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修二君の一歩

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:後藤 修 (ライティング・ゼミ、2026年1月開講、通信、4ヶ月コース)

※この作品はフィクションです

 

愛知県T市に伊藤修二君という小学生がいました。

修二君は頭が良くて、活発的な子。

放課後になれば

クラスメートと運動場に駆け出して、サッカーボールを蹴って遊んだり、アスレチックスを駆け回る子でした。

 

ところが、小学3年生の7月。

 

近所にある小さい公園で、お母さんと一緒にスイカぐらいの大きさのゴムボールを使って

投げあっこして遊んでいました時のこと

 

お母さんが投げたボールが、修二君の頭を超えて、点々と転がっていきました。

 

「ああ、ごめんねえ」

お母さんが声を張り上げました。

「うーん、いいよ~」

 

お母さんの声を包むように受け取りながら、

修二君は走ってボールを追いかけました。

ボールは、白いベンチに下を向いて座る60歳くらいのおじさんに当たりました。

 

「すみませーん」

修二君はそのおじさんに近寄りました。

 

すると、その時。

そのおじさんが立ち上がって

「こんなところで、ボール遊びなんかしちゃいかん‼」

と怒鳴って、ボールを修二君の方へに投げつけました。

 

修二君はボールをよけてあたりませんでしたが、修二君は黙って立ち止まっていました。

 

きゅうう……

 

修二君は胸がぎゅっと締め付けられた気がしました。

 

「すみません! 」

お母さんはそのおじさんに走って駆け寄り、頭を下げて謝りました。

 

おじさんはブスッと頬を膨らませ、黙ってその場を離れてゆきました。

 

「ごめんね、修ちゃん。お母さんのせいで、怖い思いさせちゃったね……」

お母さんの声で、修二君は胸の締め付けが緩んでゆきました。

 

しかしそれ以来、修二君は年配の男の人と目を合わすと、怖さを感じるようになりました。

体に緊張感が走り、体が固まってしまうようになったのです。

 

例えば、近くのスーパーマーケットにお父さんとお母さんと出かけて、2人の知り合いである男性に会った時などは胸が苦しくなってしまうのです。

 

「修君、こんにちは」

知り合いの人に声を掛けられても、口も開かずにじっとしていました。

 

そんな修二君をお父さんとお母さんは気に掛けて、

自宅から少し離れたところにある児童精神科病院に連れて行きました。

 

ですが、お医者さんからはこう言われました

 

「特に、症状はありませんねえ。しばらくお父さん、お母さんお二人で修二君の様子をしばらく見守ってあげてください。」

 

修二君の心は灰色のまま、お父さんとお母さんも薄暗い気持ちで帰りました。

 

そして、修二君の学校生活も変わりました。

放課後にクラスメートと運動場で遊ぶことがなくなり、ほとんど図書室で静かに本を読むようになりました。

 そして、授業では必ず手を挙げて、進んで発言をすることがだんだんとなくってしまいました。

 

「修二君、どうしたの? 外へ遊びにいこうよ」

と友達が誘っても、

修二君は

「別になんでもないよ。一人で過ごしたいんだ……」

修二君はうつむきがちに答えて、図書室にいつも向かうのでした。

 

そんな様子を知った担任の田中義彦先生。

 

「修二君、なにかあったの?」

と尋ねましたが、修二君はなんでもありませんと足早に先生から去ってしまいました。

 

ますます修二君を気に掛けた先生は、修二君の自宅に電話しました。

 

お母さんが事情を聴いた先生は

 

「では、こちらもそうします」

田中先生はしばらく目をつぶり電話を前にして、腕を組んでいました。

 

 

数か月たったある日。

修二君は、バスに乗って病児童精神科院へ向かっていました。

この日はお父さんもお母さんも仕事のため、一人でした。

 

ある停留所に止まった時に、男の人が乗ってきました。

その人は年配の男性で、細くてにらむような眼をしていました。

辺りを見渡した後、呟きました。

 

「空いていないな……」

座席はすべて埋まっていたので、ため息を少しついて、その人は座席にちょこんと座る修二君に近寄るように、近くの吊り革を握りました。

 

その人は顔を時々しかめ、右太ももを痛そうにさすっていました。

 

きゅうう……。

 

修二君は胸が少し締め付けられている気がしました。

年配の男性がそばにいるので、体に緊張が駆け巡っていたのです。

 

でも、同時にこうも思いました。

 

痛そうだな……。

 

修二君の頭には、1カ月前の出来事が浮かんでいました。

 

それは、帰りの会の時に田中先生が言われたことでした。

「困った人を見たら、助けてあげてくださいね」

 

先生のご両親は高齢になられて、足を動かすことも不自由になってきて

誰かの手を借りて、歩くことも増えてきている。

これから、そのような人が増える世の中になるから、

優しい心を持って、誰にも接してあげてください。

田中先生の柔らかな声が教室を包んだ時のことを。

 

修二君の心は熱くなりました。

体の緊張も薄れてあまり感じな唸っていました。

 

(勇気をもとう)

修二君は年配の男性に声を掛けました。

 

「あのお、ここに座ってください」

少し声を発して、男性に呼びかけました。

 

「ああ、ありがとうございます」

男性の眉間にあるしわは消えて、笑顔がはじけました。

 

しばらくバスに揺られて、修二君が降りる停留所に着いた時。

 

「ありがとう……。本当にありがとう……」

 

男性は少し目に涙を浮かべながら、修二君にお礼を伝えたのでした。

 

「うん。よかったです」

唇に微笑みを残して、修二君はバスを降りました。

 

さっきまで、曇っていた空に、太陽が顔を覗かせはじめました。

 

(なんか僕……、大丈夫かもな)

 

少しの自信を手に入れて、修二君は足取り軽く病院へ歩いていきました。

 

≪終わり≫

 

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