リモート飲み会と屁こき野郎《週刊READING LIFE vol.108『面白いって、何?』》
2020/12/21/公開
記事:篁五郎(READING LIFE編集部公認ライター)
本日は12月11日。ライターズ倶楽部の課題締め切り日である。この締め切りという日が来ると憂鬱になる。
なぜか?
テーマにそった文章が全く浮かんで来ないからだ。できればタイムマシンとやらで時間をもっと前に戻したいが、そんな便利な機械が生まれるのは俺がこの世を去った後だから全くの無関係だ。
書いているときだって胃がキリキリするような感覚でタイピングをしている。
どうして書いているのだろう?
面白くもないのに。
そういえば、面白いといえば、死んだ俺の親父が昔、よくこんなことを言っていた。
「白い犬はおもしろい」
初めて聞いたときは何を言っているのかさっぱりわからなかったけど、大人になって「鴻池の犬」という関西古典落語の演目だというのがわかった。
その落語をネタに書けばいいじゃないか! と思ったが、その演目を俺は聞いたことがない。聞いてもいない演目をネタに書け! と言われても困る。
そのネタも挫折。
こうして愚痴っているのは単なる文字数稼ぎだろ? と思われるかもしれないが、その通りだから反論できない。
ねえ、面白いってなに?
そう聞かれると本当に困ってしまうのだ。
確かにプロレス見ているのは面白いからだし、最近アニメ全話見終わった『鬼滅の刃』も面白いから最後まで一気に見られた。
町田ゼルビアの試合を町田GIONスタジアムで観戦するのも面白いからだ。
その面白さを伝えるのはいくらでも書ける。
でも、「面白いのは何?」と聞かれると答えに遇する。
そりゃあ胃がキリキリしてくるわけだ。
胃がキリキリするような出来事ってのは間違いなく面白くはない。だって、苦しいし、下手をすれば痛い。医者や薬の世話にならないといけない。
では、逆はどうだろう?
楽しかった出来事というのを思い返して見る。
取材は確かに楽しかった。
知らない人のために記述しておくと、俺は天狼院書店・WEB READING LIFEに『文豪の心は鎌倉にあり』というタイトルで連載記事を持っている。毎回、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎先生に鎌倉ゆかりの文豪についてお話を聞き、記事にまとめるというのをやっている。
文豪の話を聞くのは楽しい。
終わった後のよもやま話をするのも楽しい。
書き起こしは面倒だが、記事が完成するのは嬉しい。
富岡チェックをクリアして投稿をお願いするときはいまでも少しドキドキする。
それは面白いになるのだろうか?
いや、違う。
先述したプロレスや『鬼滅の刃』を見るのと同じだ。
では、こういうのはどうだろう?
新型コロナウイルス感染が拡大し始めた(今もだけど)、春先の緊急事態宣言の頃の話。
毎日、一人で部屋の中にいるのは退屈なのでリモート飲み会をというのをやってみた。
Facebookで「何月何日に何時からZOOMでリモート飲み会やるけど参加する?」と投稿してみると、何人かの友達が参加表明してくれた。
予告通り、始めてみると結構楽しい。
家の中だから行く時間を逆算しなくても済むし、帰りの心配もいらない。おのおの好きな酒を自分で用意すればいいから店を選ぶことをしなくてもいい。
変な格好でも家の中だからといえば許される。俺なんか髭も剃らず伸ばしっぱなし。
それでも別に構わないのがリモート飲み会の良さ。
遠くに居てもデジタル通信を使って同じときを共有できる。それがリモート飲み会の良さ。
コロナ渦により接触ができない新しい生活の一環だぜ! なんて思ったもの。
しかし、緊急事態宣言が解除されてからは一度もやっていない。
どうしてだろうか?
面白かったし、みんなも笑っていたし、変な気を遣わなくても済むのに。誰からも、俺からも「またリモート飲み会やろうぜ!」という声は上がらなかった。
面白かったのだからもう一度やればいいじゃない。
だって、コロナの感染者増えてまた人との接触ができなくなるかもしれない。
いくら友達でも長い期間、顔を合わせないと心が通じなくなってくるのでは? なんて思った次第だが、また企画したいと思わない。
なぜだろう?
東京は時短営業が復活してまた人との接触を避けないといけなくなった。恐らくこの冬はずっとそうなるだろう。大人数で一箇所に集まるのは危険と見なされてしまい、飲み会なんてできっこない。
恐らく忘年会や新年会も開けないだろう。
そうなると再びリモート飲み会でみんなの顔を見ながら杯を傾けるのが主流になると思う。
それを前提とすると少しはワクワクしてくるかもしれない。
俺が好きなハイボールを飲むためにウイスキーを買ってきて、それに合うつまみを成城石井あたりで見繕う。ないならUber EATSか出前館で注文すれば持ってきてくれる。
支払いはカードでOK!
