週刊READING LIFE vol.133

パソコンからWIFIが消えた夜《週刊READING LIFE vol.133「泣きたい夜にすべきこと」》


2021/07/05/公開
記事:森 団平(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「ねぇ。君、WIFIどこかに忘れてきてない? 思い出して」
僕は語りかけた。彼は何も答えてくれない。
それは、当たり前だ。
なにせ、彼はパソコンなのだから。
Windows10搭載、もう3年はお付き合いのある彼。
 
パソコンに話しかけるのはおかしいかって?
いやいや、かの有名なサッカー少年の彼も「ボールはともだち」と言っていた。
毎日8時間以上パソコンと向かい合っているのだから「ともだち」どころか親友と言っても過言はないはずだ。
そして、身近なともだちであるからこそ粗が見えることもある。喧嘩することもある。それが今だった。
 
そう。WIFIが表示されなくなったのだ。
WIFIがない=インターネットに接続できない
ともだちの価値は、メリットデメリットで測るものではないという人もいるだろう。でもかのサッカー少年も、破れてしまって蹴ることが出来ないサッカーボールを友達と言うだろうか?
まぁ彼なら、庭に埋めてお墓を作っていてもおかしくない気はするが。
 
深夜11時30分、僕の中でともだちの株が大暴落しつつあった。
 
そもそもの始まりは、夕食を終えいつも通りにパソコンを立ち上げたときの事だった。
夕ご飯を食べて、少しテレビを見てのんびりしてから、パソコンを立ち上げるのがルーティーンだ。
パソコンでやることはたくさんある。撮影した写真を編集したり、文章を書いたり、やり残した仕事を進めたり、YouTubeを見るのもゲームをするのもパソコンだ。
しかし今、それらのほとんどの事ができなくなっていた。
 
『インターネットに接続されていません』
 
無機質な文字がディスプレイ上に表示される。
なに? どうしたの? なんか悪いことした? 機嫌悪くなったのかなぁ?
疑問符が次々を頭に浮かんでくる。
 
WIFIの接続を見てみると、WIFIルーターに接続はされている。
しかし「インターネットなし」の表示。
ルーターが悪いのかと思い、スマホからのテザリングに切り替えてみる。
やはり接続できない。
 
オカシイ
 
何かが、決定的におかしい気がする。その辺にWIFIの電波は飛んでるはずなのに、うちのパソコンくんはそれが掴めないらしい。
現に、スマホやタブレットは普通にWIFIが入ってインターネットも使えている。
 
そういう態度を取るなら、次はこの手だ。
電源OFF! ポチっと。
一旦電源を切ったら30秒待つ。なんの意味もないかもしれないが、おまじない的に、問題があるときはそうしている。
本当に電源を切るなら、「完全シャットダウン」もいい。
Windows10のシャットダウンは、次回起動時に高速で起動できるように一部の情報を保持する仕組みになっているため、保持されている部分に何か不具合があるときは、[Shift]キーを押しながら[シャットダウン]を押すと完全シャットダウンを行うことが出来、PCのメンテナンスや、周辺機器を取り外す際には有効だ。
 
再度、パソコンを立ち上げる。
WIFIを接続。というか自動で繋がるようになっている。
 
「インターネットなし」
 
そうか、そうか。喧嘩売ってるんだな? いいよ受けて立つ。
キミは、今、役に立ってないよ、ともだち失格だよ。
「ネットにつなげないPCはタダの箱だ!」だよ。
なんとか気合で繋ごうとか思わないのかね?
 
いかん。取り乱してしまった。
一般的にWIFIやインターネットに繋がらない場合。いくつか確認すべきことがある。
 
・WIFIの接続がONになっているかを確認する
・電源を入れなおす
・WIFIルーターの電源入れ直し
・他のWIFIが繋がるかどうか試してみる
 
それぞれ、問題がどこにあるのか確認するための手段だ。
ここまでは今までの対応で既に試した。結果は全敗。
どうも一筋縄ではいかない奴だぞ、これは。
 
次に試すべきなのは、
・ネットワーク診断でどこに問題があるかを確認
 
正直、ITエンジニアでもないのでさほど詳しいわけではない。
でも、高校時代からもう20年以上パソコンとお付き合いをしてきたのだ。
これくらいのことはこれまでもあった。
大丈夫。
 
