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「行かないで、寂しいの」それが男を冷めさせる~大人婚活で本当に効く「伝わる」愛情表現の技術《週刊READING LIFE Vol.361「フリー」》


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:マーガレット佐々木(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

「相手の立場に立って考える」これはコミュニケーションを語る以前に、「常識」として、また「マナー」として耳が痛いほど言われ続けてきました。婚活の場で、ビジネスで、子育てでも、誰もが口にする。でも本当にこれができている人は、一体どれほどいるでしょう。

私は50才で離婚し、再婚するまでに7年かかりました。再婚できたとは言え、それでも「相手目線」を本当に理解できたのかは、正直なところ分かりません。これと言える悟りの瞬間があったわけではなく、ことあるごとに少しずつ手探りで進んできたのですが、婚活コーチを自認する今も、まだまだ途上だと感じています。

 

例えば婚活の世界には、男女の間に目も眩むような深い「溝」が存在します。感覚、価値観、コミュニケーションにおける捉え方の違い。それは余りにも、時に残酷なほど深いものです。私は、相手への敬意とほんの少しの自虐も込めて、この男女の絶望的な隔たりを「婚活界のマリアナ海溝」と名づけました。

日々、多くの女性たちがこの海溝を渡ろうと、懸命に言葉を紡ぎ、行動しています。

「私ならこう思う」だから「ここまで言えば伝わるはず」それをほとんどの場合、男性は察してくれません。ここまで言ったのに、ここまでしたのに、そのほとんどが相手に届かないどころか、知らず知らずのうちに相手の心を冷めさせることすらある。その原因は、アナタが不器用だからでも、魅力がないからでもなくて、「私だったらこう思う」「私ならこう感じる」を基準にしているからです。「私なら」で考えている時点で、それは相手目線ではなく、ただの「変装した自分目線」に過ぎません。それを改めるには一旦「私」という主語を一度手放し、「この人ならどうだろう?」と、ゼロベースで相手の心の動きを想像する。この想像力こそ、婚活において最も強力でありながら、この上なく困難な「相手目線」という技術です。

つまり「相手目線」が技術である以上、どんなに困難でも日常の中で繰り返し実践を通して鍛えていくことができるのです。ですが、誰もきちんと教えてくれない。今日は「伝わるように伝えるために」、三つの例示を通してお話しします。

 

嵐の夜の「卒業試験」——エミさんの選択

まずは一つ目。読者の皆さんにも是非ご一緒に考えていただきたいワークがあります。
これから、ある一組の男女が直面した、決定的な別れの場面をお話ししますので、アナタだったら目の前の「彼」にどんな言葉をかけるか、考えていただきたいのです。
(掲載の許可をいただいている)あるアラフィフ女性の実話です。


物語の舞台は9月30日。大型台風が東京に上陸しようとしていた、緊迫した日曜日の夜のこと。

彼女の名前はエミさん(仮名)。急に体調を崩した父親の看病と、その介護に疲れ切った母親のサポートに明け暮れ、心身ともに疲弊していました。交際中の恋人・タクヤさんとも些細なことで言い合いになり、エミさんが感情を爆発させて部屋を飛び出して以来、二週間もお互いに音信不通のままでした。

しかしこの日に、二人はもともと会う約束をしていました。夜半から猛烈な暴風雨になると天気予報が告げ、夕方になると既に生暖かい空気とすさまじい風が、嵐の接近を予感させていました。そんな黄昏時、タクヤさんはあえて自転車に乗り、エミさんの部屋へと向かいます。彼自身もまた、仕事の空転や二人の関係性の危うさに、得も言われぬ焦燥と限界を感じていたのです。

 

「……今日俺が、何を言うために来たのか、分かってるよな?」

玄関でタクヤさんがウィンドブレーカーのジッパーに手をかけた瞬間、外では何かがなぎ倒される凄まじい音が轟きました。

「うん。でもわざわざ来てくれてありがとうね」と、エミさんは必死に言葉を絞り出し、タクヤさんを迎え入れます。そして、あえていつものマグカップではなく下皿のついた客用のティーセットで彼に熱い紅茶を淹れました。夜が更けるにつれ雨脚がひどくなり、風の咆哮が部屋を震わせる中、二人は紅茶を飲みながら、いつまでも他愛のないお喋りをしました。語り合うほど、かつて楽しかった思い出は空虚に響きます。お互いが、今やもう限界であることを肌で感じ取っていました。

