週刊READING LIFE vol.190

便利な世の中だからこそあえて面倒なことをすると見えてくる「自分」の状態《週刊READING LIFE Vol.190 自分だけの本の読み方》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/10/24/公開
記事:大塚久(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
本を読むって正直めんどくさい。僕は読書がそこまで好きではないし、本を読むならゲームをやっていたり、音楽を聴いていたり、テレビを見ていた方がよっぽど楽しい。物語にしても本で小説として読むと字をたくさん読まなければいけないし、主人公の姿形を想像したり、情景を想像したらり、微妙な空気感を想像したりしながら読まなければいけないのでかなり頭を使う。その点、テレビなら姿形も、情景も、微妙な空気感も見たらすぐに伝わる。それも音付きでだ。もうテレビに勝るものはないんじゃないかと思う。
 
そしてそのテレビでドラマを見ていると楽しいドラマとそうでないドラマに分かれてくる。もちろん恋愛系が好きじゃないとか医療系が好きとかはあるのだがたくさんドラマを見ていると好きなドラマに傾向があることがわかってくる。そして好きなドラマに分類されるものは大抵脚本が同じ人なのだ。
 
例えばある脚本家の人なら、ヒーローズジャーニーに沿って主人公がどん底のところから徐々に成長していって、最後にハッピーエンドに向かう書き方をしている。それはそれでわかりやすいし、頭でそこまで考えなくても見れるのでいいけど、僕が好きな脚本家さんは割と何もない日常でありそうなことを、大きなドラマなしに、普通の会話のみで描写していく。見終わってから特に何も残らないのだが。妙にリアルで観た後に色々とあれはなぜだったんだろう? と考えたりもできる。本当に面白い脚本家さんなのだ。
 
今ではこの脚本家さんのドラマはとりあえず全部見ている。いわば脚本家推しだ。
 
この脚本家推しをやってみてわかったことがある。実は読書もこの作家推しをして読むと面白いということがわかったのだ。作家推し読み略して「作家読み」だ。
 
僕の作家読みの方法はこうだ。まずは推しの作家さんを見つけてみる。見つけ方はどんな方法でもいいのだが、僕はアンソロジーから探してみるのをお勧めする。
 
アンソロジーとはある一つのテーマに対して、数名の作家さんが書いて一冊の本になっているものだ。テーマは様々で、食べ物だったり、香りだったり、中刷り広告だったり、10分のコーヒーブレイクで読める推理小説だったりと自分がピンときたものを選ぶといい。
 
その中でこの人面白いなと思った作家さんをピックアップしてみる。そして次はその作家さんの小説を探してみる。僕の場合は大体2~3冊買うことにしている。一冊はデビュー作。デビュー作はその作家さんの本当に一番最初の根本的な部分が書かれている気がする。そしてその書き方がまだ荒削りなのだ。もちろんデビューできているぐらいだから面白い文章なのは確かなのだが、まだ余計な技術がついていないというか、とにかくストレートに思い描いたものが書かれている気がするのだ。
 
そして2冊目は何かしら賞を取っていたらその本だ。賞を取るぐらいだからいわゆる同業者に認められている本だと思われる。僕自身は本を読むのがそこまで得意ではないし、そもそも本をそこまで読んできていないので、自分の「面白い」という感覚がどんなものなのかがわからない。だから賞を取った本を読んでどう思うかで自分の面白いという感覚と玄人の面白いという感覚がどう違うかの確認ができるのだ。
そうすることで、「なるほど、みんなはこういうものを面白いと思うのか」とわかったり、「みんなは面白いと思うかもしれないけど、自分は面白くないな」といった自分の感覚に気づけたりするのだ。そしてそれは誰にも共有するわけではないので周りに合わせる必要はなく、自分の感覚を素直に受け入れることができる。
 
ちなみに僕が面白いと思うものは大体賞を取っていないものだったり、その作家さんの面白い本ランキングにも載っていないことが多い。きっと世間とはちょっと感覚がずれているのであろう。
 
ここでやめてももちろんいいのだが、デビュー作、賞を取った本ときたら3冊目に自分がピンときた本を読んでもらいたい。
正直ピンときた本が面白いかどうかはわからないが、ここは自分の感覚を信じてピンときた本を選んで読んでみてほしい。ここで面白かったらその作家さんと自分が割とシンクロしているのかもしれないし、そこまで面白くなかったら、「なるほど、そういう形できたか」と新しい一面を発見することができる。
 
作家さんの本を3冊選ぶとそれぞれ内容が違う。当たり前といえば当たり前なのだが、その違いの中に共通項が見えてくる。大体の作家さんが何かしら伝えたいことがあって、その伝えたいことを形を変えて作品として提供しているのだ。
 
そしてその形の変え方がそのときの作家さんの状態によって変化してくる。
例えばある作家さんの伝えたいテーマは「成長」と「救い」だ。その伝えたいテーマがデビュー作だと割とストレートに表現されていて、「私はこれが伝えたいんだー!」という感じがまっすぐ心に飛び込んでくる。
 
