週刊READING LIFE vol.79

朝から晩までゲームセンターにいた廃人によるエア○○のススメ《週刊READING LIFE「自宅でできる○○」》


記事:黒崎良英(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
確かに若かったことが大きい。
少なくとも今よりは体力があっただろう。
時間もあった。
反比例して金はなかった。
回数も数えるだけであった。
 
が、確かに、私は開店から閉店までゲームセンターにいたことがある。
パチンコ店ではない。純粋なアーケードゲームが置いてある店である。
 
朝10時から、深夜1時まで。私は熱狂の渦に身を投じていた。
その時のメインはカードゲームであった。と言ってもボード上にカードを置いてどうのこうのというのではない。カードを盤上で動かすと、ディスプレイの兵士が動いて戦う、という結構最先端のゲーム、「三国志大戦」である。1プレイにつき1枚新しいカードが排出され、それが最高レアリティのキラキラしたカードだった時にはもう、天にも上る心地であった。
 
また、音楽に合わせてボタンを押すリズムゲーム、いわゆる「音ゲー」も大好物であった。画面内で上から落ちてくるオブジェクトに合わせて、タイミングよくボタンを押す系統のゲームだ。「ポップンミュージック」や「ビートマニアⅡDX」、「ユビート」というゲーム群だ。クリアできるかできないか、というギリギリの曲があった時には、もう、へばりつくようにしてプレイしていたものだ。
 
メダルゲームも面白かった。ゲームセンターのメダルは換金ができないためか、少々「甘く」設定されており、結構増やすことができる。
といっても1000円単位でメダルを購入するわけにもいかないので、まず私はスロットマシーンに行く。いや、機械を動かすのが目的ではない。そこに100円を入れると、メダルが4枚出てくるのである。それを元手に、ルーレットゲームでひたすら地道に、それこそ1枚ずつくらい、メダルを増やし、最終的にビンゴゲームに全部の枚数を入れ、消化するという、ある意味かなりコストパフォーマンスの優れた遊興にふけっていた。ちなみに最後のビンゴゲームでは増えた試しがない。
 
いやいや、だとして食事はどうしたのか、と言われると、そこは廃人。多少の空腹は何とかなるし、パンなどの軽食が、実は自動販売機で売っているのである。これで空腹を凌ぐことができる。
 
ゲーセンは良い。実に飽きない。同じゲームを極めても良いし、多様なゲームを少しずつやっても良い。そしてそれだけでなく、見ず知らずの人間を結びつける場でもある。
対戦に協力プレイ。攻略の話。カードのトレード。ま、たまに奇声を発する人もいるけれど、昔のように不良の溜まり場というイメージはない。むしろ同志たちの社交場である。
 
現在ほど高性能なゲームはなかったかもしれないが、それでも私は夢中になっていた。時間の感覚を忘れ、気がつけば閉店時間だったほどに。
 
というふうに、屋内に止まり続けるということは、私にとってそこまで苦痛ではない。むしろ「はい! 喜んで!」である。まさか家から出ないことが推奨される事態になるとは、到底思わなかったが……
 
確かにこれはこれでインドアであろう。一つの建物内に引きこもっていたという点では、外出していないことにもなる
 
が、これは当然ながら自宅ではない。専門施設ならではの楽しみである。
家庭用ゲームは大人気ではあったが、自宅でゲームセンターのような、特に社交場としての機能は、再現ができなかった。
当時はオンラインゲーム、特に多人数で協力して攻略するようなMMORPGという形式が確立されてきた、初期の時代である。通信対戦などを含めて、まだそこまでネットを介してのゲームは、一般的ではなかった。
また、スマートフォンも出現していなかった。いわゆるソシャゲも、簡単なものしかない、そんな時代であった。
 
家庭用ゲームはあくまで家庭用、ゲームセンターはあくまでゲームセンター。その区分がまだできていた。
 
しかし、昨今の通信技術の発達が、家庭でのゲーム事情を一変させた。
大容量の通信が可能となり、複数人プレイの遅延は少なくなり、ゲーム機の性能向上に合わせて、さながらネット上のゲームセンターとも言える様相を見せてきた。現に、私も1日中、本当に12時間以上、家でゲームをしていたことがある。いや、今はしていませんよ、ホントに。
 
とにかく、ゲームセンターとは似て非なるものとは言え、自宅でのゲームは限りなくアミューズメントであり、ゲームセンターに勝るとも劣らない価値と時間を生み出した。まさに「自宅で行けるゲームセンター」である。
 
とは言え、「新型コロナウィルスの影響で外出自粛が要請されているので、家で1日中ゲームをしているとイイよ!」なんてオススメするわけにはいかない。
それは、何というか「訓練された廃人」の所業であって、一般人、特に将来ある若者には真似して欲しくないものである。
ただでさえ、一日中スマートフォンにかじりついている中高生の姿勢が問題になっている世の中なのだから。
プロゲーマーでもない限り、あまり健全的な行為とは言えず、オススメできない。
 
