一回り近く年下の女の子たちから学ぶもの《週刊READING LIFE Vol.170 まだまだ、いける!》
2022/05/23/公開
記事:川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
決して誇るべきことではないが、私は気持ちの浮き沈みが激しい。
仕事もやる気がある時はものすごく捗るし、成果も出すし、少し仕事が溜まってしまっていても一つずつ確実にこなしていく。プライベートも同様で、友人と会ったりインドア派のくせにフットワーク軽く出かけたり、あてもなく本屋や雑貨屋を徘徊したりする。
その反動なのか、沈んでいる時は極端にわかりやすいくらいに沈む。
仕事は一応やるが、覇気がないし効率も悪いし、ただただ終業時間がやってくるのをひたすら待っている。働いているものの、気分が良い時に比べると生産性は格段に落ちている自覚がある。いや、お前いくつやねん! と自分で自分にツッコミを入れたくなるほど、社会人としていかがなものか? と思うが、そういう性格だし仕方ないか、と諦めのようなものもある。
沈む時は、理由がある時とない時がある。
取引先から理不尽なクレームを受けてしまった、とか、同僚に言われた嫌味が妙に頭に残ってしまっているとか、自分が沈んでしまう原因がわかる場合はまだ対処の仕様がある。問題は、理由がなく、なんとなく沈んでしまっている時だ。
女性には体調の問題や毎月巡ってくる周期など、精神が不安定になる要素がいくつかある。そういうものが原因になってしまっていることもあるが、それもまったく関係ない時にでも沈んでしまうことがある。こうなると、自分のことでありながら、お手上げ状態なのだ。
「私、なんでこんなに沈んでしまってるんだ……?」
「何に対してこんなにモヤモヤしてんのか、まったくわからん……」
と自問自答しているうちに、今あるモヤモヤの上にモヤモヤが上塗りされてしまい、さらなるモヤモヤを作り出し、悪化してしまうのだ。
そんな時は友人と会うのも少し億劫になるし、出かける気になんてサラサラなれないし、もう全世界、私のことを放っておいてくれ! 一人にしてくれ! そっとしておいてくれ! という、なんとも面倒くさい人間の出来上がりなのだ。
こんな面倒くさい人間をかれこれ30年続けている私だが、ついにこの面倒くさい人間になってしまった時の対処法を2年前に見つけた。
それはガールズグループ『NiziU』を生み出したグローバルオーディション『Nizi Project』、通称『虹プロ』だ。
虹プロが配信されている動画配信サービスに登録はしていたが、特に興味があったわけではなかった。ちょうど彼氏にも振られたてで、その彼氏と一緒に旅行に行くはずだった7連休の夏休みの予定がぽっかりと空いてしまったので、暇だし何か新しい動画でも見ようかな、と見たことない動画を探していた。
K-POPは大学生の時に流行ってから好きだった。東方神起のファンクラブにも入っていたし、その他のK-POPアーティストのライブにも友人と足しげく通った。日本のアイドルも好きだが、韓国のアイドルはまた別物のような気がする。
日本のアイドルを「可愛い」と定義するならば、韓国は「美しい」ではないかと思う。どれだけ大所帯のグループでも一糸乱れぬダンスパフォーマンスだし、「この子、歌はあんまり得意じゃないのかな」という子はほぼいない。モデルのような容姿ばかりだし、日本のアイドルとはまた違った良さがある。
オーディションは日本のソニーミュージックと韓国のJYPエンターテイメントの合同で開催されていた。JYPエンターテイメントは、TWICEや2PMを輩出している事務所だ。その事務所から、日本人のガールズグループがデビューするのか……。
どんなんだろ、という興味本位で視聴を始めた。私が視聴し始めたのは2020年の7月だったので、すでに全回配信されており、デビューメンバーも決まったあとだった。「誰が選ばれるんだろう?」というワクワク感はなかったが、選ばれたメンバーがどういう風に成長していくのだろうか? なぜ選ばれたのだろうか? という視点で見た。
シーズン1は地域オーディションと、それを通過した参加者による東京合宿。シーズン2は韓国での半年間の最終選考だった。
「アイドルになりたい!」と純粋に夢を追いかけてきた女の子たちがたくさん集まっていた。素人の私からするとみんな可愛いしダンスや歌も上手だったが、プロから見ると違うようで厳しい評価も少なくなかった。正直、私がこれ言われたら泣いて、ふてくされて、もういい!!!!! って夢を諦めてしまうかもしれないなぁ……と自分に置き換えて考えてみたりもした。
オーディションに参加していた女の子たちは、高校生から20歳くらいまでの、私が普段関わらない年代の子たちで、おおよそ10歳の差があった。
私には5歳下の妹がいる。少し離れているっちゃ離れているし、多少のジェネレーションギャップを感じることもあるが、彼女ももう社会人なのでそんなに幼くはない。10歳以上も年下の女の子たちは、私にとって未知の領域だった。
