週刊READING LIFE vol.217

新札で支払うという文化《週刊READING LIFE Vol.217》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/5/29/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「えっ、もう終了!?」
 
ここのところ、とりつかれたように銀行に通っている。
新札の両替がしたいのだ。
私も娘も、バレエのお稽古では、毎回、レッスン費用を現金で先生にお支払している。
その際に、新札で支払いたいのだが、新札になかなかお目にかかれないのだ。
日々、ストレスを感じることは少ない方だが、最近のこの新札両替ミッションが未完了なことだけはちょっとイラっとしてしまう。
 
ちなみに、日本で多くの人が求める新札だが、アメリカでは滅多に新札に出会わないと聞く。
そういえば、ハワイへは何度も訪れたことがあるが、新しいドル紙幣を手にした記憶がない。
アメリカでは、新札は、偽札の疑いを持たれることもあるらしく、むしろ使い古したお札の方が、流通しているという証拠なので安全だと受け取られるようだ。
お金の状態にも、お国柄が出るものだ。
そうなると、これはもう日本独自の文化、慣習なのだろうか。
 
私の利用している銀行では、新札の両替には、まず、その銀行に口座を開いていて、キャッシュカードか両替専用カードがないと出来ないようになっている。
そして、専用の両替機で、一日一回、千円札だと10枚までという決まりがある。
ところが、午前中に家事を済まして、お昼くらいに銀行へ行くと、「新札の両替、終了しました」と、張り紙が出ているのだ。
近くにいた銀行の係の人にたずねると、もう開店直後の9時30分くらいに、1000円札の方は終了していたというのだ。
 
「そんな~、うそでしょ」
 
これで、もう何回そんな目にあっていることか。
そもそも、お稽古事のお月謝には、新札でないといけないのか。
そんなことまでも疑問に思ってしまうくらい、今困っている状態だ。
 
でも、思い出してみると私が子どもの頃、お習字、絵画教室、ピアノ、バレエなどのお稽古をさせてもらっていた。
その全てのお稽古事の際、お月謝は月末に自分で持って行っていた。
御月謝袋というのがあって、そこにお金を入れて持たせてくれていた。
その際のお月謝は、母が全て新札で揃えてくれていた。
 
今思うと当時は、わざわざ新札へ両替する必要はなかった。
というのも、私が子どもだった頃、父のお給料は現金で支給されていて、父はお給料日にその封筒を持って帰ってきていたからだ。
確か、母が父のお給料は全て新札だったと言っていた。
それは、父が銀行員だったからだろうか、真実は定かではないが。
そう、だから新しいお札はわざわざ銀行で両替してもらわなくても、お家にある時代だったのだ。
だから、母は私のように新札を求めてさまようことなく、用意をしてくれていたのだと思う。
そんなことを覚えているから、私も子どものお稽古事、自分自身の趣味の習い事のお月謝を自分で用意して支払うようになってからも、全て新札を用意するようになっていた。
 
とはいえ、時代が移り変わり、お稽古事、塾などによっては、お月謝が銀行引き落としと言うところも増えたが、やはり個人の先生方は現金でのお支払が多いのだ。
そんなふうに、支払い方自体も時代と共に変わったということで、もう新札でなくてもいいのではと思いたくなる、新札両替苦労時代となっている。
 
ところが、私自身の断捨離トレーナーの仕事で、クライアントの自宅に伺ってサポートをする際、交通費は当日に現金でいただいている。
その際、たいていの方が新札を用意してくれている。
勝手なもので、いただく側に立つと、新札を前もって用意してもらっていると、大事にしてもらっている、敬意を払ってもらっているように感じるのだ。
今、私自身がその新札の両替に苦労しているだけに、こうやってわざわざ用意してもらうと、より一層感謝の気持ちや申し訳ない気持ちも深くわいてくる。
そんな経験をすることで、お祝い金、お稽古事の先生へのお月謝を新札で用意するということは、相手への敬意もそこに込められているということがよくわかる。
 
ただ、お金を支払う、渡すという行為が、わざわざ新しいお札を用意するという行動も加わって、相手への思い、敬意となって表現できるのだ。
やはり、くちゃくちゃのお札で受け取るよりも、新しいお札だと無条件に気持ちが良いものだ。
でも、反対にお悔やみ事の場合、お香典などは新札を使用しないのが作法となっている。
それは、新札というのは事前に用意するといったイメージがあるから、まるでお悔やみ事を予測していたかのように受け取られるからだというのだ。
さすがに、くちゃくちゃのお札では失礼になるが、それなりに使用感がある方が良しとされている。
こんなふうに、紙幣の状態の善し悪しがお付き合いのシーンで多くの意味をもたらすという文化は日本独自のモノかもしれない。
 
親がやっていることから子どもも学び、そして、自分が支払う立場になったときにも、真似をしてゆき、受け取る側の経験をすることで、ようやくその意味がわかってきたように思う。
 
決まりや、絶対ということではないのだと思うが、先生、師匠、目上の方、お祝いをしたい相手に対して、お金だけではなく、気持ちを込めるカタチとして、新札で支払いをするという文化、慣習は受け継がれてゆくだろう。
これこそ、相手を敬う、日本独特の文化、慣習なのだろうから。
そして、ある意味、新札が安全なモノだという常識がある、安全な国だということも誇らしいお国柄だと胸を張れるものだ。
 
ああ、やっぱりそう思うと私はお稽古事でのお月謝や、人様に渡すお金は、新しいお札の方が気持ちいいと思うな。
ただ、親がやっていたことを単に真似ているだけでなく、私自身も心からそう思えるようになったからだ。
そうなると、私は新札を求めて、朝早く銀行へと走ることもイヤではなくなるかもしれないね。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

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2023-05-24 | Posted in 週刊READING LIFE vol.217

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