ママ起業のリアル

第16章 伝える力〜人前で話すことが苦手《ママ起業のリアル》


記事:ギール 里映(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
「人前で話すのって苦手なんです」
 
ほとんど100%のママ起業家たちはいいます。文章を書くのが苦手、写真を自撮りするのが苦手、WEBが苦手、パソコンが苦手…… とにかくたくさんの苦手だらけのなかで、人前で話すことが得意という人はかなり稀です。
 
私はその稀な人の一人でした。というのも中学時代は演劇部、高校時代は軽音楽部に所属し、人前でセリフを言うこと、楽器をひくこと、歌を歌うことに慣れていました。むしろステージに立ちたいと思うタイプだったのかもしれません。緊張はもちろんしますが、それが苦手、もしくは嫌いとは思ったことがありませんでした。
 
のちにこれはとてもレアなケースで、講師業を志す時にはかなりのアドバンテージになるということがわかりました。蓋を開けてみたら、自分以外のほとんど全員が苦手と言っていることを知り、そうか、普通は苦手なんだと認識したぐらいです。
 
私は子どものころから、臆さずに自分の考えや思っていることを口に出すタイプでした。ストレートに言いますし、またズケズケともいうので、それで人間関係を構築することがとても難しくなりました。私が生まれ育った街京都では、思ったことをそのまま口に出す人はあまり受け入れてもらえません。いわゆる”空気を読む”ことが大切で、感情を正直に表現することはいけないことだと、暗黙の了解で教えられていたように思います。
 
そのなかで私は、何も気を使わずに意見をいうものですから、友人たちから仲間外れにされることがよくありました。昨日までは普通に話していた友人が、次の日からまったく口を聞いてくれなくなるようなことがよくあり、その度に心が壊れ、閉ざされていくのを感じていました。
 
しかし当時それがなぜかはわからず、ただただ自分の言葉で傷つけてしまったのであろうと推測し、自分が言ったことで人が傷つくのであれば、もう絶対に自分の意見を言わないでおこうと小学生のときに決心しました。これが私の人生をいろいろとねじ曲げる大きなきっかけだったことはこの時は知る由もなく、それからは何を訊かれても自分の感情をあらわさず、その場に合った正解を口にするようになりました。幸か不幸かそのあたりの頭の回転の良さがあったおかげで、何をどう聞かれても綺麗にとりまとめて言葉にして伝えることができるようになってしまったのです。
 
自分の感情を隠して話す言葉。感情や本当の気持ちは隠しているけれど、知性を持った言葉にすればそこそこ聞いてもらえます。そのため私は、賢く伝えることがどんどんうまくなっていきました。幸い今でも、「ギールさんの話し方は知性を感じる」と言ってもらえることが多く、これは肯定的に受けとめてもいるのですが、しかしこれが実は肯定的な意味ばかりではないことに、もっと後になってから気づかされるのでした。
 
しかしこのうまく喋れる力は、起業したときにはかなりプラスなことでした。
ほとんどの方がモゴモゴと言いたいことが言えないのですから、そこで発言できるというだけで人は耳を傾けてくれました。以前にこのママ起業のリアル連載にて、起業家の合宿でプレゼンをして、賞を4つ獲得したことをお話ししましたが、その裏にはこの、人前で臆さず話すことができるという特技があったからではないかと思います。この合宿がきっかけで私は、確かに大きな変化を手に入れることができたわけですから。
 
 

冷たい人、怖い人


人から自分が一体どんな風に見られているのか。起業をするまでそんなことは全く気にもならず、どうでもいいことだったのですが、起業をしたとたんに気になるようになりました。
 
起業をするということは、自分から積極的に人や社会と関わりビジネスを構築していくということですから、人にどんな印象を与えているかは重要な問題です。一人で黙々と仕事しているだけなら仕事ができれば別に充分ですが、個人起業主だろうと中小企業の社長だろうと自分が業を興すのであれば、人に良く見られておいたほうがいいわけです。
 
「はじめは怖い人かと思った」
と私はよく言われます。はじめは、というのは、よく知っていただけたらそんなに怖くないとわかってもらえるようですが、とにかく初めはそうじゃない。ハッキリとしたもの言いだったり、臆さず発言するところで、人は私のことをちょっと怖いと感じるようです。
 
これじゃ、だめじゃないか!
 
