オレオレ詐欺がやってきた ヤァ!ヤァ!ヤァ!《週刊READING LIFE Vol.213 他人の人生》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2023/5/1/公開
記事:山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「ついに実家にもやってきた」
そんなLINEが兄から送られてきた。
なにがやってきたって?
そう、かの有名な「オレオレ詐欺」でございます。
まじか!
ついにきたか!
うちの母親をよくも騙そうとしてくれたな!
「人をみたら泥棒と思え」ということわざがある。
他人を軽々しく信用するなということだ。
人を信じなくなるのは悲しいと嘆く人もいるかもしれないが、高齢者を狙う犯罪は後を絶たないので、それぐらい、警戒しておくに越したことはない。
危機管理能力を持っていれば、トラブルが生じた際に被害を最小限におさえることができるのだ。
オレオレ詐欺は誰にでも起こりうることなので、事例を踏まえて母親とちゃんと対策をしておくべきだった。
「高齢者は狙われやすいから、気をつけなきゃダメだよ~」
それぐらいしか言ってなかった自分を悔やんだ。
どうやら、実家の固定電話に、兄を語ったオレオレ詐欺の電話があったということだった。
普通は携帯で連絡を取り合うので、固定電話に知らない番号から電話がかかってきた時点でまずあやしい。
いまどき固定電話に電話しないでしょう。
しかし、固定電話であっても騙せる勝算があるからヤツらは堂々とやるのだろう。
きっと母のことだ、自分は引っかからないと思っていたのではないだろうか。
母は大丈夫だったのだろうか……。
とりあえず兄のLINEから、母が騙されなかったことだけはわかって安心した。
「なんか、厳しいことを犯人に言ったらしいよ」
兄よ、気になるではないか!
事のいきさつを知るために、わたしは母親へ連絡した。
話をきくと、実家の固定電話にかかってきたオレオレ詐欺の犯人の声は、兄の声色によく似ていたということだった。
そして次に、母親の呼称だ。
家族間の呼び方は家庭によってそれぞれだ。
「おふくろ」「かあちゃん」「かあさん」「おかあちゃん」「おかあさん」「ママ」「あえて呼ばない」「全員名前呼び」「その家庭の独自のルール」といったものがある。
男性は「おふくろ」の呼び方をする人もいるし、関西出身であれば「おかん」を使う人も多いかもしれない。
わたしの友人のなかに、家族間で独特な呼び方をする友人がいる。
その友人は二人姉妹なのだが、妹は姉のことを「あね」と呼び、姉は妹のことを「いも」と呼ぶ。
そして、母親のことは「かあちゃん」と呼んでいる。
家族同士の呼び方は、一般的な呼び方はあるものの、まったく当てはまらないことだってあるのだ。
偶然なのか、母親への呼びかけ方が兄と一緒だったらしく、最初は兄自身が連絡をしてきたのだと勘違いをしてしまったと母は言っていた。
この時点でなりすましの第一関門は突破しているというわけだ。
他人の息子になりすますために、
「風邪を引いて声が変だ」
などの嘘をつく必要はない。
息子になりすますための、よくあるセリフでバレてしまうことだってある。
偶然、兄に声色が似ていたせいで、その防壁はいとも簡単に乗り越えられてしまった。
まあ、電話の声なんておぼえていないのが大半だと思う。
楽して他人からお金をむしりとろうとする悪者だ。
他人の息子になりすます脚本はちゃんと用意されている。
携帯電話ではなく、固定電話にかける理由をちゃんと話すのだ。
「やっとつながった! どうして携帯に出てくれなかったの?」
電話の主は開口一番、そう言ったらしい。
どうやら、なかなか携帯に繋がらなかったので固定電話にかけたという設定らしい。
「なんで携帯にかけてこないの?」
母が受話器の向こうの犯人に話しかける。
「何度もかけたよ」
「……」
ここで母は気がついたそうだ。
しかし、そうきたか。
「携帯電話をなくして会社の電話を借りた」
こういうセリフであればオレオレ詐欺のよくあるパターンに当てはまる。
携帯にかけたけど、出てくれないから固定電話にかけたという理由……あくまで非は母にあるという前提で進めるつもりとは、なかなかの力技だ。
確かにそれだと固定電話にかけても仕方ないかもしれない。
しかも、相手は高齢者だ。
すぐに信じてしまう人のほうが多いだろう。
しかし、母はこの時点で
こいつは詐欺じゃなかろうか?
