参加したのは結婚式だと思ったらお通夜だった
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:桜井陽(ライティング・ゼミ GW集中講座)
社会人になって3年目の春。私は当時住んでいた福岡から、友人の結婚披露宴に出席するため、朝イチの飛行機で東京に駆けつけた。都内でも有数の高級ホテル。ロビーに着くと、フォーマルなブラックスーツ姿の友人たちが目に入った。女性たちは花嫁と被らないよう純白は避けつつも、シックなドレスに身を包んでいる。大学卒業以来の顔ぶれがそろっていた。
「おお! 久しぶり!」
私は嬉しくなり、友人たちに手を振った。
「ああ、桜井か……」
あまりの素っ気なさに驚く。あれ、俺、何かやらかしたっけ? でも、社会人としてまだ駆け出しの時期だった。仕事にもまだ慣れていないだろうし、皆いろいろと疲れているのだろうと思い直し、披露宴の開始を待った。
重々しい扉が開き、列席者が広間に招かれた。新郎である友人はかなりの「おぼっちゃま」だ。豪華な花がドーンと設えてある。丸テーブルに自分の席を見つけて座った。開宴までしばし待つ。同じテーブルの友人に話しかける。ところがまた、「おう……」と会話にならない。別の友人は早々にビールをガブガブと飲み始めた。
よく見ると、空席が目立つ。珍しいことに、急な欠席者が5〜6人はいるようだ。
式が始まった。新郎新婦の会社の上司たちの挨拶が続く。その間も友人たちは虚ろな目で酒をあおっている。この披露宴、何かがおかしい。さすがに私も違和感を覚え始めた。しかし、新郎新婦はひな壇に神妙な顔で収まっている。挨拶、拍手、挨拶、拍手、乾杯と、通常のプロトコルにのっとって式は進んでいった。
途中でトイレに立った。すると、後輩が小走りで近づいてきた。
「桜井さん、この式、変だって思ってますよね」
「うん、なんかみんなトゲトゲしいし、憂鬱そうな顔をしているんだけど、俺、何かやらかしたのかなあ」
「違うんです。実は……」
後輩の話を聞いて、私は高級ホテルのど真ん中で「えぇぇ〜っ?」と大声をあげてしまい、たしなめられた。
「桜井さん、落ち着いてください。今言ったように、新郎新婦の関係はもう破綻していて、披露宴の翌日から別居するんです」
衝撃の情報を聞いた私は会場の丸テーブルに戻り、ひな壇をぼんやりと眺め、新郎新婦の親族席に目をやった。私は一体、何を見せられているのだろう。結婚式前から同棲していて、ラブラブな状態だと思っていたのに……。
私だけ赴任地の都合で福岡から参加したが、ほかの面々は皆、東京在住だ。式の準備などを手伝っている間に、私以外の全員が真相を知っていたのだ。だから、晴れやかな結婚式のはずなのに、友人たちはお通夜の参列者のような顔をしていたのか。
「これからも末長くお幸せに」という来賓の挨拶に深々とお辞儀をしている新郎新婦は、どんな心持ちなのだろうか。不思議なことに、この会場で最も自然で、最も淡々としていたのが新郎新婦だった。一見して不幸せな様子にも見えない。かといって、幸せいっぱいな感じでもない。真相を知ってから2人を見た感想は、「虚無」だった。
私は壊れた。心からのおめでとうを言うために仕事の都合をつけ、飛行機で数万円かけて東京に来たにもかかわらず、目の前で繰り広げられていたのは、「愛」とは対極にあるものだった。そして、ビールとワインをあおり始めた。同じ席の友人とも話をして、事情を理解したことを伝えた。
友人から、さらに詳しい事情を聞いた。
「もう2人は修復不可能な状態で、口も聞いていないし、事実上の別居状態で、今日久しぶりに顔を合わせたらしいわ。それでも、もう披露宴の案内状を送ってしまったから今さら中止にもできないし、両家のメンツも立たないということで、式を強行したみたい」
両家のメンツのために、時間と旅費、ご祝儀を費やし、持って行き場のない感情を抱えることになった。人間はある条件下では、ここまで自己中心的になれるのだと思い知った。トラウマと言ってもいいかもしれない。これは一体、何の罰ゲームなのだろうか。事情を知って激怒した友人数人は式を欠席したとのことだ。誰か福岡にいる私に一言教えてくれればよかったのだが、そんな余裕はなかったのだろう。
こんな状況に追い込まれた私や友人たちは、ひたすら悪酔いをして、狂宴のようになっていった。そんな中でもやはり、ひな壇も親族席も淡々としていた。心底、恐ろしかった。人間は、関係が壊れても、儀式だけは遂行できてしまうのだ。
私は愛情を感じたかったし、与えたかった。そのためにわざわざここまで来たのに、もはや叶わない。
会場は大きなホテルで、隣も、またその隣でも同じように結婚披露宴が開かれていた。何度目かのトイレで扉の外に出ると、ちょうど隣の式が終わり、新郎新婦が参列者を見送っている最中だった。一人ひとりと言葉を交わし、幸せの絶頂という顔をしている。
「いいよなぁ」
「そうだよな」
私と友人はふらふらと、そちらに近づいていった。
そして2人そろって、見ず知らずの新郎新婦の握手の列に紛れ込んだ。
「おめでとうございます」
新婦が一瞬「?」という顔をしたが、おそらく新郎の友人だと思ったのだろう。「ありがとうございます」と手を握ってくれた。次に新郎。また一瞬「?」となったが、新婦の親戚か何かだと認識したのだろう。再び握手をしてくれた。そして新郎新婦の両親に深々と頭を下げ、「このたびは誠におめでとうございます」と心を込めて挨拶をした。
私と友人はすっかり満たされて、再び虚無と狂宴のるつぼである元の席に戻った。
最後に、ひとつだけオチがある。当然、新郎新婦抜きで近くの居酒屋で二次会を催したのだが、なんと隣の席が、先ほど私と友人が握手をした新郎新婦たちの席だったのだ。
我々がひたすら顔を隠し続けたのは、言うまでもない。
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