ただ、ここで言いたいのは、「意外と何でも家でできる」ということである。
現代の技術革新が自宅をゲームセンターに変えたように、森羅万象おおよその者は、エア○○として再現できるのではないだろうか。
 
テレビ会議システムを使った「オンライン飲み会」。
ヴァーチャルリアリティの技術を使った「V R登山」。
家の中でキャンプ道具を広げる「家キャン」。
その他にも、様々な試みがなされている。
 
そんな中、私が注目したのが「エアコミケ」である。
 
コミケ、すなわちコミックマーケット。今では一般の人にも存在が知られるところとなった、最大の同人誌即売会である。
その経済効果は開催期間(基本3日間、現在は4日間)のうちに億単位の金が動くほど。
1回の開催で総計70万人以上の参加者数となり、その規模、人数、そして内容の異質さから、一般メディアも特集をするなど、知名度はどんどん上がってきている。
 
夏と冬に1回ずつ開催されるのだが、2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開催される予定だったため、本来の開催日より早く、5月の連休中に開催される予定となった。
 
だが、新型コロナウィルスの猛威が広がったことにより、第98回コミックマーケットは、残念ながら中止となってしまった。
 
しかし、これで同人誌の火を萎えさせるオタ……もとい、同志たちではない。なんと準備委員会は、「エアコミケ」として、ネット上でコミケを楽しもうという企画を打ち出したのだ。
 
現地で行われる大規模イベントを自宅で、とは何のことを言っているのか分からないと思うが、準備委員会をはじめ、サークル参加者、来場者、企業、印刷所までも巻き込んで、オンライン上で本来開催されるはずだったイベントを楽しもうという企画である。
 
例えば、サークルとして同人誌などを販売しようとした側は、その販売予定だったものをTwitterなどで告知している。また、サークルブースを家の中に設置し、それを写真で投稿している方々もいた。
コスプレで参加しようとしていた人は、自宅でのコスプレ写真や、動画配信告知、さらには、実際によくある「○○にいます」という居場所を教える投稿もしている。もちろんこの場所というのは、本来のコミケ会場であるビッグサイト付近の位置を、「エア」で指しているわけである。
一般参加者は、購買予定だったものをリストで提示し、印刷会社も「エア搬入」の写真を上げるなど、面白い投稿をしている。
 
委員会の方も、動画投稿サイト「ニコニコ動画」内を本部として、実際に流れる会場アナウンスを流したり、コミケカタログ1300ページを4日間人力でめくるという謎の偉業を企画したり、と、「平常運転」で運営している。
 
ウェブ上のカタログでも、サークル参加者の見本が見られたり、本来設置する予定だった場所の地図が見られたり、と、エアだからこそ、いつも通りの機能を備えている。
 
ここからは、参加者たちの同人誌愛がひしひしと伝わってくる。
みんな、コミケが大好きなのだ。だから、自宅であろうとどこであろうと、コミケに参加したいのだ。
そう、対象が何であれ、愛情と熱量があれば、「エア○○」は可能なのである。それは技術の発展だけで可能となったのではない。どうしようもないまでに純粋な、愛情と熱量があってこそ、可能となったのである。
私の場合、それがゲームだったので、さながら「エアゲーセン」をしていたのかもしれない。
 
外出自粛要請の中、本来したかったことができない方も多いであろう。特にアウトドア系統が趣味の方は尚更だ。
だがそこに、それにかける愛情があれば、それがどうしようもなく大好きならば、「実行」は可能である。無理に外に出るのは、それを大好きなことにはならない。もし、本当に大好きなものがあるのなら、あなたもこの機会に「エア○○」をしてみてはいかがであろうか。
 
今ある物を駆使し、ぜひ全力でエアを楽しみ、健全に家に引きこもっていただきたいと思う。
対象をどれだけ愛し、それができることがどんなに幸せなことか、身にしみて感じることができるだろう。
そして事態が打開された暁には、それらへ注ぐ情熱も、より強くなっているはずである。
当たり前のように楽しめていたことに感謝し、噛み締めるようにそれを楽しむことになるのではないだろうか。
そして今回を機に、新しい楽しみ方を発見するかもしれない。それこそ、大好きな人の新たな一面を発見するかのように。
 
さあ、今日も家で「エア」を楽しもう。近い未来に、また夢中になれる日が来ると信じて。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
黒崎良英(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

山梨県在住。大学にて国文学を専攻する傍ら、情報科の教員免許を取得。現在は故郷山梨の高校に勤務している。また、大学在学中、夏目漱石の孫である夏目房之介教授の、現代マンガ学講義を受け、オタクコンテンツの教育的利用を考えるようになる。ただし未だに効果的な授業になった試しが無い。デジタルとアナログの融合を図るデジタル好きなアナログ人間。趣味は広く浅くで多岐にわたる。

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2020-05-11 | Posted in 週刊READING LIFE vol.79

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