週刊READING LIFE Vol.353

落語は日の目を見るか《週刊READING LIFE Vol.353「フリー」 》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

2026/02/26 公開

記事:西村友成(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

昨今、やれ戦争だ、やれ物価高騰だ、やれ花粉症だとなんとなく陰鬱とした暗いムードが漂う日が続いている。そのせいだかどうだか、世はお笑いブームである。

そして、このブーム。ずっと続いている気がする。

タピオカや高級食パンみたく一過性に終わらない。雨後の筍よろしく毎年新しい芸人が出るわ出るわ。あの手この手で笑いを取ろうと客を飽きさせない。

大きな大会は歴史を築きつつあり、『M‐1グランプリ』は2001年に始まり優勝は20組、『R-1ぐらんぷり』は2002年に開始してグランプリは23名、『キングオブコント』は2008年スタートで王者が18組それぞれ生まれた。

 今じゃテレビで見かけなくなった人もいるけど、総勢61組もの芸人やコンビが活躍するきっかけとなった。

近年では中堅以上の芸人を対象とした『The Second』や漫才とコントの二刀流で競う『ダブルインパクト』なる大会も生まれさらに活況を呈している。

 

テレビ局からすれば、ステージさえ整えれば個々の芸人が勝手にお茶の間を沸かしてくれる。スポンサーに賞金をおねがいすれば芸人にはノーギャラでよいわけで、非常によく出来たコンテンツだと感心する。

今じゃ人気芸人がYoutubeや著書でネタづくりの手法を明かしており、お笑いのレベルは21世紀以降、飛躍的に上昇した。M-1ともなると1万以上の参加者から選ばれた10組だから、「この人たち、全然おもしろくない」なんてことがまずない。好き嫌いはあっても、ある程度楽しませてもらえる。

最近の傾向として漫才師でも「漫才コント」をするコンビが増え、昔ながらの話芸である「しゃべくり漫才」で勝負する芸人は減ってきた。面白ければ何でもあり、の風潮からセンターマイクも無視した「コントに近い漫才」、「漫才大会用のコント」といったネタも多く見かける。新しいものを生み出そうとすると「しゃべくり」だけでは限界があるのだと思う。

 だがそのせいであろう。ネタ番組や賞レースを観るのにはちょいとばかり覚悟がいる。若手が出ればワーキャー騒ぎ、ドタバタ舞台を動き回る。面白いのは面白いのだが、観る方にも体力を要求される。歳のせいも相まってか、「よし、かかってこい」と臨戦態勢でテレビの前に座る必要があるのだ。

「テレビつけたらやってた」なんて安易に観だすと、ただドタバタが繰り返される喧騒に感じてしまい、疲労がたまるだけである。

 そんなわけで長年お笑いを愛する私だが、インパクト重視の漫才師・コント師にやや辟易している。肩の力を抜いて楽しめるもの、かつ「芸」を感じるものに魅力を感じるようになった。

ずいぶん前置きが長くなったが、私はここ数年『落語』を非常に好んでいる。古典芸能でありつつ、現代にも通用する笑い。滑稽噺だけでなく、人情噺や怪談もの、新作落語といったネタのバリエーションが豊富な点が魅力である。

