私はアイスカフェラテを飲みたいだけじゃない《週刊READING LIFE Vol.258 美しい仕事》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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2024/4/22/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「こちらのパンでございますね、ありがとうございます」
私が住む京阪神地域は、パン屋さん、スイーツのお店の激戦区でもある。
最寄り駅の周辺には、名の通ったパン屋さんがたくさんあるのだ。
そんな中、自転車で10分くらいかかるところに、とある小さなチェーン店のパン屋さんがある。
そのお店は、どちらかというと積極的に食べたくなるパン屋さんではない。
他にも、家の近くにたくさん美味しいお店があるからだ。
それでも、買い物のついでに、たまに立ち寄るそのお店は、カフェも併設していて、お店で購入したパンを食べながらお茶を飲むことが出来るようになっている。
平日の午前中に行くと、カフェの座席はいっぱいのことが多い。
よく見ると、利用しているのは、年配の男性や女性が一人で来ている姿を多く見かける。
もちろん、どこのカフェでも見かける、子どもを幼稚園へ送り届けた後のママ友のグループもいるのだが、圧倒的に一人で来ているお客さんが多いのだ。
これまで、何度となく来てみて、私はもっぱらパンを買ってすぐに帰るのだが、カフェの方は毎回そうであることにようやく気付いた。
最寄り駅の便利な場所には、コーヒーの専門店や、インスタでも紹介されるようなおしゃれなお店だってたくさんある街なのだが、どうして住宅街にある、このパン屋さんのカフェいつもお客さんが多いのだろうか。
私はある時、いつものようにパンを買ったのだが、その時に気づいたことがあった。
それは、レジの方の対応だった。
パンを数個買ったのだが、そのパンをとても丁寧に袋に詰めてくれたのだ。
これまでに、数えきれないほどパン屋さんは利用しているので、その袋詰めの光景は何度も経験している。
パンは大好きなので、よく買っている方だ。
そんな私が、いつも何気なくその店員さんの動作を見ているのだが、そのお店の店員さんの動きはやっぱり違ったのだ。
よくあるのは、お店が忙しかったりすると、手慣れた店員さんが「私のパンなのに……」と、言いたくなるくらい、悪気はないのだろうが、パンを雑に扱われることもある。
ところが、その小さなチェーン店のお店の店員さんは、とても丁寧にパンをトングでつかんで、袋詰めをしてくれるのだ。
レジ袋が必要なのかどうか、お支払方法はどうなのか、それらレジでの一連の問いかけが、とても丁寧で優しいのだ。
丁寧というと、マニュアル通りの文面で、抜けることなく必要なことを話されるというようなものではなくて、その人の持っている言葉で、自然に問いかけてくれるというようなイメージだ。
きっと、基本的な接客のマナーのお手本はあるのだろうが、その先は店員さんそれぞれの持ち味で語り掛けてきてくれているように感じるのだ。
私に向けて掛けられるどの言葉も耳にやさしく、答える側の私の気分を心地良くしてくれるのだ。
丁寧過ぎず、仰々しくもなく。
ただ、数個のパンを買っているというそれだけのことなのに。
ああ、だから、みんなこのお店に来ようと思うのかもしれないな。
一人、ちょっとお茶を飲みたいなと思った時、きっとこのお店がパッと頭に浮かぶんだろうな、そんなお店のように私も感じた。
同じようなチェーン店のカフェで、私は以前辟易したことがあった。
そのお店があるのは、関西でも有数の大きな駅。
私鉄と地下鉄が乗り入れているような駅だったので、利用客がとても多い所だった。
その私鉄の改札前という、絶好の場所にあるそのカフェはいつもお客さんで満員だった。
レジに並ぶ前にパンなども選べて、最後にレジで飲み物を頼むというシステムのお店。
そのレジの店員さんは、利用客が多いお店なので確かにテキパキとしている。
その際に問いかける言葉が、本当にマニュアル通りできっと一言一句も違っていないのだろう。
でも、問いかけられた側の私は、まるで機械かロボットに話しかけられたような、無機質な印象しか受けなかったのだ。
一体、この人は誰に向かってしゃべっているんだろうか、と。
その問いかけに答える私のオーダーだけを耳に残し、私の方を一度も見ることなくドリンクのオーダーをその作業をする人に向けて告げていた。
私が欲しかったのは、冷たいカフェラテだったので、それを出してもらえたらそれで何も間違ってはいない。
ただ、私は券売機でアイスカフェラテのチケットを買って、それを出してもらっているのではないのだ。
目の前には、生身の人間がいて、その人が私と応対してくれているはずなのだ。
ところが、マニュアル通りによどみなく問いかけを振りかけてこられて、それに対する私の答えのスピードにも寄り添ってはくれない。
そんな機械的なやり取りを終えると、私はどっと疲れたのを覚えている。
いや、どこかで怒りさえも湧いてきていた。
何も間違っていないし、オーダー通りの飲み物を早い時間で提供もしてもらったのだ。
でも、そのお店の店員さんとのやり取りは、とても味気なく、私を一人の人間として扱ってくれていないような、そんな感じを受けたのだ。
そんなことを、家の近くのあの小さなチェーン店のパン屋さんのカフェの店員さんと話した時に思い出したのだ。
よく見ると、どの店員さんも、きっと小学生から中学生くらいのお子さんがいらっしゃるような、お母さんというカンジがする年齢のように見受けられた。
子育てをしながら、昼間の時間にパートとしてカフェで働いているような方たちだった。
それでも、笑顔がとても優しく、お客の一人ひとりの目をちゃんと見て、心の通った対応をしてくれている。
この人たちの仕事を見ていると、とても清々しく、美しく思えたのだ。
ただただ、お客さんを素早くさばいていって、早く終わらせるのが仕事ではないと思う。
もちろん、お客さんが多くて対応に時間を掛けられないという事情のお店だって多いとは思う。
それでも、モノや食品を提供するという以前に、人と人との気持ちのやりとりがあってこそだと思うので、まずは心が通い合うような、そんなやり取りを私は望んでいる。
これまで、パンを買うだけですぐに帰っていたあのお店。
今度、時間があるときに、カフェも利用してみようかな。
ただ、お茶を飲んでいる時間も、あのお店だったらきっと気分もいいはずだ。
きっと、アイスカフェラテも、すこぶる美味しいと感じるだろうな。
□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。
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