出してからおいで

馬中に赤兎あり《出してからおいで大賞》


記事:黒崎良英(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

俺が生まれ育ったのは、荒涼たる北の平原だった。
冬になれば枯れ草の一つもなく、鳥も獣も見えない、無の平野となる。
 
が、そんなことはあくまで人間の目線によるものだ。
一日中探せば、何かしら食べるものにはありつけるし、水場だってどこかしらにある。
 
もっとも、人間は俺たち馬とは違い、一日の移動量、いや活動量が著しく低いので、彼の地を不毛の地と呼称するのも致し方ないことか。
 
ただ、この人間というやつはとても不思議な種族で、どうにも理解しかねる部分が大いに存する。
 
挙げればきりがないが、俺が一番不思議に思ったのは、とかく弱いことである。暑すぎても寒すぎても倒れるし、数日間食わなかっただけでも倒れる。まあ、そこらへんは個体差があるのだろうが、何より単純に力が弱い。俺たちのひと蹴りで骨は折れ、内臓は破裂する。
 
いや、それは仕方ないことか。俺ら馬のひと蹴りは並の獣のひと蹴りとは格が違う。
 
ただ、そうでなくても、猪の牙にかかれば死に至る場合もあるし、かといって羚(カモシカ)のように素早く逃げることも叶わない。ましてや虎や豹などの牙にかかれば、即刻やつらの食料になる始末である。
すなわち、俺らが歯牙にもかけぬ獣の前で、この人間という種族は驚くほど無力なのだ。
 
そして無力なのにも関わらず、なぜか巨大な縄張りを持っている。集団でいることは俺たちと同じなのだが、その群の規模にしたってまちまちである。そして時たま群同士で争うのだ。
だが、その群同士の争いも、俺の目から見れば不毛でしかない。
なぜなら、その群を吸収しないからだ。
 
俺の父は自らの群を率いる長だった。
俺たちも縄張りを争い合い、時たま衝突する。そんな時、父は長として、負けた群を吸収し、さらに強大な群として成長させていった。
 
だが、人間たちは違う。ものを奪い合うことはするのだが、時として対立した群を皆殺しにする。
それは非生産的であり、非効率な行為であった。
 
こんな愚かしい種族に、しかし、父は接触すること厳しく禁じた。特に年端もいかない仔馬には強く言い聞かせた。理由は言わなかったが、言っても分からないと思ったのだろう。
幼い俺も疑問に思ったことはあるが、特に何か尋ねるようなことはなかった。
 
群の長である父の言うことは絶対だ。
俺は父を尊敬していたし、何より父の圧倒的な力に憧れていた。
その父が言うのだから、そこには確かな理由がある。幼い頃は盲目に、そう信じていたものだった。
 
結果として、そこに確たる理由はあった。
あの徹底的に弱い人間は、その弱さに反して、すこぶる頭がいい。
俺たちを分析し、癖や弱い部分といったものを理解し、苦手な部分を突いて捕らえようとする。
そう、殺すわけではなく、俺たちは人間に捕らえられる。そして「使われる」のだ。
 
父が危ぶんでいたのはこれだったのか、と気づいたのは檻の中に捕らえられた後だった。
 
ある日、見たことのない身なりの人間の群が徒党を組んで俺たちの群れを襲った。
父の判断はいつもより早く、すぐさま撤退命令が出た。あの日の父は明らかに慌てていた。あの人間たちを見た時、父もいつもとは違うと悟ったのだろう。
とかく俺たちは全力で逃げたが、怪我をしている馬や、やはり若い馬は逃げるのが遅れた。やはり成熟した者より走るのは遅いし、何より、持ち前の好奇心が仇となったこともある。
 
悔しいことに、俺もそうだった。いつもとは違う人間たちの雰囲気に好奇心を駆り立てられ、愚かにも近づこうとした。
 
それがために一瞬、逃げるのが遅れた。
 
人間たちは俺たちの仲間に乗っていた。いや、面識はない。どこの生まれなのかも分からないが、しかし、奴らは早かった。あんな荷物を乗せているにも関わらず。その脚の力強さは健在だった。
 
