第9章 ついてまわるお金問題〜起業にはお金がかかる?《ママ起業のリアル》
記事:ギール 里映(READING LIFE編集部公認ライター)
あともう1ヶ月で、6ヶ月になる。起業塾の契約期間は半年、その5ヶ月めになりました。まだ売り上げは一円もあがっておらず、焦りはじめました。
起業塾というところは、売り上げ保証があるわけでもなく、返金保証があるわけでもありません。払ったお金が回収できないからといって、自分が塾に投資したお金は、戻ってくることはありません。
私が参加した起業塾は、半年の契約期間でした。契約更新もできるのですが、それには条件がありました。その条件とは、最初に払った金額の半額を更新費用として、さらに半年間延長ができるというもの。またもう一つの条件は、月商7桁を達成すると、更新費用はなしで継続できるというものでした。
当然、月商7桁を達成したら更新費用がなくなるのですから、達成したほうがいいわけです。しかし時間はあと1ヶ月しかなく、7桁を達成できる目処はまったく立っていませんでした。
また最初にした夫との約束も半年。半年がんばってどうにもならなかったら、起業塾にいくのはやめて元の生活に戻る、みたいなことを、夫は口に出していうことはなかったですが、そう思っていたみたいです。
反対に私は全く止める気も諦める気もなく、半年すぎたらそのままなし崩し的に続けていくつもり満々でした。それも夫なら許してくれるだろうという夫への信頼があったことももちろんですが、それよりもなにより、せっかく始めてここまで作り上げてきたのに、このタイミングで止めるつもりなどまったく考えられなかったのです。
しかしあと1ヶ月で期限が切れて、更新するにはお金がかかる。当時毎月50万円の赤字を生み続けるお店を経営していたわけですから、そこにさらなる出費など、できるはずがありません。そうなるとあと1ヶ月でなんとしても月商7桁を達成するしかない。ぎりぎりのところまで追い込まれていました。
月商7桁とは、つまり100万円のことです。100万円とは、サラリーマンの平均年収が400万円ほどですから、その約4分の1にあたります。それをあとたった1ヶ月で達成するなんて、なかなか無理な話です。そして更新にかかる費用は27万円。最初に払った54万円の半分ですから、それでもOLさんの1ヶ月分のお給料ぐらいあります。お金のことを考えはじめたらきりがありません。生活がかかっていますから、自分に投資できるお金には限界があります。しかし、お金をかけないとどうにもならないこともある。どこまでお金を投じるのか、その見極めどきにぶち当たったわけです。
お金は天下の回りもの、投資したらその分、いやその何倍も回収できるものだ、と言われますが、それを体験したことがない身としては、にわかには信じがたい。
起業塾に大金を払って入塾したものの、売り上げがまだ1円も上がらないばかりか、出費ばかりが増えていきます。
これがなきゃ仕事にならないからと、新しいノートパソコンやスマホを購入しましたし、人とのご縁を作ることが大事と言われ、塾のあとの懇親会、異業種交流会やパーティの参加費が毎月そこそこかかります。
ブログを開設するからとサーバー代がかかり、メルマガを書くからとメルマガサービススタンドへの毎月のコストがあります。また起業合宿なるものがあり、こういうものはやっぱり行ったほうがいいのかなと思って出費します。
起業初期とはいえなんやかやと、出費がかさんでいくのです。
もちろん強制ではありませんから、出費しなくてもいいのかもしれません。しかし起業するなら必要経費かもと思うと、そこに出費しない理由はない。なるべく出し惜しみもしたくなかったので、かけるべきところにはお金をかけました。
起業すると収入源は、自分の売り上げたお金だけです。会社員のように、仕事をしてもしなくても毎月決まったお金をいただける保証は一切ありません。自分が仕事をして稼いだ分が自分の収入となります。そのため、たくさん稼いでも、ほんの少しでも、それが全てになります。きちんと稼ぐことができたらいいですが、とくに最初はなかなか行動が売り上げに結びつかず、そのときに投資だけが嵩んでいくと、心身ともに疲労していきます。
本当にこのまま、出費だけが続いて大丈夫なんだろうか。
自分がやってることは、間違ってるのだろうか。
どこまで出費を続けていかなきゃいけないのだろう。
そんな不安がよぎります。
またお金の不安から、自分がもしかしたら騙されているんじゃないか、うまいことを言ってお金を巻き上げられているだけじゃないのかと、全てに対して疑心暗鬼にもなったりもします。そういう思考になったらうまくいくものもうまくいかないと、いま振り返るとわかるのですが、当時はそうも思えず、ただ嵩んでいく出費に対してもやもやし続ける毎日でした。
