それなげといて! 標準語しかわからない人から見た、方言の魅力とは《週刊READING LIFE Vol.238「この言葉って、そういう意味だったんだ!」》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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2023/11/6/公開
記事:ペン吉(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
東京都生まれ、関東育ちの私は、「標準語」しかわからないため、地域特有の連帯感を感じられる、「方言」を使っている方が、うらやましいです。日常会話の中で方言だと知らずに使っていた言葉はあるのですが、文化として継承されている地域特有の言語とは違います。
標準語よりも、方言で言われた方が、心に響くという話や、商品の名前に、方言を使うと売り上げが伸びたという話もあるのです。それだけ、方言というのは、力があるものなのですね。
本記事では、標準語しかわからない人から見た、方言の魅力についてお伝えしたいと思います。
私の母は京都生まれで、たまに、京都弁を使っていました。
近畿の方言である、京都弁のイントネーションを聞かされて育ったからか、私はよく、まわりの人から「京都出身ですか?」と聞かれ、その度に「母が京都の人なので、話し方がうつっているのかもしれません」と答えていたのを思い出します。
私が母の京都弁を真似したところで、所詮は偽物です。本物の京都弁を話す人が聞いたら「やめてくれ」となるでしょう。
昔、パート先で京都出身の20代の子に、「母は、昔からハキハキしている人だったから、『どす、どす』言うと迫力があって怖いって、親や知人に言われていたそうです」と話をしたところ、「それ、お母さんにからかわれていますよ。京都の人は『どす』なんて使いませんよ」とはっきり言われたのです。
たしかに、「どす」は花街で使われていた言葉なので、若い京都の人からは「観光目的の演出で、現在は使われている言葉」としてしか認識がないのかもしれません。
しかし、幼い頃、母と京都へお墓参りに連れていって貰った際に、親戚や知人からも同じ話を聞いていたので、商売をしていたお家で育った母は、本当に『どす』と言っていたのでしょう。
同じ京都弁を話す人でも、時代によって使う方言、使わない方言があるのだと母に教えて貰っていた私は、その違いを感じました。
同じ方言の地域に住んでいても違いが出るなら、標準語しかわからない私は、もっと解読が難解です。
老人福祉施設の厨房でパートをしていた頃、先輩は40代後半から55歳くらいまでの女性がたくさんいました。ほとんどの方が地方出身で、言葉の理解が難しかったのを今でも覚えています。
「Tちゃん! (私)その袋、なげといて!」
「ん? 投げる?」
(へぁ!! って投げるってこと?)
他のパートさんが「Tちゃん、『なげる』っていうのは、『捨てる」ってことよ」
「あぁ、どこの方言ですか?」と私が問うと、「T中さんは北海道よ」とのことでした。
他にも、
「孫がチャンネルを『おささっちゃって』ね」は『押しちゃってね』
「孫が本当に『きかない』子なのよ」は『やんちゃ』『わんぱく』
「お土産ありがとうございました」と私が言うと、T中さんは『なんもなんも』と言います。
『なんもなんも』は「どういたしまして」の意味です。
また、T中さんに「昨日の『相棒』っていうドラマの中で、はじめて知ったんですけど、北海道の方言で『こわい』っていう言葉が、『疲れた』っていう意味だって本当ですか?」と聞くと、「本当だよ」と教えてくれました。知らなかったら、「怖いんだな」と普通に解釈してしまうでしょう。方言は、面白いですね。
語尾の『だべ』『だべさ』というのも、北海道弁でした。よく、日本の昔話のアニメや、漫画などで聞くこの言葉は、てっきり、昔の人、全てが言う言葉なのだと思っていました。私は結構、この『だべ』『だべさ』がかわいいイントネーションだと思っており、おじいちゃんやおばあちゃんが使っていたら、きゅんっとしてしまいます。
漫画や小説、映画などで使われている言葉の中には、著者や作者の出身地の方言が含まれていて、それを私たちは、何気なく吸収している可能性もあるわけです。
「方言だと知らず、標準語だと思って使っていた」ということは、皆さんもよくあるのではないでしょうか。
私の主人も、親や祖父母の影響を受けて「群馬弁」を聞いて成長してきました。主人が話をする中で「ん? それってどういう意味?」と私が聞き返すと、「ばあちゃんが言ってたんだ」と自信満々に説明をしてくれます。しかし、いざ、ネットで方言として調べてみると群馬ではなく、熊本だったり、埼玉だったり、違う地域の方言が混ざっていたのです。中には、造語もありました。もしかしたら、本当に群馬で使われていたのに、年配の方しか知っている人がいないのかもしれません。
方言を後世に伝えるのは難しいですね。「現代では、祖父母と離れて暮らしている若い世代が多く、伝えられている方言が少しずつ減少している」といった現象がおこっています。
方言のある地域に生まれたなら、ぜひとも、方言のすばらしさに目を向けてみてほしいです。すてきな文化を吸収できる、チャンスがあるのですから。
