40年前の秘かな夢を今叶える《週刊READING LIFE「自宅でできる〇〇」》
記事:[名前](READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)記事:深谷百合子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「今度色々話を聞かせてくれない?」
4月に入って間もない頃、オランダに住む友人から久しぶりにメッセージが来た。彼女は元医者で、今はセラピストをしながら、SNSで日々様々なメッセージを配信している。今回、紆余曲折のある私のキャリアについて、そこに共鳴する人がいるかもしれないということで、インタビューをさせて欲しいというのだ。
対談を録音して、その日の夕方。彼女から送られてきたその音声ファイルには、心地よい音楽がのせられ、落ち着いた雰囲気の彼女の声と相まって、何だか素敵なラジオ番組のような感じに仕上がっていた。
心地よい音楽と彼女の声、そして、その中で繰り広げられた彼女と私との会話を聞いている内に、どこかで味わったことのあるような感覚が蘇ってきた。これを聞いていてくれる人が世の中のどこかに居て、その内の誰だかは分からないけれど、「私もそう思う」と共感してくれる人が居るかもしれない。
あぁ、そうだ。40年前に聞いていたラジオの、あの雰囲気だ。
40年前、当時私は高校受験を控えた中学3年生だった。
試験前になると、勉強と称してよく夜更かしをしたものだ。茶の間でテレビを見ているわけにはいかないから、自分の部屋でラジオをかけ、テレビの歌番組ではなかなか聞くことのできなかったニューミュージックや洋楽を聞くのが楽しみだった。深夜という時間帯、そして、ラジオの向こうの少し大人びた世界にワクワクした。
当時、ラジオの深夜放送は人気があった。そして、私の住んでいた東海地方には、後に全国区で有名になるようなディスクジョッキー(以下DJと言う)が何人か居た。リスナーのハガキに答える彼らの軽妙なおしゃべりにクスっとしたり、時には勇気づける言葉に励まされることもあった。
音楽を選曲して、自分の言葉で紹介する。DJの仕事って何だか面白そう。私は秘かにそんなことを思っていた。
大学生の時、英語の教材を探していて、たまたま「君もDJになれる」と題した教材を目にした私は、本気でDJになるつもりはなかったけれども、あの中学生の時にワクワクした感じを思い出して、なぜだかやってみたくなった。
届いた教材には、当時流行っていたハワイのFM局のDJのように、軽快なテンポと絶妙な間合いで曲や番組の紹介をする「音声教材」が詰め込まれていた。カセットテープから流れる見本の音声は、一瞬で注意を引くような格好良さがあった。曲のイントロが終わるまでの短い時間で、その曲の魅力を伝える言葉選びといい、メリハリのある口調といい、全てが格好良かった。
かなり早口の英語だから、自分でしゃべるとなると、舌がもつれてなかなかついていけない。それでも、何度も繰り返す内に、少しずつできるようになる。カーステレオで自分の好きな曲をかけながら、イントロの間に「Hi, how is everybody? I am Yuriko. Today~」とDJになりきって曲を紹介してみる。そんな「DJごっご」をするのがお楽しみだった。
その後、社会人になり、ラジオを聞く機会は減っていった。時代も移り変わって、家からラジオが姿を消し、ラジオをつけるのは高速道路で道路情報を聞く位になってしまった。
そんな私に、ラジオの良さを思い出させてくれたのが、私との対談を録音して配信した友人の「ラジオ番組」だった。
録音された自分の声を聞くのは、こっ恥ずかしいし、あまり好きではない。
けれども、「百合子さんも声いいし、滑舌いいから、DJ向いてるかも?」とおだてられて、ちょっと興味が湧く。
「これ、どうやってるの?」
「Pod castだよ」
「BGMはどうしてるの?」
「配信用のアプリがあって、そこで色々選べれるのよ。なかなか素敵な音楽があっていいよ。あとでリンク送ってあげる」
