週刊READING LIFE vol.208

風の香りに励まされた朝《週刊READING LIFE Vol.208 美しい朝の風景》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/3/13/公開
記事:丸山ゆり(READING LFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「お座りしてね!」
 
私はこの言葉を、娘が幼い頃、いったい何度言ったことだろうか。
食事中、椅子に座っていても、すぐに立ち上がる娘を注意するのが日課だった。
とにかく、じっとしていられないのだ。
ある時、私はもしかしたら人間ではなく、犬を産んだのかと思うくらい、「お座り」という言葉を繰り返して発していた時があった。
初めての子育ては、想像通り、いやそれ以上に大変だった。
女の子だけれど、活発すぎて、行動も素早く、それでいて表情も豊かな娘を育てるのは、楽しいけれども体力が必要だった。
 
そんな娘を連れて、実家の母、妹とハワイを訪れたことがあった。
娘が2歳の誕生日を迎えた後だったが、実家の母のたっての願い、「死ぬまでにハワイに行ってみたい」という希望を叶えるためだった。
女ばかり、三世代のハワイ旅行。
最年長の母と最年少の娘は、もちろん初の海外旅行。
 
計画を立てた段階から、私の中では楽しみ以上に不安が膨らんで行っていた。
関西からのハワイへの出発は、関西空港からの夜の便となるため、もしも夜泣きをしたらどうしよう。
環境が大きく変わる海外での生活で、体調を崩したらどうしよう。
女の子なのに、すぐに熱を出すところも気になっていた。
それに加えて、60歳を越えて、初めての海外旅行となる母は大丈夫だろうか。
そんな思いでいっぱいになって、私は出発の1週間前から食事も喉を通らないくらいになっていた。
 
ところが、案ずるより産むがやすしというのは本当で、当時、まだ母乳を飲んでいた娘は、飛行機に乗るなりおっぱいを飲んで、スヤスヤとホノルル到着まで眠ってくれたのだ。
ハワイに到着すると、初夏のハワイの爽やかな風と解放感で、母も娘も大喜びだった。
そんな二人の姿を確認して、私もようやく安心して、ハワイ到着後からは食欲も出てきて、やっと海外旅行を楽しめる気分となっていった。
 
三世代、海外旅行が初めてのメンバーとの旅行なので、その時はツアーでハワイへと行ったのだが、朝食がついているプランにしていた。
朝ご飯はホテルで済ます方が、その日一日をゆったりと過ごせると思ったからだ。
 
私たちが宿泊したのは、カラカウア通りをワイキキビーチから渡った所にある、シェラトンプリンセスカイウラニというホテルだった。
ツアーでお世話になった旅行会社の方からのおススメのホテルだった。
 
シェラトン系のホテルでありながら、リーズナブルであることと、ワイキキビーチに近く、交通の便もいいということで、サービスの良さと移動のラクさを兼ね備えているところが気に入った。
そして、朝食のチケットでは、泊まるには少しお値段がお高い、モアナサーフライダーという老舗の高級ホテルのレストランを使えるということだった。
是非、噂のホテルの雰囲気も味わいたく、ワイキキ最古のホテル、ワイキキのファーストレディーと呼ばれる、モアナサーフライダーのレストランを利用したいと思ったのだ。
 
そして、ある日の朝、カラカウア通りを渡って、憧れの白亜のホテルの朝食が利用できるレストランへと行くこととなったのだ。
私たちが通されたのは、ワイキキのビーチが目前のテラスに近い席だった。
文字通り、建物も、壁も天井も、テーブルも椅子も全部真っ白だった。
それに、目前に広がるワイキキビーチは、朝の早い時間には、まだ海を楽しむ人たちは少なく、波の形が全部はっきりと見えて、あらためてその美しさに目が留まる。
その清潔感のあるホテルのレストランで、私たちは夢のような朝食をいただくこととなった。
 
小さな子ども連れの海外旅行に当たって、私はガイドブックで持ち物から注意事項などしっかりと読み込んでいた。
それによると、現地での食べ物が合わない時のことを考えて、普段食べているようなふりかけや味付け海苔などを持って行った方がいいとのことだった。
最終的には白いご飯があれば、ふりかけでも乗り越えられるということだろう。
娘は、白いご飯にふりかけはもちろんのこと、スクランブルエッグも、ソーセージもサラダもフルーツも、なんでも美味しそうに食べてくれた。
 
心配していた娘や母、妹も、みんながリラックスしていて、このハワイ旅行を楽しんでいるということが、この日のモアナサーフライダーでの朝食時間にようやく伝わってきた。
それくらい、気持ちが不安だった私をリラックスさせてくれるようなロケーションだったのだ。
娘の口に、白いご飯にふりかけを乗せたモノをスプーンで運びながら、自分でチョイスしたスクランブルエッグとカリカリのベーコンを味わえる幸せを噛みしめていた。
娘とのご飯時間の様子はいつもと同じなのだけれども、その向こうに広がるワイキキビーチの青い海と、ちょうど良いくらいの潮風が、私の今日一日を応援してくれているようで嬉しかった。
 
ああ、こんな時間を持てるなんて。
ああ、なんて素晴らしいんだろう。
 
海と風に感謝をしたくなるような、そんな私がそこにいた。
 
慣れない子育て、良く動く娘を追いかけまわる日々、とてもゆとりのない時間を過ごしていたあの頃の私は、あのハワイで、老舗のホテルで、海を見ながらいただく朝食によって心も身体もほぐされ、癒されていったのだ。
アメリカンブレックファーストのパンや卵やバターの香りが、ワイキキのビーチからの海の香りに重なって、しばらく忘れていたような心地良さをもたらせてくれたのだ。
 
キラキラ光る海辺の青と、時々頬をなでる潮風。
名前も知らない、美しい南国の小鳥の鳴き声が耳をかすめ、五感で味わう朝食、朝の風景は何物にも代えがたい、私を癒してくれるモノだった。
女三代の海外旅行では、女手が3人分あるということもあって、母や妹も娘の面倒をよく見てくれた。
少しだけ、娘から離れて買い物が出来たり、ゆっくりとお茶を飲む時間が持てたり、そんな経験もありがたいものだった。
そのことで、私自身もラクをさせてもらえ、そんなことからもこのハワイ旅行は忘れられないものとなっている。
何気ない朝の時間が、ハワイというロケーションが、子育てに疲れた私を励ましてくれたのだから。
 
あの旅行からもう25年以上が経った。
毎日、ありがたいことに朝を迎えることが出来ているが、それ自体を感謝の気持ちで迎えられているかと思うとそうではなくなっている。
あの、娘がまだ幼かった頃、母や妹との女4人旅でハワイの素敵なホテルで過ごした、朝食の時間が時々蘇ってくることがある。
朝の時間、朝のあの光景、五感で楽しむ朝の風景を私は生涯忘れないだろう。
また、あの極上の朝に会いに、ハワイへ行きたいな。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。

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2023-03-08 | Posted in 週刊READING LIFE vol.208

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