あっという間に距離を詰められ、人間が持つ縄が、俺の首を捕らえた。地に倒れる俺を黒い影が覆った。
 
父だった。
馬の横腹に体当たりをし、人間を落とす。近づいてきた人馬を蹴り倒す。
そうやってできた好機に、促されるまま俺は逃げようとした。
 
だが、数歩離れたばかりの時に、悲鳴が聞こえたのだ。
 
それは信じられない光景だった。父が倒れている。あの自他ともに最強を任じていた父が、人間たちの手にかかり倒れていたのだ。
 
その身体中には矢が射掛けられており、首には凶刃が振り下ろされようとしていた。
 
その瞬間、身体中の血が沸騰した。
脚が今までにない力で大地を蹴った。
刃を持った人間を両の前足で踏み潰した。
慌てて弓引こうとする人間どもを、その動作より早く体当たりし、一人を噛み殺し、二人を蹴り殺した。
 
俺は、その時、確かに怒り狂っていたのだった。
 
どう暴れたのか分からない。倒れ伏す人間の群を見たのは覚えている。そして目の光を失った父の姿も。
 
記憶はここまでである。
気づいた時、俺は鋼の檻の中で横たわっていた。檻には布がかぶせてあるらしく、外の様子は見えなかったが、その檻が車に乗せられており、俺がどこかに運ばれているらしいことは分かった。
 
脚に、体に、力が入らなかった。
ああ、父が言っていたのはこのことだったのだ。そう理解した。
人間は、俺が考えないことを考える。その上で襲ってくるのだ。
 
(つまり、この勝負は最初から決まっていたのか。俺の敗北も、父の死も……)
 
そう思った途端、急にあの怒りがむくむくと首をもたげてきた。
理由はどうあれ、父を殺したのは人間だ。俺の、誇らしい父をあんな無残な姿にしたのは人間だ。
捕らえられたとて、大人しく殺されるわけにはいかぬ。ましてや人間ごときに使われるなど、あってはならぬ。
 
出せ! ここから出せ! 勝負しろ! 今度こそ負けぬ!
 
そんな気持ちを込めて、俺は、俺を捕らえている鋼の檻に体当たりを繰り返す。
疲れや痛みなどもはや気にならぬ。
俺が抱いていたのは、忿怒と怨嗟、そして悔しさであった。
父が、そして俺が、負けるわけがない。あれは人間たちが卑怯な手を使いなおかつ集団で襲ってきたからだ。
もう一度かかってこい。今度こそ、貴様らを噛みちぎり、蹴り殺してくれる!
 
その忿怒が通じたのか、俺を乗せた車はある場所で止まった。そこで動かぬことしばし、突撃を繰り返す俺の耳に、人間の声が聞こえた。
 
「これこの通り、弱らせはしたのですが、なんとも気性の荒い馬でして……一つの部隊並の人数を蹴り殺し、やっとの思いでここに運んできたのです」
 
何ともいやらしい声だった。媚びへつらうものの、あの独特の甲高い耳障りな声だ。
 
「これを乗りこなせるのは、もはや将軍しかおりませぬ。どうかこれを以って我が陣中にお加わりください。さすれば天が下において董相国、ひいては帝に弓引こうとする不届き者はいなくなるでしょう。将軍は天下の戦乱を鎮める救国の烈士となるのです」
「よく舌の回る男だ。ものによってはその舌から切り刻まねばらなん」
 
もう一つの声は、何とも落ち着いた、それでいて凄みのある声だった。明らかに敵意がこもっている。
 
幕をおろせ、と媚びた声が号令した。
俺の視界が光で霞んだ。
男がいた。一人は腰を曲げて、頭を低くした男。大方、あの媚びた声を出していた人間だろう。
もう一人は、大男だった。はっきりと顔は見えない。だがその身長は、俺が見たことのない人間のそれだった。
 
が、その時の俺に状況を分析している余裕はなかった。その男めがけて突撃しようとするものの、格子に跳ね除けられる。
しかしなおも俺は繰り返す。父の、そして俺の忿怒はどこまで行っても治まらぬ。
 