と思ったということだった。
そして、携帯の履歴に、兄から連絡があった形跡がまったくないことを確認した。
どうやら母は、「もし、オレオレ詐欺の電話がかかってきたらどうするか」というシミレーションをしていたらしい。
母よ、恐れ入りました。
携帯にかけたと言うが、そんな履歴は残ってない……ということは、答えはひとつ。
そして母は言葉を発した。
「あんた、誰?」
すると受話器の向こうで兄に化けている犯人はゴニョゴニョと口ごもる。
「ぼく、ぼく……」
この犯人、反撃に出られた場合のことは考えていなかったのか?
そして母はさらに犯人を問い詰める。
「名前を言ってみなさい」
おそらく、犯人のほうも名前をきかれる想定はしていたはずだ。
しかし、犯人の脚本はあまりにもおそまつだった。
犯人は名前を言った。
「ユーだよ、ユー」
YOU?
それとも、「ゆう」という名前にかけたのか?
いやいや、いちかばちかすぎるでしょう!
他人になりすましてお金をとるのには、あまりにもおそまつな脚本だった。
もしかしたら、それでも成功した例があったのかもしれない。
本当に間違えた可能性もある。
母は、受話器の向こうの犯人を、完全なる偽物と断定した。
兄のLINEでは、母が犯人にきびしく言ったとあったが、実際にきびしくお説教したのだろうか。
母は話を続けた。
「ぼく、ぼく……って口ごもるから、言ってやったわ」
わたしはやさしくきいてみた。
「それで、犯人になんて言ったの?」
母は元気よく答えてくれた。
「アウト~!」
「……」
そういえば、数年前まで年末の風物詩になっていた、「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」の「絶対に笑ってはいけない」シリーズが好きだったっけ。
母は紅白よりも「絶対に笑ってはいけない」を楽しみにしていた。
お笑い、好きだったな……。
「松本、アウト~」みたいなノリで言っている母の姿を想像した。
よく、こんな緊張する場面で出てきたなと、感心してしまった。
おそらく、犯人にしてみれば、第一関門を突破したらその後の流れも想定していたはずだ。
「大事な書類が入ったカバンをなくした」
「会社で失敗をした」
「今日中に金を振り込まないと会社をクビになる」
「株購入で損をした」
こんなふうに次のステップへ進むはずだったのだろう。
母は「アウト~」だけ言って、すぐに電話を切ったそうだ。
余計なことを言って、個人情報をもらしてしまったらたまったもんじゃないと。
今回のことで、普段からオレオレ詐欺などの特殊詐欺について、家族の間で話しあっておくことが大切だと思った。
運よく被害を回避できたが、もしも自分のほうから兄の名前を出していたらやばかったかもしれないと、母は話してくれた。
なりすましている相手の名前がわからない場合は、うまく高齢者から息子の名前をききだす手口だって存在するのだ。
オレオレ詐欺の被害の対象になるのは高齢の女性が多い。
そして、息子を語る手口が圧倒的に多いのが事実だ。
普段から母親と連絡を取り合い、関係が密になって情報量の多い娘より、家族と離れている息子のほうが、なりすましやすいのだろう。
そして、たまに連絡してきた息子はいくつになっても可愛いし、助けたいと思うものだ。
そんな気持ちを利用するのだ。
実際、まわりでも引っかかった人もいる。
今回、わたしの実家にかかってきたような電話とは違い、次から次へと登場人物がかわり、上司と名乗る人物に電話を変わられ、考える隙を与えない。
そして、その結果、お金を騙しとられたというわけだ。
母だって、子どもだって、孫だって、みんな苦労をして頑張って生きてきたのに、そんな赤の他人になりすまし、楽してお金を得ようとは言語道断だ!
他人の人生をなんだと思っている!
被害はなかったが、オレオレ詐欺の対策を考える、いい機会になった。
実家の電話機を見直そう。
「通話内容を録音します」というメッセージを流してその後の通話を録音するような、防犯機能のついた電話機にすると、詐欺の抑止力になる。
すぐに行動する母のことだ、もしかしたら、もうなっているかもしれないが……。
人を信じること、人を愛することは大事なことだ、
しかし、その気持ちを利用しようとする悪者がいることを、わたしたちは忘れてはいけない。
普段から家族と連絡をとりあい、家族間でもしものときについて話し合うことが大切だ。
□ライターズプロフィール
山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
2021年12月ライティング・ゼミに参加。2022年4月にREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。
1000冊の漫画を持つ漫画好きな会社員。
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