第13回:マスクでも伝わりやすい話し方《ナレトレ~恋する声~現役アナウンサーが教える! ナレーションで身につく伝達力》
2021/10/04/公開
記事:渡辺美香(READING LIFE編集部公認ライター)
鍛えられるのはコレ!
唇を意識する話し方
言葉以外の伝達力
今やすっかり生活に定着してしまったマスク。
言葉が伝わりにくい、聞き取りづらいというという経験をされたことはないでしょうか。どうしたら以前のように伝えられるかと、私もよく相談を受けます。
確かに、顔の半分以上を覆われてしまっているのですから、その部分の伝達力を、何かで補わなければなりません。
大きな声を出すという方法を真っ先に思い浮かべると思いますが、伝わりにくい人の大半は、そもそも呼吸が浅く声量のない方が多く、一から鍛えるのには時間がかかります。
そこで、今日は、明日からできる、マスクでも伝わりやすい話し方のポイントを、3つ、ご紹介します。
レッツ!ナレトレ
ステップ1 前歯をむき出すと、声がはっきりと明るくなる。
「3つ先の信号を左にまがって、市民会館の前でとめてくださいますか?」
タクシーの運転手さんと会話するような例文です。前歯をむき出すのと、むき出さない言葉の明瞭度を比較してみてください。歯をむき出す、つまり、上唇を引き上げると、言葉がはっきりするだけでなく、声まで明るくなることが分かりますね。
本来は、マスクをしている分、これまで以上に唇をしっかり使って、一音一音を発しなければならないのですが、マスクをしていることで、むしろ、唇をしっかり使わなくなっている方も多いです。
どうせ見られていないという安心感や、唇がマスクに触れてしゃべりにくいなど、理由は様々でしょう。
マスク生活で、ほうれい線が目立つようになったという方がいました。唇を使わないために、口元の筋肉がゆるんできてしまっているのかもしれません。
「前歯をむき出して話す」というのは、そんなマスク生活の応急処置です。犬がガルルルル―と歯をむき出すように、唇を上に引き上げて話してみてください。
この顔は、一言でいうと「笑顔」です。しかし、「笑顔で話してください」といっても、口よりも目で表情をつくりやすい日本人は、目だけ笑って、歯まではむき出さない方が多いので、このように表現しました。とにかく唇を意識します。
こうすると、言葉がはっきり聞こえるだけでなく、明るい声になります。さらに口周りのリフトアップになるだけでなく、マスクの外に出ている部分の表情も美しくなります。
ためしに、前歯をむき出しにしたままで、眉間にしわを寄せてみてください。寄せることができませんよね。表情筋は、1つのパーツを意識するだけですべてが連動するのです。
ステップ2 相槌は、声ではなく、うなずきを多めに
会話の例文の①~③で、うなずきをしてみてください。
今、ストレスを抱えている人多いっていうよね。(①)でも、精神学的には、嬉しいことでもなんでも、生活の変化は必ずストレスになるらしいよ。(②)どんなときでも、頑張りすぎないことが大切なんだって。(③)
声で相槌をいれるなら、「よく聞くよね」「え、そうなの」「へえー」などでしょうか。
そもそも、相槌は、相手の話をスムーズに促すためのもの。
マスクをしたままで、しっかり聞こえるよう気合いを入れて発すると、かえってギクシャクしますし、聞き取りにくい声で返答するくらいなら、うなずくのが効果的です。
うなずき方の例を書いてみます。
①で相手に同意するときには、小刻みに小さく数回振る。
②で内容に驚いたら、大きく縦にゆっくり振る。
③のように納得したときには、目を閉じながらアゴを首に惹きつけるイメージで、コックリとうなずく。
もちろん、これが正解というわけではありません。自分なりのバリエーションを増やしてみてください。
うなずきは、相手への承認です。言葉で返答するより、相手をリラックスさせられます。話し手も「このまま話し続けていいんだな」と、安心して話を続けられるはずです。
ステップ3 ジェスチャーをつけてみる
例文の会話を、目の前の誰かに話すと仮定して、ジェスチャーをつけながら話してみてください。
先日、友人からプレゼントの箱をもらって、何が入っているのかと開けてみたら、ふわっふわの肌触りのいい毛布だった。この冬は、これにくるまって過ごそうと思う。
プレゼントの箱、その箱を開ける様子、さらに、毛布の質感、自分が毛布にくるまる様子、どんな風に動きをつけようか、悩みますよね。
ジェスチャーの例を書いてみます。
プレゼントの箱 → 両手の上に箱を載せているイメージで、手の平を水平に。
箱を開ける様子 → 片方の手でフタをとるしぐさ
ふわふわの毛布 → 両手で毛布を揉むしぐさ
毛布にくるまる → 腕を身体の前で交差する
普段、私たちのコミュニケーションは、想像以上に言葉に頼っています。しかし、それを補うための表現の手段は、他にもあるのです。
別れ際のお辞儀や、手の振り方は、どれくらい意識しているでしょうか。
誰かを案内するときに「どうぞこちらへ」と手をつけているでしょうか。その手も指先が開いているのと、しっかり閉じて手の平がまっすぐに伸びているのとでは、相手に与える印象まで変わってきます。
誰かに話すときには、顔だけでなく、身体ごとその人に向けてみましょう。相手も、真剣に向き合って話を聴こうとしてくれるはずです。
ふだんのコミュニケーションを、番組のナレーションの世界に置き換えるなら、言葉の部分が「ナレーション」で、うなずきやジェスチャーは、「映像」にあたるのかもしれません。
あたり一面の雪景色の映像に、「あたり一面の雪景色です」などというナレーションはつけません。見れば一発でわかるからです。それくらい映像には威力があります。
そう考えてみると、今は、見てわかる伝達力の鍛え時なのかもしれません。
さまざまなボディランゲージに、チャレンジしてみてくださいね。
レッツ!ナレトレ
□ライターズプロフィール
渡辺美香(READING LIFE編集部公認ライター)
名古屋のCBCテレビアナウンサー。26年にわたり、テレビラジオで、バラエティからドキュメンタリーまで、7色の声でさまざまな朗読やナレーションを担当。全国のアナウンスメント審査で最優秀賞の受賞歴も持つ。現在の担当番組やナレーション TV「まちイチ」「なりゆきアフロ(チャント!内)」、ラジオ「渡辺美香のWhat a wonderful world」「きく!ラジオ」「石塚元章ニュースマン!」など。
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