に成功し、3回目の開催が決まったら、再び日本武道館と共に、湘南・江の島が会場と為ることを。
 

 
 

❏ライタープロフィール
山田将治(Shoji Thx Yamada)(READING LIFE公認ライター)

1959年生まれ 東京生まれ東京育ち
5歳の時に前回の東京オリンピックを体験し、全ての記憶の始まりとなってしまった男。東京の外では全く生活をしたことがない。前回のオリンピックの影響が計り知れなく、開会式の21年後に結婚式を挙げてしまったほど。挙句の果ては、買い替えた車のナンバーをオリンピックプレートにし、かつ、10-10を指定番号にして取得。直近の引っ越しでは、当時のマラソンコースに近いという理由だけで調布市の甲州街道沿いに決めてしまった。

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2022-01-26 | Posted in 2020に伝えたい1964

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