 どんなネタも1つの物語として構成され、ドラマがある。昨今の漫才やコントのようにただぶっ飛んだ理解不能なものはない(正確には存在するがほとんどやり手はいない)。

 漫才やコントに決して負けない、いやそれらを凌駕できる力のあるコンテンツだと思うのだが、人気は雲泥の差である(高齢者に限れば落語が勝つ可能性はなくもないが)。

 落語におけるグランプリはNHKが新人大会を主催するくらいのもの。毎年いつやってるのか落語ファンである私も知らない。

もっとも認知度の高い『笑点』でさえいっさい落語をやらない。大喜利イコール落語と理解する人がいても不思議ではない。

 テレビで落語の放送はあるのだが、時間は朝の5時。若年層を取り込もうという気概が全くない。

 普段目や耳にする機会がないのだから、ファンが増えるわけないのだが、ときどきビッグニュースが起こり、落語が注目を集めることはある。

2005年。長瀬智也さんと岡田准一さん主演のドラマ『タイガー&ドラゴン』により一時的に落語ブームが到来

2019年。元暴走族総長の瀧川鯉斗さんが真打に昇進。そのイケメンぶりが多くの女性を引きつける

2023年。女流落語家の桂二葉さんが探偵ナイトスクープに探偵役で抜擢

〇現在。週刊少年ジャンプで『あかね噺』が絶賛連載中

と、落語に対する認知度はひと昔前に比べ、飛躍的に上がっている。なり手の数も増え、いまでは東西あわせて落語家の数は千を超えるといわれる。二葉さんをはじめ女性の落語家も台頭してきた。

 追い風は吹いているのにメディアが落語に注目しないのは、テレビ向きでない(1つのネタが長い、座布団の上に1人なので画が変わらない)からであろう。ただそれ以外にも若者ウケしない要素は多々存在する。

・着物に羽織で出てくるのがジジ臭い

・「○○亭△之助」とか「□家蔵」とか名前が古くさい

・三味線・太鼓で出てくるのがあか抜けない

・左右にチョロチョロ首を振る意味がわからない

・扇子を箸にして蕎麦をすするなんて、大した芸じゃない

・テレビに出てる落語家が落語をする姿を観たことがない

・どの劇場に行けばやってるかわからない、知らない

 などと、枚挙に暇がない。万が一これら数あまたの障壁を乗り越え、落語を聴く機会を得たとしても、江戸時代のことばがわからず挫折する若者もいるであろう。

ここまで取りまとめると、落語をちゃんと聴く機会を得、そして面白い落語に出会うまでのハードルが非常に高いのが問題なのである。

であれば解決策は簡単。おもしろい落語を一度聞けばよい、観ればよい。私が鉄板、と断言するのは東なら立川志の輔師匠、西なら桂文枝(旧三枝)師匠である。

落語ファンを名乗っておいて、誰もが知るビッグネームを紹介するのは少々恥ずかしいのだが、この2人から入れば間違いない。落語のよさがわかるはずである。

立川志の輔師匠は毎年1月渋谷パルコで1か月連続で独演会をおこない、チケットは争奪戦になるほどの人気ぶり。観るものを物語の世界に引き込む演技と語り口で感動すら覚える。創作落語「歓喜の歌」と「大河への道」は映画化されるほど話としてのクオリティが高く、作家としてのセンスも抜群に高い。

一方、桂文枝師匠は御年82歳。「オヨヨ」のギャグや新婚さんいらっしゃいでのコケる芸が有名であるが、落語界では「創作落語の神様」として知られる。これまでに350近くのネタをつくり、生涯500を目指し現役で活躍されている。大阪弁をいじり倒す「大・大阪辞典」、算数の文章題につっこみまくる「宿題」、あらゆる童謡をねたにする「赤とんぼ」。これらの代表作は年齢層を問わず爆笑を誘うこと間違いなしである。

知っている人からすれば当たり前。落語を聴くライターなら、もっと五感に訴え、情緒を揺さぶる紹介文を書く人はごまんといるだろう。

だがあえて紹介したのはこのお二人があと何年現役で活躍されるか心配だから。志の輔師匠も御年72歳とあと3年で後期高齢者。できればいまのうちに生で体験するのを推奨したい。

落語家はなかなか若いうちは話に説得力がないというか、隠居を演じても声真似だけに感じるし、女を演じても色気が出ない。長年、培った芸と実際に歳を重ねることで演技に幅が出る。違和感なく話の世界に入ってゆく技術を身につけるまでに二十年、三十年といった年月が必要なのだと思う。

60代からが脂の乗った噺家が生まれるといってよいだろう。

あ。冷静に考えると観客が高齢者中心になるのも仕方ない気がしてきた。良さに気づくのもそれなりに時間がかかるということか。

偉そうに語っておいて、すごく初歩的なことに気づいてしまった。漫才やコントと同じように火が点く代物では到底ないな。それでこそ落語の魅力だ。

《終わり》

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2026-04-23 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.353

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