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波音に身をゆだねて〜失恋したあなたに送るご縁の本質〜


 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:京都府のオオサンショウウオ(ライティング1DAY)

 

「ザバン、ザバン、ザバン」海が揺れている。

 

 「ねぇ、私たち、結婚するのかな」彼女が呟いた。穏やかで、あたたかい風が頬を撫でる。ゆっくりと息を吸ってから、私は、「そうなってほしい」と伝えた。

この日から、私と彼女は、婚約関係になった。

 その日の晩、彼女は得意料理の、茄子とひき肉の卵炒めを作ってくれた。

「そう、これこれ」

彼女の幸せな笑顔を眺めながら、白米がどんどん進む。こんな幸せな日々がずっと続けばいい…… そう思っていた。

あの日が来るまでは。

 

 元々、彼女は早く子供がほしいと言っていた。理由は、3人ほしくて歳の差をつけたいからだそうだ。しかし、子供1人を育てるのにはとてもお金がかかる。子供が医学部や芸能系に行きたいとなれば、もっとお金が必要だ。私自身、金銭面で苦労した幼少期もあり、自分の子供にはやりたいことをやらせてあげたいと思っていた。彼女と相談した上で、家庭にあまり時間を割けない代わりに、早く出世できるように早朝から深夜まで働く日々を選んだ。

 

当時、福岡県に住んでいた。

日本海から冷たい風がピューと吹く、冬の訪れを感じさせる日の夜だった。

彼女は、目の前に置かれた茄子とひき肉の卵炒めを一口も食べず、俯いたまま、こう言った。「ごめんなさい。私、妊娠しています」と。「そして、あなたの子でないんです」と。

たしかに、朝帰りが増えたことが気になっていた。「まさか……」と、思っていたものの、時間のすれ違いで会えないことが多かったので「そんなものか」と気にしないようにしていた。

 

 「ふぇ……」

 

「え」にも「へ」にもならないような乾いた空気が口の中から出た。換気のために開けていたベランダの窓から、ビュービューと、冷たく、乾ききった風がベランダから、容赦なく、私に体当たりしてくる。時が止まったように感じた。

彼女は、椅子に座ったまま。

茄子はしなびて、目の前の料理がどんどん冷めていく。私は、誰かに依存したいような気持ちのまま、自宅近くの海へ向かった。近くのスーパーでハイボール缶を買い、真っ暗な海を眺めながら、たくさん泣いた。そして、気づいた。「ご縁ってサーフィンみたいなものだな」と。

 

 この話は、実話である。人生の中で1度あるかどうかの事件だろう。

だが、この経験からご縁の性質について、3つの大切なことに気づいた。

まず、ご縁とは、「人を根っこから変えてしまうもの」であり、次に「選んでみないとわからないもの」であること、そして、「流れに身を任せることでうまくいく」ということだ。 

サーフィンも同じだ。

今来た波に乗ることでうまくいくかも知れないし、怪我をするかも知れない。波に乗るか乗らないかは自分で決めるしかない。無理に抗わず、身を任せることで波に乗ることもできるから、ご縁はサーフィンのようだなと思う。

 

 まず、ご縁は、人生をいい意味でも悪い意味でも根っこから変えてしまう。

 

誰かと出会い、その人を好きになると、自分でも気づかないうちにその相手の好きな音楽、髪型、服装になってしまうという経験はないだろうか。一方で、恋愛に夢中な時は気づかないものの、後になって、「やってしまった……」と後悔したことはないだろうか。

 私は、彼女と出会う前は、恋愛のような激しく燃え上がる感情を愛だと勘違いしていた。好きの延長線上を愛だと。しかし、彼女との縁を通じて、無性の愛とは、相手の過去、苦手な部分、一般的に欠点と捉えられるところを「大丈夫だよ」とありのまま受け入れることだと気づいた。

 彼女とのご縁を通じて、愛することの本質を知った。そう、ご縁は価値観を根っこから変えてしまう力がある。

 

 次に、ご縁は、選択してみないとどう変化するかわからない。

 

私と彼女は私が大学生の時に、マッチングアプリで出会った。

やり取りを重ねて、初めて会った時も、恋愛に発展するとなんて思ってもいなかった。結局、私は、彼女と付き合う選択をした。付き合わない選択を取ることもできた。でも、付き合わない選択をしたならば、愛することの本質を知ることはなかった。そして傷つくこともなかった。交際を決意する前に、相手と付き合ったら何が起こるのか……、結ばれるのか、それとも傷つくのか……、未来のことなんて誰にもわからない。

 目の前のご縁が良縁か悪縁かは「その縁を選ぶ」ということを自分で選択しなければ、わからないのだ。

 

 最後に、ご縁とは、流れに身を任せることでうまくいく。

 

私も、最初、当時の婚約者に浮気を告白された時は、何かしなければならない。どうにかして引き留めなければならないと考えていた。しかし、ご縁というものは、相手が誰であろうと、流れに身を任せたときこそうまくいく。私は、彼女と別れたのち、ご縁の流れに身を任せてみた。すると、気づけば京都へ移住していた。そして、たくさんの仕事や趣味のご縁に恵まれ、習慣も変わり、人生観や将来の目標が大きく変わった。今思えば、彼女に別れを切り出された時、無理に抗おうとせず、流れに身を任せたのは正しい選択だったと思う。

ご縁の流れに抗っても、自分の思い通りにならないことが多い。たとえ望み通りになったとしても、その先に後悔する未来が待っていることも少なくない。

 

 私は、元恋人との4年半にも及ぶ大恋愛を通じて、ご縁の本質を知った。

彼女と付き合うと決意しなければ、決して見えなかった景色だ。あの頃の彼女へ、心から感謝している。ありがとう。

 

そして、この文章が失恋してどん底にいるあなたに、そっと寄り添うものでありますように。

《終わり》

 

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