ヘアドネーションをしたわたしが知った真実《週刊READING LIFE Vol.171 同じ穴のムジナ》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース、ライターズ倶楽部にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2022/05/30/公開
記事:izumi(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「なにこれ?」
何気なくスマホでネットニュースを眺めている時に驚いた。
ひとつの記事の題名に、目がくぎづけになった。
題名は、ヘアドネーションという罪「いいこと」がもたらす社会の歪みについて。
どうしてヘアドネーションの記事に驚いたのか。
3年前、31cmの髪の毛を切って、ヘアドネーションをしたからだ。
ヘアドネーションを罪だなんて。
寄付には、31cm以上の髪の毛が必要なので、必死に伸ばした。
寄付した髪の毛からウィッグが作られる。
ウィッグは、脱毛症や小児がんの治療で髪の毛に悩みをかかえる18才以下のこどもたちに、無償で提供される。
1人のウィッグを作るためには、30人から50人の髪の毛が必要になると知った時は驚いた。
バッサリ切ったヘアスタイルに、まわりは随分と驚いた。
「ヘアドネーションって知っていますか? 寄付した髪の毛でウィッグができるんですよ」
なぜ髪の毛を切ったのか、会社の人や友達に説明した。
「聞いたことがある。女優がヘアドネーションをして話題になったやつやんね」
短くなったヘアースタイルも評判がよく、「いいことをした」と褒めてもらった。
人のためになる行為をしたという満足感で、心は満たされた。
ネットで見つけた記事。
「ヘアドネーションという罪」という題名に心がざわざわした。
不安になって、すぐに記事を読んだ。
内容は、わたしが寄付したNPO法人JHD&C(ジャーダック)代表理事渡辺喜一さんに、インタビューしたものだ。
「髪の毛がない人に、ウィッグを寄付する。ヘアドネーションはいいことじゃないの?」
読みながら頭が混乱していた。
記事を読んで分かったことは、髪の毛がない人は、本当にウィッグを望んでいるのだろうか?
ウィッグが手に入れば、喜ぶに違いないという思い込み。
髪の毛がない人は、自分の毛をはやしたいができない。
だから、仕方なくウィッグを用意する。
こどもは、髪の毛がないといじめられるかと心配で、ウィッグをつけるのだ。
自分を守るために、仕方なくウィッグを選択する。
ウィッグをつけても、つけなくてもよい社会ではないため、ウィッグは本質的な解決にはならないのだと感じた。
わたしの考えは、浅はかだったと思い知らされた。
ヘアドネーションをして、社会の役に立てたという気持ちで満足していた。
寄付をされた人がどんな思いで、ウィッグをかぶっているのか考えられていなかった。
物事は、表面的に見えている側の考え方だけではなく、後ろから、斜めからと多角的に見なければ真実は分からないのだ。
ヘアドネーションをして、満足していたのが恥ずかしくなった。
自分がよかれと思ってしたことが、無意識に他人を傷つけている時もある。
髪の毛があるのが普通で、ない人が肩身の狭い思いをするのはよくない。
よく考えると、わたしも髪の毛があるのが普通だという世間の考えと同じだと気づいた。
いつも帽子をかぶっている知人男性がいた。
はじめは、おしゃれな人としか思っていなかった。
次第に、いつも帽子をかぶっているのが気になりだした。
「もしかして髪の毛がないのかも」
そう思いはじめたら、気になってしまう。
彼の後ろを歩いた時に、じっと後頭部を見て髪の量を確認した。
彼には申し訳ないと思ったが、隠されると余計に気になる。
「なんなんだわたし……。よくヘアドネーションをしましたとか言えるな」
人の髪の毛があるかないかを気にするなんて、世間と同じ考えじゃないか。
同じ穴のムジナなのだ。
このままではいけない。
ヘアドネーションを勉強して、知識を深めたい。
表面的な考え方だけではなく、裏側も知らなければいけないのだ。
何か他に情報はないかと探していたところ、ジャーダックが出した書籍があると知った。
『31cm~ヘアドネーションの今を伝え、未来につなぐ~』という本。
望んだ人がウィッグをつけられる、望まない人はウィッグをつけなくても受け入れられる世の中にしたいという考え方で作られた本である。
本の内容は、ヘアドネーションをした人、ウィッグを受け取った人、こどもがウィッグをした親、美容師、医療者にインタビューした記事がまとめられている。
どの記事も、ヘアドネーションに対して、いろいろな考え方があるのだと分かる。
ほとんどウィッグを使わないという選択をした人もいる。
一番はじめに読んだのは、女子中学3年生のインタビュー記事。
小学6年生に発病した脱毛症によって、中学1年生の7月にウィッグを申請して、秋から着用している。
届いたウィッグを初めて自分用にカットしてもらった時の感覚。
久しぶりに髪をジョキッと切られる音を聞いた時のなつかしさ。
ウィッグをつけて行く時に、勇気が必要だった。
はじめてつけて行った時は泣いてしまって、友達が助けてくれたと書いてあった。
「今は髪の毛がなくなったことも、よい経験のひとつだと思っています」
そんなふうに思えるまでには、随分心の葛藤があっただろう。