今の俺ならば、緊急事態宣言下よりも経済的に余裕ができたので躊躇わずに注文できる。
楽な世の中になったもんだ。
スマホのアプリから好きな食べ物をオーダーすれば持ってきてくれる。お酒だってAmazonや西友やらが配送してくれるんだよ。部屋の中で寝転がっているだけで飯と酒の準備ができる。
後は、時間になったらZOOM立ち上げて友だち招待するたけ。
こんなお手軽に飲み会できるのにどうしてやろうと思わないんだろう?その答えがテレビを見ているときに見つかった。
朝、「ZIP!」を見ていると福山雅治が約6年ぶりのアルバムを出すニュースで桝アナウンサーのインタビューを受けていた。
桝アナが質問で「今年新しく始めたことは?」と聞くと福山は
「僕、リモート飲み会というのをやったんです」
と答えた。ほほうと思いながら話を聞いてみた。
「リモート飲み会はダメですね。パソコンの前に集まって飲んだんですけど、最初はみんなワイワイ楽しくやっていたんです。でも、時間が経つにつれて一人ひとりとスマホをいじり出すんですよ」
笑いながら話していた。なるほど! 思わず膝を打たずにいられなかった。俺がリモート飲み会をもう一度やりたくないのは、それだったのだ。
リラックスできる自分の部屋で緊張感がない状態で話す。リモートで面接とかなら緊張はするけど、相手は心を許した友達。緊張どころか俯瞰しまくってしまうのだ。
だからこそ相手の目の前(本人は目の前だとは思っていない)でスマホをいじってしまう。
そうした俯瞰した状態がつまらなかったのだろう。
そこで面白いというのはある種の緊張感がないといけないのでは? と思った。
リモート飲み会ならば寝転がっているだけで済むが、リアルに会う飲み会は相手が待っている先に移動をしなくてはいけない。それがあるだけで緊張感が違うのは間違いない。
同じ時を過ごすにしても同じ空気の中にいないのは緊張感が違う。
俺が好きなプロレスも、今はネット生配信される時代だ。チケットが取れないからネットで見るのが当たり前になっている。俺も良く活用させてもらっているが、ネットの生配信と会場で観るのとでは緊張感が違う。
遠くて観づらくても会場で観た試合の方が印象に残っているし、思い出としても強い。
その違いは緊張感を伴う楽しさなのだろう。
たかが飲み会でなんて言われるかもしれないが、俯瞰した状態の楽しさってすぐに忘れてしまう。忘れてしまうからリモート飲み会をすぐにやりたいとは思わない。面倒でもリアルに会う話になると思い出として残る。だから面白いというのは緊張感が伴わないといけないのだと思う。
面白いって緊張が崩れたときに起きるのものだから。
小学校の時に朝礼で校長先生の長い話を聞いているときにおならをしてしまったことがある。透かしっ屁ならば良かった(良くないか)が、音が思い切り鳴ってしまった。
想像してみてほしい。
緊張している状態の朝礼でいきなり屁の音が聞こえてしまったときのことを。面白いでしょ?
その時も全校生徒と先生が一斉に笑ったね。
校長先生が「みんな話を聞いて」なんて笑いを収めようとしたけど止まらないの。
俺は、「屁こき野郎」として一躍学校一の有名人ですよ。
小学校から俺を知ってる奴は未だにそのネタでいじってくる。それくらいインパクトがあると「面白い」と言ってもらっていつまでもネタにされる(されたくないけど)。
これが授業中でも同じ。クラスの中でいつまでも「屁こき野郎」と呼ばれる。朝礼と授業中には緊張感という共通点があるから。
緊張がパチッと崩れる瞬間が笑いであり、面白いということになる。
ネットの生配信は会場で起きている空気感は共有出来ない。飲み会で相手がリアルに目の前にいることを思ったらスマホをポチポチ弄るのに躊躇いが起きる。
それが緊張であり、緊張の中にこそ面白さがある。
漫画でも映画でも緊張感のあるシーンがないと面白くないことが多い。緊張を保つのは大変だけど、それがあるからこそ面白いのではないだろうか?
だから、今年の冬は人と会うのは大変だけど、少人数でいいから友人と会って面白い時間を過ごせたらと思う。
きちんとマスクを付けて、アルコール消毒をしてね。
□ライターズプロフィール
篁五郎(READING LIFE編集部公認ライター)
現在、天狼院書店・WEB READING LIFEで「文豪の心は鎌倉にあり」を連載中。
http://tenro-in.com/bungo_in_kamakura
初代タイガーマスクをテレビで見て以来プロレスにはまって35年。新日本プロレスを中心に現地観戦も多数。アントニオ猪木や長州力、前田日明の引退試合も現地で目撃。普段もプロレス会場で買ったTシャツを身にまとって打ち合わせに行くほどのファンで愛読書は鈴木みのるの「ギラギラ幸福論」。現在は、天狼院書店のライダーズ俱楽部でライティング学びつつフリーのWEBライターとして日々を過ごす
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