その時だった。
 
「檻を開けろ」
 
声からして、あの大男だった。
媚びた声は慌て、周りにいた配下らしき人間も、何もできずにいた。
 
しかしなおも「開けろ」という男に、媚びた男は仕方なく配下に号令する。すると小刻みに震えた小男が、俺の前にやってきて、檻の鍵を開けた。
 
と、同時に俺はその小男を突き飛ばし、目の前にある大男に向かって行った。その男を突き倒し、倒れた頭蓋を脚で踏み砕いてやろうと思った。
 
が、俺は止まっていた、いや、止められていた。突き飛ばした大男はいなかった。そもそも突き飛ばしていなかった。
 
その男は俺の首に腕を回し、俺の突撃を止めていたのだった。
 
俺は状況を理解した。だが、何が起こっているのか、理解できなかった。
何だ? 俺は止められているのか? 人間が、俺の突撃を止めているのか? 弱っているとはいえ、俺の渾身の力を込めた突撃を、止めているのか? この男は?
 
何だ、何なんだこの男は? こいつは本当に人間か? こいつは、この男は何なのだ!
 
その時、俺の忿怒は驚愕によって塗り替えられ、身体中から力が抜けた。
俺はその男を見つめる。男も俺を見ていた。その瞳には、星というか炎というか、そんな揺らめく何かが灯っていた。
 
「くっ……ははははは!」
 
男が笑った。大いに笑った。後にも先にもこの男がここまで笑うのを、俺は見たことがなかった。
 
「よかろう、気に入った! 今日からお前は俺の馬だ」
 
それがあいつとの、呂布奉先との出会いであった。

 

 

 

その時代、人間たちは戦いに明け暮れていたらしい。人間たちの事情は分からぬが、ともかく争いが絶えない時代だった。
それがため、奉先と俺は一目置かれる存在となっていた。
 
何のための戦いか、それは知ったことではない。奉先は矛を手に出陣する。俺は奉先を乗せて戦場を駆ける。
それだけである。
 
奉先は矛を振るう。俺は走る。
呼吸のようなただそれだけの行為が、俺たちを英雄たらしめていた。
 
「人中に呂布あり、馬中に赤兎あり」
 
いつしか俺たちはそのように呼ばれていた。
 
そう、「赤兎」というのは人間がつけた俺の名だ。確かに俺は赤毛なので「赤」というのはまあ、当然か。しかし「兎」というのはどうも芳しくない。誰が言い始めたか分からないが、奉先もその名で呼んでいたので、俺は仕方なくそれに答えていた。
もう少し気の利いた名はなかったのだろうか、と頭の片隅に思いながらも。
 
しかし、この奉先という男はすこぶる気持ちのいい男である。
普段は子どものような無邪気な表情をしているかと思えば、戦場ではまさに鬼気迫る表情で矛を振るう。いや、しかしその中にも童のような無邪気さは健在であるか。
とにかくこの男は戦場が好きなのである。いや、好きかどうかはともかく、肌にあっているのだろう。
鼓膜を震わす怒声や、身体中を突き刺す敵意。その中にあって、奉先は全身全霊をかけて遊ぶ童なのだ。
おかしなことに、俺もまた、そんな奉先を乗せた時の方が、俺単体で走った時より、よほど早く走れるのだ。
 
一方で奉先の武を究めんとする姿勢は、これもおかしなことに学者のそれであった。常に鍛錬を怠らず、どのようにすればより、自身の武を高められるか、毎日の研鑽に余念がない。
俺も散々付き合わされたクチだが、まあ、呆れるほどの努力家である。
人間は奉先を「武の化身」だとか言うが、こんな地道な研鑽を積み重ねる「武の化身」も珍しいと思う。
 
そんな奉先だからこそ、あの女を連れてきたときは、俺は眉をしかめた。
 
ある日、奉先は一人の人間の女を俺のもとに連れてきた。そしてとても自慢げに語るのであった。
 
「どうだ、これが俺の愛馬、赤兎馬だ。こいつはどの馬よりも速く、どの馬よりも強く、どの馬よりも美しい。俺の自慢の相棒だ」
 
(そう思ってくれるのはありがたいがな……)
 