「ネットワークとインターネット」から「トラブルシューティング」を実行すると、出てきたのは
「ネットワークアダプターに問題があります」
という表記。
 
「ネットワークアダプター」ってなんだよ! と思う。
僕のIT知識なんてペラペラなのでこの辺が限界だ。
問題とは、ネットワークアダプターが、更新されていなくて使えなくなることがあるらしい。
とりあえずトラブルシューティングの指示に従って、ネットワークアダプターの更新を行う。
しかし、結果は、「最新の状態です」
 
ふ・ざ・け・る・な・!
 
トラブルシューティングが使えない。
 
あー、もう泣きたい。泣いて解決するならいくらでも滝のような涙を流すのに。
ともだちなら泣き落としで、お願い聞いてくれてもいいんじゃないかな。
 
「もう、十分だよね。なんか悪いことしたなら謝るから。」
語りかけるも返事はない。どうも相当へそを曲げてしまっているようだ。
 
そんな時、僕はスマホで調べたネットである記事を見つけた。
 
「ネットワークが繋がらないときの最終手段『ネットワークのリセット』を試してみよう」
という記事だ。
 
これだ!
リセットという響きがいい。この何が悪いのか分からない現状。
全てをリセットすればインターネットが使えるはず。
 
僕はすぐ作業に取り掛かった。
「ネットワークとインターネット」から「ネットワークのリセット」を選択。
そして実行。エンターボタンを力強く弾く。
 
ネットワークがリセットされ、そして5分後に再起動が行われた。
再起動後、インターネット接続の確認をした僕は、愕然とした。
 
「WIFI」が消えている。もう一度見る。やっぱり「WIFI」が消えている。
ルーター経由のWIFIの選択肢が消えているのではなく。
ディスプレイの右下のボタンをクリックしたときに出てくるWIFIのボタン自体がないのだ。
いつもそこにあるWIFIのON/OFFボタンはなく。
機内モードの表示があるのみ。
 
あー、ダメだ~~~~。
 
「ねぇ。君、WIFIどこかに忘れてきてない? 思い出して、どこに落としてきたの?」
僕は、パソコンに問いかける。
しかし返事はない。
だんだん腹が立ってきた。
こんなに手をかけているのに、もう時間は深夜1時を回っているのに。
明日も用事があるので早く寝ないといけないし、他にもパソコンでやらないといけない作業があるのに。あと〆切も。
 
なんでそんなに言うこと聞いてくれないのか?
 
サッカー少年の彼も、「ボールはともだち」って言いながら蹴ったり踏んだりしていたから、僕もパソコンを蹴ったり踏んだりしたらいいのかな?
実は、Mっ子という設定で、多少いじめられた方が喜んでWIFIが復活したりしないかな?
とだんだん頭の悪いことを考えてしまう。頭のネジが何本かとんでしまったようだ。
今までWIFIが表示されていても繋がらなかったのに、表示もされなければもちろんインターネットに繋がるわけもない。
 
状況は一歩進んだと思ったら百歩くらい後退していた。
僕のキャパシティも限界だ。もう泣きたい。泣いていいかなぁ。
 
パニックになった僕は、考えるのを放棄した。
頭冷やそう。
 
そして、コーヒーを煎れることにした。
うちでは、コーヒーは普通、モンカフェのドリップコーヒーだ。とても美味しい。
でも、さらに美味しいコーヒーを飲みたいときは、豆から挽く。
 
近くのコーヒー豆屋さんで買った豆をコーヒーミルに入れて、ガリガリ、ガリガリと挽く。ゆっくりでいい、同じ速度でガリガリと豆を挽いていると、尖っていた心がガリガリと削れて丸くなっていくのを感じる。
豆を挽き終わったら次は、ドリップの準備。
 