同じ日本にいるのに、2種類の言葉を話せるなんて尊敬します。また、故郷特有の言葉は、使うと故郷の懐かしさで思い出せる情景が浮かぶ利点もあります。
2011年3月11日に東北大震災がおき、「がんばっぺし!」という復興スローガンが、地域の結びつきを強くしてくれましたよね。ただの「がんばろう!」よりも、ぐっと心に残るフレーズです。
老人福祉施設の厨房で配膳をしにいくと、入居者であるご年配の方とお話する機会があります。方言で話をされている方に「方言、すてきですね」と言うと、「方言はいいよ。知らない人が話していても、方言を聞くと懐かしさがこみ上げてくるし、同郷として、仲良くなるきっかけにもなるからね」とお話されていたのを思い出しました。
私の周りはみんな標準語。仕事をしている人なら、地方の方でも標準語で話すことが多いです。
仕事をされている方に「あれ? 関西の方ですか?」と聞くと「え、ばれちゃいましたか。気をつけてたんですけど、鋭いですね」と返されることが、しばしばあります。私は隠さない方が魅力と、温かみがあると思うのですが、「ビジネスでは標準語で話せ」と注意されるのでしょうか。残念に思うこともあります。
方言というのは故郷との結びつきが強く、伝統を受け継いでいるすばらしい言語です。ぜひ、方言も魅力的な武器として使っていただきたいですね。
関東にも方言はある? といえば、あります。元は「神奈川方言」だった、「~じゃん」です。
東京の人は「これ、おいしい『じゃん』」のように、語尾に「じゃん」をつけます。ですが、漫画や小説などでもよく使われているフレーズなので、新鮮味がありません。
「かたす」は「片付ける」という意味で、無意識に使っていることもありました。他にも気になって、関東方言の「神奈川方言」を紹介しているホームページを検索してみると、知らない方言だらけでした。
「公園にいく『だべ』」
これは「公園にいこう」ですね。
「ボールを『けっぱぐる』よ~」
「ボールを蹴るよ」と普通に言いますね。
……。どうやら、方言というのは普段、周りに使っている人がいるかどうかで、広まる率が変わりそうです。私が上記のような言い方をしたら、もれなく「あいつ、いつの時代からタイムスリップしてきたんだよ」と変な目で見られるに違いありません。
時代によって、方言の取得率が変わるのも仕方がないことなのかもしれないと、今、気づきました。
文化庁のホームページでは、このような取り組みも公開されています。
”日本の言語・方言の中には、消滅の危機にあるものがあります。”
”「東日本大震災からの復興の基本方針」(平成23年7月)で指摘された東日本大震災の被災地の方言が該当します。”
”文化庁では、消滅の危機にある言語・方言の実態や保存・継承の取組状況に関する調査研究をはじめ保存・継承に資する様々な取組を行っています。”
出典:https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/kikigengo/index.html
このように、消滅危機にある方言を保存・継承するために努力されている取り組みがあるのですね。ぜひとも、がんばっていただきたいです。
余談ですが、結婚して嫁いだ姉の夫は、青森出身だと聞きました。
姉いわく、「実家と電話している主人の話は、宇宙言語といった感じで、何を言っているか全くわからない」そうです。
結婚して、数年経って、ようやく親戚や主人が何を話しているのかが分かりはじめたと言っていました。私もご主人にお願いして、青森弁で話して貰いましたが、ちんぷんかんぷんでした。もはや呪文を唱えているレベルだと思います。
「な」……。この方言わかりますか?
答えは「あなた」です。
「とろげる」、とろけちゃいそうですよね。
答えは「片付ける」です。
けれど、姉のご主人いわく、短い文章で伝わるから楽なんだとか。お互いに、きちんと伝わる人がおり、今もなお、使われている言語なのですから、本人は便利なのでしょう。
いかがでしたでしょうか。
本記事では、標準語しかわからない人から見た、方言の魅力をお伝えしました。
皆さんも聞いたことのある方言はありましたか。もし、気になる方言があったら、ぜひ意味を調べてみてください。とても楽しいですよ。
方言を話せることは、とても魅力的です。標準語しかわからない私から見ても、聞いていて楽しくなります。これからも、日本の「方言」という伝統文化を継承し、故郷とのつながりを感じられる言語を大切にしていきたいですね。
□ライターズプロフィール
ペン吉(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
東京都生まれ。神奈川県相模原市に35年近く住んでいましたが、現在は東京都在住。
3歳女児のママ/WEBライターコース【初級】【中級】、取材ライティングコース修了/WEBライター検定3級/チャイルドコーチングマイスター資格/noteの公式マガジン「#編集 #ライター 記事まとめ 」に選ばれました。現在、育児の合間をぬってWEBライターの仕事を探し中。
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