 

やがてタクヤさんはゆっくりと立ち上がり、玄関で振り返ると、冷徹なまでに静かな声で言ったのです。

「じゃあ俺、これで行くけど……どう? 俺のこと、引き止めてみる?」

 

タクヤさんはエミさんを試したかったわけではありませんが、これきりもう二度と会うことのない他人になってしまうことに、ほんの数パーセントの迷いがあった。だからこそ、エミさんの「答え」に最後の望みを賭けたのです。一方、ここで彼を帰せばそれでお別れ。外は暴風雨。もしアナタがエミさんなら、何と言って彼を引き止めますか? スクロールを止めて、ノートかスマホのメモに、一度書いてみてください。

 

その夜、エミさんがタクヤさんにかけた言葉はこうでした。

「行かないで。私、寂しいの。一緒にいてほしい」

 

どうでしょうか。アナタと同じでしたか。

エミさんは決して、わがままを言ったつもりはありませんでした。むしろ、現代のコミュニケーション学で推奨されている「アイ・メッセージ(I Message=私を主語にして、相手を責めずに自分の気持ちを伝える)」を忠実に守り、「私は寂しい」という自分の気持ちを、勇気を出して伝えています。

 

ですが、その言葉を聞いた瞬間、タクヤさんの瞳からかすかな光が完全に消え失せてしまいました。

「違うんだよ……君の言葉は。ごめん、悪いけど今の答えでハッキリ別れる決心がついた」

「寂しいのは君だ。残されるのが嫌なのも君。いつも『私は、私は』って、君はそればっかりだ。そういうところが幼いんだよ。年だけとっていても中身はコドモだ」

 愕然とするエミさんに対して、タクヤさんはこう続けます。

「俺が言わなきゃ、君は一生気づかないだろうから言っておく。この嵐の中を自転車で帰っていく俺のことは一体どう思ってる? 『貴方に何かあったら大変』『貴方が風邪を引いたりしないか、事故に遭わないか心配なの』——そうやって、俺を主語にして心配してくれる女なら、男は一生手放さないさ。でも君は、自分の寂しさを埋めるために俺を引き止めた。いつも真ん中に居るのは自分だ」

 

ここに男女の感覚の、恐ろしいほどの行き違いが存在します。「主語」をどこへ向けるか。つまりエミさんが「こんな嵐の中を自転車で帰るなんて、貴方に何かあったら大変。せめて台風が過ぎるまでここにいて」と、主語を「貴方」に置いて引き止めていたら、二人の未来は全く違うものになっていたかもしれません。「アイ・メッセージ」では、自分自身の気持ち(寂しさ)を伝えることはできても、相手との壊れかけた関係を修復したり、目の前にいる人の心を動かすことはできないのです。

 

自分を拒絶しようとしている相手に対して、なお「貴方」を主語にした慈しみを持てるか。そこまでの要求は酷かも知れません。けれど大人の関係において、膠着した状況を劇的に変え、男性に「この女性を失ったら、俺は一生後悔する」と思わせる唯一の鍵は、この「貴方を主語にする想像力」という圧倒的な品格に他なりません。

 

タクヤさんが去った後、エミさんは玄関の扉を閉めるのも忘れ、吹きすさぶ風の音を聞きながら呆然と立ち尽くしていました。彼の放った言葉は残酷でしたが、彼なりのエミさんへのはなむけであり、痛烈なレッスンだったのだと、彼女は翌朝の澄み切った秋晴れの空の下で気づくことになります。

 

「自分が主語」だった、私の黒歴史

実は私にも、「自分が主語」だった黒歴史が存在します。

50歳での離婚当初、婚活を始めるにあたり準備したプロフィールがひど過ぎました。

例えばプロフィールには、仕事上の実績、料理、英語に不自由しないこと。専門職大学院を首席で卒業等々、自分のスペックをひたすら並べました。しかし、結果は惨敗。半年間、申し込みはゼロ。自分から申し込んだお見合いも実現しません。「新規登録者」としてプロフィールに目印がつく期間にさえ、誰からも申し込まれない。あまりの反応のなさに、私は「システムの不具合ではないか」と結婚相談所の事務局へクレームを入れたほどです。

 

今思い返せば笑い話ですが、プロフィールとは本来「幸せへの招待状」のはず。しかし私のそれは、自分のスペックを盛っただけの「職務経歴書」でした。プロフィールを読んだ男性が、どんな温もりを感じるか。どんな安らぎを想像するか。その視点が完全に抜け落ち、傲慢な自己主張だけが並んでいたのです。