もちろん、ビジネスでは人に舐められてもダメなので、少々強面であることは悪いことではないと思います。しかし人が近寄れないぐらい怖いのであれば、それは本末転倒、むしろ仕事にマイナスになってしまいます。
子どものころからもそう言われてきましたが案の定、大人になってからも言われるということは、私が怖く見えるのは筋金入りなんだと思います。
 
最初は怖く見えているにもかかわらず、ビジネスを応援してくれる仲間ができたり、またサービスを購入してくださるお客様がいるということは、最終的には「ギールは怖くないんだ」ということを知っていただいているのだろうと推測します。しかしきっと怖いから近寄りたくないと思う人もいるはず。そりゃ世界の人全員に好かれたいとは思いませんが、少なくとも自分が大切に思う人や関わりたいと思う方からは、怖い人というよりは魅力的な人として見られたいものです。そう気づいた時に私は、今のままの伝え方ではこれ以上どうにもならないということに気づいたのでした。
 
 

話し方を学ぶ人はいない


学校教育のカリキュラムのなかには、話す技術や練習、また伝える力を養うという学びが一切ありません。世界を生き抜くために必須の技術であるにもかからず、日本の教育制度の中では話し方の授業がありません。というのも、先生たちもそういう教育を受けていないし、カリキュラムもなかったので、誰も教えられないというのが現状でしょう。
 
しかし私は話し方を学ぶことが大事だと気づき、まずやったことはボイストレーニングでした。学ぶ時は必ずプロから学ぶことを信条としているので、最初に独学はやりません。そうすることでお金はかかっても、効率よく素早く自分が求めるゴールにたどり着くことができることを、過去に多くの学びをしてきた経験から知っているからです。
 
正直言ってこれから起業をしようとするママたちのなかで、いきなりボイストレーニングに行ったのは私ぐらいではないかと思います。言葉で伝える力を身につけることが大事だと直感的に感じていたのでしょう。今振り返ると不思議なのですが、当時はそれがベストだと判断したのだと思います。
 
ボイストレーニングのおかげで、話すことにいくばくかの自信が持てるようになりました。私はとても早口で、つるつるっと言葉を滑らせてしまい滑舌が悪くなる癖があります。これらは自分で自覚していた癖で、それをまずは克服したいと思いました。まずは3ヶ月、週に1度はレッスンに通い、自分の話し方の癖を少しずつ克服していきました。この体験、学びは予想以上に自分に自信をもたらしました。
 
 

テクニックの向こう側


うまく話せるとか、滑舌がいいということは、人に伝える立場としては必須なスキルというか、手に入れたいものだと思います。アナウンサーのように美しい声で澱みなく話すことができたらどんなにいいかと、単純に思ってしまいがちです。
 
しかし、きれいに伝えることと、しっかりと伝わることは、果たしてつながるのでしょうか。
 
答えはノーです。
綺麗な滑舌で正しくきちんと伝えると、確かに聞きやすく感じるかもしれません。しかしそこに自分の感情が込められていなかったら、実は聞いている方の心は動かないのです。
 
アナウンサーたちがニュースやお天気情報を伝えているときに、感動が生まれるかといったらそうではありません。確かに情報は正確に伝えられるかもしれませんが、そこに人間らしさや心の動きを感じることはできないのです。
 
しかしどんなに素人であっても、心からの想いや感情が言葉に乗せられて表現できていたらどうでしょう。たとえ子どもであったとしても、心からの言葉や魂の叫びを乗せたスピーチは美しくて心に響くし、泣きながらでも一生懸命訴える声は私たちの心を突き刺します。
 
伝わる言葉というのは、綺麗な言葉や正しい言葉ではないのです。
少々拙くて儚げでも、心からの想い、感情がそこに乗っかっているのであれば、そのほうがよっぽど伝わります。それをダイレクトに感じさせてくれるのは歌だったりします。歌が上手い人というのは、歌う技法がすぐれているのではなくて、どれだけ魂にソウルが込められているかどうか。いくらカラオケでうまく歌えたとしても、それが人を感動、感応させるかと言ったらそうではなく、むしろジャイアンのように下手でも思いがこもっていれば、そのほうが人の心を揺さぶるのです。
 
 

伝わる言葉を生み出す力


起業家に必要なのは、言葉の力です。言葉で伝える力です。
言葉にはパワーがあります。ものすごい殺傷力を持った武器のようなものです。
 
たった一言で世界を変えるインパクトすらあります。歴史人物たちの名スピーチやアフォリズムは時代が変われど、いまだに人の心を揺さぶり続けていますし、テレビでよく耳にする宣伝広告の文言はなぜか記憶に残る。それほど言葉の力は無敵なのです。
 
また反対に、言葉は別の意味で世界を変えることがあります。武器ですから、伝え方を間違えるととんでもないことになります。人を傷つけてしまうばかりか、自分まで傷つけるかもしれません。SNS上の中傷・誹謗が原因で自殺までしてしまう芸能人もいるぐらいですから、言葉の使い方という観点において、私たちは本当にそれを学んで身につける機会がないことがわかります。
 
