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食後に甘いものが欲しくなる理由を理解しても、コーヒーゼリーを頼んでしまった朝の話


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:雨宮さよ(2026年1月開講・渋谷/通信・4ヶ月コース)

 

コーヒーゼリーが好きだ。

 

それは休日の朝だった。ひさしぶりにゆっくりできる日だった。近所のカフェに入り、きのこオムレツとサラダ、それにパンのモーニングを頼んだ。体に良さそうな内容だし、量も十分で、これでお昼までは持つはずだと思いながら食べ終えた。

 

それなのに、ふと何かが足りない気がした。満腹なのに、どこかが満たされていない感覚がある。お腹ではなく、別の場所が空いているような、少し不思議な感覚だった。

 

ああ、甘いものが欲しいんだと気づいたとき、頭に浮かんだのがそのカフェのコーヒーゼリーだった。私が好きなのは、アイスクリームと生クリームがのっているやつ。シロップも、できればたっぷり。とくに、お皿の部分を支えるのが、細くて長い足の、少し昔風な金属の食器で提供されるのが好きだ。

 

ついさっき朝ごはんを食べたばかりなのに、どうしてまた食べようとしているのだろうと、ちょっと苦笑いしてしまった。満腹なのに欲しくなるというのは、どういう状態なのか。

 

そもそも食後にデザートという文化は、どこから来たのだろう。外食では当たり前のようにメニューに載っているし、自然に受け入れているけれど、よく考えると不思議だ。

 

日本では昔からそうだったのかと調べてみると、だんごやおはぎや和菓子はあるが、それは食事と一緒というよりお茶と共にいただく間食のイメージが強い。果物も食後に出ることはあるが、「締め」というほどの存在ではなかった気がする。

 

食後に甘いデザートというのは、明治以降に入ってきた西洋デザートという文化的なものらしい。そして私はそれに影響されているだけなのかもしれない。あるいは単なる習慣かもしれない。いや、もっと単純に人類は甘いものが好きなだけなのかもしれないと、思ったりもする。

 

なるほどねと思いながら、もうひとつ気になるのは体のことだった。最近は血糖値や健康に関する情報をよく目にするし、食後に甘いものをとる習慣はよくないという話も知っている。今日の朝ごはんも、それなりに考えて選んだものだった。せっかく整えたのに、ここで甘いものを追加するのはどうなのか、だいなしじゃないか、という考えが浮かぶ。

 

やめたほうがいいのではないか。でも少しくらいならいいのではないか。せっかくの休日だし、いや、そうやって甘やかしてきたから今があるのではないか。頭の中で理屈が並ぶが、どちらにしても結論は出ない。食べても後悔しそうだし、食べなくても後悔しそうだ。

 

こういうとき、人はどうやって決めているのだろうと思った。ふと思いついて、生成AIに聞いてみることにした。最近は、ちょっとした疑問をそのままにせず、とりあえず聞いてみることが増えている。

 

朝ごはんをしっかり食べたのに甘いものが欲しくなるのはなぜかと入力すると、いくつか理由が返ってきた。食後に甘いもので締めたくなるのは、習慣と脳の報酬パターンによるもの。パンを食べたことで血糖値が一度上がり、少し下がるタイミングで甘いものを欲することもあるらしい。

 

さらに、たんぱく質や野菜で体としては満たされていても、満足感の種類が違うという説明もあった。整ってはいるけれど、どこかで「まだ終わっていない」と感じてしまう状態だという。

 

どれも納得できる説明だった。たしかにそう言われればそうかもしれないと、頭ではきれいに理解できる内容だった。

 

しかし思考は、それでも、とまらない。画面を見ながら、だから何なのだろうと感じていた。血糖値の話も、習慣の話も、脳の報酬の話も全部わかる。でも、それを理解したところで、コーヒーゼリーが食べたいという感覚は、まったく消えなかった。

 

むしろ名前を意識したことで、少し強くなった気さえする。理屈は揃っているのに、感覚は動かない。そのズレが、はっきりと見えた気がした。

 

人は、正しいからという理由だけで、動いているわけではないのかもしれない。仕事でも生活習慣でも、やったほうがいいこととやらないほうがいいことは、だいたい知っている。それでも人は迷うし、ときにはわかっていながら逆の選択をする。

 

結局のところ、行動を決めているのは正しさではなく、そのときの感覚なのだ。

 

そこまで考えて、少しだけ肩の力が抜けた。全部に正解を求めようとするから苦しくなるのだとしたら、理解したうえで、それでもどうするかを選べばいい。

 

とはいえ、すぐに決められるほど単純でもなかった。目の前には食後の皿が残っていて、店内にはゆっくりとした空気が流れている。周りのテーブルでは、それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。コーヒーを飲みながら本を読んでいる人、スマートフォンを見ている人、誰かと小さな声で話している人。

 

その中で、自分だけがこの小さな選択に迷っているような気がして、少しだけおかしくなる。たかがデザートひとつの話なのに、妙に真剣に考えている自分がいる。

 

メニューに目を移すと、そこにコーヒーゼリーの文字がある。写真も何度も見ているはずなのに、今朝は少しだけ魅力が増して見える。頼まない理由はいくつも思いつくのに、頼む理由はひとつで十分な気がしてきた。

 

私はスマートフォンを伏せ、顔なじみのウェイトレスに、にっこりと軽く手をあげて合図をした。笑顔で近づいてきた彼女に、コーヒーゼリーをひとつ、クリーム少な目にお願い、と頼む。

 

少しして、理想どおりのコーヒーゼリーが運ばれてきた。アイスクリームと生クリームがのり、シロップが添えられている。目に入った瞬間、自然と幸せな気持ちになった。

 

色といい、硬さといい、完璧なゼリーだった。スプーンですくって一口食べる。冷たさと、ほろ苦さのあとを、甘さがゆっくりと追いかけてくる。

 

結局、ひとくちも残さずにコーヒーゼリーを完食した。後悔はない。

 

正解にむかう理由はいくつもあるのかもしれない。でも、ひとつだけはっきりしていること

がある。理解しても、人は変わらない。今朝の私は、そのまま従った。≪おわり≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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