現役アナウンサーが教える 「ナレトレ〜恋する声〜」ナレーションで身につく伝達力

第3回:口の中をつくるストレッチ《ナレトレ~恋する声~現役アナウンサーが教える!ナレーションで身につく伝達力》


2021/07/5/公開
記事:渡辺美香(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
楽器を作るストレッチは、まだまだあります。
前項では、息を使うストレッチを中心にご紹介しました。
ここでは、声を出しながら行うストレッチをやってみましょう。
重点的に鍛えるのは、「口の中」です。
私は、響く声や、明瞭な滑舌を手に入れるには、一にも二にも口の中を拡げることだと思っています。
そういった意味では、口の大きな人は恵まれているといえます。
声量があって歌のうまいアーティストを思い浮かべてみて下さい。口の大きな人が多いのではないでしょうか。例えば、DREAMS COME TRUEの吉田美和さんの口は、美しい歯並びも加わって、なんと素敵な楽器をしているのだろうとみとれてしまいます。
 
しかしご安心ください。私自身、口が小さいのです。昔から歌うことが好きで、比較的大きな声は出るほうだったのですが、学生時代、友人と話しているときなどに、「え、何て言ったの?」と聞き返されることが多く、当時は、その理由がわかりませんでした。
今は思い当たります。口の中に空間がなかったのです。舌を自由に動かすスペースがなく、言葉の発音も不明瞭でした。声を響かせる空間がなかったため、届きにくい声でした。もちろん、口そのものを大きくすることはできません。しかし、口の中に空間をつくることで、その人らしい響く楽器をつくることは十分可能です。
 
ここでのストレッチは、年齢を重ねた後々まで覚えておいて損はないかと思います。高齢になると、発声、発音の問題だけでなく、嚥下障害などさまざまな口のトラブルが起こります。予防法として、パタカラ体操(パタカラパタカラと続けて言う)といったような舌のストレッチなどをよく耳にしますが、口の中を拡げてやることも、舌の動きをスムーズにするのに役立ちます。ぜひ、取り入れてみてください。
 
 

■口の中を知ろう!


ここでは、「身体という楽器」を吹奏楽器にたとえます。
小学校で習った「縦笛」覚えていますか?
息を入れると、ピーと朗らかな音を出す楽器でした。あの形は、まっすぐな筒ですね。身体が、あのように円筒なら、声を出すのに負担はありません。
残念なことに、私たちの楽器は、吹き出し口の手前で、曲がっているのです。
図の、赤い斜線部分を見てみましょう。
 
図1
 
私たちの楽器は、鼻(鼻腔)からと口(口腔)からの、二つの吹き出し口を持っています。
口のほうを、下から、なぞっていきましょう。
身体に入った息が、気管をとおって、声帯で音になり、口腔で言葉になって外で発せられます。
声帯から上の空間が、左にクネッと曲がっていますね。
これは食べ物を咀嚼して飲み込むために大切なカーブで、ご存知のように、飲み込むときにはここがピタっと閉じます。
つまり、縦笛と違い、曲がっている上に、閉じやすく、音がさえぎられやすいのです。
この空間(口腔、鼻腔)をしっかりひろげる発声トレーニングをすると、少ない息で、響く声が出せるようになります。
 
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① ふくろう発声法

1 あくびの口をして、口の中の粘膜をひろげます。
2 口の中は、そのままで唇を「オ」のようにすぼめます。
3「オ」の口のまま、さらに上あごの奥の粘膜を拡げます。
4 すぼめた口から音を出します。
 
「ホウ~~~~~~~~~~~ホウ~~~~~~~~~~~~~~~~~」
 
「ふくろう発声法」でひろげたいのは、上あごの奥、軟口蓋(なんこうがい)図2の部分です。
 
図2
※軟口蓋は、舌で、簡単に確認することができます。
 
前歯から、順に奥へ、舌で、上あごをなぞってみてください。ザラザラした部分に続いて、固い滑らかな部分、その奥をなぞると、やわらかい粘膜にたどりつきます。ここが軟口蓋です。
「オ」の口にすると、あくびの口より、軟口蓋がピンと張りやすいですね。
「ホウ~~~~~」の音は、軟口蓋が張っているほど、響く音になります。
 
 

② ノリノリ発声法

1 鼻の穴を思いっきり開きます。
2 前歯をむき出し、「イ」の口をつくります。
 
「イエイ! イエイ! イエイ! イエイ!」
 
「ノリノリ発声法」でひろげたいのは、軟口蓋(なんこうがい)から手前にかけての硬口蓋(こうこうがい)図3の部分です。
 
図3
※ さきほどのように、舌で上あごをさわっていくと、軟口蓋(なんこうがい)の手間にある、つるつるした固い部分が硬口蓋です。
ここを上にひっぱりあげることで、空間がさらにひろがります。
 
 

③ ハミング発声法

1 目を見開いて、口をとじる。
2 上あごをできるだけ開く(軟口蓋と硬口蓋を引っ張り上げるイメージ)
2 鼻から息を吸って
 
「ん~~~~~~~~~~~~~~~~♪ 」
 
「ハミング発声法」で主にひろげたいのは、鼻腔(びくう)図4の部分です。
 
図4
 
言葉は、口から発しますが、私は、声は、口腔と鼻腔、両方に響かせるイメージを持っています。鼻腔を閉じてしまうと鼻声になってしまいます。
 
いかがでしょうか。①②③をくりかえしやることで、ふさがりがちな楽器の吹き出し口の空間をひろげ、スムーズに声のでる楽器をつくることができます。
これに、前項でとりあげた「あくび」のストレッチを加えます。あくびは、図1の咽頭腔(いんとうくう)というのどの奥を拡げるのに、役立ちますので、意識して口を大きく開けてみてください。
 
喉をしめない、喉に負担をかけないために、口の中を拡げる。そんな捉え方でもいいのかもしれません。
 
 
 

※ サ行 ラ行 が苦手な方へ
サ行に、息がまじりやすくなってしまう。(「スア スイ ス スエ ソ」と聴こえる)
ラ行が、鼻にかかったようになってしまう。(「ダ ディ ドゥ デ ド」に近くなる)
という方は、ぜひ率先して、口を拡げるストレッチをしてみてください。
どちらも、口の中に空間がないと出せない音ですので、一気に改善できる可能性大です!

□ライターズプロフィール
渡辺美香(READING LIFE編集部公認ライター)

名古屋のCBCテレビアナウンサー。26年にわたり、テレビラジオで、バラエティからドキュメンタリーまで、7色の声でさまざまな朗読やナレーションを担当。全国41局のアナウンスメント審査で最優秀賞の受賞歴も持つ。現在の担当番組やナレーション TV「まちイチ」「なりゆきアフロ(チャント!内)」、ラジオ「渡辺美香のWhat a wonderful world」「きく!ラジオ」「石塚元章ニュースマン!」など。

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