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ジャイアンな私


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:福乃 玲(ライティング・ゼミ 名古屋コース )

 

 

 

 

私は、夫の前ではジャイアンになる。

 

外ではそれなりに社会性を持って生きている。職場でもプライベートでもそれなりに気を遣い、空気を読み、できるだけ角が立たないように振る舞っているつもりだ。

少なくとも、威張ったり怒鳴ったりするタイプではない。

 

 

――はずなのに。

 

 

なぜか、夫の前になると人格が変わる。

態度が二回りくらい大きくなる。

声も自然と強くなる。

しかも根拠のない自信まで湧いてくる。

自分の言うことは正しい、私の方が分かっている、という謎の確信。

非常にやっかいな状態である。

 

 

さらに困ったことに、自覚はあるのに直らない。

 

先日、そのことを痛感する出来事があった。

 

 

息子が漢字の勉強をしている横で、私は洗濯物を畳みながら様子を見ていた。

すると息子が、少し困った顔で言った。

 

「『国』って、どんな書き順? 」

 

 

「国」である。

 

 

正直、母としてもっともドヤ顔しやすい部類の漢字だと思う。

画数も少ない。形も単純。これが分からないなら何が分かるのか、というレベルである。

私は当然のように鉛筆を手に取り、「こうだよ」と自信満々に書き順を教えた。

 

 

すると、息子が言った。

 

 

「違う! 」

 

 

まさかの全力否定である。

 

 

 

普通の大人なら、ここで一度立ち止まる。「あれ? 違ったかな? 」と確認するだろう。

ChatGPTで調べれば、30秒で答えが出るだろう。

だが、そのときの私は違った。自分が間違っている可能性など一ミリも考えていなかった。

 

 

 

むしろ、「子どもが理解できていないのだろう」と思い込み、さらに教え続けた。

私は息子のドリルの空いているところに何度も「国」を書いた。

一度書いて終わりではない。

「ほら、こう」「だから、ここが先」と言いながら、同じ漢字を何度も、少しずつ大きく、少しずつ力強く書いていく。

ノートの端から端まで「国」「国」「国」。

 

まるで量で理解させようとしているかのようだった。

息子が書こうとすると、「違う! 」と遮り、私の字だけが増えていく。

今振り返ると、だいぶ怖い。

 

 

「学校の先生が教えてくれたのと違う! 」

息子はだんだん混乱し、ついには泣き出した。そこで私は近くにいた夫に助けを求めた。

 

「ちょっと教えてあげて」

 

これは表向きのセリフであり、本音は「ほらね、私が正しいでしょ?」という答え合わせの依頼だった。

 

 

ところが夫は、言った。

 

 

「わからん」

 

え?

 

わからん?

 

私は一瞬、思考が止まったあと、心の中で静かに優越感が芽生えた。

 

「え? なんで? 『国』なんてめちゃくちゃ簡単な漢字やで? そんなのも分からないの? 」

 

今思うと完全に嫌な人である。

しかも自覚なしの嫌な人だ。

 

夫は反論もせず、「漢字辞典を見てみよう」と言って本棚から漢字辞典を取り、調べ始めた。そして出た結果。

 

 

 

 

 

間違っていたのは、私だった。

 

 

息子が正しかった。

 

その瞬間、時間が止まった気がした。

あれだけ偉そうに言っておきながら、全面的に間違っていたのである。

 

私は慌てて息子に謝った。

抱きしめて謝った。

泣かせてしまった罪悪感はちゃんとあった。母として、申し訳ない気持ちも確かにあった。

 

 

 

ただ、問題はそのあとだ。

 

心の奥では、「まあ、そんなこともあるよね」と自分を即座に許している自分がいたのである。

反省の持続時間が、異様に短い。

 

 

 

おそらく私は、夫の前では無意識に「自分の方がしっかりしている側」に立とうとしているのだと思う。母親として、教える側として、優位に立っていたいのかもしれない。

 

 

 

 

しかし現実は違う。

 

普通に間違えるし、普通に思い込みもするし、普通に偉そうにする。

つまり、ただのジャイアンである。

 

 

先日のライティング講座で、「少し自分を下げて書くと読者は共感する」と教わった。

なるほどと思った。

確かに、人は完璧な人の話より、残念な人の話に安心する。

 

 

だから私は、間違ったジャイアンぶりを書くことにした。

 

 

こうして文章にしてみると、自分の残念さを少し客観視できるのも事実だ。

あまりにもひどい。

もし夫から、私の態度を離婚原因として挙げられたら、離婚が成立する気すらしてくる。

 

 

次に同じような場面があったら、「あれ? 私も間違っているかも」と一度立ち止まれる人になりたい。

黙って辞書をひける人になりたい。

 

 

……とは思っている。

 

 

 

 

思ってはいるのだけれど。

 

正直に言うと、次もたぶん同じことをやる気がしている。

 

そして、夫にはまだ謝っていない。

だから、この場を借りて――ごめんね。いつもありがとう。

 

 

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