そう思いながらも俺は、奉先によりかかり“しな”を作る女に目がいった。
 
「まあ! さすがは奉先様の駆るお馬。奉先様同様とても力強い体ですこと」
 
俺には分かるぞ。奉先、この人間、腹の底にどす黒いものを抱えている。気をつけろ。もしもお前が……
 
そこまで考えて首を振った。こいつがそう簡単に身を滅ぼすものか、と。
 
と、女の蛇のような細腕が伸び、俺の額を撫でた。
 
「ふふ、可愛い子。赤兎、どうか奉先様に常なる勝利を」
 
そう言うと、女は奉先の腕に自らの体をからめ、二人はその場を後にした。
 
奉先としては、単純に自らの宝物を自慢するつもりであったのだろう。あるいはあの女がねだったのかもしれぬ。
だが、後に俺は悔やむことになる。どうしてあの場で、あの女を噛み殺しておかなかったのか、と。
 
その夜のことだった。
 
「晚上好(こんばんは)」
 
妙な香りとともに、その女は現れた。
何とも甘い香りだ。いや、そういうと聞こえはいいが、果物が腐る寸前の、あのやたらと甘ったるい香りを、その女はまとわせていた。
 
(昼間、奉先といた女だな。ふん、何しに来たのやら)
 
「あら、それはご挨拶ね。私はあなたのご主人様の寵愛を受けた、絶世の美女なのだから」
 
それを聞いて俺は驚いた。
 
「お前、俺の言葉が分かるのか?」
「ええ、伊達に一千年は生きてませんからね」
 
ほお、なるほどな。それで合点がいった。
 
「やはり化生(けしょう)の類であったか。最近奉先がよく口にする『貂蟬(ちょうせん)』とかいうのはお前だな。あいつは『胡蝶の類』とかのたまわっていたが、なんの、毒蛾の類ではないか」
 
俺の皮肉に貂蟬は動じず、
 
「あら、月の仙女は蛾の化身らしいわよ? ま、褒め言葉と受け取っておきましょう」
 
そんなふうに不敵に笑った。
 
「何をしに来た」
 
まともに相手をするとダメな手合いだとわかり、俺は奴の要件をすませようと促した。
 
「そうそう、それなのだけど、一つ聞きたいことがあるの。あなた、奉先様が死んだらどうするつもり」
「ふむ、やはりその頭も羽虫並みと見える。奉先が敗れることなどあるものか」
 
俺の間髪入れぬ答えに、貂蟬は苛立ちを露わにし、舌打ちした。
 
「チッ、これだから脳筋は……あのねぇ、もしもの話をしているの。あの人だって人間なんだからいつかは死ぬでしょう? あなたより先に奉先様が死んだら、そのときあなたはどうするのかって聞いてんの!」
 
ふむ、奉先が死ぬことなぞついぞ考えにも及ばなかったが、確かに生物としての死を逃れることは、いくら奉先としてもできるわけがない。
 
「さてな、まあ、俺は死ぬまで生きるだけだ」
「あら、意外。てっきり後を追って自害するかと思っていたのだけれど」
「なぜだ? 奉先が死んだところで俺は死んでいない、という設定での問いかけだろう? ならなぜ俺が死ななくてはならないのだ」
 
そう答えると、貂蟬はコロコロと笑う。人間にはこの表情が、さぞ魅力的に見えるのだろう。
 
「いいえ、何もおかしなところはないわね。それでこそ、私が目をつけただけのことはある。さすが私」
 
などと意味不明な自画自賛をする。
が、次の瞬間、そう、一瞬でその顔が俺の目の前に迫った。
 
「ね、よく聞いて。あなたは奉先様が死んでも生き残るわ。だってあなたの瞳の中の炎や光は、それだけでは全然消えないもの。新たな乗り手を選び、また煌々と輝くわ。だから、そのときはまだダメなの」
 