文章にして書く言葉については、文学という芸術もありますし、文章講座やライティング講座など、学ぶ機会もたくさんあります。また書く文章は紙やデータの上に残りますので、その分、気を使うのかもしれません。一方、話す言葉は話が終わったらその場で消えていきます。そのせいかどうかはわかりませんが、人は書く言葉には神経を尖らせるけれど、話し言葉では書き言葉より、言葉への配慮が手薄になるのではないかと思います。物理的には残らないから意識が及ばないのか、それとも話し言葉を単純に磨く機会がないのか、美しく届く言葉を話し言葉で届けることができる人は、少数なのではなかろうか。
 
原田マハの、『本日は、お日柄もよく』という本があります。
これはスピーチライターである主人公が政治家のためのスピーチを考えるというストーリーで、話す言葉の力をまざまざと見せつけてくれる書籍でした。
起業したばかりの頃私はこの本に出会い、大きな感銘をうけました。
 
感銘というより、気づきというか、きっかけというか。
この本のおかげで私は、話し言葉に魂を乗せることがいかに重要かが肚落ちしたのです。ボキャブラリーのチョイスはもちろん、声の出し方、話し方、抑揚、強弱、話の順番など、話す言葉における言葉の力を、いやと言うほど知らされました。
 
起業を志す人にとって、話す言葉で相手の心を射抜く力は、ものすごく大きな武器になります。話すことで応援する人と出会ったり、また伝えることでお客様に出会ったり、話しかけることで世界を広げてビジネスにしていくことが、特に起業初期、まだビジネスが軌道に乗る前にこそ必要な力です。
しかし話す言葉で人の心を動かすことは、起業をしている人たちだけに必要なスキルではありません。日常生活にも使えるヒントがたくさんあって、例えば、誰かに頼み事をしたいとき、または子どもいうことを聞いて欲しいときなど、同じ方法で彼らの心も動かすことができるようになるからです。
 
これをクロージングといいます。
ビジネスの世界でクロージングといえば契約を成立させるというような意味になりますが、私はそれだけだとは思っていません。クロージングとは自分の想いを相手に届けて、相手の気持ちに寄り添いながら、結果として自分が望むように相手が動くようになってくれることのことです。
 
それができるようになると、それが自分の成果となって、起業を成功に導きます。そう考えたら「人前で話すのが苦手」なんて言っている場合ではありませんよね。
 
 
 
 
《第17章に続く》


頑張るママのお助けレシピ

熱い心を育てる冬のシチュー
<材料>3人分
玉ねぎ 1/4個
セロリ 1/2本
にんじん 小1本
マッシュルーム 10こ
厚揚げ 1丁分
菜種油 大さじ1.5
ローリエ2枚
パセリ 1本
昆布出汁 800cc
塩 小さじ1
米粉 大さじ3

調味料
バルサミコ酢 大さじ3
醤油 大さじ1
豆味噌 大さじ1
 
1 野菜を切る。玉ねぎは大きめのみじん切り、にんじんは斜めに小口切り、セロリも同様に切る。パセリはみじん切り。

2 マッシュルームはいしづきをとって、2等分しておく。厚揚げも一口大に切っておく。

3 厚揚げはお湯でさっと油抜きをして、一口大に切っておく。

4 お鍋に菜種油を入れて熱し、そこに玉ねぎ、にんじん、セロリを入れて、振り塩をしながら火が通るまで中〜弱火で加熱する。2の食材も少しずつ加えて炒めていく。

5 4に出汁、ローリエ、厚揚げを入れて材料が柔らかくなるまで15分ほど煮込む。

6 調味料をすり鉢でよく混ぜておく。

7 5に6を入れて加熱。

8 米粉を入れ、お好みのトロミをつける。

*豆味噌など苦味のある食材は、心臓の機能を助け、感応できる心を育てます。

*豆味噌は増血作用があります。質のよい血液が巡ることで、エネルギーが巡って言葉を紡ぎやすくなります。

*野菜は、お好みの野菜を加えてください。
 
*わかめは、生わかめが出回る冬(1月〜3月ごろ)が旬です。季節のものはその時期のエネルギーをたくさんもっているので、旬のエネルギーをたくさんいただくことで、体の生命力を支えていきます。

❏ライタープロフィール
ギール 里映(READING LIFE 編集部公認ライター)

食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、2015年にゼロから起業。現職は食べるトレーニングキッズアカデミー協会の代表を勤める。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。

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2020-12-14 | Posted in ママ起業のリアル

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