中学3年生は、まわりの目を気にする年頃だ。
髪の毛がない姿に、何度も落胆したのではないかと思う。
ヘアドネーションという活動を知って、自分みたいな人を思っている人がいる。
感謝しかないという内容を読んだ時、わたしの心が救われた気がした。
涙がボロボロと出て止まらずに、息が苦しくなった。
ヘアドネーションを感謝してくれる人がいると分かると嬉しい。
本には、彼女の写真が掲載されている。
制服姿、私服、ショートボブの髪をアレンジして笑っている。
笑顔が愛らしくて、見ていると、こちらまで幸せな気分になる。
感謝しかないという言葉と笑顔の写真。
彼女には、ヘアドネーションは受け入れてもらえた。
本を読みながら、ふと友達の女性を思い出した。
友達は、がんの治療で髪の毛がなくなり、ウィッグをしていたからだ。
わたしがヘアドネーションをしたと言ったら喜んでくれた。
「そんな応援方法もあるんだ。ありがとう」
だけど、本当に喜んでくれていたのかな。
友達に、ヘアドネーションの記事を読んで、本を読んで勉強したと話をした。
治療が終わり、髪の毛が生えてきて、ウィッグはもうしていない。
ウィッグをしていた当時の話をしてくれた。
暑くなると、頭がかゆくてしかたがない。
蒸れるし、発疹が出てくる。
苦痛で、家に帰ると一番にウィッグを外す。
とにかく、早く自分の髪の毛で、外出したかった。
ウィッグは、髪の毛が伸びるまでの1年半余りつけていたそうだ。
ウィッグをはずして出勤した日は、恥ずかしかったけれど、自由になれた気がした。
髪の毛は、まだ完全に伸びてはおらず、くりくりの髪の毛で出勤した。
「かわいい」
会社の人は、褒めてくれたのだ。
そのままの友達の姿を受け入れてくれたので、わたしまで嬉しくなった。
髪の毛がなくなったはじめの頃は、夫に髪がないのを見られるのが恥ずかしくて、家でも帽子をかぶっていた。
家でも帽子をかぶっていた友達が、ウィッグなしで会社にいくまでに変化する。
勇気が必要だったはずだ。
自由になれたという言葉を聞いた時、ウィッグなしの姿を、認めてほしかったのではないかと思った。
電車に乗っていると、ウィッグをしている人をよく見かけるそうだ。
治療で髪の毛がないために、ウィッグをしている。
友達は「つらいけど頑張って!」と心の中でエールを送る。
わたしも気づいた時は、エールを送りたいと思ったが、ウィッグをしている人と出会う機会がない。
もしかしたら、出会っているのかもしれないが、分からないのだ。
友達は、治療が終わって元の生活に戻っている。
いままで以上にやりたいことにチャレンジして、気持ちも前向きだ。
誰に対しても、人一倍思いやりがある。
苦しい経験をしてきたから、人間としての器は大きい。
わたしがおちょこ位だとしたら、友達はどんぶりだ。
治療は大変だったが、気持ちはくさらなかった友達を尊敬している。
わたしに出来るのは何だろうか?
ヘアドネーションが悪いことだと言っているのではない。
ウィッグが必要だと思う人は、かぶればいいのだ。
髪の毛があるのは当たり前で、ない人が自分を守るためにウィッグをつける。
そうではなくて、髪の毛はあっても、なくてもいい。
そのためには、ウィッグなしを選んだ人がいても、いつも通りに接する。
可哀そうだという目で見ない。
もし身近でウィッグをはずした人がいたなら、友達が会社の人からしてもらった態度と同じように、ありのままの姿を受け入れたい。
髪の毛は、あってもなくても、いいのだという考え。
今日は、眼鏡をしようか、コンタクトにしようかという位に、ウィッグがあり、なしを選べるようになればいいのに。
ヘアドネーションを通して、物事の見方は一つでないと教わった。
よかれとした行為の先には相手がいる。
善意は、時には相手へのマウンティングにもなる可能性さえある。
相手を傷つけているのではないかという考えをしてみる。
この考え方は、寄付だけではなく、人間関係、仕事においても共通する。
自分がした行為の先、相手はどう思うのか?
よかれと思ったことでも、相手にとっては違うかもしれない。
この考え方を忘れてはいけない。
記事を読んだ時はショックだったが、ヘアドネーションに対する考えは深くなった。
知らなかったら、自分はいいことをしたという満足だけしかない。
ヘアドネーション、その先にいる人の思いまで、深く考えてみる。
ジャーダックの目標である「必ずしもウィッグを必要としない社会」になるために。
わたしもヘアドネーションの真実を広めたい1人なのだ。
参考文献:NPO法人JHD&C(ジャーダック)2021 『31cm~ヘアドネーションの今を伝え、未来につなぐ~』株式会社クラシップ
西本美沙「ヘアドネーションという罪。「いいこと」がもたらす社会の歪みについて」
ランドリーボックス 2022、5、13 https://laundrybox.jp/magazine/hair-iikoto/
□ライターズプロフィール
izumi(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
2021年7月よりライティング・ゼミ超通信コースを受講。2022年1月よりライターズ倶楽部に参加。ランニング、トレイルランニング歴10年。最近山登りにハマってテント泊を実現したい。誰かの応援になる文章を、書けるようになりたいと日々特訓中
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