それでも私はまだ、「金は天下の回りもの」的な考え方を、素直に理解することはできたのです。なぜなら実家は老舗の料理屋、祖父の代からずっと商売をしてきた家ですから、商売することについてはいくばくかの理解がありました。また私は前職は現代美術画廊に勤務していました。就職したのでお給料をもらう身でしたが、画廊のやっていることは商売です。ただ絵を並べて展覧会をしているのではなく、実際に美術品をお客様に買っていただくお仕事です。つまり私は生まれてこのかたずっと商売の世界に身を置いているので、商売人的な考え方というものは、まだ身近に感じられました。これがもし、公務員の家庭で、商売をするということがどういうことかがまったくわからない環境で育った人だったら、とてもじゃないですが理解できなかったかもしれません。
私は普通に企業に就職をしたことがほぼありません。大企業でOLをした経験もないですし、ましてや公務員の経験もありません。「お勤め」はしましたが、いただくお給料がお目当ての就職はしたことがなく、いつもその仕事が面白そうかどうかで仕事を決めて来ました。
そもそもは実家の料理屋を継ごうと思っていたのです。しかし大学を卒業するときに、実家の料理屋はバブル経済の崩壊後に商売がかなり難しくなり、借金こそはなかったものの、これ以上続けていくことが難しくなりました。そして父は、あっさりと店を閉めてしまいました。
そのため私は普通の就職をしなくてはならなくなりました。関西の私立大学に通っていたので、友人たちは当たり前に就職を決めていきます。関西ではそこそこ名前が通っている大学でしたから、皆大手企業に仕事が決まっていきます。
しかし私は稼業を継ぐ気でいたのですから、そもそも就職する心算がありません。そこで無理やり就職しなければならなくなり、なおかつ就職活動にも1年以上出遅れていました。自分のやりたいことも見つからない。就職活動をしようにも、就職したいと思える会社を見つけることもできず、またやりたい仕事がなにかもわからず、途方にくれた挙句に留学することにしたのでした。
3年間をイギリスで過ごし、日本に帰ってきました。その後なにか手に職をつけたいと、何かが身につく仕事についてきました。家がそもそも商売人の家でしたから、やはり就職をして月給をいただく仕事というのにしっくりいかず、編集やデザイン、ウェブデザインなど、スキルが学べる仕事を転々とし、2000年に東京に引っ越してからは画廊で商売を学んできました。
そのおかげで、自分が誰かに物を販売して売り上げをえるということには慣れていたはずなのですが、いざ自分が起業をしてみると、それがいかに難しいかを思い知ったのでした。
どうやってモノを売ればいいのかが、わからないのです。
買ってください、と言って素直に買っていただけるようなものではありませんし、そもそも買ってくださいということに、とてつもない抵抗があります。なぜか押し売りをしているような気がして、自分の商品をうまく勧めることができないのです。
つまり、クロージングができないのです。
営業を経験したことがある方ならわかると思いますが、物を勧めて買っていただくには、クロージングが必要になります。生活必需品や日用品を販売するのにクロージングは必要ではありませんが、商品、いわゆる講座や情報商材を買っていただくには必ず、クロージングトークが必要になります。
私は商売がどういうものかはわかっていたつもりですが、いざ自分が何かを売るとなると、具体的にどうすれば売れるのかがわからず、クロージングがまったくできない状態だったのです。
お客様と出会い、お客様の話をきいて、一生懸命商品を勧めてみるも、なかなか購入にはいたりません。こちらは一生懸命やっているつもりでしたが、かならず最後には「ちょっと考えます」「いま、お金がないんで」「夫に相談します」と言って断られるのです。
一度断られたらそれをどうひっくり返していいのかわからず「そうですか」と言って引き下がるしかない。何人ものお客様に断られ続け、私はますます自信を失っていきました。
人の役に立つと思い、一生懸命作り上げた講座でした。自分が学び実践してきたことのエッセンスを全て詰め込み、自分が膨大なお金と時間をかけて学んできたことが、たった3ヶ月で学べるようにまとめあげられたものです。またほかの講座との差別化をはかるため、手厚いサポートをつけて個別の悩みにも対応できるようにプログラムを組み上げました。
昔の自分ならぜったいに欲しい、と思う講座に仕上がったのに、お客様にはそれがまったく伝わらず、なかなか買ってくださる方に出会うことができずにいました。さすがに心が折れそうになりながらも、それでも愚直に続けてみました。営業職の経験がなく、実はこの頃まだクロージングという単語すら知りませんでした。何をどうしたらいいのかもわからぬまま、ただ毎日体当たりでお客様に接していました。