 

例えば、料理アピール。私は「有名料理家の教室に5年通い、修了証を授与されています。和洋中、作れない料理はまずありません」とプロフィールに書きました。ですが、これを相手が受け取れる「価値」に翻訳するとこうなります。

 

「美味しいものを食べて、ホッと一息つく時間を大切にしています。週末はお酒に合うおつまみを作るのが楽しみ。『今日もお疲れ様』と一緒に乾杯できるパートナーがいたら幸せだなと思って登録しました。貴方の好物も、ぜひ教えてくださいね」

 

単に、女子力の高さをひけらかすのではなく、料理から生まれる「癒やし」や「一緒にいる場面」に焦点を当て、相手に家庭のぬくもりや安心感を感じてもらう。こう書き直した後は、マッチングアプリで1ヶ月平均30件程度の「いいね」が、一気に360件へと跳ね上がりました。

要は、自分が書きたいことでなく、相手目線で相手が知りたい(だろう)ことを書く。想像力を膨らませ、相手の気持ちや欲しいものを考えるという、たったこれだけのことですが、結果は数字に現れました。

 

日常の言葉に宿る「極上の配慮」

この技術は、プロフィールだけでなく、日常の何気ないやりとりにも現れます。

私の講座卒業生のしずかさん(仮名)が、お付き合いしていた男性のエピソードを紹介しましょう。
彼は、早寝早起きの習慣がある方ですが、夜更かし気味のしずかさんとLINEをしていても、決して「もう眠いから、そろそろ寝るね」と言って会話を切り上げたりはしない。

 

「しずかさん、そろそろお休みの時間ではありませんか」

「明日のために、もう休まれたほうがいいように思いますよ」と言うのだそうです。

しずかさんは、本当は彼自身が眠いのだと分かっています。それでも、彼が「そろそろ寝たい」等と自分を主語にして話を切り上げるのではなく、「彼女」を主語にして、体調や明日の仕事を気遣って話を終えようとする、その極上の配慮に深く癒やされると語ってくれました。

 

「自分がどうしたいか」ではなく「相手はどう感じるか」。この、日常の言葉におけるわずか数文字の「主語の差」にこそ、大人の男女が心の底から求める「敬意」と「真心」が宿るのではないでしょうか。

 

「想像力」という名の自由

「相手の目線に立つ」とは、自分を殺して我慢することではありません。自分の感性と言葉を、目の前の誰かの安らぎのために翻訳して届けるという、高度に知的なプロセスです。

そしてこの想像力が育つとき、アナタは「選ぶ自由」を手に入れます。自分目線のままでいる限り、相手の反応に一喜一憂し、「選ばれるかどうか」に振り回され続けるしかありません。でも主語を相手に置けるようになれば、相手のことが本当に見えますから、この人と歩んでいきたいか——その答えを、自分の中から出せるようになるのです。

 

「もし今この言葉を伝えたら、彼はどんな気持ちになるだろう?」

この問いを日常の中で愚直に繰り返すことが、誰かに急かされるのではなく、自分の意志で人生を選んでいく人間へとアナタを変えていきます。婚活界のマリアナ海溝は、確かに深くて険しい。でも婚活に限らず、夫婦の間でも、親子の間でも「主語をどこに置くか」はすべての人間関係の根っこに静かに横たわっている。だからこそ「もし私だったら」ではなく、「この人ならどうだろう?」と主語を動かす想像力があれば、その海溝を越えて、相手の心の最深部へ真っ直ぐに想いを届けることができるようになります。

 

ですから、年齢を重ねた私たちこそ、自分本位な「わかってほしい」を取りあえず横に置き、相手の背景や状況までをも優しく包み込む「想像力」という名の自由を手にいれ、相手を「分かろう」と試みる。その繰り返しが、アナタをその他大勢から「絶対に替えのきかない唯一無二の存在」へと変えていくのです。相手にとって、そうした存在になることで周囲から応援され、自分の意志で人生を選んでいく力になっていく。自身の人生を生き、幸せを実現することができるのです。

 

まずは今日、この瞬間から。アナタが発する日常の言葉の「主語」を、ほんの少しだけ相手の方へ動かしてみませんか。こうしたアナタからの「真心の先渡し」それが、アナタも周囲の人たちをもさらに幸せにするカギとなるに違いありません。

 

 

 

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