「さとり世代」やら「Z世代」やら、なにかと世代に名前をつけて分類されているが、オーディションを受けている彼女たちの年代に対する私の勝手なイメージは、「しんどいことはしなさそう」だった。
私が高校生の時も、ある程度インターネットや携帯電話が普及していたが、今はその当時と比べものにならないくらい便利になっている。携帯電話はスマートフォンになり、小さなパソコンのような役割も果たす。教科書はすべてスキャンしてデータ化すればいいし、ノートもiPadなどのタブレットに置き換えることもできる。ずいぶん便利になった。
メディアでも規制が厳しくなっているし、部活動も、時間の制限が以前より厳しくなり、指導も厳しくなりすぎないように注意をしなければならない。
これだけ便利で、厳しいのか緩いのかわからない制約の中で成長している子たちって、確かにいろいろ悟るだろうし、ある意味で効率が良いというか、無駄だと思ったことはしないんだろうなぁ。何かに熱くなるということって、あるのかなぁ。というのが、私の勝手な印象だった。
一気見すると疲れてしまうので、平日は1エピソード、休日は2エピソードずつ虹プロを見進めていった。
虹プロの中で私が一番気になった参加者は「マユカ」だ。
マユカは地域予選では合否保留を受けて、最終的には合格。東京合宿でも連日の審査でことごとく下位の順位を取り最終選考に進める可能性は極めて低い参加者だった。
私であれば、この時点で諦めていただろう。ああ、自分の実力はこれくらいだったんだろうな。これが私の限界なんだろうな。もう無理だろうな。早く帰りたいな。と、ネガティブなことをぐるぐると頭の中で考えていただろう。恐らく、多くの人がそう思ってしまうのではないかと思っている。
でもマユカは違った。そうじゃなかった。
東京合宿最後の審査で、今までの評価を覆し、堂々としたパフォーマンスをした。もうダメかもしれないけれど、後悔しないように全部出し切ろうという気持ちで臨んだのだそうだ。
マユカの下剋上のようなこの様子は「シンデレラストーリー」と言われることもあるが、私はそうではないと思う。シンデレラストーリーなんて、綺麗で少し可愛くも思えるワードで片づけられないほど、彼女には根性があり、夢を諦めたくないという熱意があり、夢を叶えるためならなんでもするといった意志や努力がある。そして耳が痛くなったり逃げ出したくなったりするほど厳しいことを言われても、逃げずに立ち向かい、その指摘を改善しようとまた努力を始める。
他の参加者たちも同様だった。みんな素直に指摘を聞き、それを改善するために努力をする。泣いたり、弱音を言ったりする様子も映されていた。それでもお互いに助け合い、共に努力し、共に成長していった。
……この子たち、全然「しんどいことはしない」子たちじゃないじゃないか。
メディアで得た情報から、勝手に「今の高校生くらいの子はこんな子」って決めつけていたが、めちゃくちゃしんどいことして頑張っているじゃないか。むしろあーだこーだ言い訳をして「しんどいことはしない」のは、私じゃないか。しかも気分で左右されるなんて、私、いい歳して恥ずかしいじゃないか!
朝の情報番組で取り上げられていたことも一因だと思うが、世間が虹プロにハマる理由がわかった。みんな、彼女たちが努力し、仲間と助け合いながら成長する姿がまぶしかったのではないだろうか。日頃の自分と彼女たちを重ねて、思うことがあったのではないだろうか。「この子たちは夢に向かって素直に、純粋に努力しているのに、自分はどうなんだろうか?」と考えたのではないだろうか。
私はそう思ったし、そう考えた。
うじうじしている場合じゃない。モヤモヤしている場合でもない。私がやりたいことはなんだ? 私のやりたいことはなんだ? そのために、私がするべきことはなんだ?
虹プロを見ているだけで、自然とそう思えた。年下の女の子たちに、負けてられない。私も、まだやれること、やりたいこと、やるべきこと、たくさんあるはずだ!
そう思えるようになった2年前から、私は定期的に虹プロを初回から見返している。モヤモヤした時、彼女たちの素直さや努力する姿を見ると、自然と心が浄化され、私も頑張らないといけないなと思えるのだ。
先日、ネットニュースでNiziUが初めて韓国のステージに立ったという記事を見た。当たり前だが、彼女たちはまだ努力を重ねている。それはこれからも続くのだろう。
私も負けていられない。30歳、まだ先は長いのだ。伸びしろも、きっとあるはずだ。
NiziUを見る度に、ライバル心のようなものが芽生える。彼女たちに負けないように、私ももう少し素直に生きていきたいなと思う。
□ライターズプロフィール
川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
兵庫県生まれ。大阪府在住。
自己肯定感を上げたいと思っている、自己肯定感低めのアラサー女。大阪府内のメーカーで営業職として働く。2021年10月、天狼院書店のライティング・ゼミに参加。2022年1月からライターズ倶楽部に参加。文章を書く楽しさを知り、懐事情と相談しながらあらゆる講座に申し込む。
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