そしてついに、6ヶ月が経ちました。起業塾の契約終了の時期がやってきました。まだ売り上げは一円も上がっていません。
ついに、来たか。どうしよう。もしかしたら、向こうが時間を勘違いしてくれないかしら。自分の努力を買って、更新費用をまけてくれないかしら、と都合の良いことを考えていたら、早速メールが届きました。
「今月末で契約が終了になりますが、どうしますか」と。
自分の淡い期待は、みごとに砕かれました。無情にも契約更新の意思を確認するメールが届き、72時間以内に返事をしてほしいと書いてあります。そこで私は一も二もなく、すぐに返信したのです。
「はい、継続いたします」
そして契約更新のために、27万円を支払いました。なけなしのお金でした。もう銀行口座には余剰の資金は一切残っていませんでした。これでだめだったら、もう店も閉めるしかない。両親に泣きついて借金をしなければならないかもしれない。夫ももしかしたら、少しぐらいはお金を貸してくれるかもしれない。いざとなったら、頭を下げよう。そんな覚悟を頭の片隅でしながら、ネット銀行から更新料を振り込んだのでした。
新たに手に入れた6ヶ月。もう後がない。もう、なるようになるしかならない。
そんな思いで臨んだ7ヶ月目、そこでいよいよ最初の売り上げがあがったのです。
30万円。ちょうど、更新に支払った金額と同じぐらいの金額です。つまり私は更新費用と引き換えに、ようやく最初の売り上げを手にすることができたのでした。
この時に学んだことは、お金は使い道が決まっていたら必ず入ってくる、ということでした。
使い道をよく考えず、なんとなくお金を稼ぎたいというのでは、お金というものは入ってきません。お金はどう使われるのかという使い道がはっきりしていて、その使い道に賛成した場合にだけ、その人のところに入ってくるのです。お金には意思があります。お金は自分の好きな使い道をしてくれる人のところにやってきます。だからただタンスに貯めておきたい人のところには、あまり入ってこようとはしない。また、間違ってお金がたくさん入って来る人もいますが、そういう人は、お金で身を滅ぼしてしまいます。
自分で稼ぐということは、お金というエネルギーとどのように付き合っていくのかを、自分で決めるという責任が伴うことです。また責任が伴う分、自分の生き方に自由が生まれるということです。責任と自由はいつも背中合わせで、それを体感できるのが起業をするという生き方であることを、この30万円は私に教えてくれました。
起業でうまくいくコツがもしあるとすれば、それはお金に対する考え方をがらりと変えることかもしれません。起業する前と同じ考え方を持ち続けていたら、起業がうまくいくことはきっとないと思います。
《第10章に続く》
頑張るママのお助けレシピ
家計に優しい!絶品もやしラーメン
材料 3人分
ラーメン玉 3個
具(もやし、ねぎ、お好みでチャーシューなど)スープ
水 1リットル
昆布 葉書3枚分
もやし 4袋
醤油 大さじ2〜
お酒 大さじ1
塩 こさじ1〜
胡椒 少々<作り方>
1 スープを作る。水に昆布を浸し、そのまま一晩おく。
2 1の出汁を火にかけ、沸騰する直前に昆布を取り出す。そこにもやし4袋をどかっと入れて煮立たせる。
3 もやしが柔らかくなるまで火が通ったら火を止めて、スープをざるで漉す。このもやしは旨味が出来ってしまって美味しくないので食べなくていいです。
漉したスープにお酒、醤油、塩、胡椒を入れて味を整える。
4 別の鍋にお湯をわかし、ラーメンを茹でる。もやしも茹でておく。ネギは小口切りにしておく。
5 ラーメンが茹で上がったらラーメン鉢に盛り、具を乗せてスープを入れる。*もやしは、旨味成分の多い野菜なので、ものすごく美味しい出汁がでます。
*もやしは一袋数十円から100円ぐらいで買える安価な食材なので、家計にもあんしんです。
*醤油の量はお好みで調節してください。ラーメン用には少し濃いめがおすすめですが、薄めにするとスープとしても美味しく召し上がれます。
❏ライタープロフィール
ギール 里映(READING LIFE 編集部公認ライター)
食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、2015年にゼロから起業。現職は食べるトレーニングキッズアカデミー協会の代表を勤める。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。
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