フラスコに似た形のドリッパー「ケメックス」を机に置いて、専用のフィルターを折りたたんでセットする。
コーヒー豆をサラサラとフィルターに注ぐ。
 
そして、いよいよドリップにかかる。
沸かしたお湯を、ホーロー製のドリップポットに入れて、豆に目掛けて少しお湯を注ぐ。
お湯を注がれた豆は湯気を上げながら、だんだん膨らんでいき、コーヒーの香ばしい香りが立ち上ってくる。
膨らみ切った瞬間がお湯の注ぎ時。
静かに、回し入れるように、お湯を注いでいく。
この時急いではいけない。ゆっくりとお湯を切らさないように一定のリズムで注ぎ続ける。
フィルターの下からはポトン、ポトンと抽出されたコーヒーが滴り始める。
毎回入れても、なんだか科学の実験をしている気分だ。
お湯が溢れないように、でも途切れないように一杯分のお湯を注ぎきったら完成だ。
 
モンカフェで作るコーヒーより、時間にして5倍くらいかかっている。
でも、そうして淹れたコーヒーは、倍数では測れない深みを感じる。
 
カップから立ち上る湯気を感じながら、そろりと口をつけると、苦みと共に甘みも感じる感覚が舌から喉へ、そして頭蓋骨の奥まで染みわたっていく。
先ほどまでの霞がかかって、疲れていた脳が刺激されて、シャキッと元のパフォーマンスを取り戻していくのを感じる。
 
やっぱり何度飲んでもこの効用はおかしい。麻薬の一種なのではないだろうか? 心のどこかでそんなことを思いつつ。
 
目の前のパソコンに向き直った。
「キミ、WIFIが認識できないんだよね。リセットしたせいだよね。そこまでは分かってる。さっき、ネットワークアダプターを更新しようとしたら『最新の状態です』と表示された。でもそれが間違っていたとしたら? そもそもネットワークアダプターが自体が機能していなかったとしたら?」
過去の状態、原因の推測が頭の中で組みあがっていく。
 
そう、犯人は、ネットワークアダプター!
キミがおかしい!
おかしいキミには消えてもらおう、そして新しいネットワークアダプターを入れるのだ!
訳「ネットワークアダプターのドライバーをアンインストールして、再度インストールをする」という意味。
 
コーヒーのせいでテンションも微妙におかしくなっていたようだ。
 
推理に基づいて、さっそく行動する。
サクッとアンインストールしてからの、再インストール。
念のためパソコンを完全シャットダウンしての再起動。
 
再起動した時に僕が見たのは、
 
「接続済み」の4文字
 
WIFIがいつも通り立ち上がって、接続されている。
直ぐに、ブラウザを立ち上げていくつかニュースサイトを閲覧する。
見える! 見れるよ!
 
あー良かった。
本当に良かった。
 
深夜、2時半、遂にWIFIは帰ってきた。
あと、1時間解決していなかったら、ともだちリストラして、新しいともだちを作る(購入)するところだったよ。
Appleの最新Macbook Airとか気になっていたし。
 
僕にとっても、キミにとっても良い結果だった。
深夜のコーヒーは身体に良くないと言われる。寝つきも悪くなるらしい。
でも、コーヒーを飲むことで、落ち着きを取り戻して、冷静な頭で目の前の困難に向かい合えた。
 
今回はWIFIの不調という、人によってはくだらないと言われるかもしれない問題。ITの知識がもう少しあれば大した問題でもなかったかもしれないが、ほんとに泣きそうになった。でもコーヒーのおかげで助かった。
 
大事なのはルーティーンなのだ。いつものやり方で、いつもと同じように行動することで、自分がいつもと同じだと安心させる暗示こそが本質。
コーヒーはカフェインの効果も付随してさらに効果を倍増させてくれるように思う。
 
ちなみに、後で気付いたのだが、WIFIに拘らずLANケーブルで直接接続していたら普通にネットワークに繋げていたかもしれない。
 
まぁいいのだ。
今もパソコンはWIFI経由インターネットに接続して、僕を助けてくれている。
文章を書くのも、調べものにも世界に発信するためにも必要なのはネットワーク。
 
今日も明日も、コーヒーを片手にキーボードを叩くのだろう。
たまに、機嫌を損ねた「ともだち」をなだめすかしながら。
 
 
*今回はこの方法で復旧しましたが、必ずしも同様の原因とは限らないので、ネットワークに繋がらない場合、マイクロソフト公式など各種情報を精査してご対応ください。
 
 

□ライターズプロフィール
森 団平(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

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2021-07-05 | Posted in 週刊READING LIFE vol.133

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