貂蟬は、俯いて、何かを思い出すように語った。
 
「私は確かに化け物。仙女になる道も蹴って、ずうっと、世界に“それでも”と言い続けた愚かな化け物。夢も希望も、人間としての暖かさも全てなくして、絶望の淵に立っても“それでも”と言い続けた」
 
そう呟くように言って、再び俺の目を見て言った。
 
「ね、あなたの瞳はそう簡単に死にはしない。でも、あなたの全ての力、全ての希望、全ての願い、そんな全てを出し切ってなお生きたいと願ったなら、あなたもこちら側に来られるかもしれない。その時は……」
 
貂蟬はそういうと背を向けて俺から離れ、数歩進んで、笑顔で振り向いた。
 
「その時は、私たち、お友達になれるかもしれないわね」

 

 

 

結果として、貂蟬の言ったことは現実となった。
 
ある戦場で、奉先は敗れた。
 
俺はこの世で奉先に、武で勝るものはいないと思っていた。
したがって、奉先が負けるのであれば、それはこの世ならざるものであり、なおかつ武によってではない。
だからこそ、貂蟬という女を警戒したわけだが、甘かった。奉先にはもう一つ、決定的に欠けているものがあった。
 
天とか運とかいう奴だ。
 
奉先は全て持っていた。圧倒的な強さ、未来を見通す知将、それらを集めて離さない魅力。全てを持っていた。
 
だが、そんな全てを持っていながらも、天とか運とかいうものだけしか持っていない奴には勝てなかった。
 
(まあ、そういうものなのだろうな。そうでなければ奉先が敗れる理由がない。)
 
俺はこの「結果」をじっくり見つめながら、そんなことを考えていた。奉先を破った軍の戦利品として、どこかに運ばれながら。
 
俺はしばらく脱力していたが、誰かに乗られることをこの上なく嫌った。それだけは嫌だった。奉先以外を乗せることが我慢ならなかった。何人かが挑戦したが、その度に俺は暴れ、乗ろうとした人間をふるい落とした。
 
そんな時、あの男が現れた。
長い髭をたくわえて、驚いたように俺を見据えた。
 
「如何か、関羽殿。これはかの呂布が乗っていた駿馬、赤兎馬だ。これをそなたに差し上げよう。貴公ならば乗りこなせるはず。そして我が陣に加わっていただきたい」
 
奉先を破った曹操という男が、髭の男に俺を引き合わせた。
髭の男は俺をしばらく見つめていた。
俺も奴の目を見た。
どこかで見たことのある目であった。大方奉先にでも挑んだことがあるのだろう。
しかしその目を見ているうちに、初めて奉先に出会った時のことが思い出された。
不思議と、身体中に力が湧いてきた。
こいつを見ていると、まだ走ることができると思えてきた。
 
——その時は、私たち、お友達になれるかもしれないわね——
 
ふと、忌々しい声が、頭の中で響いた。
なるほど、確かに、結果的にあいつの言ったことは正しかったらしい。俺は、まだまだ走れる。まだまだ死ねない。
 
俺の考えに呼応するように、髭の男、関羽雲長は言った。
 
「曹操殿、この赤兎馬、ありがたく頂戴する」
 
奉先、すまない。俺はお前と同じところには行けそうにない。
貂蟬、悔しいがどうやら俺はお前と同じ側に行きそうだ。
 
だが、その時はまだだ。まだ終われない。まだ俺は全てを出し切っていないのだから。
 
そんな俺を嘲笑うかのように、頭の中で奴の声が響くのだった。
 
「大丈夫、まだまだ時間はあるし、あなたのやることはたくさんある。力も希望も過去も未来も、全て出してからおいで」

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
黒崎良英(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

山梨県在住。大学にて国文学を専攻する傍ら、情報科の教員免許を取得。現在は故郷山梨の高校で、国語科と情報科を教えている。また、大学在学中、夏目漱石の孫である夏目房之介教授の、現代マンガ学講義を受け、オタクコンテンツの教育的利用を考えるようになる。ただし未だに効果的な授業になった試しが無い。デジタルとアナログの融合を図るデジタル好きなアナログ人間。趣味は広く浅くで多岐にわたる。


 


2019-12-23 | Posted in 出してからおいで

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