週刊READING LIFE vol,117

ウチのマロンが世界一かわいい《週刊READING LIFE vol.117「自分が脇役の話」》


2021/03/01/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「あれ? どこに行ったんだろう?」
 
2月の朝はまだ薄暗い。
スマホの時計を見ると、6時を回ったところだった。
いつも、寝室で一緒に寝ている、トイプードルのマロンがハウスにいない。
リビングに置いてあるトイレに行ったのだろうか。
それにしても、戻ってくる気配がない。
あわてて飛び起きて、リビングへ行ってみた。
すると、真っ暗なキッチンの方に向かって、仁王立ちして固まっていた。
時折、お腹が空いたのか、私がキッチンに立つと、何かしらの食材を触ることを知っているからか、いつもキッチンのところにやってきて待っているのだ。
それにしても、こんな時間だ。
朝からお腹が空いたのかもしれない。
私は、パジャマのまま、あわててマロン用の低脂肪のドッグフードの缶詰を用意した。
そんな日がたまにある。
 
わが家の愛犬、トイプードルのマロンは、今年の5月には、17歳を迎える。
今のマンションに引っ越しが決まったとき、娘からのたってのお願いで犬を飼うことにした。
娘は、当時コマーシャルに出ていたチワワという犬種を希望していたのだが、毛が抜けなくて、賢く、飼いやすいということで、トイプードルに決めたのだ。
そんな話を当時のママ友にしていたのだが、彼女の知り合いのブリーダーさんに話が渡り、マロンとのご縁をもらったのだ。
そんな経緯で、新居での生活はマロンとの生活のスタートでもあった。
 
ところが、今のマンションに引っ越すことで、娘のお稽古への送り迎えが発生することになった。
ずっと何年も教えてもらっている先生なので、変わりたくないということで、往復2時間をかけて、娘を送迎する日が始まった。
わが家に来て、まだ慣れていないマロンをいきなり週に何日も留守番させることになったことだけが、今でもかわいそうなことをしたと思う。
 
その後、夫がサラリーマンを辞め、独立して会社を設立することとなり、私もフルタイムで仕事を手伝うことになった。
そうなると、ますます、マロンの留守番の時間が増えてしまった。
マロンは、特に留守番をいやがり、私たちが出かけるときには、異常に泣き叫んでいた。
あまりにもひどいので心配し、獣医さんに相談すると、分離不安症だと言われた。
それを解消するには、多頭飼いをすることだともアドバイスされた。
 
マロンがあまりにも良い性格で、かわいかったので、絶対に子どもを産ませたいという思いもあったので、交配を試みることにした。
当時、お世話になっていたドッグトレーナーさんにお願いして、お相手を探してもらいトライすること2回、どちらもダメだった。
そんな頃、マロンは7歳になっていて、犬の出産のギリギリラインと言われたが、最後の望みをかけて交配に挑んだら、嬉しいことにかなったのだ。
 
そうして、マロン7歳の秋に息子が生まれた。
犬は安産の象徴と言われているが、とんでもなかった。
破水してから半日以上かかる難産だった。
また、マロンには飼い主の私たちの思いを優先して、しんどい思いをさせてしまったのだが、生まれてきた息子をそれは上手く育ててくれたのだ。
 
マロンは元々、ブリーダーさんが繁殖用に手元に置いておこうと決めていた犬だった。
でも、わが家で交配を試みた回数を考えると、もしかしたら繁殖用としては向いていないという扱いになっていたかもしれない。
そう思うと、こうしてわが家に来てくれたことは、マロンにとっては幸せなことだったのかもしれない。
 
マロンは、6年ほど前からクッシング症候群という病気になり、投薬と毎月の血液検査での治療が始まった。
さらに昨年には、膵炎を起こすようになり、点滴も始まった。
ところが、点滴がイヤなために、病院に行くことがわかるとブルブルと震え、帰宅してからもストレスをぶつけている姿を見て、転院することにしたのだ。
 
その後、お世話になるようになった新しい動物病院の先生のおかげで、サプリメント治療に変わり、さらには肝臓等の数値が高くても、神経質にならなくてもいい現状を説明され、ガラッと病気に対する意識が変わっていった。
 
膵炎を何度も起こしたため、動物病院の先生から、缶詰の柔らかいドッグフードを勧められた。
しかも、内臓の数値が良くないために、低脂肪のモノをあげるようにも言われたのだ。
さらには、一度にたくさんのフードを食べると、また膵炎を起こす可能性があるため、一度にあげる量は30グラムだ。
わが家の冷蔵庫には、210グラムのドッグフードの缶詰から、30グラムずつ小分けしたジプロックのタッパーが並んでいる。
それを、毎回電子レンジで10秒ほど温めて、あげているのだ。
さらには、肝臓のケアのために、鶏のレバーをフレーク状に炒ったモノや、2種類のサプリメントを毎日飲ませている。
おやつは市販のモノではなく、ささみをゆでたものをさいて与えている。
 
マロンがわが家にやってきたのが、引っ越しと同時期だったり、娘のお稽古ごと、夫の会社の手伝いとバタバタしていたりで、排泄などのしつけを丁寧にすることができなかった。
なので、今でもトイレを失敗することが多い。
以前は、なかなかうまくいなかくて色々と気を揉んでいたが、今となっては、排泄があることは健康な証拠だと思うようになって、そんな始末もいとわなくなっている。
 
持病を抱えながら、時には内臓の数値も悪くなりながらも、現在16歳のマロンは毎日元気に過ごしている。
家で仕事をしている私は、リビングで過ごすマロンの世話で仕事を中断することが多い。
こまめにごはんをやったり、トイレのシートを替えたり。
仕事の出張なども、娘の在宅ワークの予定などと合わせて決めるようにしている。
今は、生活の中心がマロンになっている。
それは、わが家にやってきたころ、いつも寂しい思いをさせたことへのお詫びなのかもしれない。
これまでずっと家族を癒してくれたことへのお礼かもしれない。
 
マロンが子どものころ、散歩に行くと皆がかわいいと褒めてくれて、それは私の自慢でもあった。
不思議なもので、犬の飼い主というのは、自分が抱っこしている犬を褒められることが、自分を褒められるよりもはるかに嬉しいのだ。
娘に関しては全くそんなことは思わないのに、マロンに関しては親バカが炸裂してしまう。
マロンが一番かわいい。
恥ずかしげもなく、そう心で思うのだ。
 
私の優越感をも満たしてくれたマロン。
今はすべてがマロン中心の生活となっている。
これまで、ずいぶんと私や娘の生活中心でやってきたけれど、今ではマロンが主役だ。
私は、すっかり黒子、脇役に徹している。
誰も褒めてくれなくても、仕事を何度も中断しなくてはいけなくても、今、こうやって元気にいてくれるその存在だけでありがたいのだ。
マロン、いつまでも元気で、一緒にいようね。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

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2021-03-01 | Posted in 週刊READING LIFE vol,117

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