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ジャケ買いのススメ

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:渡辺(ライティング・ゼミ 1月コース)

 

年始、予定外に1万円を手に入れた。

予定外に、というのも、私がその1万円の収入を全く想定していなかったからだ。

まさかこの年になっても、お年玉がもらえると思っていなかった。

 

だが恐らく、その差出人にとっても、想定外だったのではないか。

 

その叔父とは、恐らく10年弱ぶりに出会った。

今年私が22才だから、前回会ったのは中学生の頃だったはずだ。

だから、正直、どういうテンションで話せばいいのかよくわからなかった。

一瞬、中学生の頃の自分の話し方を思い出そうとしたが、恥ずかしくなったのでやめた。

 

「はい、これね」

久々に見た。ポチ袋。

両親や近い親戚は、もうずいぶん前に打ち切っていた、正月のボーナス。

彼も、自分のやっていることをいまいち認識できていなさそうだった。

そしていかにも、面食らった! という顔をしていた。

それもそのはず。目の前にいるのは、いつの間にか自分の背を追い越した、見覚えのない青年なのだから。

 

数年ぶりにあったその叔父の中で、私は、中学生のガキのままだったのだろう。

なんだか騙してしまったようで、非常に後ろめたい。

貰わないのも勿体ないので受け取ると、急に自分が小さくなった気がした。

 

 

さて、1万円だ。

思ってもみなかった、1万円。

正直、今の私にとって微妙な額だった。

 

中学生の頃だったら、間違いなく自分の欲しいものを買っていた。

それは、1万円で買えるようなものばかりを望んでいた、とも言える。

だが今は違う。

欲しいものは1万円を優に超える。カメラ、パソコン、車、家。

だから、欲しいものを手に入れるには、足りなくなってしまった。

 

でもかといって、食事や毎月の家賃に投じるのも、非常に惜しい。

組み込まれてしまっては実感がなくなるし、何より、せっかくもらったものは、味わってこそだという自負がある。

 

悩みに悩んだ末、書店に足を向けた。

1万円札という、見た目が悪いのだ。

紙幣という、あらゆる可能性を秘めた、ペラペラの紙であることが、私を悩ませている。

そう判断し、1万円を投じて、同額の図書カードを手に入れた。

とりあえず、本さえ買えば、無駄にはならないだろう。安直だ。

想定外のお年玉は、見事に結晶となって、わかりやすく私の前に現れた。

 

これで私は、1万円で、本を買うことしかできなくなった。

 

元々、私は本をあまり読まない。

読まないどころではない。年に1冊読み切れているのかも怪しい。

そもそも本に興味がないのだ。読む体力がない。

何が有名な本なのかもわからないし、せっかく買ったのに面白くなかったら……と考えて結局買わない。

だから、今回は、イレギュラーなのだ。

 

私は、もうビビらない。

買った本が、どんなにつまらなくても、どうでもいい。

それは、言ってしまえば自分の金ではないから、というのもあるが、そんなことばかり言って足踏みしていたら、いつか本が読めなくなる気がする、と感じているからだ。

そして、読んでもいないのに、その本や作者の悪口を言う、卑屈な大人になってしまう。

それだけはいやだと、はっきり言える。

叔父もそんな大人になることは、望んでいないはずだ。

 

叔父に貰ったお金を、叔父の望みのために使う。

そう勝手に言い聞かせて、出自不明の使命感を得ると、一気に本を読む気になってきた。

 

威勢よく、本屋の扉を開ける。

だが、読書弱者は、最初の壁にぶち当たった。

どの本を選んでいいのか、わからないのだ。

当たり前だが、本は、読むまでどんな内容なのかわからない。

もっと見た目で理解できればいいのに、と常々願っているが、本とはそういうものだ。

願ったところで、変わる望みはない。

おまけに私は、本のことを何も知らない。

この膨大なコンテンツの山の中において、どの本が有名で、みんなが読んでいる本なのか、さっぱりわからない。

 

だが、思い返す。

もし仮に、買った本がつまらなかったとしても、今回は大丈夫。

なにより、そうやって評判だとか、曖昧な情報だけで物事を決めつけるのをやめるのだ。

私はそのために、自分の躾のために、本を買いに来た。

とにかく、1万円分、本が買えるのだ。

 

内容を問わないのだとしたらどうする?

どんな本でもいいのだとしたら、どうやって本を選ぶ?

私に残された方法は、必然的にほとんど一つになった。

ジャケ買いだ。

 

「本をジャケ買いなんて、そんな邪道な」

私の中の、真面目な文学眼鏡青年が声を上げる。

彼は私の心に居候していて、高尚な本でなければ、読むことを許さない。

私の貧乏性が生み出した、亡霊だ。

 

彼の論理によれば、目を引く本は、ライトなのだ。

目を引く本には、目を引かせなければならない理由がある。

内容が、軽くて、非常に読みやすい。だが、情報量は少ない。

一方で地味な本は、重い。読むのに時間がかかる。

だが、それだけ内容が詰まっていて、見た目に訴えなくても、誰かが買ってくれる。

 

だから、本を見た目で選ぶと、結果的にコスパの悪いものを引きやすい。

なんとも、捻くれた論理である。

そして私は、彼の教えに従って生きてきた。

だが、ここは、いったん無視しよう。

そうやって、読んでもないのに見た目だけで判断するのを辞めるのだ。

 

とはいっても、結局ジャケ買いだって、見た目による判断だ。

これ以上ないほどに、見た目で価値を測っている。

ただ、ジャケ買いには、コスパだとかそういった思考は必要ない。

目で見て、なんとなく雰囲気の良い本を買うというだけの話。

 

だが、これが意外と難しいことがわかった。

表紙はともかくとして、たいていの本には、裏にあらすじが載っている。

これでは内容がわかってしまうじゃないか!

 

やはり、内容が少しでもわかってしまうと、自然と自分が読みがちな本を選んでしまう。

だが、それではジャケ買いの意味がない。

思わぬ出会いがあってこその、ジャケ買いなのだ。

普段の自分だったら絶対に読まない内容に、この機に触れてみたいのだ。

 

必死に裏を見ないようにする。

作者が見えてしまうと、やっぱり偏向が出そうだから、できるだけ目の焦点を合わせず、なんとなく表紙の雰囲気や絵だけで判断する。

普通立ち読みというのは、棚の前で本をめくって眺める行為なのだから、その時の私の異様さは、想像に難くないだろう。

 

結果から言ってしまえば、1万円分の本を選ぶことなど、容易かった。

なんとなく、表紙の主人公のイラストがおしゃれだった、とか。

写真が、意味深だったから、とか。

気づけば、最初に見ていた棚から一歩も動かずに、1万円分の本を手にしていた。

 

ジャケ買いなんだから、これ以上悩んだって、仕方ない。

それで、思い切って、手に持っていたものを全部買ってしまった。

 

私の手にはいま、一万円分の、得体のしれない物語が委ねられている。

そう考えると、非常に奇妙だが、異様に楽しくなってきた。

本当に面白いかどうかは、読んでみなければわからない。

だが、面白いかどうかさえわからない状態が、こんなに面白いとは思っていなかった。

こんな遊びにはまってしまえば、今度は1万円では済まないかもしれない。

貧乏街道まっしぐらだ。

だが、本の面白さというのは、高鳴りというのは、本当はこんなものじゃなかったのか。

私はいま、本の真なる娯楽部分に触れてしまったのかもしれない。

 

ジャケ買い、非常に危険である。

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