「Pod castとは何ぞや?」というレベルだった私は、こうして友人に教えてもらった方法で、早速BGMを流しながら自己紹介の録音をしてみた。
単に録音しただけの自分の声を聞くのはいたたまれないものだが、BGMがついていると、急に雰囲気が変わる。
「おー、なかなかいけるじゃん」
ゆったりしたジャズ調のBGMが40年前の深夜番組を連想させる。
「すげー、DJじゃん、私」
落ち着いたしっとり系の語り口でも良し、学生時代にやったようにFM局のDJ風に軽快に語るのも良し。インターネットで配信して、聞いてくれる人が居れば、もはや「DJごっこ」ではなく、本当のDJだ。
すっかり調子に乗って、「何かいいぞ~」と思うと、これを使ってやりたいことがムクムクと湧き上がってくる。
最近は動画が流行りだし、伝えられる情報量が圧倒的に多いから、動画配信も魅力的だ。けれども、動画を配信するならクオリティが気になる。顔出しするなら身だしなみも気にするし、背景に映りこむものにも注意が必要だ。
それに、今のこのご時世で、美容院にも行けずに中途半端に伸びたヘアスタイルだと、顔出し動画配信はかなり抵抗感がある。
その点、音声配信は声だけだから、ハードルが低い。さらに、配信される側も、聞くだけだから、歩きながら、運転しながら、家事をしながら……と気軽に聞くことができる。
これはやらない手はない!
そう思っていくつか企画を練ってテストしている内に、すぐに壁にぶつかった。記事や動画なら、画像を使って説明できることも、言葉だけだと思うように伝わらない。長ったらしい説明になると、途端につまらなくなる。リスナーが簡単にイメージできる言葉を選んで、端的に伝えないといけないのだ。
誰かと対談形式で話をする時は、要所要所で仕切らないと、だらだらした単なるおしゃべりになってしまう。人数が多くなると、コントロール不能になる。
私、DJっていう仕事をなめてたな。
単に自分の話したいことを話しているだけでは、「ラジオ番組」ではない。リスナーが聞きたいと思う話は何だろう? 尺は何分位が限度だろう? 話すテンポはどれ位だったら聞き心地がいいんだろう? そんなことを試行錯誤しながら、ベストな解を見つけていくしかない。尺が長くなったら、どこをカットするのかにも頭を悩ませる。違和感のないように話をつなげていかなければならない。
音声配信は、とっかかりのハードルは低くても、リスナーに届けたいコンテンツにするのであれば、やはり周到な準備と心構えは必要なのだ。
それでも、私はこの自作ラジオ番組の配信を、自分の新しいチャレンジとして続けていこうと思っている。インターネット配信だから、世界中に届けることができる。英語でだって、中国語でだって、やる気になれば配信できる。もちろん、字幕をつけられないから、発音練習は必要だけれど……。自信のある人はチャレンジしてみたら面白いんじゃないかと思う。
誰か一人でも、自分の放送を聞いて、クスっと笑ったり、「そうだよね」と共感してくれたら、とても嬉しいことだ。
高解像度のwebカメラも、撮影用のライトもスクリーンも、一切必要なし! 編集だって動画と比べたら圧倒的に簡単だ。誰でも気軽に始められて、「見た目じゃない、中身で惹きつける」音声配信。
あなたも「お家DJ」になってみませんか?
□ライターズプロフィール
深谷百合子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
愛知県出身。
6年前から中国で工場建設の仕事に携わる。中国での仕事を終えたあと、自分は何をしたいのか? そんな自分探しの中、2019年8月開講のライティング・ゼミ日曜コースに参加。
もともと発信することは好きではなかったが、ライティング・ゼミ受講をきっかけに、記事を書いて発信することにハマる。今までは自分の書きたいことを書いてきたが、今後は、テーマに沿って自分の切り口で書くことで、ライターズ・アイを養いたいと考えている。
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