それからしばらくして賞を取った作品を読んでみると、デビューの時のストレートさに加えて、少し変化させて、誰にでも通じるような描写が増えたり、ストーリー自体がわかりやすいものになっていたりする。
 
そしてさらに後の作品を読んでみるとより文章が洗練されてきたり、あえて遊びを入れてくるような挑戦的な文章になっていたりする。
これは読む本が増えてくるとさらに変化が見えるようになってくる。もちろん読む本の中には「これはあまり面白くないな」とか「これはすごく今の自分に合ってるな」と感じる本が出てくる。
 
この変化はもちろん作家さんの技術が洗練されてきたのもあると思うが、何より書いたその時の状況によるものが大きいのではないかと思う。
 
例えば同じ「成長」がテーマだとしても、その成長を人との出会いから伝えている本もあるし、逆に人との別れから伝えている本もある。そしてその時の作家さん自身のことを調べてみると、出産を経験したしていたり、離婚を経験していたり、大きな事件に巻き込まれていたりとしたその作家さん自身の人生がその時に描かれている本とリンクしているのだ。
 
いわばその作品を通してその作家さんの人生を読んでいるのだ。読書をして作品の面白さを感じるのももちろん悪くはないが、同じ作家さんの本を読むことによって作品のフィクションの面白さにプラスして、その作家さん自身の人生史というノンフィクションの楽しさも感じることができる。
本を読みながらその背景にある作家さんの人生を想像すると本を通してその作家さんとコミュニケーションをとっている気持ちになってくる。ただ作品としての本を読んでいるだけだとその作品の良し悪しだけで終わってしまうが、推しの作家さんとのコミュニケーションと考えると、好きな人だからその人が喜びを感じていたら共感したくなるし、辛い状況にあったら寄り添って話を聴きたくなる。好きな人とコミュニケーションを取るのは楽しい。こうなると読書が楽しくなる。
 
さらに読書を作家さんとのコミュニケーションと感じるようになると、今度は作家さんの変化に対して自分がどう感じるか? の自分自身の状態がわかってくる。
 
面白いのが、以前読んで面白かったり、心に響いた本を読み返してみると最初に読んだ時ほど心に響かなかったり、より違う面白さを発見できたりする。反対にあまり面白くないなとか、あまり読み進められないなと感じていた本を再度読んでみるとスイスイ読み進められたり、以前は気づかなかった面白さを発見できたりする。
 
 
作家さんとのコミュニケーションを通して自分自身の成長や変化を感じることができるようになる。
 
もはや読書は自分自身を見つめ直す作業だ。今までの人生の中で付き合いの長い友達もいれば、途中で疎遠になってしまった友達もいる、大人になってから親しくなる友達もいると思う。それは続いているから良いとか、途中で 疎遠になったから悪いとかではなく、その時の自分自身の変化に対して相手が同じように変化しているのか、それとも別の方向に変化しているのか、そして自身が変化したからこそ新しい視点で見えるようになってきただけなのだ。
 
作家読みをしているとそのうちその作家さんの本が合わなくなってくることもあると思う。その時は悲しいことになるかもしれないが、それは自分自身が変わってくるからこその変化なのだ。
 
人とのコミュニケーションって相手があることだから相手の状況を考えたり、どうやったら気持ちを理解できるのか考えたり、とにかく気にしなければいけないことがたくさんある。そしてその相手のことを考えるのって自分自身の状態がとても重要になる。自分自身が余裕がある時ならよりたくさんのことを考えられるし、自分自身が切羽詰まっている時だったらほとんど考えられなくなってしまう。
 
今の社会はとにかく便利になってきている。辞書で調べなくてもスマホで検索すれば大抵のことはわかるし、スマホの検索ですら文字を入力しないでも音声で伝わってしまう。どんどん自分で考えなくても生活できる世の中になっているのだ。便利になるのはいいことだが自分の状態に関係なく、なんでもできてしまう。そうなると自分自身がどういう状態なのか気付けなくなってしまう。
 
本を読むことって正直めんどくさい。でもめんどくさいからこそ、自分自身の状態に気づくことができる。作家読みをして作家さんとコミュニケーションをとり、自分自身の状態に気づく。これが僕だけの本の読み方だ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
大塚久(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

神奈川県藤沢市出身。理学療法士。2002年に理学療法士免許を取得後、一般病院、整形外科クリニック、介護保険施設、訪問リハビリなどで下は3歳から上は107歳まで、のべ40,000人のリハビリに従事。現在は自身で店舗を持ち、整体、パーソナルトレーニング、ワークショップなどを提供。自身でも「歩く」ことによって身体も人生も変化した経験から「100歳まで歩けるカラダ習慣」をコンセプトに自身が体験して得た身体の知識を提供している。

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2022-10-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol.190

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